一般財団法人環境イノベーション情報機構

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.070

Issued: 2005.04.21

頑張れ!気候変動への戦い 〜イギリス編〜

目次
これまでの成功
エネルギー効率化行動計画
政策措置(Policy Measure)
再生可能エネルギー
最後に

 津波、台風、洪水など異常気象による自然災害が近年頻繁に起こるようになりました。原因のひとつとして、地球温暖化が私たちの生活にもたらした影響があるのではないかと考えられています。南極大陸棚氷の崩壊、海岸の浸食、生物種の減少など、すでに顕在化しつつある現象との関連性も懸念されており、今後とも予想もつかないような異常事態が起こる可能性が指摘されます。
 気候変動への取り組みは、“終わらぬ戦い”となっています。その“戦い”の最前線に立つイギリスの取り組みをご紹介します。
 京都議定書では第一約束期間(2008年〜2012年)において温室効果ガスの排出量を1990年レベルよりEU全体で8%、イギリスは12.5%の削減するとしていますが、イギリスではそうした国際公約を越える20%削減を目標に、国を挙げての大きな試みが始まっています。

アイスランドのバトラ氷河(1931年)
アイスランドのバトラ氷河(1999年)

アイスランドのバトラ氷河。左の写真は1931年、右の写真は1999年に撮られたものです。温暖化による氷河の後退が見てとれます。(出典:イギリス気候変動プログラムp.14(原典:ロイヤル地理学学会、キール大学Keele University))

これまでの成功

【グラフ1】エネルギー消費、二酸化炭素排出と経済成長との分離(1970〜1999)

【グラフ1】エネルギー消費、二酸化炭素排出と経済成長との分離(1970〜1999)
出典:「イギリス気候変動プログラム」、イギリス環境運輸省(DETR)2000.11、p56

 イギリスではこれまで、温室効果ガスの削減においてかなりの成功を遂げています。
 下のグラフを見ればわかるように、イギリスでは1970年以降、経済成長を達成している一方で、エネルギー消費は横這い、かつ、温室効果ガスの排出量は減少傾向を辿るという、横V字型のグラフを描いています。大きな要因として指摘されるのは、エネルギー効率の向上とクリーンエネルギーの導入および普及であると考えられています。さらに、横V字型の開きを大きくすることを目指して、新たな政策が展開されています。


エネルギー効率化行動計画

 イギリスでは、2004年4月に「エネルギー効率化行動計画(EEIP)」が発表されました。エネルギーコストを年間30億ポンド(約5,800億円)節約するという目的を掲げた計画です。同時に、2010年までに炭素排出量を家庭部門で420万トン、ビジネスと公共部門で790万トン抑制することとしています。
 表1には、イギリス国内の各政策や計画による炭素排出量抑制の数値目標の内訳を示しています。家庭部門(Households)のうち、「イギリス気候変動プログラム(CCP)」と「エネルギー効率化コミットメント(EEC)」による炭素排出量抑制の割合が70%近くを占めています。一方、ビジネスと公共部門(Business & Public sector)では、後述する「気候変動協定(CCA)」と「排出権取引(ETS)」に期待が寄せられています。

【表1】各政策とプログラムによる炭素排出量抑制の数値目標の内訳(2010年まで)
家庭部門(Households) 炭素排出の抑制(Mtc pa)
イギリス気候変動プログラムに含まれた政策 1.5
2005年からのエネルギー効率化コミットメント、“よい家”基準 1.4
燃料欠乏対策(ウォームフロント) 0.2
コミュニティエネルギー 0.1
建築法規2005 0.8
その他の政策 0.2
小計 4.2
ビジネス&公共部門(Business & Public sector)  
気候変動協定 2.4
改正気候変動協定数値目標 0.9
新たな部門への延長 0.5
イギリス&EU排出権取引 2
炭素信用 1
建築法規(住宅除く) 0.6
公共部門 0.5
小計 7.9
合計 12.1

出典:「エネルギー効率化:政府の行動計画」、イギリス環境・食糧・農村地域省(defra)2004

 気候変動プログラム(CCP):2000年11月に発表された計画で、2010年までに二酸化炭素排出量を1990年レベルから20%削減する目標を立てています。この国内目標を達成するために、エネルギー、産業、運輸、家庭の各部門で、温室効果ガスを削減するために、以下のような政策パッケージを提示しています。

【表2】

  • 産業部門に係る政策パッケージ
    気候変動税、気候変動協定、国内排出量取引、炭素基金の設立、エネルギーラベル、統合的汚染管理規制(IPPC)等の実施
  • 運輸部門に係る政策パッケージ
    EUと自動車業界との協定、10年交通計画、燃料税・自動車税等の実施
  • 家庭部門に係る政策パッケージ
    電力供給会社による家庭部門の省エネ対策義務化、住宅の省エネ推進等の実施
  • エネルギー転換部門に係る政策パッケージ
    再生可能エネルギーの供給義務化(RO)、新しい電力取引のシステムの導入等の実施

出典:英国気候変動政策調査報告、2001

  • エネルギー効率化コミットメント(EEC)
    2002年4月に発表されたもので、イギリス政府が実施する省エネルギーの目標と政策です。家庭部門のエネルギー効率化を促進し、省エネ目標を達成することとされています。今までに、一次エネルギーの量で約62TWh(テラワット時)のエネルギー節約を果たしました。2005年5月から新EECがスタートし、新たな目標があげられました。電気・ガス消費者への省エネ等に関する支援を現段階よりさらに2倍にし、2008年までの3年間に130TWhの省エネを目指すとしています。

 表3はエネルギー効率化に関係する各政策と、それが直接関連している部門が挙げられたものです。ほとんどの政策は各部門に適用されていることがわかります。

【表3】エネルギー効率化に関連政策と関連部門
政策 部門
家庭公共商業工業
EU排出権取引      
財政政策
 気候変動税  
 気候変動協定      
 エネルギー効率化製品      
 資本控除拡大制度  
建築基準
製品基準
エネルギーサービス
熱電併給
"排出権取引と炭素信用からの
エネルギー効率化アドバイス"        
エネルギー効率化コミットメント      
“よい家”プログラム      
燃料欠乏対策(ウォームフロント)      

出典:「エネルギー効率化:政府の行動計画」、イギリス環境・食糧・農村地域省(defra)、2004


政策措置(Policy Measure)

 国内における政策措置として、以下のようなものがあります。

  • 炭素信用(CT)
    2001年7月にイギリス政府によって設立された独立会社です。目的はビジネスと公共部門の炭素排出を減らし、低炭素技術の開発を促進することです。また、エネルギー効率化を通して企業の競争力を向上させ、低炭素経済への移行を援助しようとするものです。財源には気候変動税(CCL)が充てられます。
  • 気候変動税(CCL)
    2001年4月に導入されたビジネスと公共部門のエネルギー使用に対する課税制度で、日本で言う炭素税(環境税)に相当します。税収は、企業負担の国民保険料(NICs)の0.3%の軽減分の相殺と、炭素信用(CT)を通じて低炭素技術の開発普及の促進、エネルギー効率化への投資などに割り当てられます。
  • 気候変動協定(CCAs)
    2000年に政府とエネルギー集約型産業部門の間で締結されたものです。約46産業部門の6,000社が参加しています。各産業部門ごとに2010年までの炭素排出削減目標が規定されますが、参加により、気候変動税が80%カットされるというメリットが生じます。
  • 再生可能エネルギー使用義務(RO)
    (後述)

【図1】


 以上のほか、排出権取引も重要な政策手段です。2005年1月にスタートしたEU排出権取引(EUET)は、イギリス国内の削減数値目標の達成に重要な役割を果たすと見込まれています。イギリス国内の企業間で独自に取り組まれ、2002年にスタートした排出権取引制度(UKET)による排出削減効果は、実際のところそれほど大きくはないものと見込まれていますが、EUの排出権取引市場にうまく参入するための経験を積む場として期待されています。


再生可能エネルギー

 再生可能エネルギー使用義務(RO)は、2002年のスタートから3年経ちましたが、はっきりとした数値目標でもっとも効果的な政策措置の一つだと考えられています。目標は、2010/11年までに、販売電力量に占める再生可能エネルギー源により発電された電力割合を10.4%に引き上げることです。さらに、政府内では2015年に15.4%に引き上げようという動きがあります。
 一方、小規模の再生可能エネルギー技術への支援、たとえば、マイクロCHP【1】技術に対する減税などが要望されています。

【グラフ2】2011年までの販売電力量に占める再生可能エネルギー源により発電された電力割合(イギリス貿易産業省(DTI)、2001)

出典:Hydrogen,2003

出典:Hydrogen,2003


 専門家の予測では、再生可能エネルギーによる発電はイギリスの電力需要の半分を満たすことができるとされます(ETSU、1999)。ただし、それには輸送のコストの低減が課題と指摘されています。


最後に

 イギリスは、EUの中では政治・外交面で米国寄りと見られていますが、気候変動対策ではEUの最先端を走っている国のひとつです。2005年2月の京都議定書発効以前から、さまざまな対策を打ち出し、大きな効果を挙げています。
 一方、京都会議のホスト国となった日本では、1990年比で7.6%も温室効果ガスを増加させているという状況にあります(2002年現在)。日本もイギリスに見習うべきことが多々あるのではないでしょうか。


【1】マイクロCHP
Micro Combined Heat and Power。小規模熱電併給、いわゆるコ・ジェネレーションのこと。イギリス政府は、2010年までに10GWの生産量を目標としている。

(記事:霍 亮亮(京都大学大学院地球環境学舎M2、ロンドン在住))