No.015
Issued: 2024.10.04
第15回 群馬県川場村長の外山京太郎さんに聞く、全村民が幸福を実感できる村づくり
ゲスト:川場村長 外山 京太郎(とやま きょうたろう)さん
- 昭和39年生まれ、群馬県川場村出身。
- 昭和57年、群馬県立利根農林高等学校(現:利根実業高等学校)を卒業後、地元の森林組合(現:利根沼田森林組合)に入職し、33年間にわたり勤務。
- 平成23年4月、川場村議会議員に就任。
- 平成26年4月、川場村議会副議長に就任。
- 平成27年4月の村長選に初当選して川場村長に就任。
- 平成31年4月、川場村長選 当選(第2期)。
- 令和5年4月、川場村長選 当選(第3期)。
- 趣味は登山、狩猟、鮎釣り。
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 㓛刀正行
昭和56年から続く世田谷区との縁組協定
㓛刀理事長(以下、㓛刀)― EICネット「首長に聞く!」インタビューに登場いただきましてありがとうございます。まず初めに川場村のご紹介をお願いしたいと思います。
川場村は、日本百名山の一つ、武尊山(ほたかさん)とそれを源流とする4本の一級河川が流れ、自然豊かな環境に恵まれています。また、こちらに伺う前に「道の駅川場田園プラザ」に寄ってまいりましたが、とても賑わっていました。これらを含めてご紹介ください。【1】
外山村長― 川場村は総面積85.25平方キロメートルのうち、森林が86%を占めています。明治、昭和、平成の合併の流れの中でも、単独の村となっています。地名に「川」がつくように、武尊山からの4本の一級河川が流れ、北はみなかみ町と片品村に面しています。
東京都世田谷区と昭和56年に、縁組協定(正式名称:区民健康村相互協力に関する協定)を結びました。今から43年前に世田谷区が第二の故郷を求めたところ、関東周辺の52市町村から手が挙げられ、選考の結果川場村と他県の自治体が残り、最終的に何もない純粋な農村の風景があるという理由で、川場村に決まりました。当時の住民は世田谷区80万人、川場村4,000人とその差は200倍でした。43年経過して、世田谷区は92万人、川場村は3,200人と差は広がっています。
世田谷区は2つの保養所「ふじやまビレジ」と「なかのビレジ」を昭和61年に開設しました。世田谷区の公立小学校5年生が毎年、保養所を訪れるようになりました。多感な年齢に川場村に来ると、「大きくなったらまた来よう」と心に刻まれるようです。幼少期に川場村を訪れた一人は、農業大学を卒業して、村でりんご農家になり、家庭を築かれています。
東京23区の中でも面積が広く、人口の多い世田谷区との縁組協定は、川場村が村として残っている理由のひとつでもあります。毎朝、眺めるこの風景は私たち村民にとっては馴染み深いものですが、訪れた世田谷区民は「ここの空気、景色は特別なものである」、と言います。バブル時代(1980年代後半~1990年代前半)は日本各地にスキー場が多くでき、村にも川場スキー場ができましたが、宿泊施設や派手な観光スポットはありません。これは世田谷区が教えてくれた自然環境と景観を大切にする心を優先してきたからです。
㓛刀― 小さな村だからこそ実現可能な政策があるということですね。
外山村長― 平成の大合併(1999年から政府主導で行われた市町村合併)から20年経過しますが、その当時、沼田市との合併話が持ち上がりました。沼田市の川場町になったら、世田谷区との交流ができなくなってしまうと思い、合併の話からは下りました。それとは別に、世田谷区川場村になる越境合併の話もありましたが、さすがにそれは実現しませんでした。
自身の出発点は地元の森林組合
㓛刀― 次に、村長ご自身についてのお話を、川場村への思いも含め、お願いします。
外山村長― 私は、農業学校の林業科を卒業して、森林組合に就職しました。33年間、勤めていたのですが、公務員と違って団体職員なので、選挙などにも出られるわけです。前任の村長である関清さんが76歳で辞めようとしていたところ、若い人に任せたいと当時40代だった私と同級生に声がかかりました。彼は政治の道に進む気はないようですし、私はというと森林のことしか知らなかったので、村議会議員になって勉強するからあと一期(4年)待ってもらいたいと話しました。4年後、村長選に立候補すると、他に手を挙げる者がおらず、無投票で当選することになりました。しかし、これには理由があり、村議会議員になるときの選挙で、私が過去最高の得票を獲得したことと、前任の関清さんがこれからは、若い人材に村の運営を委ねたいと言って下さったからだと思います。
川場村については、世田谷区との縁組協定のこともありますが、自然環境を次の世代に残さないといけないという思いは人一倍あります。
㓛刀― 体格がよく、お身体ががっしりされているようにお見受けいたしますが、何かスポーツをされておられますか。
外山村長― スポーツは中学時代に柔道をやっていたくらいで、就職してから山に入って15年は丸太を担いでいたことが大きいですね。なので、川場村の民有林の半分くらいはよく知っていると思います。
野生生物と人の暮らしの狭間で
㓛刀― 川場村の環境への取り組みもお聞かせください。木質バイオマス発電、太陽光発電を活用されていますが、これからは小水力発電も始められるとお聞きしました。再生可能エネルギーを上手く取り入れる成功の秘訣を教えていただけたらと思います。
外山村長― 今、東北地方では獣害対策が急務となっておりますよね。あれは、山にソーラーパネルを入れていたり、風力発電を立てていたり、少なからず絶えず騒音・振動がしているわけです。それだと動物も耐えられなくて、市街地に出てくるようになっていると私は思います。
川場村にもソーラーパネルはありますが、景観を悪くするような無秩序な設置はしていません。小水力発電は水を通すだけなので問題ないです。これらの収益は来年(2025年)4月から、小中学校の給食費に充てようと思っています。
㓛刀― 森林保全というと、シカなどの獣害も密接に関係していると聞きますが、川場村では被害はありますか。
外山村長― もちろん被害はあります。実は私自身、狩猟免許を持っています。私が20歳で免許を取ったとき、狩猟免許保持者は60人いました。しかし、一時は7人にまで減ってしまいましたので、狩猟免許を取って川場村の猟友会に加盟すると、補助金を受け取ることができるようにしました。今は、15人に増え、駆除や捕獲を行なっています。
㓛刀― 耕作放棄地もあまりないのでしょうか。
外山村長― 川場村は、ブランド米であるコシヒカリ「雪ほたか」を栽培することができています。「雪ほたか」は、米・食味分析鑑定コンクール(国際大会)で15回、金賞を取っています。そのうち3回、東洋ライス株式会社が企画する、日本の米に対する注目度と価値向上を目指した「世界最高米事業」にて「ギネス世界最高米(ブレンド米)」の原料の一つに選ばれ、その際には1キログラム1万円の高値になりました。この世界最高米は最も高額な米として、ギネス世界記録に認定されています。さて、通常の「雪ほたか」は市販品でもかなり高価ですが、昨年収穫した5,000俵のお米は売り切ってしまっています。高値で売れるので、農家が高齢になっても若い人が後継ぎとして手を挙げてくれています。
問題は地球温暖化です。気候が暑くなってお米の収穫できる地域が北に移行しています。それに打ち勝つように現れたのが、宇都宮大学で開発された「ゆうだい21」という品種です。高温で栽培しても食味がよく、近年は「ゆうだい21」がコンクールで金賞を取っています。
木材と再生可能エネルギーを活用した新庁舎「川場ベース」
㓛刀― 2023年11月に完成した新庁舎「川場ベース」についてお聞かせください。太陽光、木質バイオマスなど村の資源を使っていることは、施設見学で拝見させていただきました。「川場村100年憲章」の構想はこの新庁舎から生まれたそうですが、詳しくお話いただけますでしょうか。
外山村長― この新庁舎周辺は村の中心部でありながら、大型トラックもトラクターも入れないところだったため耕作放棄地ができつつありました。そのため、土地改良して道路の整備をしようとなったのです。私の前の村長の代にはなかなか調整がうまくいきませんでしたが、時代が移り土地所有者の意識も変わり、私の村長2期目に土地改良の話が持ち上がった時には皆さん賛成していただけました。耕作地の土地改良を進めるとともに、道路側を新庁舎をはじめ交流ホールや村の学習館、エネルギーセンター、防災倉庫とトイレを備えた「川場ベース」を整備するために買い取らせていただきました。
その川場ベースですが、特徴の一つに、豊富な森林資源の活用があります。構造材や外壁、床板などに川場産木材を積極的に利用しているほか、森林整備で発生する間伐材を活用した木質チップを燃料とするバイオマスボイラーも設置しています。このバイオマスボイラーの熱源は、役場庁舎及び村の学習館で使う暖房の約50%、また熱交換を行うことで冷房の約30%を賄っています。
また、太陽光パネルをエネルギーセンターの屋上と交流ホールの屋根に合計204枚設置して、蓄電池と併用することで、川場ベースで使用する最大電力の約半分(100キロワット)を賄います。災害時の非常用発電機と共に、非常電源としても利用可能です。
次に目指すは、メタンガス化発電
㓛刀― 第5次総合計画では人々の価値観が「物質的な豊かさ」から「こころの豊かさ」を求めることを踏まえ、「全村民が幸福を実感できる村づくり」を掲げられておられます。こうした川場村の今後の村づくりなどを含め、EICネット読者にメッセージを頂ければと思います。
外山村長― 人格だけではなく、「村格」というものもあると思います。村の格上げを行なうことで村を存続できると考えています。群馬県には現在、35市町村ありますが、将来20市町村はなくなると試算されています。川場村はその中に入っていません。どこにでも人口減少問題はありますが、一人でも二人でも川場村に移住したいと思ってもらえるようにしていきたいと思っています。それには今住んでいる人の幸福度が高くなくてはならないのです。
農業をやってお金がとれる状態はまさに理想です。おかげさまで、道の駅川場田園プラザが「全国道の駅グランプリ」で2年連続1位を獲得し、2024年は残念ながら2位でしたが、それでもお客さんが減っているわけではありません。年間23億円の売り上げがあり、うち8億円はファーマーズマーケットです。1千万円を超える売り上げがある生産者もおります。後期高齢者でも100万円以上を売り上げる方もおり、3世代同居も珍しくない家族構成となっています。
㓛刀― 働けて稼げる場所があるのはすごいですね。
外山村長― 一般的には広告宣伝費を使いますが、川場村はメディアの方から取材に来てくれます。皆さんにお飲みいただいた「川場のむヨーグルト」も、かなりの売り上げがあります。
ここで問題なのが、乳牛の糞尿です。増えると公害になるし、減らせば売り上げに影響が出るため、酪農家が生き残れるような対策が必要だと思っています。そこで、糞尿を発酵させたメタンガスでの発電に注目していまして、メタンガス発電設備の導入に向け検討しているところです。
先日、群馬県長野原町のバイオガス発電施設の視察に行きました。あそこは365日間、4軒の酪農家が糞尿を搬入してきています。課題は、分解した後の液体の処理だそうです。
栃木県那須町にもバイオマス発電施設があって、液体も川に流せるだけの施設を整備しているようですが、そこまでやると、多分、採算が合わなくなると思います。
木質バイオマス発電の設備費用はその一部を国に補助していただきましたので、バイオマス発電設備でも国の補助金の活用をしていきたいと思っています。こうした補助が、川場村のような小さな村には必要なことですから、推進していただくことで、都会の一極集中の分散化にもつながっていくと思います。
どこか懐かしい農村風景が広がる川場村に、ぜひお越しいただけましたら幸甚に存じます。
注釈
- 【1】道の駅川場田園プラザ
- 「道の駅川場田園プラザ」は、大手旅行情報誌が調査した「全国道の駅グランプリ」で2022・2023と2年連続で1位を獲得。2024年は、「もう一度利用したい道の駅ランキング」で1位を獲得している。
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。