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No.111

Issued: 2006.11.16

中国発:中国型エコタウン(静脈産業モデルパーク)の建設始まる

目次
中国で唯一(第1号)の静脈産業モデルパーク
静脈産業モデルパークの位置づけ
課題山積の中での出帆
今後の行方は?

 2006年10月、本格開業前の中国型エコタウンを視察する機会を得た。静脈産業類国家生態工業モデル園区と名付けられるこの工業パークの建設は、中国国家環境保護総局(SEPA)や国家発展改革委員会(NDRC)の全面的な後押しのもとに進められている国家級のモデルプロジェクトと言えるものだ。

美しい青島の海岸、夏場は海水浴客で賑わう

ドイツ風の住宅は屋根の色が統一されている


中国で唯一(第1号)の静脈産業モデルパーク

 黄海に面した山東省青島市は青島ビール発祥の地として日本人にもよく知られている都市である。2008年に開催される北京オリンピックではヨット競技がこの地で行われる。
 人口700万人を超えるこの青島市の内陸部(莱西市:青島市のの下部組織に当たる市)に中国で唯一(第1号)の静脈産業モデルパークである「青島新天地静脈産業類生態工業園」の建設が始まった【1】
 このパークの総面積は220ha。研究エリア、生産エリア、実験エリア及びサービスエリアの4つの区域から構成される計画になっている。
 研究エリアでは、この会社と中国環境科学研究院【2】が共同して、国家環境保護固体廃棄物資源化プロセス技術センターを建設し、ここで固体廃棄物の資源化・処理及び処置、危険廃棄物の選別、汚染土壌の調査と修復、新エネルギー開発等の技術研究を行う。
 生産エリアでは、「全国危険廃棄物及び医療廃棄物処理施設建設計画【3】」に位置づけられている地域性危険廃棄物処理センター及び医療廃棄物処理センターが建設され、固体廃棄物及び医療廃棄物の無害化処理を行う。普通の工業固体廃棄物や生活廃棄物も処理、埋め立てされる。また、家電リサイクル工場も建設され、将来は自動車リサイクル工場も建設される予定だ。
 実験エリアでは、実験データの検証や技術インキュベーションセンター、大学の試験基地の建設が行われ、サービスエリアでは日常の管理業務、情報交換、市場開拓などが行われる。情報交換のためのワンストップサービスも設けられる予定だ。

建設中の静脈産業モデルパーク

開発前の園区内はこのような畑地が大半


静脈産業モデルパークの位置づけ

 2002年10月、江澤民国家主席(当時)のかけ声の下に本格的な取組が開始された中国の循環経済(循環型社会づくり)。2006年3月に決定された国民経済社会発展第十一次五か年規画(計画)では特に一章を設け、「循環経済の発展」を強調している(第22章)。このような流れの中で当初から中国の循環経済発展の先頭を走っていたのが国家生態工業モデル園区の建設だ。
 「生態工業」の考え方は、上流の工業(工場)から発生する廃棄物を下流の工業(工場)の原料として使用するという自然生態系の循環システムになぞらえた概念で、最終的に廃棄物はすべて循環し、系外には出ていかないという理論だ。
 静脈産業モデルパークは、これら生態工業園区の中でも最近新たに打ち出された分類で、これまでの生態工業園区が動脈産業中心に構成されていたのに対し、廃家電や廃自動車などのリサイクル産業、危険廃棄物等の処理施設、最終処分場をセットにした静脈産業中心の新しい概念の園区として示された。
 SEPAは2006年6月にこれまでにいろいろ試行されてきた生態工業園区の概念を整理し直して、生態工業園区建設に関する総合類、業種別類及び静脈産業類の3つの基準(試行)を制定し2006年9月1日から施行した。上述の青島新天地工業園は静脈産業類としてSEPAから承認された第1号である。
 なお、中国における「循環経済」への取組の中でもいち早く着手された生態工業モデル園区の取組は、2001年8月広西自治区の貴港市で全国で初めてのモデル園区が指定されて以来、2006年10月末までに合計20の園区がSEPAから承認されている。青島新天地静脈産業モデルパークは2006年9月11日にSEPAから批准された第17番目のモデル園区に当たる。


課題山積の中での出帆

モデルパークについて熱心に説明する解文国副総経理

モデルパークについて熱心に説明する解文国副総経理

 この青島新天地工業園区を経営する会社の解文国副総経理(副社長)は、地元莱西市の環境保護局副局長を最後に退職した環境分野の専門家である。訪問した我々に熱心に現状と課題を語ってくれた。

◆危険廃棄物処理センター

 2008年のオリンピックで、ヨット競技の重要関連施設として建設されるこのセンターには、山東省東部の半島地域(青島、煙台、威海、日照の各市)から発生する危険廃棄物が持ち込まれる。1期計画では年間5.5万トン(二期20万トン/年)の処理能力だが、現状は1.2万トン。同一の廃棄物の量が少なかったり、処理条件に適さない、再利用設備がまだ出来ていないなど課題が多く、倉庫に運び込まれたままになっている。


◆医療廃棄物処理センター

 2003年に発生したSARS(新型肺炎)後、医療廃棄物処理センターの重要性が認識され全国での建設が急がれている。ドイツの技術を導入して建設されたこの施設は、一日当たり24トンの処理(焼却)能力を持つ。
 現在、青島市内の病院から持ち込まれる医療廃棄物を1.5元/ベッド/日【4】で処理しているが、近いうちに山東省の相場(1.8〜2.0元/ベッド/日)に合わせる。最後に発生する焼却灰と飛灰はパーク内の危険廃棄物処理場に埋め立てられる。
 病院からの医療廃棄物の収集料金を実際の発生量(収集量)ではなく、単位ベッド当たりの単価を設定して強制徴収しているところが特徴的だ。

医療廃棄物焼却施設

医療廃棄物焼却施設

危険廃棄物の貯蔵施設

危険廃棄物の貯蔵施設


◆家電リサイクルセンター

 このパークの最も特徴的な施設の一つが、この家電リサイクルセンターである。このセンターは青島新天地と中国家電最大手のハイアール社が共同出資して作られた。NDRCが全国で2箇所のみ承認した実験都市(省)【5】のモデル事業になっており、NDRCや科学技術部からの補助金が入っている。
 中国には、日本のような家電リサイクル法が出来ていないため、回収方法は試行錯誤の状態だ。現在3つのルートからの回収を試みている。一つはハイアール、ハイセンス、オクマといった国内大手家電メーカーの製品販売ルートを活用して、不用になった家電を平均1台200元(約3,000円)程度で買取るもの。販売ルートを逆流通させて回収するのだ。二つ目は一般社会からの回収・買取、三つ目は共産党や人民解放軍からの回収・買取だ。買取にかかる費用は全額NDRCからの補助金で、3年間のみ補助金が出されるという実験的措置である。
 工場は現在、手作業で分解するラインのみ設置されているが、次期計画ではドイツの技術を導入して自動作業で分解を行うという。
 一方で、分解後の下工程、即ち、再生資源としてのリサイクル工程は建設の目途が立っていなく、日本等からのパートナーを捜している状況にある。

◆自動車リサイクルセンター

 科学技術部のモデル事業として行う予定だが、まだ建設に着手されていない状況にある。最終的には年間1万台程度の処理が行われる計画になっている。

◆埋立処分場施設

 危険廃棄物、一般固体廃棄物、生活廃棄物の埋立処理場が工業パーク内に既に設置されている。生活廃棄物処理場には地元市から発生する生活ゴミが持ち込まれる。

家電リサイクルセンター内に貯められた廃家電

家電リサイクルセンター内に貯められた廃家電

手作業で洗濯機を分解する職員、1台の分解時間は約30分

手作業で洗濯機を分解する職員、1台の分解時間は約30分


今後の行方は?

 循環型社会づくりが進んだ日本人の目から見ると、やっと緒に就いたばかりという感想だ。このような中国の静脈産業パークづくりに対して強引であるとか、関連するシステムが整っていないなどの批判や厳しい評価の声も聞こえる。確かに、危険廃棄物処理センターや家電リサイクルセンターにしてもまずは集めるだけでリサイクル方法はこれから考えるなど「走ってから考える」ような行動も見られるし、国からの補助金を頼りに家電を収集しているというような市場化になじまない持続可能性のない手法が取られているのも事実だ。
 しかし、モデル区として再資源化のプロセスのみならず環境安全化の概念を取り込んで設計しているというのは大きな進展ではないだろうか。今後に続いて出てくる静脈産業パークづくりの模範となるよう注目されている。
 このモデルパークに対して最近フランスの会社も投資することを発表し、去る9月に調印式が行われた。ドイツ、フランスのほか日本からの協力・投資も期待されている。


【1】青島新天地生態工業園
「新天地」はここを経営する会社の名称
【2】中国環境科学研究院
SEPA(中国国家環境保護総局)の直轄組織
【3】全国危険廃棄物及び医療廃棄物処理施設建設計画
NDRC及びSEPAにより制定され、国務院から批准された計画。全国各省に1〜2箇所ずつ危険廃棄物及び医療廃棄物の処理施設を建設する計画で、山東省には青島市及び済南市の2箇所に建設される。建設に際し国から補助金が交付される。
【4】1.5元/ベッド/日
1元は約15円
【5】実験都市(省)
NDRC(国家発展改革委員会)が承認した実験都市(省)は、全国で青島市と浙江省の2箇所のみ
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(記事・写真:小柳秀明)

〜著者プロフィール〜

小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
1977年
環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
1997年
JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
2000年
中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
2001年
日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
2003年
JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
2004年
JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
2006年
3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
2006年
4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
2010年
3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。

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