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No.052

Issued: 2003.12.18

世界国立公園会議自然保護地域の光と影

目次
世界国立公園会議とは
世界国立公園会議開催一覧
第5回会議は
世界の保護地域
会議のトレンド −国立公園の課題
前回(第4回)会議の開催されたベネズエラの代表的国立公園、カナイマ国立公園(世界遺産)

前回(第4回)会議の開催されたベネズエラの代表的国立公園、カナイマ国立公園(世界遺産)

 熱帯林などの生物多様性の減少が地球規模で進む中、国立公園などの保護地域の役割はますます増大しています。一方で、保護地域内や周辺で生活する地域社会の人々の生活の安定は、自然保護のためにも重要な課題です。
 こうした保護地域の現状や課題を討議するため、2003年9月に南アフリカのダーバンで「第5回世界国立公園会議」が開催されました。会議の概要と世界の国立公園の現状や課題を報告します。

世界国立公園会議とは

第5回世界国立公園会議会場入り口(時節柄、厳しいセキュリティチェック)

第5回世界国立公園会議会場入り口(時節柄、厳しいセキュリティチェック)


 世界国立公園会議は、世界の国立公園関係者が一堂に会する10年に一度の会議で、自然保護の国際会議では最大のものです。国際自然保護連合(IUCN)と開催国の主催によって、1962年の米国シアトルでの第1回会議以来、1972年に米国イエローストーン国立公園で第2回が、1982年にインドネシアのバリ島で第3回が、1992年にベネズエラのカラカスで第4回がそれぞれ開催されてきました。それぞれの会議で採択された会議勧告は、その後の世界の保護地域をはじめとする自然保護政策に大きな影響を及ぼしてきました。


世界国立公園会議開催一覧

  第1回 第2回 第3回 第4回 第5回
開催期日 1962年7月 1972年9月 1982年10月 1992年2月 2003年9月
開催場所 シアトル(米国) イエローストーン国立公園ほか(米国) バリ島(インドネシア) カラカス(ベネズエラ) ダーバン(南アフリカ)
テーマ 国立公園は国際的に重要な意義を持つ 国立公園−よりよき世界のための遺産 発展のための公園−持続する社会における保護地域の役割 生存のための公園−持続社会における保護地域の役割の増大 境界を越えた利益
参加者数 72カ国
300名以上
56カ国
約400名
79カ国
約450名
120カ国
1,800名以上
154カ国
約3,000名
会議構成 全体会合、
5部会
全体会合、
13分科会
全体会合、
3分科会、
各12分会
全体会合、
4シンポジウム、
50以上のワークショップ
全体会合、
4シンポジウム、
7個別テーマと3横断テーマのワークショップ(32)
決議 勧告(26項目) 勧告(20項目) バリ宣言(6項目)、
勧告(20項目)
カラカス宣言(14項目)、
カラカス行動計画(21項目)
ダーバンアコード、行動計画、勧告、生物多様性条約へのメッセージ
主要議題等 野生生物、国立公園の価値と役割、公園管理問題等 観光影響、公園管理、各生態系の保全、研修等 保護地域ネットワーク、海洋保護地域、保護地域カテゴリー、国際協力等 生物多様性、海洋、エコツーリズム、自然保護スワップ、地域住民・女性の権利等 保護地域管理、地域社会および民間セクターとの連携、資金問題等

※なお、世界国立公園会議は、1962年に"The World Conference on National Parks"としてはじまったが、その後、“World Parks Congress”などと呼び名を変えて開催されてきた。第5回は、“The Vth IUCN World Park Congress”と称され、直訳すると「第5回世界公園会議」となるが、これまでの経緯・歴史から「世界国立公園会議」の呼称が馴染んでいることより、本稿では「世界国立公園会議」で統一する。


第5回会議は

開会式で挨拶するネルソン・マンデラ前南アフリカ大統領

開会式で挨拶するネルソン・マンデラ前南アフリカ大統領

 第5回は本来なら2002年に開催される予定でしたが、同年に同じ南アフリカ共和国のヨハネスブルグで開催された「国連開発会議」(ヨハネスブルグサミット)との錯綜を防ぐ上から1年間延期され、2003年9月8日から17日までダーバンで開催されました。「境界を越えた利益」のテーマの下、世界154カ国から政府、研究者、NGO、企業、先住民など3,000人もの参加者がありました。
 開会式には、地元主催者のムベキ南アフリカ大統領のほか、ネルソン・マンデラ前南アフリカ大統領、IUCNのパトロンでもあるヨルダンのノア王妃なども参加しました。会期中の多数のワークショップはどれも魅力的なテーマばかりでしたが、同時並行で開催のためとてもワークショップ全体の概要を把握するのは困難でした。
 会議の最終日には、「ダーバンアコード」「ダーバン行動計画」「会議勧告(ワークショップからの提案)」とともに、「生物多様性条約へのメッセージ」が採択されました。


世界の保護地域

 原生的な自然の保護を目的としたものから、記念物的なもの、あるいは特定の景観や動植物種を保護対象としたものなど、世界には自然保護のための多様な保護地域があります。一口に「国立公園」といっても、国によってその形態や問題点は様々です。世界の保護地域の現状を把握し、問題点などを抽出するためには、ある程度同一の基準で包括的にリスト化することが有効です。このため、国連環境計画(UNEP)ではIUCNと共同して、世界の保護地域を6カテゴリー(類型)に分類した「国連保護地域リスト」を作成しています。世界国立公園会議で公表された2003年版によると、全世界で10万ヶ所、1,880万km2以上が保護地域として登録されています。
 保護地域の中で中心的役割を担っているのは、今も昔も「国立公園」ですが、最近では「資源管理保護地域」が増えてきています。後者のカテゴリーは、1994年に新たに追加されたものです。これは、自然を厳正に保護するだけではなく、地域社会と協力・共存した形での自然保護も必要と認識されてきたためです。

保護地域カテゴリー(IUCN 1994)

南ア最古のクルーガー国立公園のゲート

南ア最古のクルーガー国立公園のゲート

  • I 厳正保護地域/原生地域
  • Ia 厳正保護地域(Strict Nature Reserve)
    主として学術的な目的のために管理される保護地域
  • Ib 原生地域(Wilderness Area)
    主として原始性の保護のために管理される保護地域
  • II 国立公園(National Park)
    主として生態系保護とレクリエーションのために管理される保護地域
  • III 自然記念物(Natural Monument)
    主として特異な自然物を保全するために管理される地域
  • IV 生息地/種管理地域(Habitat / Species Management Area)
    主として管理介入を通じた保全のために管理される保護地域
  • V 陸域景観/海域景観保護地域(Protected Landscape / Seascape)
    主として陸域景観・海域景観の保全とレクリエーションのために管理される保護地域
  • VI 管理資源保護地域(Managed Resource Protected Area)
    主として自然生態系の持続可能な利用のために管理される保護地域

会議のトレンド −国立公園の課題

保護地域の増加と管理

先住民と保護地域の現状を訴えるエクアドル先住民の女性

先住民と保護地域の現状を訴えるエクアドル先住民の女性

 第3回会議(1982年バリ)の会議勧告では、地球上全陸地面積の5%を保護地域にすることを目標としていました。その後の保護地域面積の増加は著しく、第5回会議時点の保護地域面積は、第4回会議(1992年カラカス)で目標としていた10%を超えています。
 しかし、途上国などでは単に地図上で指定しただけのいわゆる「地図上公園(Paper Park)」が多く、実際には保護区として管理されておらず、その機能を有していないものがたくさんあります。管理のための財源が不足しているのも各国共通の悩みです。このため、公園内で自然資源利用をする企業などによる資金協力も今回のテーマ(境界を越えた利益)の一つでしたが、一方で根強い企業への不信も明らかになりました。
 また、陸上の保護地域に比べて、地球表面の3分の2も占めている海域の保護地域はまだまだ少なく、わずか0.5%しか指定されていません。海洋の生物・自然保護はこれからの大きな課題です。

地域社会との共存

国立公園と地域社会について説明する地元住民(セント・ルシア湿地国立公園(世界遺産)にて)

国立公園と地域社会について説明する地元住民(セント・ルシア湿地国立公園(世界遺産)にて)

 1872年に広大な国土を有する米国で始まった国立公園制度は、その景観や野生生物を手付かずの状態で後世に伝えようとするものでした。その後、アフリカ、中南米や東南アジアなどの植民地に導入された米国型の国立公園制度は、厳正な自然保護を重視するあまり、先住民などの伝統や生活を無視し、時には部落ごと公園区域から追い出すようなこともありました。しかし、公園内の自然資源に依存して生活していた人々は、レンジャーの目を盗んで資源採取を繰り返しました。公園管理と違法採取のイタチゴッコです。

 最近になって、保護地域の管理のためにも、地域社会の生活の安定は必要だとの認識が生まれてきました。生物多様性条約を巡る途上国と先進国との対立などで、途上国の資源原産国意識や農民・女性の権利意識が芽生え、これに先進国が理解を示してきたこともあります。
 こうして、地域社会によるある程度の自然資源の利用を許容しながら管理する「資源管理保護地域」(Managed Resource Protected Area)や、さらに取り上げた保護地域を地域社会に返還したうえで管理してもらう「地域社会保全地域」(Community Conserved Area)なども生まれてきています。会議では、オーストラリア、カナダ、中南米、アフリカなどでの事例が発表されました。各地で実施されている「エコツーリズム」も、自然への影響を最小限にした自然観察型観光と地域社会の文化保護や経済的安定との両立を図る手段のひとつです。

保護地域カテゴリーの見直し

 このように保護地域の位置づけや形態も、国により異なり、また時代と共に変遷してきています。このため、これまでの保護地域の概念を洗いなおし、カテゴリーを変更しようと言う意見も出てきました。
 このほかにも、国立公園などの保護地域を取り巻く状況は刻一刻と変化し、課題も山積です。第5回会議で合意に達しなかった事柄もたくさん残っています。今後開催される「生物多様性条約締約国会議」など関連する国際会議で引き続き議論が積み重ねられることが期待されます。


関連情報

参考図書

  • 「世界国立公園会議のあゆみと日本」高橋進(国立公園616号 2003年9月)
  • 「座談会−世界国立公園会議に出席して」高橋進、親泊素子、笹岡達男、瀬田信哉(国立公園618号 2003年11月)
  • 「第5回世界公園会議」大林圭司(国立公園619号 2003年12月)
  • 「保護地域カテゴリーの変更」高橋進、桜井洋一、石田文子(国立公園529号 1994年12月)
  • 「進化する保護地域[1] −2003国連保護地域リストにみる保護地域のすがた」守分紀子(グローバルネット157号 2003年12月)
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(記事・写真:共栄大学 高橋進)

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