No.030
Issued: 2002.08.01
パソコンもウォークマンも土に還る?生分解性プラスチック製品続々登場
土中で微生物により水と二酸化炭素に分解される―。そんな性質を持つ生分解性プラスチックが身近な製品に採用される例が増えてきました。原料価格の低下や技術進歩により、電気製品や食品の容器包装、衣料品など多くの分野で新製品が登場しています。
生分解性プラスチック製品の種類が増加
富士通では2004年から、ノート型パソコンの本体に生分解性プラスチックを採用することを決めました。ソニーでは、本体に生分解性プラスチックを採用したヘッドホンステレオ「ウォークマン」を今秋発売する予定。カネボウグループの合繊会社、カネボウ合繊では、生分解性繊維を使った衣料品ブランド「カネボウ環境倶楽部」を立ち上げ、Tシャツやボロシャツ、下着、タオルなどの販売をはじめました。
これまで、窓枠付き封筒の窓枠部分や包装フィルムなど、一部製品に限られていた生分解性プラスチックですが、今年に入り、こうした身近な製品への採用が増えてきました。
生分解性プラスチックは、トウモロコシなど植物のでんぷん質を化学合成して作られます。石油を原料としたプラスチックの代わりに使えば、石油資源を節約できるほか、廃棄後は土中などで微生物により水と二酸化炭素に分解されます。焼却してもダイオキシンが発生しないという利点もあります。
原料価格の低下と技術進歩で採用拡大
生分解性プラスチック製品の種類が増えてきた理由のひとつは、原料価格の低下です。生分解性プラスチックの原料となるのは、トウモロコシのでんぷんなどから作るポリ乳酸。ポリ乳酸供給の最大手である米化学メーカー、カーギル・ダウでは、2001年末に年間14万トンの設備能力を持つプラントを新設し、2002年4月から本格生産を開始しました。これにより、原料供給量が大幅に増加。原料価格も低下し、従来は通常のプラスチック樹脂の10倍以上だったものが、3〜4倍と価格差を縮めました。
トヨタ自動車でも、インドネシア・スマトラ島で生分解性プラスチック原料生産のためサツマイモ栽培を進めており、今後、原料供給メーカーが増える可能性もあります。
技術改良により強度が増したことも、採用を後押ししました。生分解性プラスチックには、熱や衝撃に弱いという難点があります。しかし、添加剤や成型法などの研究・開発が進み、強度が増加。電気製品の外装に使えるほどになりました。
ソニーでは、ウォークマンの外装材に使う樹脂の9割以上に生分解性プラスチックを採用する予定です。富士通のノート型パソコンでは、外装材に全面的に使用するほか、他の製品への採用も検討しています。
食品リサイクル分野でも生分解性プラに期待
食品の容器包装分野でも、生分解性プラスチックは注目を集めています。2001年5月の食品リサイクル法施行により、生ごみの大口排出者には、食品廃棄物を肥料にリサイクルするなどして、2006年度には食品廃棄物の排出量を20%以上削減することが義務付けられました。このため、スーパーやコンビニなどでは、賞味期限切れの弁当や惣菜のたい肥化などに力を入れていますが、ネックになるのがプラスチック容器の分別です。
そこで、東セロでは、生分解性フィルムでラミネートされた紙トレーを開発しました。生ごみといっしょにたい肥化装置に入れると、3〜4週間で分解されて、1ミリメートル以下の粒状になるといいます。現在同社では、トレーとあわせて販売する生分解性ラップフィルムの開発も進めています。
政府でも生分解性プラスチックの利用を促進する動きがあります。農水省では、国内のプラスチック市場に占める生分解性プラスチックの割合を、現在の0.1%以下から2015年に10%とする目標を設定し、普及を後押しします。具体的には、食品リサイクル法を改正し、生分解性容器・包装を使っていれば、企業に課された食品廃棄物の削減量に加算できるようにする方針です。
業界団体では表示制度を導入
業界団体の生分解性プラスチック研究会【1】では、生分解性プラスチックの普及を促進するために、「グリーンプラ識別表示制度」の採用を呼びかけています。同制度は、安全性と生分解性が確認された化合物だけで作られた生分解性プラスチックを「グリーンプラ製品」に認定し、統一のシンボルマークを付けて他のプラスチック製品と識別するための制度。2002年5月末現在、すでに250点以上の製品が認定されています。
2002年7月には、北海道富良野市など5市町村で生ごみ用指定袋にグリーンプラ認定製品が採用されました。採用を決めた富良野地区環境衛生組合では、グリーンプラ認定製品のごみ袋を、8月に開始する生ごみの分別収集に活用します。同組合では、生ごみなどのたい肥化を進め、リサイクルや農業振興を図ることを計画しています。
石油資源の節約や廃棄物削減など、多くの面で期待を集める生分解性プラスチック。市場拡大で原料価格が一層低下すれば、今後、より多くの身近な製品で採用が進むはずです。
- 【1】生分解性プラスチック研究会 Biodegradable Plastics Society(BPS)
- 生分解性プラスチックに関する技術・評価方法の確立と実用化の促進、社会的貢献の促進等を目的に民間の任意団体として1989年10月に設立され、調査・研究、開発、内外関係機関との交流、広報・堤言などの事業を行なっている。
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(記事:土屋晴子)
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