No.062
Issued: 2004.09.30
サッカー界の高まる環境への取り組み―2006ワールドカップからSCフライブルクまで─
2002年の日韓ワールドカップでも話題にのぼりましたが、サッカー界でも環境配慮の動きが各地で起こっています。サッカーは、たくさんの人々が熱狂するスポーツ。リーグ戦や各種大会には、職業も年齢層もさまざまな人々が観戦に訪れます。環境関係者にとっては、大変効果的な広報活動の場であり、またビジネスのチャンスだと言えます。
ワールドカップを2年後に控えたドイツでも、大会の組織委員会が、2003年に環境目標を作成し、持続可能性の原則に沿った大会運営を自ら義務づけています。
一方、環境首都フライブルクのサッカーチーム「SCフライブルク」では、スタジアムの屋根にソーラーパネルを取り付けるなど、環境に関するさまざまな取り組みを行ってきました。今年はクラブ設立100周年。日系の自動車会社 スズキ・ドイツ社を新しくスポンサーとして迎えた同チームの環境方針についてもご紹介します。
環境に優しいワールドカップ
ワールドカップを2年後に控え、開催国ドイツでは記念メダルや切手などの販売が始まり、盛り上がりを見せています。サッカーのワールドカップは世界中の人々を熱狂させる大イベントですが、その一方で大量の物資、資源を消費し、環境に大きな負荷を与えてきました。ドイツサッカー連盟は、既に開催国立候補の段階から、スタジアムの環境コンセプトを掲げ、環境に優しいワールドカップをアピールしてきました。2003年、「皇帝(カイザー)」と呼ばれたかつての名選手フランツ・ベッケンバウアー氏を会長とする大会組織委員会は、フライブルク市の民間研究所「エコインスティトュート」の協力のもと、「グリーンゴール」という環境目標を作成しました。水、ゴミ、エネルギー、交通と4つの分野からなるこの目標の特徴は、科学的データに基づいて現在の状況を把握し、そこから何パーセント減といった具体的な数値目標が明記されていることです。例を挙げれば、スタジアムでの水使用を20%減、全交通に占める公共交通利用の割合50%以上などが掲げられています。
このプロジェクトを後方から支援するのはドイツ連邦環境省とドイツ環境基金です。環境先進国といわれるドイツですが、ここ最近、経済不況の影響から、国民の環境に対する意識が低下しているともいわれます。この大会は、幅広い市民層に環境意識を植付け、環境ビジネスをさらに躍進させる大きなチャンスと捉えられています。現在、各開催都市、スタジアムで、「グリーンゴール」達成へ向けての具体的な措置が講じられています。
スポンサーの交代と反応
今年の7月にポルトガルで開催されたサッカーの国際大会「ユーロ2004」では、フランスやドイツなどの「サッカー大国」の敗退が続き、新興勢力の活躍という大波乱の末にギリシャの優勝という結果に終わりました。これらの「大国」では、大会直後に監督が交代しています。ヨーロッパでは成績が振わないと、すぐに監督を変えてしまう傾向があります。こうした中、フライブルクの地元チームであるSCフライブルクは、監督が20年以上も交代していない珍しいチームです。
そのSCフライブルクでは、来季のシーズンに向けて、ちょっとしたスポンサーの交代劇がみられました。スタジアムの屋根にソーラーパネルを取り付けるなど「環境」を前面に掲げるSCフライブルクのスポンサーは、これまで自然エネルギーを生産・販売するナチューア・エナギー社(Natur Energie)が務めてきました。ところが、来期からこれに代わって、日系の自動車会社 スズキ・ドイツ社がメインのスポンサーになることが内定したのです。サッカーチームは、各都市を代表する一つのシンボル。地元テレビのアナウンサーが監督に「自然に優しいスポンサーから随分な変化ですね」と突っ込む場面も見られました。
ただし、ファンや住民の反応は比較的穏やかで、7月に街角で日光浴をしている住民たちに感想を聞いてみると、以下のようなものでした:
「比較的大手のスポンサーがついて、チームが強くなるといい。お金がなくて、いい選手の放出が続いていたからね」(26歳 男性学生)
「サッカーのことは興味ないけど。日本の会社がスポンサーですか」(女性 定年)
(注 正式には欧州に本部がある日系の会社です)
「小さいチームだから、ま、バイクの会社でいいんじゃなの」(43歳 男性 銀行員)
マーケティングのねらい
最後のコメントは「まさしく、我々が意図したもの」と語るのは、同チームマーケティング担当のマルティン・ブラウン氏(写真1)。「まず、ハイブリッド車などスズキも環境に取り組んでいること、それに小型車を中心に販売していることがイメージに合致した」と語ってくれました。SCフライブルクが比較的小規模なチームなので、小型車を中心に販売しているスズキ・ドイツ社とは「よいパートナー」になれる可能性があるといいます。ブラウン氏は、SUZUKIのロゴが入った新ユニフォームを誇らしげに示してくれました(写真2)。
また、ナチューア・エナギー社はメインのスポンサーから下りるものの、バデノヴァ(Badenova)社という地域のエネルギー会社がチームに出資する予定です。前スポンサーのナチューア・エナギー社が全国区のエネルギー会社となるのを目指しているのに対し、バデノヴァ社は地域のエネルギー供給という経営戦略がチームの目指す方向性と一致したそうです。さらにスタジアムの名前も、現在の「ドライザムスタジアム」(側を流れる川から取った名前)から、会社名の「バデノヴァスタジアム」に改称される予定です。
その他の取組み
ここ10年、スタジアムで売られる飲み物には、リユース可能でしかも落としても割れないプラスチックのコップが使用されています(写真3)。フライブルクで開発されたこのコップは、日本のスタジアムでも使用されています。また、現在、2,500m2の太陽発電パネルが屋根に取り付けられていますが、さらに追加され、最終的には3,700m2となる予定です。その発電量は年間約250,000kwh。これはスタジアムで年間に消費される電力量に相当します。その他にも、新しくゴールネットを紙からつくるという試みも来季から行われるそうです。プラスチックの代りに紙を使うことによって環境負荷を減らそうというものです。これらの事業を請け負うのも日本の会社の予定という話ですから、ドイツのサッカー界の環境への取組みに、ささやかながら日本も協力しているんですね。
* 太陽光パネルについて
現在サッカー場の屋根に設置されている2,500m2太陽光パネルは、その約6割を企業や大きな投資家、残りの4割を189人の一般市民が所有しています。所有者には、人気が高くすぐに売切れてしまうサッカー場の年間券を優先的に買うことができるという特典がついています。
生産された電力は送電会社に売られ、その売上が所有者のもとに入ってきます。年間の儲けは現在投資額の約6%です。これは普通の銀行よりもはるかに高い利率です。しかし、原子力や化石燃料よりはるかに高い太陽光発電で、なぜこのようなことが可能なのでしょう? それは、ドイツでは再生可能なエネルギー法(EEG)によって、太陽光や風力で生産された電力の買い取りが送電会社に義務づけられているからです。
その際、最低価格もそれぞれの電力のタイプによって定められています。太陽光によって発電された電力は、1kwあたり50セント前後(約70円)とかなり高い買取額が補償されています。
* ドイツ人の環境意識の低下について
ドイツ環境省が行った環境意識に関するの調査(2002年)を見ますと、90年代前半をピークに、ここ10年、ドイツ人の環境意識が低下している傾向が伺えます。例えば、1990年、約60%の被験者が環境問題をもっとも重要な問題であると認識していたのに対し、2002年はそれがわずか15%にまで落ち込んでいます。環境よりも、失業、経済問題を重要だとする人が大半を占めています。
関連情報
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
取材には、SCフライブルクのマーケティング担当のMartin Braun氏に協力いただきました
(記事・写真:香坂玲 池田憲昭)
※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。