No.057
Issued: 2004.06.17
スイス フェアトレード事情
コーヒーにチョコレート、オレンジジュース、ハチミツ、バラの花...。これはスイスのスーパーで、手軽に買えるフェアトレード商品の一例です。フェアトレードは、途上国で生産された農作物や製品を安く買い叩くのではなく、適正な価格で購入し、貿易を通じて途上国を支援していこうという運動です。ヨーロッパでは、1960年代から広がり、スイスでも非常に盛んに行われています。日本でも、フェアトレード商品を扱うお店が少しずつ増えてきているのだとか。
今回はスイスのフェアトレード事情についてお伝えします。
フェアトレード商品への高い支持
スイスのスーパーでは、「FAIR TRADE CERTIFIED MAX HAVELAAR(フェアトレード認証 マックスハベラー)」という丸いラベルのついた商品をよく見かけます(→写真2)。このラベルは、マックスハベラー財団(スイス)が、国際的なフェアトレード基準を満たしている商品につけているもの。途上国の生産者の労働条件・生活条件を改善できるよう、通常の取引価格より高い値段で生産者から買い上げること、環境に配慮した生産方法を採用することといった基準を満たす商品が認定されます。
コーヒーの認証基準の例
- 小規模な農業者組合の製品であること(生産者を搾取しがちなブローカーを経由しない)
- 長期的な取引関係を促進すること。部分的に前金を支払うこと。
- 環境に配慮した方法で、生産・加工されたコーヒーであること
- 持続可能な生産に必要なコストをカバーできる対価が、生産者に支払われること。具体的には、通常のコーヒーに対しては、1ポンド(453g)当たり1.24ドル(149円)、有機栽培のコーヒーに対しては、1ポンド当たり1.39ドル(167円)が支払われる。この最低保証価格よりも、国際的な取引価格が高い場合には、国際的な取引価格に上乗せして、通常のコーヒーには5セント(6円)、有機栽培のコーヒーには15セント(18円)が支払われる。
資料:マックスハベラー財団(スイス)
マックスハベラー・ラベルは、スイスの消費者に大変よく知られており、アンケートでは、約8割の人がこのラベルを支持すると答えています。スイスでのマックスハベラー・ラベル商品の売上げは年間1億5,600万スイスフラン(約132億6,000万円)にものぼります。
なお、マックスハベラーは、もともと1988年にオランダで設立された団体です。スイスでは、1992年に6つの援助系市民団体が集まって、マックスハベラー財団(スイス)が設立されました。設立からしばらくは、スイス外務省も資金面で支援してきました。【1】
大手スーパーも積極的に導入
スイスでフェアトレード商品の人気が高い理由として、マックスハベラー財団(スイス)のクリストフ・ライストナー氏は、スイスの消費者が途上国の社会問題や環境問題に高い関心を持っていること、またスーパーや輸入業者がフェアトレード商品の導入にとても熱心であることを挙げます。
スイスの大手流通チェーンの、ミグロとコープ【2】も、マックスハベラー財団(スイス)が活動を始めた当初から、積極的にマックスハベラー・ラベルの製品を扱ってきました。ミグロやコープのスーパーの店頭に並んでいるフェアトレード商品は、定番のコーヒー、チョコレート、紅茶から、オレンジジュースやマーマレードなどの加工品、バナナやパイナップル、マンゴーなどの生鮮食料品等々。最近はバラの花など、食料品以外のフェアトレード商品も扱っています。ミグロとコープは、スイス全国、田舎の小さな町や村でも店舗展開しているので、大都市に限らず、地方でも、フェアトレード商品は簡単に手に入ります。
生協組織【3】を母体としている、この2社は、環境問題への取り組みも熱心で、有機栽培のフェアトレード製品(コーヒー、紅茶、チョコレートなど)の品揃えも充実しています。
小学校1・2年生からフェアトレード教育
小学校でも、フェアトレード教育に力を入れているところがあります。ジュネーブにあるインターナショナル・スクール・オブ・ジュネーブのプレニー校では、日本の小学校の1〜2年生に相当する、クラス3から、フェアトレードについて学びます。
クラス3の担任のオークリー先生は、子どもたちの大好物のチョコレートを使い、「チョコレートの原料のカカオはどこから来るのかな?」、「カカオを作っている人たちは、どんな暮らしをしているのかな?」、「フェアトレードって何かな?」と子どもたちの興味を引き出しながら、話を進めていきます。
でも、小さな子どもたちに、「フェアトレード」はちょっと難しすぎるのでは? 授業の後、子どもたちに聞いてみると...。
- 筆者:
- 「フェアトレードって、何?」
- 子どもたち:
- 「あのね、普通のお店の人たちは、カカオをとても安い値段で買うんだけど、フェアトレードの人たちは、困っている国の人たちに、たくさんお金を払って買うんだって」
「だから、子どもたちが学校に行けるようになったり、お医者さんに行けるようになったりするんだって。アフリカには、学校に行けない子どもたちもたくさんいるんだよ」
「あとね、地球にいい作り方をしている人から、このコーヒーを買うんだよ」
意外にも(!?)、子どもたちなりに、自分と同じ年頃の、相手の国の子どもの立場を考えたりして、ちゃーんと理解しているのには驚きました。お使いに行ったり、お父さんやお母さんと一緒に買物に行ったりすれば、子どもたちも小さな消費者です。小さなうちから、フェアトレードに親しんでおくのも、十分意味があります。
これからも、ますます伸びる!?
マックスハベラー財団(スイス)のパオラ・ギラーニ事務局長は、「フェアトレードの理想を現実に変えるのは、消費者の信念とその行動です」と強調します。フェアトレード商品は、普通の商品と比べて、多少値が張ります。例えば、オレンジジュース1リットルパックは、普通1.25スイスフラン(106円)ほどですが、フェアトレードのものは1.5スイスフラン(127円)と、20円以上割高になります。でも、この差が途上国の人々の暮らしや環境の改善につながっていきます。
消費者の強い支持と、スーパーや輸入業者の熱心な取組みに支えられ、スイスでは、マックスハベラーの認証を受けた商品の売上げは、毎年20〜40%の割合で急成長しています【5】。同財団では、今後は、綿など、食料品以外の途上国産品にも力を入れて行きたいとしています。小さな消費者も味方につけて(!?)、スイスのフェアトレードは、今後も、ますます伸びていきそうな勢いです。
- 【1】スイス外務省も資金面で支援
- スイス外務省は、1992年から2000年まで、マックスハベラー財団に対して、総額280万スイスフラン(約2億4000万円)の資金援助を行ってきた。フェアトレードに対する、スイス外務省の積極的な支援姿勢が表れている。
- 【2】MIGROS(ミグロ)とcoop(コープ)
- この2社で、スイス流通関連売上げの3分の2を占める、大手スーパー。
- 【3】生協組織(COOP)について
- 「COOP」は、協同を意味するco-operationからとった呼称で、世界の協同組合共通のシンボルマークになっている。組合員が出資し、利用し、運営する経営形態をとっている。
1844年にイギリスのロッチデールで誕生し、ヨーロッパ各国に波及、今日では全世界に広がってきた。日本でも1879(明治12)年に設立された。 - 【4】児童向けのフェアトレード教材
- 教材はグローバル・エクスチェンジのホームページよりダウンロード可能
- 【5】
- マックスハベラー財団(スイス)の説明資料より
関連情報
- 日本のフェアトレード事情について
第041回 バレンタイン、チョコあげるならフェア・トレードで
参考図書
- マックスハベラー財団(スイス)「fair trade」(同財団の2003年度の活動報告書)
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(本文・写真:スイス在住 源氏田尚子)
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