No.032
Issued: 2002.08.29
コミュニティガーデン!?
今、「コミュニティガーデン」という活動が注目されています。みどりのまちづくりの手法として、また園芸セラピーや都会の空地の有効活用として、さらに環境問題を学ぶ場としても関心を集めています。メディアに取り上げられることも増え、新聞各誌で記事として取り上げられたり、コミュニティガーデンの専門書なども出版されています。
コミュニティガーデンってなに!?
コミュニティガーデンを直訳すると「地域の庭」、つまり公に使うことのできる庭=公園ともいえます。しかし、普通の公園をあえてコミュニティガーデンと呼ぶことは、あまり一般的ではありません。コミュニティガーデンとは、地域住民が主体となって、地域のために場所の選定から造成、維持管理までのすべて過程を自主的な活動によって支えている『緑の空間』やその活動そのものをさす概念として、特に導入されてきたという経緯があるようです。
日本で、コミュニティガーデン活動がまちづくりの側面から注目されている大きな要因の一つに、「主体的で自立した活動」であることがあげらます。活動主体となる地域住民は、活動の中でガーデニングの技術や植物に関する知識などを学び、また活動を通してあらたなコミュニティも生まれています。さらに活動に関わらない人にとっても、地域に緑が増え、憩いの空間が生み出されるというメリットが生じます。行政にとっても、コストや人的負担の削減につながることから、コミュニティガーデンを支援する動きも見られています。
アメリカで発祥したコミュニティガーデン
1970年代に、フィラデルフィア、サンフランシスコ、ニューヨークを中心にコミュニティガーデンは、はじまったとされています。そのひとつ、ニューヨークにおけるコミュニティガーデン活動は、一人の女性の働きかけが地域を蘇らせる運動へと発展していきました。
1970年ごろ、アメリカ全土が不景気に落ち込んでいました。ニューヨークも例外ではなく、街自体が荒廃していました。空き地にはゴミが不法投棄され、積み重なったゴミの山に隠れて、薬物の売買が行われるなど空き地が犯罪の巣窟となり、治安が悪化していました。また、投げ捨てられた生ゴミなどがネズミやゴキブリを呼び寄せ、衛生的にも街の環境を悪化させていました。
1973年にその悪循環の根源でもある空き地を甦らせるため、リズ・クリスティーという一人の女性が立ち上がりました。後にコミュニティガーデンを支援する組織となるグリーンゲリラ(Green Guerillas)という団体に呼びかけ、荒れ果てた土地を整地するために瓦礫やゴミを片付け、フェンスを張り、花や木を植え荒れ果てた土地を緑あふれるガーデンに再生しました。これがコミュニティガーデンと呼ばれ、治安や衛生状態は改善され、打ち捨てられていた空き地が公園としての役割を担い、それらの活動によってコミュニティが再生されていきました。これらの活動は、行政がトップダウン的に進めたものではなく、地域住民が自らの地域の問題を自主的に解決するようになったはじまりでもあります。
ニューヨークにおけるコミュニティガーデン発祥の地は、その後「リズ・クリスティー・ガーデン」と名づけられ、今でも地域に役立ち、多くの人が訪れる緑の空間として活躍しています。
ニューヨーク市も後追いするように「グリーンサム制度」というコミュニティガーデン活動の支援のための制度を創設しています。この制度により、改善したいと考える空き地がある場合や、コミュニティガーデンが必要とされ、かつ適地となる空き地が見つかった場合には、市との交渉を通じて、その土地を維持管理することのできる地域共同体またはNPOをつくることを条件に、月額1ドルという安価で地域住民が土地を借り受けることができるようになりました。ニューヨーク市はグリーンサム制度によって、園芸資材や物資の提供、園芸の技術指導なども行い、コミュニティガーデン活動を支援しています。NPOや行政、企業からの支援を受けて、コミュニティガーデン活動は、ニューヨーク市以外の全米に広がり、現在数千ヶ所におよぶまで数を増やしてきました。
地域の庭とはいえ、コミュニティガーデンはいつでも誰でもが入れるわけではありません。招かざる訪問者(窃盗、薬の売人、浮浪者等)の侵入を防ぐため、多くのコミュニティガーデンには、柵や棘のついた植物で囲われ、入り口には鍵が掛かっています。ただし、グリーンサム制度で支援を受けているコミュニティガーデンでは、運用している地域共同体またはNPOが鍵を管理し、一週間に数時間はすべての人に開放することが義務付けられています。多くのコミュニティガーデンは、週末や平日の昼に開放し、夜は閉鎖しています。
アメリカでは30年の歴史の間に、多くのコミュニティガーデンが作られ、その歴史の中で多様化し、様々な場所につくられてきました。ビルとビルに囲まれた猫の額ほどの小さな土地や、反対に郊外の広大な土地でもコミュニティガーデンの活動が行われたりもしています。 コミュニティガーデンの中身も様々です。日本の市民農園のように区分けがあり、 個々に農作物(有機栽培がほとんど)を育て、収穫の時期にはコミュニティガーデンごとに収穫祭などを行って地域で分かち合うもの、あるいは地域の人たちが力をあわせて育てた花や木々でいっぱいにして、地域住民の憩いの場として使用されるもの、また特に芸術家の集まるニューヨーク市では、若い芸術家が作ったオブジェが乱雑に並べられたり、長さが様々な板をつなぎ合わせてつくった地上15mにもなるやぐらが設置されるなど、芸術活動を主にしたコミュニティガーデンもあります。
コミュニティガーデンの目的も様々です。学校に所属しているコミュニティガーデンは、子どもたちの学習の場として使われるスクールガーデンであり、軽犯罪を起こしてしまった青少年たちの社会更正の場として使用されるもの、また雇用の場や食糧としての農作物をつくるための場、あるいは園芸セラピーを行う場や芸術活動を行う場としてもコミュニティガーデンは使われています。
日本のコミュニティガーデン
日本でも、これまでコミュニティガーデンと呼ばれる幾つかの試みが行われてきました。多くは行政主体で、ニューヨークのように自主的にコミュニティガーデンを作り出す活動はあまり見られません。
ちょうど1年半前に、神奈川県川崎市宮前区で地域住民が立ち上がってコミュニティガーデンづくりに取り組みはじめた活動は、そうした中で数少ない地域住民による自主的・主体的な動きとして注目を集めています。
2000年6月に結成された「宮前・コミュニティガーデン実行委員会」では、神奈川県川崎市宮前区宮崎3丁目にある「都市計画道路予定地」を舞台にコミュニティガーデン活動に取り組んでいます。面積は53m×12mの約200坪で、小高い丘の北斜面の眺望の良い、閑静な住宅街に位置しています。名称は隣接する小学校より公募し、「きせつのこみち グリーンガーデン」と命名されて、地域で親しまれています。
宮前・コミュニティガーデン実行委員会は、川崎市宮前区で「花いっぱい運動」を中心に活動を行っていた「宮前ガーデニング倶楽部」の会員を中心に構成されています。宮前ガーデニング倶楽部は、宮前区内の東急田園都市線沿線地域において、管理が行き届かずに荒れている花壇や公園を見つけると所有者である区や企業に交渉し維持管理を引き受け、花壇や公園を蘇らせる活動を行っていました。
宮前ガーデニング倶楽部の代表者でもある石川和子さんは活動の目的を、「緑を増やしてまちをきれいにするだけでなく、緑や花を植える活動を通して、コミュニティをあたらしく生み出すことです。」と言います。
活動を通じて広がった地域住民のニーズは、花壇だけではなく、より大きな場所へと移っていきました。そして、長年放置され不法投棄や痴漢犯罪などが頻発し、地域でも疎遠されていた、現在の都市計画道路予定地が、コミュイニティガーデン活動の舞台として白羽の矢が当たったのでした。
川崎市の所有物であり、公有地でもある都市計画道路予定地を利用できるようになるまでには、多くの経緯があったそうです。
石川さんは当時を振り返り、
「都市計画道路予定地だから、川崎市に使用許可の交渉を行ったのよ。川崎市との話し合いから今後のことを考えて、私達が直接川崎市から土地を借りるのじゃなく、川崎市から宮前区長がその土地を借りて、宮前区長からその土地を実行委員会が借りることで、活動を始めるようにして今に至っているのよ。でも、ここまで辿り着くことができたのは、私達の行動力とパワーに行政が圧倒されたことと宮前ガーデニング倶楽部の活動が区長や区役所との信頼関係を築いていたことがあったからよ」と、話しています。
放置され荒れ放題だったこの土地で、瓦礫やゴミを片付け、周辺のマンション建設の際に出た新鮮な残土を運び入れて土壌改良を行った後、地域企業や行政から提供を受けた資材や廃材、間伐材等を使って花壇をつくって、いろいろな花や緑を植えてコミュニティガーデンをつくってきました。週一回、土曜日の午後2時(夏季は3時)からを作業日として、毎回15名程度の人が集まり、1年半をかけて90%以上の整備を完了させ、花であふれる緑の空間となっています。
コミュニティガーデンで作業する人に話を聞くと、「私は花のことはなんにもわかりません。ここにはおしゃべりにきているだけです」という方や、「ここに来なければ絶対に知り合いにならなかっただろう人とも知り合いになれたよ」と、新たなコミュニティが生み出された実感を強く持っているような話も出ています。
子どもたちも、それまで使ったこともなかった鍬やスコップを、実際に穴を掘る作業を通じて使い方に慣れたり、敷地内のバリアーフリー化の作業を通じて福祉の世界に触れるなど、老若男女を問わずコミュニティガーデンは様々な知識や知恵を吸収できる場にもなっています。
コミュニティの再生を求めて
コミュニティガーデンはアメリカを中心に多様化しながら発展しましたが、日本では取り組みの途についたばかりです。身の回りに緑があふれ、その中でいきいきとしたコミュニティが形成されている、そんな満ち足りた地域では、コミュニティガーデンの活動は必要とされないかもしれません。
逆にいうと、少なからずコミュニティガーデンの必要性を感じるような地域では、満ち足りない何かがあるのかもしれません。コミュニティガーデンへの取り組みは、そのような満ち足りない何かを埋めようとはじまったものともいえます。
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(記事:安藤洋人、写真提供:越川秀治、安藤洋人)
*ニューヨークの写真は、「コミュニティガーデン」の著者でもある越川秀治氏に協力していただきました。
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