一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.013

Issued: 2001.11.22

進む企業とNPOのパートナーシップ

目次
どんな取り組みが行われている?
パートナーシップはなぜさかんになった?
企業にとってパートナーシップの利点は?
NPOにとってパートナーシップの利点は?
企業とNPOの関係は今後どうなる?

 NPO(非政府組織)と連携して環境保全活動を進める企業が増えています。共同で事業を行ったり、製品開発にNPOのノウハウを生かすなど、さまざまな形で取り組みが行われています。なぜ、こうした動きがさかんになってきたのでしょうか。企業・NPOの双方にとって、パートナーシップ(連携)にはどのような利点があるのでしょうか―。

どんな取り組みが行われている?

地球環境パートナーシッププラザの浜本由里子さんは、「今後は企業とNPOのパートナーシップは当たり前のことになるだろう」と予測します。

地球環境パートナーシッププラザの浜本由里子さんは、「今後は企業とNPOのパートナーシップは当たり前のことになるだろう」と予測します。

 「NPOとパートナーシップ事業を行いたいのですが、参考となる事例を紹介してもらえませんか」―。地球環境パートナーシッププラザ【1】(東京都渋谷区)の浜本由里子さん(右の写真)のもとには、企業からこうした問い合わせが寄せられています。
 地球環境パートナーシッププラザは、96年に環境庁(当時)と国連大学が共同で設立。企業・行政・市民のパートナーシップを促進するための情報や場の提供などを行っています。「企業とNPOが同じテーブルにつくことが新鮮だった時代は、もう終わり。最近では、一歩踏み込んで、共同で事業を行う例が増えています」と浜本さんは言います。

 それでは、すでに実施されている取り組みには、どんなものがあるでしょうか。
 たとえば東京電力では、自然エネルギー推進市民フォーラム【2】(東京都台東区)が一般家庭に太陽光発電装置を普及する事業を支援しました。東京電力が自然エネルギー推進市民フォーラムに寄付をし、同フォーラムはこれを活用して、太陽光発電装置を設置する家庭に助成を行いました。さらに、助成先の発電データを計測し、東京電力の太陽光発電普及策に生かします。
 製品開発に、NPOのノウハウを生かす企業もあります。たとえば東芝では、スウェーデンで提唱され世界的な広がりを見せている環境教育団体「ナチュラル・ステップ・ジャパン」【3】(東京都千代田区)の提示する持続可能な社会のための原則を取り入れ、製品開発を試みています。開発担当者を対象にナチュラル・ステップ・ジャパンがセミナーを実施して持続可能な社会のための原則を理解してもらい、この原則に基づき試作品を制作しました。現在のところ商品化の予定はありませんが、東芝デザインセンターでは、「既存の製品をモデルチェンジする際などに、少しずつナチュラル・ステップの原則を取り入れていきたい」(デザイン第四担当の伏屋信宏主務)と考えています。


パートナーシップはなぜさかんになった?

ア・シード・ジャパンの提案する環境対策ボランティア参加型のイベント(写真提供:A SEED JAPAN)

ア・シード・ジャパンの提案する環境対策ボランティア参加型のイベント
(写真提供:A SEED JAPAN)

 この他にも、NECが自社の環境報告書作り【4】をNPO法人 環境文明21【5】(川崎市中原区)と共同で行ったり、国際青年環境NGOであるA SEED JAPAN(ア・シード・ジャパン)【6】(東京都新宿区)がイベントから出るごみ減量活動【7】を主催者と共同で行うなど、パートナーシップの事例は数多くあります。
 それでは、企業がNPOとのパートナーシップに積極的になってきたのは、なぜでしょうか。環境パートナーシッププラザの浜本さんは、その理由を「企業や行政、NPOなど、ひとつのセクターだけでは、環境などの問題は解決できないことが明らかになってきたからではないでしょうか」と分析します。
 浜本さんはまた、「過去10年近くに渡る、企業とNPOとの信頼関係構築の歴史が、最近になって結実してきたこともあるでしょう」と、歴史的な背景を説明します。90年代の初め頃から企業が社会貢献や環境の専門部署を設置するようになり、少しずつNPOとの交流が始まりました。地道に信頼関係を築いてきた、その結果が表れてきているというのです。
 もちろんその間には、92年の地球サミットでNPOの役割が注目されたことや、97年に特定非営利活動促進法(NPO法)が制定【8】されたことなど、NPOに対する社会的な期待や信頼感が高まったという背景もあります。
 一方NPO側でも、「企業の批判ばかりしていても問題は解決しない」と、企業活動に対して具体的な改善提案をするなど、企業に対する姿勢が変わってきたこともあります。


企業にとってパートナーシップの利点は?

 それでは、企業とNPOがパートナーシップを結び環境保全活動に取り組むことは、双方にどのような利点があるのでしょうか。
 企業にとっての利点のひとつは、社会的な信頼性向上につながることです。NPOは、いわば企業活動を監視する立場にあります。そのNPOと連携を図ることで、企業活動が社会にオープンになるからです。また、NPOが培ってきた環境改善活動のノウハウを得ることもできます。
 NPOとの交流を通じて、消費者意識を肌で感じられるという利点もあります。NPOは、消費者の主張を代弁する役割も担っているからです。現に東京電力では、自然エネルギー推進市民フォーラムとの共同事業にヒントを得て、自然エネルギー普及のための「グリーン電力基金」という新事業を開始しました【9】。一般市民から寄付を募り、東京電力が寄付金と同額を出資し、風力発電所の建設などにあてる事業です。
この事業には、すでに多くの寄付が寄せられています。東京電力企画部の鷹尾友行課長は、「自然エネルギー普及に対してこれほどのニーズがあることは、社内で検討しているだけではわかりませんでした。NPOとの共同事業があったからこそ、そのニーズが把握でき、事業を成功立ち上げることができました」と、共同事業の成果を語っています。


NPOにとってパートナーシップの利点は?

 一方で、NPOにとっても利点は多いようです。東京電力とパートナーシップを組んだ自然エネルギー推進市民フォーラムの都筑建理事長は、「企業には、何といっても事業を効率的に推進するノウハウがあります。資金力や広いネットワークもあります。NPOだけでは実現できない規模の大きい事業も企業と連携を図ることで実施しやすくなります」と指摘します。
 また、NECの環境報告書作りに参画しているNPO法人 環境文明21の専務理事・藤村コノヱ氏は、「持続可能な社会を実現するためには、企業も変わらなければなりません。企業に変革を求めることはNPOの使命のひとつ。パートナーシップ事業を通して、企業への具体的な提言を行うことができます」と言います。企業とのパートナーシップは、NPOの活動目的そのものでもあるのです。


企業とNPOの関係は今後どうなる?

東京・青山の地球環境パートナーシッププラザ。市民・企業・行政・NPOのパートナーシップを促進するための情報や場の提供を行っています。

東京・青山の地球環境パートナーシッププラザ。市民・企業・行政・NPOのパートナーシップを促進するための情報や場の提供を行っています。

 かつては、企業とNPOといえば、対立関係にあるというのが一般的な構図でした。
 ところが、この構図は大きく変わってきているようです。両者の関係は、今後どうなっていくのでしょうか。
 環境パートナーシッププラザの浜本さんは、「企業とNPOがパートナーシップ事業を行うのは、これからは当然のこととなるでしょう」と言います。さらに、「大企業だけでなく、地域に密着した中小企業が地域のNPOとパートナーシップ事業を行う事例も各地で生まれつつあり、今後さらに増えてくるでしょう」とパートナーシップ事業の全国的な広がりを予測しています。


【1】地球環境パートナーシッププラザ
地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)
【2】自然エネルギー推進市民フォーラム
自然エネルギー推進市民フォーラム(REPP=Renewable Energy Promoting Peoples' Forum)は非営利の市民団体として、自然エネルギーの普及推進に関わる活動を行っている。
【3】ナチュラル・ステップ・ジャパン
ナチュラル・ステップは、スウェーデンの小児癌の専門医であったカール・ヘンリク=ロベール博士の提唱によって1989年に発足した環境教育団体で、その日本事務局であるナチュラル・ステップ・ジャパンは、本国での活動方針に準拠した事業を展開している。
【4】NECの環境報告書作り
NEC(日本電気株式会社)は、2000年度版環境報告書から、読者に必要な情報をわかりやすく表現し、親しみやすい環境アニュアルレポート制作のために、NPO法人環境文明21と共同企画を始めている。上記には、その成果や内容が紹介されている。
【5】NPO法人 環境文明21
21世紀に向けた主要な環境問題が、経済、社会やライフスタイルなど文明のあり方と密接に関係しているとの認識のもと、環境と文明の関係について調査研究し、そのあり方を探求することを目的に活動するNPO。
認定NPO法人 環境文明21
【6】A SEED JAPAN
A SEED(Action for Solidarity, Equality, Environment and Development/青年による環境と開発と協力と平等のための国際行動)は、1992年の地球サミットに青年の声を届けるため世界各国からの参加によって行われた「A SEED国際キャンペーン」。日本窓口として発足したA SEED JAPANは、地球サミット後に会員制団体としての活動を行っている。
国際青年環境NGO A SEED JAPAN
【7】イベントから出るごみ減量活動
A SEED JAPANが呼びかけ、イベント会場で廃棄されるごみの削減やリサイクルを実践する活動として1994年夏に開始された。業者として「ごみ清掃」を担うのではなく、イベントに関わる全ての人々が「環境保全へ向け協力体制を組む」ための「手助け」をすることをコンセプトとしている。
ごみゼロナビゲーション
【8】特定非営利活動促進法(NPO法)
特定非営利活動促進法
【9】グリーン電力基金
「グリーン電力基金」の設立について
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(記事・写真:土屋晴子、写真提供:A SEED JAPAN)

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