一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.099

Issued: 2006.06.22

南アフリカの誇るクルーガー国立公園

目次
クルーガーの楽しみ方 ─ゲームドライブ
クルーガー国立公園の利用者施設 ─キャンプ
公園内のルール
クルーガーの挑戦 ─グレートリンポポ・トランスフロンティア・パーク構想
増えすぎたゾウの問題
近隣コミュニティを巻き込んだ取り組み ─“Take Kruger to Kasie Project”
アフリカをリードする国立公園として

 南アフリカ共和国のクルーガー国立公園は、1926年に国立公園法の制定と共に設立され、現在の敷地は19,633km2。日本の四国がすっぽりと収まる大きさだ。その広大さゆえに、公園内はいくつものエコゾーンが存在し、それぞれ地形や植生、そして生息する動物たちが異なる。その数や、鳥類507種、哺乳類147種、爬虫類114種、魚類49種、両生類24種、樹木336種という。
 今回はクルーガーの楽しみ方、クルーガーにおける自然保護の様々な取り組みについて紹介したい。


南アフリカの国立公園

環境観光省(Department of Environmental Affairs and Tourism)の管轄の下、SANParks(South African National Parks)という組織が国立公園法に基づいて運営しており、現在21の国立公園がある。
SANParksは明確なビジョンを持ち、本来のミッションである自然保護の取り組みもさることながら、訪問者、研究者に対するマーケティングも非常に充実している。Webサイトでは各公園の詳細情報はもとより、各種プロジェクト情報、リサーチレポート等が入手できるほか、公園の運営や自然保護について自由に意見をかわすことのできるフォーラムも設置されている。


クルーガーの楽しみ方 ─ゲームドライブ

サイティングマップ

 南アフリカでは野生動物観察のことを「ゲームビューイング」という。特に車からの観察を「ゲームドライブ」と呼ぶ【1】。クルーガー国立公園に限らず、南アフリカの国立公園のゲームドライブの基本はセルフである。つまり自分でドライブルートを決め、自分で動物を探すのだ。何を見られるかは、自分の勘と運次第。

 セルフゲームドライブの大きな味方が、メインキャンプ(後述)の掲示板に張り出してある「サイティングマップ」だ。公園の地図上に画鋲が刺せるようになっている。訪問者が、自分たちの発見した動物の位置を画鋲で示す仕組みだ。Big5と呼ばれるライオン、レオパード、サイ、バッファロー、ゾウを中心に、稀にしか目にできないワイルドドッグやチーターなど、それぞれ画鋲の色が決まっている。
 これをまめにチェックしてポイントを絞っていくと“当たり”が出ることが多い。
 ガイドをつけたい、または車高の高い車でより動物観察に集中したいという人には、レンジャーがガイドするツアーが各メインキャンプより提供されている。国立公園が運営するサービスだ。特に夜間のセルフドライブは禁止されているので、ナイトゲームドライブを楽しみたい場合にはこのツアーに参加するしかない。早朝と夕方、そして夜の動物は比較的活動が活発で、見つけやすいという。ゲームドライブが初体験だと、なかなか見つけられないが、慣れてくると、各動物特有の動きがわかってきて、遠くからでも目につくようになるから不思議である。ナイトゲームドライブはサーチライトであたりを照らし出し、光る目でだいたいどんな動物か判断することが多い。昼間とは違った世界を垣間見ることができる。


クルーガー国立公園の利用者施設 ─キャンプ

 クルーガー国立公園には12のメインキャンプ【2】の他、ブッシュキャンプ、ブッシュロッジなどがある。これらは全て塀で囲われていて、日の入りから日の出までは外に出ることはできない。

キャンプの入り口

入り口に設置された時計


 メインキャンプの中には、宿泊やアクティビティ予約を扱うレセプション、ショップ、レストラン、ガソリンスタンド、ランドリーなどがあり、宿泊施設としては、寝室が2つ以上あるファミリーコテージからテントサイトまで、予算とニーズに合わせて様々な選択肢が用意されている。公園内の動植物に関するエデュケーションセンターやライブラリーなどが設置されているところもある。

テントサイトの様子

レセプションの建物


 メインキャンプに対して、ブッシュキャンプ、ブッシュロッジと呼ばれる、より素朴で自然味あふれる施設もある。ショップやレストラン等の娯楽・嗜好施設はなく、山の上や主要道路から離れたところに建てられている。より自然を楽しめるようにと工夫されている。
 各キャンプでは様々なアクティビティが開催されており、朝・夕・夜のゲームドライブをはじめ、ブッシュウォーク、マウンテンバイクによるツーリング、星空観察などが体験できる。

公園内のルール

 南アフリカの国立公園の中でも飛び抜けて設備が充実しているクルーガー国立公園。目一杯楽しめる代わりに、守るべきルールも決められている。主なものは以下の通り。

  • ドライブが認められるのはキャンプ開門時間と同じ、夜明けから夕暮れまで
  • 決められたところ以外で車外に出てはいけない
  • 決められた道以外をドライブしてはならない
  • 制限速度は50km/hr
  • 決められたキャンプ以外で夜を明かしてはいけない
  • 餌付け禁止

 当たり前のことばかりのようだが、セルフドライブが認められるなど自由度の高さがルール違反を招く要因にもなっている。私たちが訪れたときも、キャンプ内で鳥に餌付けをしている人や、動物を待つ間勝手に車外から出ている人を目撃した。スピード制限に関しては、なんとレンジャーが公園内でスピード違反取締りを行っている。また、公園を出るときには、公園管理ゲートにおいてトランクや車内の点検がされ、何も持ち出していないかチェックを受ける。
 2005年の末にはこうした問題に関して、クルーガー国立公園のエグゼクティブディレクターから注意喚起の声明が出され、その後の取り締まりが強化されている【3】


クルーガーの挑戦 ─グレートリンポポ・トランスフロンティア・パーク構想

 クルーガー国立公園はモザンビーク共和国およびジンバブエ共和国と国境を接している。国境を越えた保護区を作ろうという試みが「グレートリンポポ・トランスフロンティア・パーク」構想(以下、GLTPと略す)だ【4】
 GLTPは90年代から会談や調査が少しずつ進められ、2002年に3国間で宣言された。3ヵ国の国立公園を合わせて35,000km2、将来的には周辺エリアの統合も視野に入れ、100,000km2(九州の約2.5倍)にもなる壮大な計画である。
 政府と民間企業、NGOが力を合わせて計画を推進し、世界銀行をはじめ、オランダやドイツの企業なども支援している。
 現在は、主に200km近く国境を接している、クルーガー国立公園(南アフリカ)とリンポポ国立公園(モザンビーク)の間で、フェンスの撤去や野生動物の移動・再配置が行われており、2005年12月には、2つの国立公園を結ぶ国境ゲートがオープンした。訪れる観光客は一般的な入国手続きは必要なものの、2つの国立公園を自由に行き来できるようになり、2つの国立公園をまたがるハイキングトレイルも整備された。
 アフリカでは圧倒的な経済基盤を持つ南アフリカと、まだまだ未開発の隣国、モザンビークとジンバブエ。バックグラウンドの異なる国同士が、自然保護で協力しようという素晴らしいこの試み。今後も進展を見守りたい。


増えすぎたゾウの問題

公園内の道路に出てきたゾウ

 クルーガー国立公園で、今話題となっているのが増えすぎたゾウの問題。クルーガーに限らず、南アフリカの多くの国立公園やプライベートゲームリザーブなどの保護区における共通の課題で、野生動物の保護に成功してきた反面、最近では増えすぎた野生動物、特にゾウをどう扱うかが問題になっている。
 ゾウに天敵はおらず、100年近く長生きするため、どうしても数が増えてしまう。そしてとにかく大きいことと大量に食べることから、植生への影響が甚大だ。植生が変化すれば、そこに生息する他の動物にも影響する。南アフリカの貴重な生物多様性が少なからず壊れてしまう可能性がある。
 さらにクルーガー国立公園の西側ではゾウがフェンスを壊して周囲の農場を荒らしたり、バッファローなど他の動物も壊れたフェンスから公園外に出て、家畜と接触することによって病気が蔓延するなどの事件も起きている。近隣コミュニティにとっても頭の痛い問題だ。
 ゾウ問題は90年代から既に議論が始まっていた。当時は、公園内に「ゾウがどれだけ住めるか」ということに焦点があったのに対して、最近では公園内の「生物多様性」に焦点が移り、ゾウの「キャパシティ」の定義が変わってきたのが、さらに議論を複雑にしている。
 しかもクルーガー国立公園には、現在ゾウが約12,000頭。7,500頭ともいわれる上限をすでに大幅に超過しており、今すぐ何らかの手を打たないと公園内の生態系に悪影響が出るという見方が大半だ。
現在国全体で検討されているプランでは、以下のような管理手法が挙がっている。

  • 公園の拡大、周辺保護区とのフェンスの撤去などにより、ゾウの分散を促す
  • 水場を減らし、若ゾウの死亡率を上げる
  • 病気を流行らせたり、捕食動物の数を増やして、ゾウの数を減らす
  • ゾウの入れない地域をつくり、そこの生態系を保護する
  • 短期的に狩猟の許可をしたり、処分を実行する
  • 他の地域に移動させる 等

 短期的にはゾウの殺処分がもっとも効果的といわれるが、もちろん動物保護団体からは反対の声があがる。政府、国立公園、周辺コミュニティ、NGOなど、各ステークホルダーの意見をとりまとめるのは容易ではない。
 国全体のポリシーが決まれば、各国立公園で必要な施策が遂行されることになる。代表格のクルーガー国立公園がどのような手法を採るか、注目される。


近隣コミュニティを巻き込んだ取り組み ─“Take Kruger to Kasie Project”

 2006年1月、クルーガー国立公園で“Take Kruger to Kasie Project”というコミュニティプロジェクトが正式に発足した。公園から30km以内の居住区を中心に、環境教育プログラムを実施したり、クルーガー国立公園に招待したりと、クルーガーでの自然保護に対する理解を促進しようというプロジェクトである。周辺30km圏内の住民は、非常に重要なステークホルダーとして認識されている。
 プロジェクトの象徴として、2台の“Take Kruger to Kasies”バスが石油会社のシェル社から寄贈された。このバスが、各居住区とクルーガー国立公園の間を運行することになっている。
 この他にも、薬用植物を地域住民に寄付したり、ゲート近くにアート&クラフトセンターを設立して、地域住民に働き口を提供することで経済的な支援としたり、建設プロジェクトにも地域住民の採用をしたり、子どもたちへの環境教育プログラムとして“Kids in Kruger Project”を企画したりと、数々の取り組みを行っている。
 このようなコミュニティ支援の背景には、アパルトヘイトが終わって10年経った今も、国立公園の利用が主に白人層に偏り、近隣コミュニティに多く住む黒人層は公園を訪れる機会も少ないことがある。その上、ゾウによるフェンス破損で被害をこうむるのは近隣の黒人層である。公園の維持には、近隣コミュニティの理解は必至だ。


アフリカをリードする国立公園として

 クルーガー国立公園は南アフリカの国立公園の代表格として、実に多様な取り組みを推進している。
 今回あげた他にも、数多くのリサーチプロジェクト、ジュニアサイエンティストプログラム(主に黒人の若い科学者を支援するプログラム)、山火事マネジメント、ロックアート等文化遺産の保護など、数え上げたらキリがない。ボランティアレンジャーやインターンの仕組みも充実している。
 南アフリカの国立公園を管轄するSANParksが非常にしっかりした組織であり、その頂点にあるのがクルーガーなのである。アフリカというだけで先進国より遅れているイメージがあるかもしれないが、ある側面では、それはまったくの誤解だ。
 クルーガー国立公園は、自他共認めるアフリカでもっとも先進的な国立公園であり、野生動物保護という視点からは“World's greatest Animal Kingdam”と自負するように、世界をリードする国立公園であるといっても過言ではない。今後もその取り組みに期待したい。


【1】ゲームビューイング
野生動物観察のこと。「ゲーム」はもともと狩猟の獲物の意味だが、現在は狩猟に限らず、お目当ての野生動物といった意味で使われることが多い。日本では「サファリ」というほうが一般的だが、これは東アフリカのスワヒリ語で「旅」を意味する。南アフリカでは「ゲームドライブ」が使われることが多い。
【2】キャンプ
ここでいう「キャンプ」とはいわゆるテントを張って楽しむキャンプだけを意味するわけではなく、宿泊・飲食施 設などを含めた、「レストエリア」というような意味合い。「レストキャンプ」と呼ばれることも多い。メインキャンプはその中でも規模の大きいところを指す。
http://www.sanparks.org/parks/kruger/camps/
【3】注意喚起声明(英語)
https://www.sanparks.org/parks/kgalagadi/tourism/rules.php
【4】トランスフロンティア・パーク
ピースパークとも呼ばれ、南部アフリカでは1997年に設立されたピースパークス財団という組織が中心になってプロジェクトが進められている。南アフリカでは隣国であるナミビア、ボツワナ、レソト、ジンバブエなどと5つのピースパークが進行中である。ピースパークは、米国・カナダ間(グレーシャー国立公園とウォータートンレイクス国立公園)などアフリカ以外にもあるが、アフリカの場合、より背景が複雑だ。アフリカでは、植民地時代に宣言された国境によって動物達の生息地や大移動のルートが分断されてしまったところが多く、生態系が大きく崩されてしまった。現在それを少しでも取り戻そうと各国が協力している。
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〜著者プロフィール〜

山田慈芳
2004年6月から、世界の美しい自然を求めて夫婦で旅に出る。アラスカから旅を始め、北米・南米を縦断、その後アフリカ大陸に入って8ヶ月弱を過ごし、2006年1月に帰国した。旅で訪れた国は4大陸28カ国、期間は525日にわたる。
Webサイト:美ら地球回遊記

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