No.027
Issued: 2002.06.20
W杯の環境配慮日本はボトムアップ・韓国はトップダウンで取り組みが進む
開会後、各地で盛り上がりを見せているワールドカップ(W杯)。国内では、華々しい舞台裏で、各開催自治体が大会での環境配慮に努めています。民間企業や観戦者によるユニークな取り組みもあります。一方の韓国では、今回のW杯を「グリーン・ワールドカップ」と位置付け、大会に関する環境配慮のガイドラインを設定。国をあげて取り組みを進めています。
韓国では大会運営についての環境配慮指針を策定
「会場で販売する弁当類には、何度も繰り返し使えるリユース(再使用)容器を使用し、のり巻きなど残飯が少ないメニューを提供すること」「ガイドブックなどの印刷物には最大限再生紙を使うこと。リサイクルしやすいよう、合成樹脂によるコーティングは避け、使用する色の数も減らすこと」―。
W杯韓国組織委員会が策定した「W杯を持続可能な方法で運営するための指針」には、大会運営に関する環境配慮事項がこと細かに定められています。韓国政府は、「W杯は韓国が環境先進国として飛躍するチャンス」として、今回のW杯を「グリーン・ワールドカップ」と位置付け、開催自治体などに同指針に基づく取り組みを呼びかけてきました。
同指針では、(1)環境に配慮したスタジアム建設、(2)開催都市の環境改善、(3)環境に配慮した大会運営、(4)市民参加による環境配慮の推進―という4つの基本方針を設定。具体的には、大会で使用する物品のグリーン購入や低公害車の利用、ごみの削減やリサイクルについて冒頭のような細かな基準を定めています(表)。
また、準備・実施・事後管理など全ての過程で環境負荷を測定するよう規定し、大気汚染など特に重視すべき環境負荷については、数値目標を立てて改善を図るよう定めています。
国内スタジアムでは太陽光発電装置を導入したり雨水を有効利用
「W杯を機に環境と共生できる都市を構築しよう」と意気込む韓国に対し、日本政府は、「環境配慮の取り組みは各開催自治体に任せている」(環境省)とやや消極的ですが、自治体や民間レベルの取り組みでは、日本も負けていません。
たとえば、試合終了後、スタジアムでごみ拾いをするボランティア。「日本人サポーターのマナーのよさには脱帽するよ」。イギリスから試合観戦に来日したブライアン・スイフトさんは、驚きを隠しません。
試合開催地の自治体も、それぞれに工夫しています。その代表例が静岡県。試合会場となる静岡スタジアム・愛称「エコパ」は、その名の通りエコロジーの工夫を取り入れて設計されました。スタジアムの屋根に降った雨水を地下の貯水槽にためてろ過し、芝生への散水やトイレの洗浄水に使っています。トイレには節水型便器も設置しました。スタジアムに隣接した敷地には池を作り、トンボなどの野生生物が生息できる空間(ビオトープ)を設けました。
スタジアムの環境配慮は、この他にもあります。埼玉県では、施設の電力の一部に太陽光発電を利用。横浜市では、ごみ焼却施設の排熱で発電した電力で、施設の電力の約3分の1をまかなっています。
生分解性の雨具など環境配慮型製品を採用
この他にも、横浜市がメディア用シャトルバスに低公害車を使用しているほか、宮城県をはじめ多くの自治体で、ガイドブックに再生紙を使ったり、ペットボトルの再生材を使ったごみ袋を使用するなど、環境配慮型製品を積極的に採用しています。
民間団体からの環境配慮型製品使用の提案もありました。ユニチカ株式会社では、生分解性フィルムでできた雨具や生分解性繊維のタオルをW杯日本組織委員会へ納入しました。原料にトウモロコシの実に含まれるデンプンを使っているため、土中で水と二酸化炭素に分解される上、燃やしても有害なガスが発生しない製品です。
これらの製品の使用は、生分解性プラスチック研究会(東京都中央区)が同委員会に提案し、採用されたもの。ユニチカでは、雨具とタオル、専用ケースを国内会場向けに1万セット納入しました。W杯日本組織委員会の招待客などに配布されます。
「自転車発電でW杯を観戦しよう」―。国内では、こんなユニークな試みも行われました。6月4日に開催された日本―ベルギー戦では、都内のJR新橋駅前に、自転車発電装置と14インチのテレビが設置されました。有志が自転車をこいで発電し、その電力でテレビ中継を見ようというのです。自転車のこぎ手が代わると画面は一時消えますが、周りの観客からは、こぎ手に対して大きな拍手が湧き起こりました。
「テレビに使われるエネルギーの大きさを知ってもらう絶好のチャンスだと思った」。企画者の一人、NPO(非営利団体)・キッズプロジェクト(東京都新宿区)の川手光春さんは、この試みのねらいを話します。
トップダウン、ボトムアップ。手法は違えど、日韓両主催国でW杯の環境配慮が進められたことは注目されます。今後のスポーツイベントでも、「環境」ははずせないキーワードとなりそうです。
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(記事:関盛久、土屋晴子)
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