No.124
Issued: 2007.05.31
中国発:竹割り箸の生産地を訪ねる
日本で使われている割り箸の9割以上は中国から輸入されている。木製割り箸製造のため森林伐採することが環境破壊につながるのではないかと、これまで何十年にもわたり議論されているが、そんな中、代替品として最近急速に生産が伸びてきている中国の竹割り箸の生産地を訪ねてみた。
割り箸は環境破壊の原因?
中国では北方地域で木製割り箸、南方地域で竹製割り箸の生産が盛んだ。北方地域では特に、黒竜江省や内蒙古自治区の北部地域の森林を伐採しているほか、ロシアなどから木材を輸入して割り箸を製造している。
一方、南方地域では降雨の多い広西自治区などで竹割り箸の生産が盛んだ。「雨後の竹の子」といわれるように、雨が多いと竹の育ちも繁殖も早い。
木製の割り箸製造が自然破壊、森林破壊の元凶になっているのではないかと議論されて久しい。日本国内では間伐材等を利用しているから問題ないという主張もあるし、一方、中国はそんな考慮もせずまとめて切り出すので大きく環境を破壊しているという指摘もある。そんな中、最近、木製割り箸の代替品として竹割り箸の生産が急速に伸びている。
今回訪ねたのは広西自治区の桂林市。カルスト地形が生み出す独特の桂林の景色は日本でもよく紹介される。水墨画に描かれている世界そのものがここにある。年間降雨量も1,500〜2,000mmと多い。竹が生長しやすい環境だ。
桂林市内には従業員が百人以上の大手竹割り箸製造工場が3つある。その他小規模の零細工場も多数ある。
この大手工場の一つ、「桂林両合経貿有限公司」の陳付庭総経理(社長)に話を聞いた。この工場は、中国の割り箸協会(竹箸分会)の理事会社にもなっている。
再生可能な竹林資源
原材料となる竹は桂林市郊外の竹林から切り出される。竹は1年あまりで生長し、その後、身が締まり3年ほどで成熟した竹となる。竹割り箸の原材料に利用されるのは、生長して3〜4年の若竹。竹は生長時間が早く、また、地中に網の目のように張り巡らされた根から次々と芽(筍)が出てくるので「植林」ならぬ「植竹」の必要もない持続可能な資源だ。
むしろ、森林と同じように適当に伐採しないと過密に繁茂し、生長が悪くなるという。竹林の下草の手入れ(除去)も重要で、健全な生長に大きな影響を及ぼす。育ちが悪く曲がった竹は原材料には向かない。
山中で切り出した竹は道路まで運び出し、トラックで山の近くにある一次加工工場まで運ぶか、川沿いの山中で切り出したものは川へ落とし、ここで筏に組んで下流に流す。
竹割り箸製造の流れ
一次加工工場では、節をとり、皮を剥き、割り箸1膳分の形にまで加工される。これが市内の開発区にある二次加工工場に持ち込まれる。割り箸材料に使えない節や先端の細い部分、枝の部分などは、それぞれコースターや竹串、竹箒の材料として利用される。
二次加工工場では、おおよそ次のような工程で加工される。
- 1.原料
- (3〜4年のもの)
↓
- 2.薫蒸
- サルファー剤などで48時間薫蒸する
↓
- 3.煮沸
- 亜硫酸ナトリウム剤を入れた液の中で70℃に保ち2時間ほど煮る。
↓
- 4.すすぎ
- 清水で5分間すすぐ。
↓
- 5.乾燥
- 湿度14%以下で70℃に保ち、72時間乾燥させる。
↓
- 6.切断
- 規定の長さに調整して切断する。
↓
- 7.加工
↓
1膳の割り箸が一本ずつに分かれるようにカットを入れる。
- 8.成形
- 頭の部分に斜めのカットを入れる(特に日本等への輸出向け)。
↓
- 9.仕上げ磨き
- ドラムに割り箸を入れて50分間回転させ、相互の摩擦を利用して磨く。
↓
- 10.選別
- 不良品がないか選別する。
↓
- 11.再選別
- 数量を数えながら再度不良品がないか選別する。
↓
- 12.包装
- 契約した顧客からの要求に応じた形態に包装する。
↓
竹割り箸の製造フロー
卸価格は1膳1円
話によれば、竹割り箸を本格的に生産し始めた1992〜93年頃は一箱(3,000膳)当たり40ドル以上で卸していたが、儲かるというので過当競争になり、また、日本の商社等からの買い叩きにより90年代末には17〜18ドルぐらいまで下落した。業界が団結しないと駄目になっていくという危機感が強まり、90年代末頃になってようやく前述の割り箸協会が結成されたということだ。
最近の一箱当たりの卸売り価格は25〜26ドル程度に回復している。1膳当たり約1円で卸している計算になる。別の資料によれば、日本での小売価格は1膳4〜5円程度である。
この会社は設立してから約15年、今では年間300万ドルほどの売り上げになるという。輸出を主に手がけ、日本への輸出のシェアは約40〜50%と半分近くを占める。その他、韓国、台湾、香港のアジア各国のみならず、米国、カナダ、欧州まで手広く輸出されている。
要求の高い日本には一番良い製品が輸出される。短い箸も好まれている台湾では、竹の根本に近い節と節の間が短い部分から製造される短い箸が輸出される。日本向けには輸出できないものだ。検査ではじかれたりした不出来な箸は中国国内で使用される。
「衛生箸」
割り箸は中国では「衛生箸」と呼ばれている。特に水の少ない地域では食器や箸がきちんと洗われず、かつてA型肝炎等の病気の伝染の原因になっていた。人の口に直接入る箸がきちんと洗われていないとしたら大問題だ。そんな中、使い捨て食器や割り箸のニーズが高まった。衛生状態が悪い途上国に特有なニーズである。こんな背景があるから「衛生」的という言葉で強調されるのだ。最近はあまり見かけなくなったが、レストランで茶碗や皿が出されると、利用する前にナプキンでよく拭くという光景がかつてよく見られた。
竹割り箸の生産は最近急速に伸びつつあるという。現在は木製割り箸78:竹割り箸22の生産比率だが、近々70:30ぐらいまでに変わると見込まれている。竹割り箸から見れば1.5倍近い伸びだ。これは次の理由による。
これまで加工貿易タイプで生産されていた木製割り箸(ロシア等から木材を輸入し、それを材料に割り箸を生産し、日本などへ輸出していたもの)には、32%の税金の課税が免除されていた。この制度を悪用して、実際は中国国内で切り出された木材を使用しているにもかかわらず、輸入木材だと偽って届け出て32%の課税逃れをしている事業者が多く見られた。近くこの免税制度が廃止されることになり、それに伴い廃業する業者等が増えてくること、木製割り箸の製造原価が上がることになり、相対的に竹割り箸の競争力が強くなってくるということだ。
今後も中国では竹割り箸の生産がどんどん伸びていくだろう。これによって中国北方地域の森林破壊に歯止めがかかることが期待される。話によれば、竹林も伐採するだけでなく、全国で毎年100万ムー(ムーは面積の単位:15ムー=1ha)ほど拡大させているそうだ。
今回訪問する前までは、割り箸を使う際にそれが木製なのか竹製なのか全く関心も寄せずに使っていたが、今では毎回しげしげと眺めるようになった。
皆さんは昨日自分が使った割り箸が竹製だったか木製だったか、思い出せますか?
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
記事・写真:小柳秀明
〜著者プロフィール〜
小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
- 1977年
- 環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
- 1997年
- JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
- 2000年
- 中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
- 2001年
- 日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
- 2003年
- JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
- 2004年
- JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
- 2006年
- 3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
- 2006年
- 4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
- 2010年
- 3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。
※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。