一般財団法人環境イノベーション情報機構

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.065

Issued: 2005.01.27

若い人材への投資─自発的環境活動の年─

目次
ドイツの「自発的環境活動の年」制度
参加者・受け入れ側双方のメリット
若者の“政治離れ”は本当か?
日本でも「自発的環境活動の年」を導入したい──柳沢義人さんの想い
公的機関のバックアップが重要
フライブルクエコステーションで研修をするアンドレ・ディトリッヒさん(20歳)

フライブルクエコステーションで研修をするアンドレ・ディトリッヒさん(20歳)

 「コンポストの作り方のコツを教えてください」
 「ハーブ植物の効用や利用方法など知りたいです」
 「近くにハリネズミがいるのですが、どうやって保護したらいいですか?」
 ──ドイツ・フライブルク市にある環境教育施設エコステーションには、一般市民からたくさんの質問が来ます。対応するのは、この施設で研修しているアンドレ・ディトリッヒさん(20歳)。問い合わせのテーマに関する資料を探してきて回答します。わからないことがあれば、職員が相談に乗ってくれます。手紙で返答する場合、原案を作成すると、職員が添削してくれます。
 研修も5ヶ月目に入ったディトリッヒさんは、ある程度の質問には、ほとんど一人で対応できるようになりました。
 「動物や植物のことだけじゃなく、オフィシャルな手紙はどう書くか、見ず知らずの人にどう接するかなど、学校では学べないことをたくさん学んでいます」。
 その他にも、ホームページの編集や、子供向け環境教育の授業の手伝いなどもしています。先日は、古紙から再生紙をつくる授業のアシスタントをしました。

ドイツの「自発的環境活動の年」制度

 ドイツでは、「自発的環境活動の年(Freiwilliges Ökologisches Jahr 通称FÖJ)」、「自発的社会活動の年(Freiwilliges Soziales Jahr 通称FSJ)」と呼ばれる若者向けのプログラムを、連邦政府が実施しています。ディトリッヒさんが参加する前者は約15年、後者は40年の歴史を持っています。
 両方とも16歳から27歳の青年を対象とし、参加者は1年間、自分が希望する環境・福祉・教育に関連する施設で実地研修を受けることができます。
 参加者の住居費や健康保険、傷害保険、それに月々約150ユーロ(約2万円)の小遣い、合わせて月額600〜700ユーロは、国と各研修施設が2対1の割合で負担します。若者に社会体験の場を提供することがその目的です。
 現在年間約19,000人のドイツ人青年たちが、この2つのプログラムを利用しています。

 また、各施設での実地研修と平行して、年に5回、各1週間の合同セミナーが開催され、各地の研修生が集まってきます。1回目は、オリエンテーションと様々な研修場所の紹介。先日ディトリッヒさんが参加した第2回セミナーのテーマは、「ライフスタイル」と「自然医療」でした。
 今後実施される第3回と第4回では、いくつかのテーマの中から各自が自由に選択できるそうです。ディトリッヒさんは、「森林、山岳地域のエコシステム」を選びました。
 第5回にあたる最終セミナーは、参加者の研修報告があります。
 現場だけでは十分に得られない幅広い知識や理論を提供するのがこのセミナーの目的です。


参加者・受け入れ側双方のメリット

 大学の環境関係の学部への入学を考えているディトリッヒさんは、「勉強する前に、社会に出て現場を見たかった」と、この研修制度に参加しました。現場での経験は、大学入学後の勉強のモチベーションを高めてくれるでしょう。
 最低限の生活が保障され、社会の一員として責任が与えられ、フルに働き学べる1年間は、なによりも自分の将来を考えるための豊かな時間です。

 一方、研修生を受け入れる施設は、月々約200ユーロ(約2万8千円)くらいの負担で、やる気のある若者を雇うことができ、大変助かっているようです。しかし、受け入れ側にとってのメリットは、お金だけではありません。
 「環境活動を継続していくためには、次の時代を担う若い人材を育てることが重要です。この仕事を20年近くやっている私なんてもう年寄りですから」 ──エコステーションの運営チームの一人、ラルフ・フーフナーゲルさん(45歳)は言います。
 「われわれは知識やノウハウを提供し、若者は我々に、新しいアイデアや刺激を与えてくれます。お互いに学び合っています」。
 約15年間続いているこの研修制度は、持続可能な社会づくりに必要な世代間交流も促進するのです。


若者の“政治離れ”は本当か?

 「自己中心的」「社会に対して無関心」「政治離れ」という若者に対する批判を最近、ドイツではよく耳にします。
 政党の活動へ参加する若者の数が減っている傾向は確かにあります。それを「政治離れ」と単純に言いきっていいのでしょうか。こうした傾向は、グローバル化、環境問題などの複合的な問題に対して、十分な対策を打ち出せない議会や政治家への不信感の現れ、とも指摘されます。
 イギリスの社会学者ギデンズは、名著「第三の道」(1999年)の中で、「政治家と在来型の政治のあり方への信任低下」という先進国での調査結果と、政治の主導権が議会を離れて市民団体に移行している現象を結び付けています。議会政治への関心の低下が、必ずしも政治離れ、社会的無関心を意味するものではないという主張です。

 ドイツ政府(連邦家族・高齢者・女性・青少年担当省)が、1999年と2004年の2回に渡って行ったボランティア活動に関する全国調査によれば、14歳から25歳の若者の約3割が、福祉、環境、スポーツ、文化などの分野で自発的な活動に取り組んでいるとの結果が出ています。これは、全体の平均と変わらない数字です。

 こう見ると、世間一般の若者批判は、むしろドイツの若者の政治・社会関与が、従来の政党を通じたものから、NPO、市民団体、サークルなどを通じたものに移っていると理解した方が適切なようです。


日本でも「自発的環境活動の年」を導入したい──柳沢義人さんの想い

柳沢義人さん(26歳) シュレースビッヒ・ホルシュタイン州FÖJ運営事務所の前で

柳沢義人さん(26歳) シュレースビッヒ・ホルシュタイン州FÖJ運営事務所の前で

 「自発的環境活動の年(FÖJ)」、「自発的社会活動の年(FSJ)」は、社会活動に関心を持つ若者の需要にうまく答えたシステムです。
 「このような素晴らしい制度は、ぜひ、日本でも導入したい」 ──そう話すのは、北ドイツの港町キールに住む日本人、柳沢義人さん(26歳)です。
 日本大学生物資源科学部を2000年3月に卒業したあと、単身ドイツに渡り、それから約3年間、ヘッセン州自然保護センターや、ドイツ環境自然保護連盟(BUND)、グリーンピースなどで研修を重ねてきました。
 熱心な活動がドイツ人に認められ、2003年9月にはBUNDシュレスビッヒ・ホルシュタイン州支部青年部の代表に、外国人ながら選出されています。
 現在は、同州のFÖJ運営事務局で、国際化担当スタッフとして働いています。
 グローバルな環境問解決のためには、国境を越えた協力は必須です。国際的に活躍できる人材を育成するために、シュレスビッヒ・ホルシュタイン州FÖJ運営事務局は4年前から、オーストリアやフランス、アフリカのタンザニアなどへ、ドイツ人の青年を研修のため派遣しています。また逆に毎年数名の外国人の受け入れも行っています。

 2004年12月には、国際化コーディネーターを務める柳沢さんの尽力もあって、デイビット・シュバンケさん(20歳)が、同プログラムとしては初めて日本に派遣されることになりました。
 2005年末まで福島県鮫川村にある自然体験・環境教育の施設「あぶくま自然大学」で研修することになっています。


公的機関のバックアップが重要

福島のあぶくま自然大学で研修中のデイビット・シュバンケさん(20歳) 間伐を手伝う

福島のあぶくま自然大学で研修中のデイビット・シュバンケさん(20歳) 間伐を手伝う

 「社会のために何かしたい」と志す若者は、ドイツでも日本でも、少なくはありません。前述の「第三の道」のギデンズは、今日の若い世代が、目上の世代よりも道徳への幅広い関心を示している、と指摘しています。大切なのは、関心をもつ若者たち対して、社会がさまざまな受け皿を用意することでしょう。
 「青年たちが活動するサークルや団体は日本にもたくさんあります。でも、それらに対する行政や公共機関からの働きかけは、まったくといっていいほどないですね。団体が継続的に活動していくには、人材や情報、資金の面で、公的機関の協力は不可欠です」 ──日本の大学に在学中の当時、国内の環境団体で青年部を立ち上げた経験をもつ柳沢さんの言葉です。

 今年(2005年)開催される愛知万博では、柳沢さんと日本で研修するシュバンケさんが、「自発的環境活動の年(FÖJ)」の紹介をする予定です。
 今後日本において、この制度を導入することを視野に入れての働きかけです。日本でも、将来を担う若者への有効な投資制度が誕生するでしょうか。

 「自発的環境活動の年」日本導入に対して関心がある方は、直接、柳沢義人さん(連絡先は下記)へお問い合わせください。

〜柳沢義人さんの連絡先〜
FÖJ-Betreuungsstelle
Koppelsberg 1, 24306 Ploen, Germany
HP:https://oeko-jahr.de/


関連情報

参考図書

  • アンソニー・ギデンズ 著 佐和隆光 訳「第三の道」日本経済新聞社(1999年)

(文責:池田憲昭)