一般財団法人環境イノベーション情報機構

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.021

Issued: 2002.03.28

もうイヤッ!花粉症?その裏側にある環境問題?

目次
花粉症の現状
花粉症が起こる環境的要因
人工林管理をしないと花粉症は今後もっと増える?
国や自治体の花粉症への対策

 この時期、巷では、マスクを付けている人、ゴーグルを付けている人、鼻にスプレーをあてている人をよく見かけます。この人たちを悩ませているのが「花粉症」。日本では最初の患者が発見されてからまだ40年ほどしかたっていないのに、患者数は急増しているアレルギー性の病気です。直接的な原因はご存知の通り、この季節に飛散するスギなどの「花粉」。なぜこの花粉が現代の国民病とも言える「花粉症」を引き起こし、患者は増加の一途を辿っているのでしょうか。

花粉症の現状

<10人に1人が花粉症>

 花粉症は、1961年アメリカからの帰化種ブタクサによるものが日本で初めて発見され、2年後の1963年スギ花粉症が日光で初めて報告されました。
 当時は稀な病気とされていましたが、それから約40年、患者は増加の一途をたどり、現在に至っては、スギ花粉症患者は約1,300万人ともいわれています。この数字から計算すると、日本国民の約10人に1人が花粉症ということになります。

<都会ほど花粉症になりやすい?>

 科学技術振興調整費の生活者ニーズ対応研究によると、一般住民のスギ花粉症有病率が、山村よりも都市の方が高いというデータも出ています。東京都が1996年度に行った調査では、なんと5人に1人が花粉症にかかっているという結果が出ました【1】

<日本経済にも影響が!?>

 これだけの人々が春先にくしゃみ、鼻水に常時悩まされるとすれば、日本経済などに与える影響も大きいと考えられます。科学技術振興調整費の生活者ニーズ対応研究によると、花粉症の治療を受けていない人の労働損失は年間約100億円にのぼると推察されています。
 花粉症は、まさに、現在の日本の経済にも影響を与えるほど、猛威を振るっているのです。


花粉症が起こる環境的要因

<大気汚染による要因>

 花粉症を発症する原因のひとつとして、スギ花粉だけでなく、近年は大気汚染が関与しているのではないかという報告がされています。
 トラックなどから大気中に排出されるディーゼル排気ガスを例に取ると、排気ガスに含まれる微粒子(DEP)【2】がスギに対する抗体の産生を増加させ(アジュバント作用【3】)、スギ花粉に対して徐々に人体が過敏になっていくことが近年の報告で多く指摘されています。
 また、大気汚染物質、二酸化窒素(NO2)などに関しても、ディーゼル排気ガスと同じような作用があるとの報告があり、そのほか、タバコの煙りや換気の悪い部屋などの室内大気汚染も花粉症の悪化に関係するという指摘もあります。
 しかし一方では、花粉症と大気汚染との関係を否定する研究調査結果も出ており、大気汚染が花粉症につながることについては未だ不明な点があります。

<森林管理による要因>

 花粉症の直接的原因は花粉そのもの。つまり花粉症が急増した理由の一つはスギ花粉が増加したことです。
 1960年代、戦後の経済復興の中、林業が盛んになり、それに合わせてスギ植林も盛んに行われ、人工林も増えていきました。しかしその後の経済成長に伴う国内需要に国産材の供給がついていけず、バブル期の円高から海外の安価な木材が輸入されるようになりました。その上、賃金の高騰や労働力流出などが重なり、林業は衰退し、人工林も枝打ちや間伐などの手入れ【4】がされないところが多くなりました。この手入れがされなくなった人工林のスギの多くは樹齢30〜40年。
 一方、スギ花粉は、通常30年生程度以上のスギから生産されるといわれています。
 花粉飛散の適齢期に達した30年生のスギ林が、手入れ放棄されて荒廃したことで、よりいっそう盛んに花粉を飛ばすようになったのです。
 現在、日本の国土面積の約7割(2,515万ha)が森林ですが、そのうちの約半分(1,036万ha)は人工林が占めています。
 今後の花粉症の行方は、まさにこの人工林管理が握っているといっても過言ではありません。


人工林管理をしないと花粉症は今後もっと増える?

表1 森林の伐採傾向三つのケース ケース1/林業が停滞し伐採(主伐)が全く行われない。 ケース2/一定の林齢以上になれば必ず伐採される。 ケース3/伐採確率が1970年代と同じ場合。

表1 森林の伐採傾向三つのケース
ケース1/林業が停滞し伐採(主伐)が全く行われない。
ケース2/一定の林齢以上になれば必ず伐採される。
ケース3/伐採確率が1970年代と同じ場合。


 人工林の管理が今後ますます重要になってくることは上記でも述べましたが、どのように森を管理をしていけばよいのでしょうか。
 茨城の森林総合研究所では、将来の森林の伐採傾向を示した三つのケースに分けて、関東地方のスギ・ヒノキ林の20年後の分布予測を行い、森林管理と花粉飛散の関係について明らかにしている。

 関東地方の将来の花粉発生源面積は、ケース別に表1のように推定され、スギでは、林業活動の低迷から伐採が停止すると仮定したケース1の場合、2015年の発生源の総面積は1995年に比べ約25%増加すると推定されています【5】。つまりこのまま人工林を放置しておくと花粉症の患者は増えるばかりということになります。
 しかし、一定の林齢【6】以上になれば必ず伐採収穫されるケース2では花粉発生源の総面積が約80%減少すると予測されています。そして、伐採される林が確率的に決まるケース3では、総面積で約20%減少すると推定されました。
 この結果から見て、適当な林齢で主伐【7】が行われ、若い林と交代していけるような状態、林業がもっと活力のある状態になれば、今後スギ花粉量は減少し、花粉症も減少できるかもしれません。


国や自治体の花粉症への対策

 国や自治体もこの猛威を振るう花粉症について手をこまねいているだけではありません。現在いろいろな研究・対策が各方面でとられています。

<花粉の少ないスギ品種の普及>

 林野庁では現在、花粉の少ないスギ品種を普及させていくことに力を入れているほか、花粉に含まれるアレルギーのもとになる物質の量の少ないスギ品種の開発どなに取り組んでいます【8】

<雄花着花量の多い木の間伐>

 また、山を育てる事業の一環として、間伐などを実行する場合には、雄花の多く着いているものを優先するように森林所有者の方々に協力を呼びかけています。

<雄花の96%が減少!>

 東京都林業試験場は昨年、薬剤を直接、幹に注入するだけで、花粉を作る雄花を96%減少させる技術を開発したと発表しました。その薬品とはジャガイモの芽を抑えるのに一般的に使われる「マレイン酸水溶液」。
 まだ実験の段階だそうですが、これが実用化すれば、花粉症対策に絶大なる効果がみられるでしょう。

<各省を挙げての対策連携プロジェクト>

 国も花粉症に対して、連携プロジェクトを発足させました【9】
 「免疫・アレルギーに関する研究に係る連携プロジェクト」は文部科学省、環境省、林野庁、厚生労働省の4省が、花粉症の解明や治療法の開発、スギ花粉の量の減少、飛散状況の調査などについての研究成果や情報を交換するなどして、互いに協力しながら花粉症の対策につとめています。


【1】環境省・花粉症保健指導マニュアル/東京都の事例
【2】ディーゼル排気微粒子(DEP)
ディーゼルエンジン内の不完全燃焼が原因で発生する直径2ミクロン以下の微粒子をいう。DEPには発癌物質が含まれ、ぜんそくや花粉症等のアレルギー性疾患を引き起こす原因物質として疑われている。直径が小さいため、気管の奥まで入りやすい。
【3】アジュバント作用
アジュバント(adjuvant)とは、元来「助けとなる/補助する」という意味の英単語。
免疫学で用いられる「アジュバント作用」は、抗原(ここではスギ花粉)と混合または組み合わされることで抗体産生の増大や免疫応答の増強を起こす物質(ここではDEP)の総称。つまり、スギ花粉だけを吸い込むよりも、スギ花粉とDEPがいっしょに吸い込む方が花粉症の症状が出やすいということになる。
【4】枝打ち、間伐
枝打ち、間伐などの森の手入れは、健全な森林を育成するために大切な作業となる。手入れの放棄された森林は、うっそうと暗く、病害虫や風雪害の被害を受けやすくなる他、下草も生えないため地表面の土が流されて地力の低下や、下流の土砂災害のもとにもつながる危険性がある。また、「節」のない木材をつくるためには、こまめな枝打ちが必要となる。
【5】関東地方におけるスギ・ヒノキ花粉発生源分布の把握とその推移予測
http://ss.ffpri.affrc.go.jp/shoho/n146-20/146-4.htm
【6】林齢
植林等更新初年度を1年生とし、以後の経過した年数を」林齢」という。
【7】主伐
一定の林齢に生育した林木を、用材等で販売するために行う伐採のこと。
【8】林野庁:スギ花粉発生抑制対策推進方針
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/suishin.html
【9】免疫・アレルギーに関する研究に係る連携プロジェクト

本稿では花粉症の原因のひとつとして人間がもたらした「大気汚染」と「荒廃林の増加」を取り上げました。
もし、花粉症がこのように人間の環境開発により招いた人災なら、それを解決するのも人間の手にかかっているということなのかもしれません。

(記事:田之下 雅之)