一般財団法人環境イノベーション情報機構

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.051

Issued: 2003.11.20

フランス カマルグ湿原にフラミンゴを訪ねて

目次
地平線まで広がる湿原
フラミンゴを訪ねて
フランスにも田んぼが!
フラミンゴとの共生
旅の終わりに
カマルグの象徴 フラミンゴ

カマルグの象徴 フラミンゴ

 フランス南部、プロヴァンス地方の南に、カマルグという広大な湿地帯があります。その広さは約10万ヘクタール。日本最大の釧路湿原の4〜5倍にも及びます。カマルグはヨーロッパでも有数のフラミンゴの飛来地であり、また、フランスではここでしか見られない「水田」や、白馬や黒牛の放牧など、独特の景観でも知られています。そんなカマルグを訪ねてみました。

地平線まで広がる湿原

果てしなく広がる、フランス・カマルグの湿原

果てしなく広がる、フランス・カマルグの湿原

 カマルグを訪れたのは、既にうだるような暑さの6月でした。カマルグは、ローヌ川が地中海に注ぎ込む、デルタ地帯にある湿地帯です。カマルグは広い、とにかく広い。大地に降り立つと、水と葦原と小島がモザイクのように入り混じった風景が、はるかに地平線まで続いています。


カマルグは野鳥の楽園(↑写真にうつっている鳥は何羽? ↑)

カマルグは野鳥の楽園(↑写真にうつっている鳥は何羽? ↑)

 湿原、淡水湖、塩水の干潟と多様な自然に恵まれたカマルグには、350種近い野鳥が生息し、世界各地から渡り鳥が訪れる野鳥の楽園となっています。この他にも、ビーバーやウサギ、キツネなど様々な野生生物が暮らしています。一帯は、1970年からカマルグ地方自然公園【1】として保全されており【2】、1986年には、フランスで最初の、ラムサール条約登録湿地に指定されました【3】


フラミンゴを訪ねて

フラミンゴの営巣地(一部)・・・少し見づらいが、岸辺には白い帯のようなフラミンゴの群れが

フラミンゴの営巣地(一部)・・・少し見づらいが、岸辺には白い帯のようなフラミンゴの群れが

 カマルグを代表する鳥は、なんといってもフラミンゴ(オオフラミンゴ)【4】です。アフリカで冬を過ごしたフラミンゴは、春から夏にかけて、カマルグで卵を産み、雛を育てます。ここを訪れるフラミンゴの数は2万羽〜4万羽にのぼり、ヨーロッパでも有数の繁殖地となっています。
 地方自然公園のインフォメーションセンターで教えてもらった地図を頼りに、なんとかフラミンゴの営巣地を見つけました。双眼鏡を覗くと、体を寄せ合って、フラミンゴがぎっしり並んでいます。数羽だと優美な雰囲気のフラミンゴですが、数千羽、数万羽の集団となると、「クエッ、クエー」、「クエーッ」と呼びかう声もにぎやかで、圧倒されそうな迫力です。蜃気楼が立ち上り、フラミンゴの群れが白い帯のようにゆれる中、ふと、「ここはアフリカか?」という錯覚にとらわれます(まあ、本当に行ったことはないので、気分だけなんですけど)。


フランスにも田んぼが!

え、フランスにも田んぼが!?(カマルグの水田)

え、フランスにも田んぼが!?(カマルグの水田)

 カマルグで暮らしているのは、野生生物だけではありません。ここはまた、約7,400人の住民が生活する場でもあります。住民の半数以上は、農業を営んでいますが、これが、また、カマルグ独特の景観を創り上げてきました。
 その代表例が「水田」です。カマルグでは、湿地帯という自然条件を活かして、中世の昔から稲作が続けられてきました。日本では見慣れた風景ですが、欧州では、水を張った田んぼはとても珍しく、フランスではカマルグ特有のものとなっています。

 また、ところどころに広がる草原では、白馬や黒牛が放牧され、これもカマルグならではの風景となっています。白馬も黒牛も、厳しい自然の中で育まれてきた、カマルグ地域に固有の種が維持されています。


白馬は太古の昔からカマルグに生息していた種

白馬は太古の昔からカマルグに生息していた種


フラミンゴとの共生

[上]カマルグ地方自然公園のインフォメーションセンター[下]インフォメーションセンター内 カマルグの自然と地域の暮らしがテーマ

[上]カマルグ地方自然公園のインフォメーションセンター
[下]インフォメーションセンター内 カマルグの自然と地域の暮らしがテーマ

 カマルグがいくら広いとは言え、数万羽のフラミンゴと数千人の人間が共に暮らしているので、時々衝突もおこります。
 近年問題になっているのが、フラミンゴが田んぼを踏み荒らしてしまう現象です。オオフラミンゴは高さ1m以上もある大きな鳥なので、田んぼで餌を探して歩き回られると、稲の苗がつぶされて駄目になってしまうのだそうです。カカシを立ててみても、その周りしか効果がなく、さて困った。フラミンゴを駆除するわけにもいかず...。
 そこで、カマルグ地方自然公園とツール・ド・ヴァラ生物学研究所(カマルグにある民間の研究所)が協力して、1996年から「フラミンゴはどのような田んぼによく来るのか、どのような田んぼなら来ないのか」という研究を始めます。この研究により、フラミンゴの営巣地に近い田んぼ、面積の広い田んぼが狙われること、そして面白いことに、生垣や樹木に囲まれた田んぼは狙われにくいことが分かりました。
 実は、昔、カマルグの田んぼは、この地方特有の生垣(2mぐらいの茂みに、高さ10m〜30mぐらいの高木を混ぜた植えたもの)で小さく区切られていました。ところが、1980年代から、水田の区画整理、大規模化が進み、生垣が消えていきました。フラミンゴが田んぼに入ってくるようになったのも、ちょうどこの頃からでした。昔は分からなかったのですが、生垣には、フラミンゴと人間の棲み分けを促す、知恵が隠されていたようです。
 この研究成果を踏まえ、カマルグ地方自然公園では、生垣を復活させようというキャンペーンを行っています。「自然公園では、農家に樹木(生垣用)を無料で配布しています。維持費は農家の負担になりますが」とカマルグ自然公園のガエル・エミリさんが教えてくれました。キャンペーンに参加する農家も少しずつ増えているそうです【5】


旅の終わりに

湿地に降り立ったフラミンゴ(黒い羽は風切り羽)

湿地に降り立ったフラミンゴ(黒い羽は風切り羽)

 「湿原や野生生物の保全と、住民の暮らしの向上は両立できますか?」という質問に対して、カマルグで数十年研究を続けてきた、ツール・ド・ヴァラ生物学研究所のホフマン所長は、「自然保護と地域の発展は相容れないものではありません」と答えます。これまでの様々な経験を踏まえ、鍵を握るのは、科学者と湿原を利用する人々との協力関係ではないか とホフマン所長は指摘します。前に触れた、水田とフラミンゴの研究からは、科学と同時に、その地域にもともとあった暮らしの工夫、あるいは知恵というのでしょうか、そんなものも一つの鍵になるように思います。
 なお、人間の側から湿原や鳥に及ぼす影響を削減するため、有機農業などの研究も進められていて、その成果は、カマルグ自然公園から農家への補助政策に取り入れられています。
 夕方、ねぐらに向かうフラミンゴの一群を見ました。10羽ぐらいのフラミンゴが一列に並んで、空を横切っていきます。夕日に照らされ、紅色の羽を輝かせて飛ぶ姿は、ピンクフラミンゴの名のとおりです。大自然とカマルグらしい地域の暮らしが、いつまでもあるようにと祈って帰路につきました。


カマルグ湿地

  • 地方自然公園の設立年:1970年(面積約85,000ha)
  • 国立環境保全地区の指定年:1975年(面積約13,000ha) 
  • 地方自然公園内の住民人口:7,413人(2002年時点)

【1】地方自然公園
地方自然公園は、国と地方が協力して、すばらしい自然的、文化的遺産を持つ田園地域を守り、伝えていこうとするユニークな自然公園で、現在、フランス国内に40ヵ所ある。各地方自然公園は、それぞれの公園ごとに設置されている委員会(地方公共団体、環境保護団体、農業・漁業関係者、観光事業者、土地所有者、国の代表等が参加)によって管理される。
【2】カマルグ地方自然公園
カマルグ地方自然公園の面積は85,000ha。このうち、中心部分(約1万3000ヘクタール)は、1975年から国立自然保護区として保護されている。
【3】ラムサール条約登録湿地
ラムサール条約は、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地を保全する条約。1975年に発効。現在、国際的に重要な湿地として約1,300ヵ所が登録されている。
【4】フラミンゴ
カマルグに渡ってくるのは、オオフラミンゴ(ピンクフラミンゴとも言われる)という種類で、白い体に、桃色の長い足と羽(風切り羽は黒い)を持つ優雅な鳥。
【5】
万全を期すためには、威嚇装置なども併せて使う必要がある。

関連情報

  • カマルグ地方自然公園
  • カマルグ国立自然保護区
  • フランスの地方自然公園について
  • ラムサール条約事務局
  • Tour du Valat 生物学研究所(カマルグにある湿原研究所)

参考図書

  • Camargue nature regional park. 1986. Camargue.(英語)
  • Parc naturel régional de Camargue. 2003. Camargue et Environs.(仏語)
  • Parc naturel régional de Camargue. 2002. Le PARC NATUREL REGIONAL DE CAMARGUR ET SES OBJECTIFS.(仏語)
  • Parc natural régional de Camargue. 2002. LE RIZ EN CAMARGUE.(仏語) 
  • Réserve Naturalle Camargue. 2003. Reserve Naturelle CAMARGUE.(仏語)
  • 瀬田信哉「フランスにおける自然公園とグリーン・ツーリズム(後編)」国立公園 No.559
  • Tourenq C., Aulagnier S., Durieux L., Lek S., Mesleard F., Johnson A., Martin J.L.. 2001.
    “Identifying rice fields at risk from damage by the greater flamingo.”
    Journal of Applied Ecology 38(1) p170-179.(英語)
  • Tourenq C., Aulagnier S., Mesleard F., Durieux L., Johnson A., Gonzalez G., Lek S.. 1999.
    “Use of artificial neural networks for predicting rice crop damage by greater flamingos in the Camargue, France.”
    Ecological Modelling 120 p349-358.(英語)

(記事・写真:源氏田尚子)