No.100
Issued: 2006.07.03
中国発:日中環境協力の新たな潮流─地球環境戦略研究機関(IGES)等が中国へ本格進出─
2006年7月2日、財団法人地球環境戦略研究機関(以下、IGESと略称する)は、アジア太平洋地域の環境政策における中国の戦略的重要性に鑑み、中国との間の調査研究事業等を強化するための拠点として、北京事務所(日中協力プロジェクトオフィス)を開設し、中国への本格進出を開始した。
背景−IGESの挑戦
IGESは、人口増加や経済成長の著しいアジア太平洋地域における持続可能な開発の実現を目指し、実践的かつ革新的な戦略的政策研究を行う国際的研究機関として、1998年に日本政府のイニシアティブによって設立された。
アジア太平洋地域は、地理的に変化に富み、文化や社会も多様で、経済発展段階も国によってさまざまだ。この地域において持続可能な開発に向けた戦略的政策研究を行うことは大きな挑戦である。特に中国は、この地域における面積、人口のどちらから見ても大きな割合を占め、地球環境戦略を発信する上で非常に重要な国だ。IGESは、バンコクプロジェクト事務所に次ぐ2番目の海外事務所として、北京事務所を開設することとした。
IGES北京事務所の概要と特徴
事務所は北京市朝陽区にある中国国家環境保護総局日中友好環境保全センター内に置かれた。日中協力プロジェクトオフィスとして日中友好環境保全センターとの緊密な連携のもとに、日中を機軸とした二国間及び多国間(国際機関も含む)の協力による様々な調査・研究事業等を展開する拠点を目指している。
事務所(協力プロジェクトオフィス)は、所長、研究員、現地職員より構成される。このうち研究員は展開する協力プロジェクトごとにIGES本部等より適宜投入されるほか、必要に応じて日中友好環境保全センター等の中国側研究員が客員研究員等としてプロジェクトに参画するという柔軟な運営形態を想定している。効率性、機動性を図るためだ。
また、協力プロジェクトのテーマによっては日中友好環境保全センター以外の中国側機関との本格的な協力も想定している。協力実施のため、ブランチオフィスの設置も準備中だ。その一つとして、CDM(クリーン開発メカニズム)に関する協力プロジェクトでは、カウンターパートである清華大学の中に「IGES−清華大学CDM協力プログラムオフィス」の発足を予定している。
実施予定の研究活動
今後、IGES内部の資金のみならず、世界銀行をはじめとした様々なルートからの外部資金を活用しながら、研究等の展開強化を図ることとしているが、当面は以下の分野で実施される。
- 大気汚染及び酸性雨の防止
- 水質汚濁の防止及び水資源管理
- 3R/循環経済の推進及び有害廃棄物の処理
- 都市環境の改善
- 地球の温暖化の防止
以上のうち大気汚染等の防止の分野では、事務所設置に先立つ2006年4月より「都市大気環境改善のためのアクションプラン作成研修プロジェクト」が開始されている。世界銀行からの資金を得て、中国国家環境保護総局の支持のもとに、日中友好環境保全センターと協力して実施するプロジェクトだ。
また、地球温暖化防止の分野では、中国国家発展改革委員会の支持のもとに、清華大学と協力して「日中CDM人材育成プロジェクト」を既に開始している(前述)。
その他、日中友好環境保全センターと共同で「革新的戦略政策オプション研究(RISPO)II」も2005年度より継続して実施されている。
IGESと日中友好環境保全センターとの協力協定の締結等
北京事務所(日中協力プロジェクトオフィス)の設置基盤を強固なものとするため、IGESと日中友好環境保全センターとの間で「環境保護の分野における協力に関する財団法人地球環境戦略研究機関と国家環境保護総局日中友好環境保全センターとの間の協定」(参考1)が締結された。
協定文書の署名式は、2006年7月2日北京市にある人民大会堂において日中両国の政府高官臨席の上で行われた。日本側からは竹下亘環境大臣政務官など、一方、中国側からは祝光耀国家環境保護総局副局長(筆頭副大臣)などが出席した。
同時に、IGES以外にも日本の5つの民間団体等が日中友好環境保全センターとの間で協力に関する合意文書を取り交わした。合意文書を取り交わした団体とその主な内容は次の通りである。
- 独立行政法人国立環境研究所(NIES)
包括的な研究協力に関する合意文書を交換。また、今後、黄砂に代表される大気粉塵のモニタリングに関する国際共同研究の実施についても個別に合意される予定。 - 社団法人海外環境協力センター(OECC)及び社団法人日本環境技術協会(JETA)
IGESとほぼ同内容の包括的な協力協定を個別に締結。当面情報収集等を重点にしつつ、環境測定技術・測定機器等に関する情報交換、日中協働の技術セミナー・講習会等の開催等を実施予定。 - 北九州市及び財団法人北九州国際技術協力協会(KITA)
環境分野の国際協力に関する覚書を締結。情報交換、研修員の派遣・受入れなどを実施。
─以上のうち、OECCとJETAは共同で日中友好環境保全センター内に日中協力事務局(北京連絡事務所)を開設した。
(参考1)協力協定の概要
- 両機関は、平等及び相互の利益に基づき環境の保護の分野における協力を維持し、かつ促進する。
- 協力活動は、次の分野において行う。
(a)大気汚染及び酸性雨の防止
(b)水質汚濁の防止及び水資源管理
(c)3R/循環経済の推進及び有害廃棄物の処理
(d)都市環境の改善
(e)地球の温暖化の防止
(f)生態系及び生物の多様性の保全
(g)その他の分野で今後両機関が合意するもの - 協力活動の形態
(a)情報及び資料の交換
(b)研究者、技術者その他の専門家の交流
(c)研究者、技術者その他の専門家による合同セミナー及び会合
(d)両機関が合意する協力計画(共同研究を含む。)の実施
(e)a〜dの協力活動を円滑に実施するための研究スペース等の相互提供
(f)両機関が合意するその他の形態の協力
日中環境協力の新たな潮流
前回のEICピックアップ 第96号「中国発:「プロジェクトX」─日中友好環境保全センター協力がもたらしたもの─」の中で、筆者はこれからの日中環境協力のあり方として3つの点(参考2)を提案し強調した。
今回のIGESをはじめとする6つの団体と日中友好環境保全センターとの協力協定等合意文書の締結や民間3団体のセンターへの進出は、これまでのODAを中心とした協力、即ち、政府ベースの協力からの脱皮を図ろうとする新たな潮流であり、日中環境協力のあり方が新しい局面を迎えつつあることを啓示する。
今を遡ること12年前、北京で「環境保護の分野における協力に関する日本国政府と中華人民共和国政府との間の協定」(1994.3.20.)が結ばれた。その第6条には次のように書かれていることが思い起こされる。
「両締約国政府は、両国の各種団体及び機関並びに個人の間の環境の保護及び改善の分野における協力をできる限り促進する」
民間協力の促進を謳ったこの第6条が今、再び日中環境協力の新たな潮流の起点となって新しい時代を迎えようとしている。
(参考2)次代の協力のあり方に関する3つの提案
- 日中友好環境保全センターがさらに日中環境協力の窓口、拠点、情報交流等のプラットフォーム的存在感を高めていくこと。
- 同センターがODA以外の環境協力のルートを拡充強化すること。特に日本の民間団体等との交流を深め、持続的なパートナー関係を確立すること。
- 上記のことを実現強化するため、センターの建物を日中両国の環境協力に関係する団体、さらには国際機関にも積極的に開放し、「環境分野の交流の場所(市場)」として発展させること。
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
〜著者プロフィール〜
小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
- 1977年
- 環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
- 1997年
- JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
- 2000年
- 中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
- 2001年
- 日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
- 2003年
- JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
- 2004年
- JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
- 2006年
- 3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
- 2006年
- 4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
- 2010年
- 3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。
※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。