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No.138

Issued: 2008.02.14

ウガンダのゴリラトラッキング

目次
ゴリラトラッキングに参加するには
ゴリラトラッキングの様子 〜いざゴリラの住む森へ〜
ゴリラトラッキングの舞台裏
危ういゴリラの環境
ウガンダ共和国の国立公園とゴリラ・パーミット
自然保護のジレンマ

 マウンテンゴリラ(以下ゴリラ)は世界にわずか700頭あまりといわれる絶滅危惧種。生息地域はウガンダ共和国、ルワンダ共和国、コンゴ民主共和国の3国国境付近に広がる熱帯雨林です。
 3国の国立公園内では、その希少なゴリラに会うことができるゴリラトラッキングが行われています。熱帯雨林を歩き、観察が許可されているゴリラグループを見に行くというものです。
 今回は、700頭のうち約半数が生息しているといわれるウガンダ共和国のブウィンディ原生国立公園におけるゴリラトラッキングの体験をお伝えすると共に、ゴリラを取り巻く環境について考えます。


ブウィンディ原生国立公園の概要

国・位置:ウガンダ共和国の南西にあり、コンゴのヴィルンガ国立公園と隣接
面積:331平方キロメートル
地勢:標高1,160メートル〜2,607メートルに位置する熱帯雨林で、11種の霊長類を含む90種の哺乳類が生息
歴史:1991年に設立、1994年にユネスコ世界自然遺産にも登録
関連URL:ブウィンディ原生国立公園(ウガンダ野生生物管理局内)


ゴリラトラッキングに参加するには

 ブウィンディ原生国立公園のゴリラトラッキングに参加するには、ウガンダ野生生物管理局の発行する「ゴリラ・パーミット」(許可証)が必要です。これは、ゴリラに負担をかけないよう、厳重に人数制限されているためです。現在観察できるゴリラグループは4グループ。各グループにつき1日8人までとなっています。ゴリラ・パーミットの日時予約は2年前からできますが、1日計32人の枠に世界中から希望者が殺到するため、圧倒的な需要過多の状態です。ゴリラ・パーミットの取得に苦労する人も多いようです。
 実際の参加方法としては、個人でゴリラ・パーミットを取得申請して自力で公園まで行く方法と、首都のカンパラなどから催行されるツアーに参加するという方法があります。ツアー参加の場合はゴリラ・パーミット取得もツアー業者が代行してくれます。

ゴリラトラッキングの様子 〜いざゴリラの住む森へ〜

ガイドからの説明をきく

 私たちは、首都カンパラのウガンダ野生生物管理局で許可証を取得し、一路ブウィンディ原生国立公園へ向かいました。ローカルバスに揺られること10時間、さらにそこから住民のピックアップトラックに乗り換え1時間弱。半日かけてやっと公園の入り口まで到着しました。入り口にあるキャンプ場で一夜を明かし、いよいよゴリラとご対面の日がやってきました。
 トラッキング当日、公園事務所で手続きを済ませると、訪れるグループごとに引率のレンジャーがゴリラトラッキングのルールや注意事項について説明します。
 ルールの内容は、病気の人はゴリラに移る可能性があるので辞退すること、くしゃみや咳をするときは後を向いて、ゴリラを発見したら7メートル以内には近づかない、観察中は飲食・喫煙禁止 などです。


ゴリラトラッキングのルールを書いたカード
[拡大図]

 私たちは「M(Mbare)グループ」と呼ばれる、一番近いエリアに生息するという8頭ほどの群れを訪問することになりました。
 レンジャーによる説明のあと、さっそく森の中へ。トラッキングにはガイドのレンジャーの他、銃を持った兵士が3名同行します。兵士の同行は、治安が不安定なコンゴ民主共和国との国境近くを通るためです。比較的歩きやすい山道を45分ほど行くと頂上の休憩ポイントに着き、小休止。レンジャーはトラッカー(先発してゴリラを探す人)と連絡をとっています。トラッカーの報告によると、ゴリラの前夜の寝床をすでに発見しているそうです。ゴリラは毎夕、寝床を作り、朝になるとそこで用を足した後、その日の寝床を探しつつ、草を食べながら移動するそうです。移動範囲は寝床から1日1キロメートルほどしかないので、トラッカーはまずは前日の寝床を探し、それからその付近を捜すのです。
 休憩から一時間もしないうちに、私たちもその寝床に到着。聞いていたとおり、草が敷き詰めてあるベッドがいくつかあり、ひとつひとつに糞がしてありました。
 ここからは、頭の上を覆う高さの草原をガイドが鉈を振り下ろして切り開く道なき道を進みます。

 しばらくするとトラッカーと合流。ガイドの指示に従い、カメラ以外の荷物を置いてさらに歩くこと3分ほど、光を浴びた眩しい緑の中をモソモソと動く黒い物体を発見しました。
 ゴリラたちはこちらを気にする様子もなく、ムシャムシャと葉を口に運び続けていました。こちらをちらっと見たシルバーバックと呼ばれる群れのリーダーゴリラは、「また人間たちが来たな」というような顔。子供のゴリラは細い木に登り、上の葉を食べているかと思いきや、ドーンと地面に落ちたりして遊んでいました。興味津々な顔をして人間を見に草の中から出てくる若ゴリラもいました。


草をかきわけ進む

ゴリラを観察


 ゴリラが草を食む音、草の上のノソノソと動く音以外に何も聞こえない平和なひとときを過ごしていると、あっという間にタイムリミット。来た道を引き返してトラッキングは無事終了です。

ゴリラトラッキングの舞台裏

 ゴリラトラッキングが開始されるまでには、公園側で長い準備期間があります。まずゴリラの「ハビチュエーション」を行わなくてはなりません。人間が近づいてもストレスにならないよう、馴れさせることです。
 レンジャーが、初めは200メートルくらい離れたところから観察を始めて、だんだん距離を縮めていくそうです。もし近づきすぎて威嚇してきたりした場合はもう少し距離を置いて様子を見ます。こうして徐々に接近していって、ゴリラがそのレンジャーに馴れるのに約6ヶ月かかります。そこから不特定多数の観光客が覗きに来ても大丈夫になるまでには、さらに6〜12ヶ月かかります。この段階にまで慣れさせてからようやく、グループはトラッキングの対象とするわけです。
 ブウィンディ原生国立公園では設立の1991年からハビチュエーションを開始し、1993年からゴリラトラッキングが行われるようになりました。

危ういゴリラの環境

 ゴリラの生息数がここまで減少してしまった理由について、レンジャーに聞いたところ、次のような説明がありました。熱帯雨林の伐採によりゴリラの住処が奪われたことが最も大きな原因ですが、他にもいくつか理由があります。1つはコンゴ民主共和国の一部の部族がゴリラを食用とするため、国境を越えて猟をしに来たり、地元の人が獲ったゴリラがコンゴの人に売られたりしていたこと。
 また、先進国の人がペットとして連れて帰ることもありました。
 さらに、国立公園になる以前には、この森で伐採が行われていましたが、地元の人にとってゴリラは不吉な存在とされ、森で出会うと殺してしまっていたそうです。
 ゴリラトラッキングも、かつては違法なものが行われていました。限られたゴリラ・パーミットに世界中の人が殺到するため、ゴリラ・パーミットを取れなかった人が地元の人を雇ってゴリラを見に行ってしまうというものです。ゴリラへのストレスが懸念されましたが、現在は管理を強化し、そのようなことはないと自信あふれる回答がありました。
 ブウィンディ原生国立公園のゴリラトラッキングについては、もうひとつショッキングな事件がありました。1999年、ゴリラトラッキング中の観光客とガイドが襲われ、殺されたのです。犯人はフツ族のゲリラだといわれています。背景には、ゴリラの住むこの森が3国国境付近の非常に治安の不安定な地域であることが指摘されます。
 2007年には、コンゴ民主共和国で、反政府グループがゴリラの希少価値を逆手にとり、ゴリラを人質にとったり、見せしめのために殺したりする事件が起きました。

ウガンダ共和国の国立公園とゴリラ・パーミット

ブホマコミュニティの様子

 ゴリラ・パーミットは現在500USドル(ウガンダ国民は15万ウガンダシリング、約100USドル)。ウガンダ共和国の物価からすれば非常に高額です。その使い道についてレンジャーに尋ねたところ、25%は国立公園の入り口にある村落・ブホマコミュニティへ還元され、残りはブウィンディ原生国立公園および他の国立公園の維持費に回していると説明がありました。
 ウガンダ共和国には素晴らしい国立公園がいくつもあります。チンパンジーや数種の貴重な猿が生息するキバレ国立公園、600種以上の鳥類に加え100種以上の哺乳類が生息するクイーン・エリザベス国立公園、高度5,109mまで達するルウェンゾリ山地を有するルウェンゾリ国立公園などです。アクセスが難しい、治安が悪いなどの理由で観光客があまり訪れていないところもあります。それらの国立公園を維持するためにも、いわゆる“ドル箱”であるブウィンディ原生国立公園のゴリラ・パーミットを高く設定し、他の公園へと還元されているのです。

 私たちは、ゴリラトラッキングや、レンジャーステーションでの会話を通じて、レンジャーの知識・サービスレベルの高さを印象づけられました。レンジャーは全て首都のカンパラで採用され、トレーニングを受けた後、国立公園に配置されるそうです。そして、このようなトラッキングを引率するレンジャーは、さらに特殊な訓練を受けているようです。その品質を維持する原資が、このゴリラ・パーミットというわけです。
 またレンジャーは特に言及してはいませんでしたが、99年の事件発生以降、厳重な警備のために人件費がかさむのも理由のひとつだと推測されます。
 さらに、ウガンダ野生生物管理局によると、2007年からパーミットの価格を3国共通にすることによって、より積極的に3国が協力できる体制が整ったそうです。移動しながら生活するゴリラたちは時には国境を越えていってしまうこともあり、モニタリングを続けるには国を超えた協力が必須となります。国境を超えたゴリラグループの観察から得るパーミット収入を、当該国間で分け合えば、お互いの利益に固執することなく協力がしやすくなるというわけです。

自然保護のジレンマ

 全世界にたった700頭しかいないマウンテンゴリラ。理想論で語ればゴリラの住む熱帯雨林を保護し、彼らを人目にさらさず、そっとしておくのがゴリラにとっては最善の策かもしれません。しかし、現実論ではウガンダ一のドル箱スターであるゴリラは国・周辺コミュニティの経済、自然保護の原資となっています。ゴリラトラッキングがなくなればウガンダ全体の自然保護が危うくなるといっても過言ではありません。
 レンジャーの話では、長年の研究・保護活動の成果により、ここ数年で20%ほどゴリラの頭数も増加していて、健康状態も極めて良好とのことでした。
 自然保護とツーリズムに地元経済。現在ゴリラを取り巻く環境は、人間によって非常に多くの要因が絡み合っています。ゴリラトラッキングに実際に参加して、ブウィンディ原生国立公園ではまだまだ課題はあるものの、それらの要素の妥協点をなんとか見出しつつあるように感じられました。

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記事・写真:山田慈芳

〜著者プロフィール〜

 2004年6月から、世界の美しい自然を求めて夫婦で旅に出る。アラスカから旅を始め、北米・南米を縦断、その後アフリカ大陸に入って8ヶ月弱を過ごし、2006年1月に帰国した。旅で訪れた国は4大陸28カ国、期間は525日にわたる。
Webサイト: 美ら地球回遊記 http://www.chura-boshi.com/index_journey.html

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