一般財団法人環境イノベーション情報機構

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.122

Issued: 2007.04.19

イタリア トスカーナの自然公園を訪ねて

目次
マレンマ州立公園の概要
まずはビジターセンターへ
公園の足は・・・自転車
マレンマの魅力(1)〜豊かな自然
マレンマの魅力(2)〜田園景観
地方自治体、環境NGO、専門家が協力して管理
チャレンジしつづける公園

ウッチェッリーナ山脈とオリーブ畑

 イタリア中部のトスカーナは、イタリア人だけでなく、ヨーロッパ中の人々にとって憧れのバカンス先。なだらかな緑の大地に、オリーブの木が茂り、ミツバチの羽音が心地よい田園地帯です。
 今回は、そんなトスカーナ州で、豊かな自然や田園景観、地域の伝統文化を守り、後世に伝えようとしているマレンマ州立公園についてご紹介します。


マレンマ州立公園の概要

マレンマ州立公園(Parco Regionale della Maremma)
[拡大図]

 南北に細ながーい、長靴のような形をしたイタリア。その中央部にあるのがトスカーナ州です。フィレンツェ、「ピサの斜塔」で有名なピサなど、世界遺産に登録された歴史的な街も多い州ですが、同時に、オリーブやワイン、小麦、野菜の生産が盛んな農業地帯でもあります。
 マレンマ州立公園【1】は、トスカーナ州南部の地中海沿いに位置し、1975年に設立されました【2】。公園面積は約1万ヘクタール、その周りのバッファーゾーン(緩衝地域)も約1万ヘクタールあります。
 マレンマ州立公園の魅力は、豊かな自然と、伝統的な田園風景。公園中央部には緑豊かなウッチェッリーナ山脈が走り【3】、地中海に注ぐオンブローネ川の河口には、多くの野鳥が訪れる湿原が広がっています。一方で、日当たりのよい山麓には、オリーブ畑や果樹畑が点在し、北部の平野では牛がのんびり草を食む姿が見られます。


まずはビジターセンターへ

 公園内の情報や地図を仕入れるため、まずはビジターセンターへ。アルベレーゼの町にあるビジターセンターは公園局事務所も兼務しています。
 「野鳥を観察するにはどこがいいですか?」、「子どもでも楽しめるハイキングコースは?」といった質問から、「自転車や馬(!)をレンタルしたい」といった相談まで、スタッフが気さくに応じてくれます。
 また、ビジターセンターの情報コーナーでは、マレンマの自然を紹介するパネルや野鳥の模型などが展示されています。ユニークなのは、マレンマ州立公園に承認された地元の特産品を販売するコーナー。有機栽培のオリーブ油やオリーブの瓶詰め、果物のジャムなど、健康にも環境にもよさそうな製品が並んでいて、うーん、目移りします。

アルベレーゼのビジターセンター

オリーブ油、ジャムなど地元の特産品が並ぶ


公園の足は・・・自転車

自動車の入ってこない自転車道

 レンタサイクルを借りて、出発。広い平野部をまわるには、自転車がぴったりです。環境にもやさしいですし!
 公園内の自転車道は車が入らないので、子どもでも安心して走れます。


マレンマの魅力(1)〜豊かな自然

 松の林を抜けると、オンブローネ川河口の湿原に出ます。ここは、公園お薦めの野鳥の観察スポット。季節にもよりますが、ガンやカモ、サギの仲間などを観ることができます。最近、アフリカからフラミンゴも渡ってくるようになったそうです。
 ところで、河口の湿原を通るルートに入るためには入場料(3ユーロ、約450円)が必要です。入場料の必要なルートは10本ほどあり【4】、収入は、公園内の清掃、修復、調査研究などに充てられています。入場料収入は年間36万8000ユーロに上り、公園運営予算(約236万ユーロ)の約16%を占めます。また、公園局事務所のジョバンナ・ステッリーニさんによれば、入場料は、公園で事故や損害等が生じたときの「保険」にも充てられるとのこと。環境保全のための資金を集めながら、公園内の安心確保にも役立つ、ユニークな入場料制度です。

オンブローネ川河口の湿原

入場券はビジターセンターで買って入りますが、買い忘れた人や、途中で行き先を変更した人は、ルート内を巡回しているガイドさんから買うこともできます。

有料ルートであることを示す看板(イタリア語、英語、ドイツ語で「入場券オフィスはアルベレーゼのビジターセンター」と書いてあります)


マレンマの魅力(2)〜田園景観

 マレンマのもう一つの魅力は、のどかな田園景観。4月の草原には小さな花がいっぱい咲いていました。牧草地でくつろいでいるのは、大きな角の白いマレンマ牛。この地方固有の種で、大切に維持されています。春に生まれた子牛もいました(子牛はなぜか茶色い)。母牛に寄り添っている姿が微笑ましいです。

 マレンマならではの伝統的な田園景観を保全しつつ、環境に配慮した農業を進めてもらうためには、地元の農業者の協力が欠かせません。このため、マレンマ州立公園と地元の農業団体の間では、公園内での農業に関する協定が締結されています。この協定では、農業を「生物多様性や公園の多様性を豊かにする要素」と位置づけ、農業への財政的な支援(補助、補償)、アグリツリズモの振興、地域の特産品の保全といった取り組みを進めていくことが盛り込まれています。2000年に結ばれた協定は、この種のものとしてはイタリアでも最初のものだそうです。

マレンマ牛のお母さんと子牛

風車小屋も絵になります


地方自治体、環境NGO、専門家が協力して管理

マレンマ州立公園局の事務所

 豊かな自然に加え、田園景観や地域の伝統文化も保全していくのは大変な仕事ですが、この仕事をこなしているのがマレンマ州立公園局(Ente Parco Regionale della Maremma)です【5】
 公園局の評議会(議決機関)は、州・県・市町村の推薦者、環境NGOや農業団体の代表、生物学や動物学の専門家等で構成され、公園内の規則や計画、予算・決算について審議・採択する権限を与えられています。
 また、科学的な観点からアドバイスを行う科学委員会、地元の地方自治体の意見を伝える公園連合会(市町村長、県知事で構成)といった機関も整備されています。
 「州立」公園ではありますが、州の行政当局だけでなく、地元の多様な関係者が、自然公園の意思決定に参加する仕組みが整えられています。


チャレンジしつづける公園

マレンマで出会ったキツネ

 かつてマラリアが蔓延し、人が寄り付かなかった時代もあったマレンマですが、今日では、イタリアだけでなく、ドイツやオランダ、フランスなど各国からも年間7万人のビジターが訪れる自然公園に生まれ変わりました。
マレンマを訪れて感じるのは、ここにしかない自然や田園風景、地方文化を地域のアイデンティティとして、一体的に守りたい、伝えたいという強い熱意です。地元の多様な関係者が参加する管理体制も、それを支えているように思います。
入場料制度や農業団体との協定、さらに環境規格のISO 14001の取得など、新しい取り組みにも次々チャレンジしているマレンマ州立公園。日本の自然公園、とりわけ都道府県立公園にも、参考になる点が多いのではないでしょうか。


【1】
イタリアの自然公園には、国が管理する国立公園と、州が管理する州立自然公園(州立公園)の2種類がある。国立公園は、国としてあるいは国際的に重要な価値のある、手付かずの自然(部分的に人の手が入った自然も含む)を保全しようとするものだが、州立自然公園は、その地域の自然、景観的・美的な価値、地域の伝統文化を一体的なシステムとして保全していこうとするもの。2006年末現在、24カ所の国立公園、100カ所以上の州立自然公園が設立されている。
【2】
1975年6月5日付け州法(L.R.Toscana 5 giugno 1975, n. 65)によって設立。
【3】
ただ、山脈といっても、一番高いところで標高400メートルちょっとしかないので、大きな丘かも。。。
【4】
観光客が通行可能な歩道は網羅。入場料はルートによって異なり、3ユーロ〜9ユーロまで幅がある。なお、9ユーロのルートについては、ビジターセンターから歩道の入り口までのバス代が含まれている。
【5】
マレンマ州立公園の組織については、1994年3月16日付け州法(L.R.Toscana 16 marzo 1994, n. 24。マレンマ州立公園等の管理のための公園局の設置に関する州法)、2002年憲章に規定。

関連情報

参考図書

  • 「Mal di Maremma」(Alberto Mauri ,2001)

文章・写真 源氏田尚子((財)環境情報センター)
現地取材協力 上村香織(イタリア ベネチア大学講師)