No.022
Issued: 2002.04.11
英国環境教育事情NPOが企業の支援を受けて学校で無料授業
4月から小中高校で始まった「総合的な学習の時間」は、環境、情報、福祉などのテーマについて、生徒の興味や地域の実情に合わせて授業を組み立てる、新しいカリキュラム。学校と地域住民やNPO(非営利団体)との連携が期待されています。その参考となるのが、イギリスの事例。20年以上の実績を持つ環境教育専門のNPOが出張授業を行い、人気を呼んでいます。
学校で年300回の出張授業
「地球上からいなくなってしまいそうな動物を知ってる?」「知ってるよ!ヤマネでしょ!」「どうして少なくなってしまったのかな?」「うーん、食べ物が減ったのかな。それともすむところがなくなったのかな」―。
イギリス南西部、サリー州の公立小学校。教壇に立つのは、環境教育NPO「ヤング・ピーポーズ・トラスト・フォー・エンバイロメント・アンド・ネイチャー・コンサベーション(青年による環境・自然保護トラスト)」(YPTE)(本部:サリー州ギルフォード)のサリー・オリバーさん。
YPTEは、子ども向け環境教育を専門に行うNPO。20年以上に渡る活動実績を持ち、毎年約100校で300回にのぼる授業を行っています。
YPTEの主な活動は、学校などに出向いて行う環境の出張授業。授業内容は、生態系や自然保護、持続可能な社会など環境分野全般に渡ります。300km圏内であれば、幼稚園から高校までどんな学校にも出向きます。
「出張授業はとても人気があり、すぐに予約がいっぱいになってしまうので、学校には余裕をみて申し込んでもらうようお願いしている」とオリバーさんは言います。
授業の内容や回数は、学校側の希望に応じて決定。授業料は無料です。授業回数は、1学期に1度のところもあれば、1学期に3〜4回、1年に1度など、学校側の要望によりさまざまです。
質問を投げかけて生徒の興味を引く
YPTEの授業が人気を呼んでいる一番の理由は、授業内容の面白さ。出張授業のほとんどは教室内での講義ですが、生徒の興味をうまく引き出すことに定評があります。
「コツは、質問を投げかけて子どもたちに考えさせること」とオリバーさんは言います。「一方的な講義では、教える側も聞く側もつまらない。でも自分で考えると印象に残るし、理解が深まる。その上、考える訓練にもなる」。
特に人気のある授業は、「校庭の生き物」という環境問題への導入の授業。たくさんの写真を用いて、人工的な校庭にも昆虫や小動物、鳥など多くの生物が生息していることを教えます。どんな生き物がいるのか、それぞれの生き物はどんな環境を好むのか、昆虫や小動物はどうして重要なのかなどを、子どもたちに質問しながら考えていきます。
授業後は、ほとんどの子どもたちが、学校や家の庭で自然を観察したり野鳥にえさをやったりするようになるといいます。「まずは、自然や環境に興味を持つきっかけを与えるのが重要」。オリバーさんは、導入授業のねらいをこう説明します。
企業の寄付が活動を支える
YPTEが学校から引っ張りだこのもうひとつの理由は、無料で授業をすること。「外部講師のために多くの予算を持っている学校は多くない」(オリバーさん)ため、無料の出張講座は人気なのです。
とはいえ、スタッフの人件費、教材費、旅費など、出張授業には当然費用がかかります。無料授業が可能なのは、企業がYPTEを資金面で支えているからです。大手銀行系クレジットカード会社のバークレーカードや大手スーパーのマークスアンドスペンサーをはじめとする多くの企業がYPTEに寄付し、事業や団体運営を支援してきました。
当初は小規模に活動を始めたYPTEですが、地域の学校などで実績を積み、活動を拡大。全国の学校向けに無料の会員制度を設けて、会員への無料情報提供サービスを始めたところ、会員数は2500にまで増えました。こうしたYPTEの実績を見て、多くの企業が支援を申し出てきたのです。
全国に活動を展開
YPTEは、世界自然保護基金(WWF)の設立者でもあるシリル・リトルウッド氏が1981年に設立。学校での出張授業の他にも、野外講座の開催や各種環境賞の主催など多くの活動を行っています。
スタッフは皆、環境教育の専門家。設立者のリトルウッド氏は、WWF在職時も教育部門で活躍し、自ら学校に出向いて子どもたちに話す機会を大切にしていました。オリバーさんは元教師。英国内外で12年間生物と科学を教えた後、NPO職員に転身しました。
「NPOの授業は、教員にとっても刺激になっている」とオリバーさんは言います。イギリスでは、環境は地理や理科の一単元として教えられています。教員は環境の専門家ではないため、知識や経験の豊富なNPOスタッフの授業からノウハウを学ぶことができるからです。
学校での出張授業が好評なので、YPTEは昨年イギリス南部に支部を開設して周辺の学校を対象にサービスを開始。2002年中には北部にも支部を設け、活動を全国展開していく予定です。
学校がNPOを受け入れ、企業が支援する―。日本でも総合的な学習の時間を通して、今後こうした事例が増えていくでしょうか。
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(記事:土屋晴子)
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