No.001
Issued: 2019.03.06
第1回 福岡県北九州市長の北橋健治さんに聞く、市民環境力という歴史・土台を、若い人に共有し、まちを発展させる
実施日時:平成31年2月22日(金)14:00~
ゲスト:北九州市長 北橋健治(きたはしけんじ)さん
- 1953年3月19日生。家族は妻と長男・二男
- 東京大学法学部卒業。
- 衆議院議員6期・市長4期
- 1986年7月、33歳で衆議院初当選。当選6回を数える。
- 2007年2月、市長選に初当選。現在4期目。
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
公害を克服してきた市民の“環境力”が、このまちの土台になっている
大塚理事長(以下、大塚)―
EICネットでは、「首長に聞く!」インタビューを今年2019年からはじめさせていただきました。これからの日本にとって極めて大事になる、環境を大切に安全・安心で暮らしやすい地域社会づくりに貢献しようと企画したものです。
ご登場いただく首長の皆さまから、さまざまなお考えや経験に基づくお話をいただき、EICネットの読者の皆さまとともに考えるきっかけになることをめざしております。
第1回は、環境先進都市として日本国内のみならず世界から注目を集めている、北九州市長の北橋健治さんにお出ましいただきました。
最初にお聞きしたいのは、北九州市の環境の取り組みについてです。
北九州市は世界の環境先進都市として、国内外から大きな注目を集めています。特に、「環境モデル都市」「環境未来都市」「SDGs未来都市」など、市長ご就任後にますます進展しているように思います。ぜひ、北橋さんの目から見た、取り組みの状況について、お話しいただければと思います。
北橋市長―
2007年に市長に着任したとき、まちの発展には「シビックプライド」が大事だと思いました。我がまちへの誇りと愛着です。我がまちへの誇りや愛着があるからこそ、自分もこのまちで頑張ってみようというポジティブな気持ちになると考えています。
それには、文化・芸術だけではなく、まちの歴史、あるいは父母や先人が作ってきた、まちのよさ・魅力というものを、改めて共有することが大事ではないかと思います。
北九州市の歴史をふりかえってみると、公害に直面しましたが、婦人会を先頭にして、見事に乗り越えてきた歴史があります。そして、そのノウハウ・技術を、今度は惜しみなく世界の各都市に提供してきました。
さらにそれらの技術・ノウハウを発展させて、今度は資源循環型社会の重要性に気づき、市民・各界とチャレンジしてきました。日本で最初に、しかも最大規模のエコタウンが北九州市にでき、一昨年には天皇皇后両陛下も行幸啓にお越しいただくなど、大きく発展してきました。
大塚― そうした一連の環境に対する熱心な取り組みや、その成果をグローバルに展開する源泉は、どういうところにあるのでしょうか。
北橋市長―
北九州市の市民性だと思います。東日本大震災の被害を受けられた釜石市には、今でも北九州市の職員が10人ほどご支援に行っています。「困った人たちがいると放っておけない」のが、北九州市民のいいところだと思います。
そうした中で、先ほど申し上げたように、婦人会が先頭に立って、学者も行政もそして企業もチームワークを組んで、公害の克服に至ったのです。この市民の“環境力”、それがこのまちの土台になっている、と言えるのではないかと思います。
そして、途上国に対する国際協力をずっと進めていることもお知らせしたいと思います。これは、1980年代から始まって、これまでに165か国・地域から9000人以上の研修員を本市に受け入れてきましたし、25か国に200人を超える専門家を海外に派遣してきました。環境を通じた海外との非常にフレンドリーな関係ができています。
そうした歴史こそ、若い世代も含む市民にとって、我がまちの誇りとすべき成果であるということを、共有することが大事だと考えてまいりました。
市民の環境力という歴史・土台を、特に若い人に共有し、まちの発展につなげていきたいと考えています。
大塚― そうした歴史があって、先ほどお話しいただいたエコタウンの成功モデルが築きあげられてきたわけですね。
北橋市長―
そうですね。今、東京オリンピックでリサイクルメダルを使おうという機運が盛り上がっていますが、実は、市内の産官学では昨年度にいち早くリサイクルメダルを製作したのです。現在、エコタウンは、さらに前進しています。
そもそも、このまちの大きなグランドデザインとして、世界の環境首都を目指そうじゃないかということを各界で確認したのが、2004年のことでした。
さらに、2008年の洞爺湖サミットの前、当時の福田内閣が低炭素というテーマにチャレンジするという方針を示し、まずは地方自治体の中からコンテストをして「環境モデル都市」を選定して、地方自治体から世界に発信していくという戦略を立てられました。
これはある意味で、環境のそれまでの歴史とステージから次の段階に入った出発点だと思っています。
というのは、北九州市の発展を支えてきた鉄鋼・化学は石炭などの化石燃料によって支えられてきましたが、当時すでに世界トップクラスの省エネを達成していました。さらに低炭素化を進めるため、革新的な技術開発が求められたのです。
そこで、風力やソーラーなど再生可能エネルギーに転換していこうと考えました。加えて、北九州市の技術を海外に移転すれば、そこでもCO2が相当に削減できます。
そんな国内外での削減も視野に入れた、北九州市独自の低炭素社会づくりのプランを出して、「環境モデル都市」に選ばれたのが2008年でした。
大塚― 北九州市では、まさに新しいモデルを、先頭に立って進めてこられたと思います。
環境をよくするだけでなく、環境への対応をビジネスにするためのチャレンジが各方面から期待されるようになってきた
大塚― ここまでのお話の中で、北橋さんは「市民の力」や「技術力」を強調されてきたように思いますが、環境の取り組みを市全体として盛り上げていくうえで、どのような点がポイントとなったのでしょうか。
北橋市長―
やはり、公害克服が国内外から成功モデルとして評価をされたことが大きかったと思います。
1985年にはOECDが環境報告書の中で北九州市の公害克服のことを「灰色のまちから緑のまちへ」と紹介してくれるなど海外からも評価を受けたこと、それと世界が注目する資源循環型社会の大きな基地であるエコタウンに国内外から多くのお客様が来られたこと、この2つのことが、市民にとって大きな自信になったのだと思います。
我がまちの誇りでもあるし、これから将来に向けて環境をテーマに、市民が一丸となって前進していこうという気持ちが確認されていたからこそ、「低炭素」という難しいテーマを受け止めた際に、みんなで頑張ってやろうじゃないかという前向きな気持ちにつながったのだと思います。
先ほどグランドデザインと申しましたが、市民の間に、さまざまなハードルを乗り越えてきて、そして高い評価を得てきたことで、市民の「環境力」に対する自信が生まれてきたのだと思います。これも、先ほど申し上げた「シビックプライド」だと思いますし、それがあったからこそ、低炭素社会へのチャレンジができたのではないかと思います。
大塚― 2010年には、アジア低炭素化センターを設立されていますが、その目的やねらいについて改めて教えてください。
北橋市長―
アジア低炭素化センターは、アジア地域の低炭素化を通じて、地域経済の活性化を図るための中核施設として設立しました。リーマンショックなど世界の不況を経験する中で、環境をよくするだけでなく、環境への対応をビジネスにするためのチャレンジが各方面から期待されるようになってきたのです。
北九州市には、これまでのフレンドリーな国際ネットワークもありますから、それを生かして、環境ビジネスの確立に向けた模索を始めたわけです。
センター長には、元東京大学総長の小宮山宏先生に就任していただきました。
大塚― さらにその後、環境未来都市としても選定されたわけですね。
北橋市長―
はい。政権交代があり野田内閣の時代、2011年に「環境未来都市」の募集がありましたが、最初は戸惑いもありました。
というのも、北九州市が取り組んできた「環境モデル都市」は、政権が変わっても継続されるべき価値のある事業だと私どもは思っていたからです。
ただ、「環境未来都市」の構想では、環境をよくすることが同時に経済もよくなり、また少子高齢化対策など社会面の価値も同じように大事にするべきだとしています。環境・社会・経済という3つの側面で、住みよい社会を作ろうということで募集があったわけです。北九州市は11都市の中の一つとして選ばれ、2011年から事業を行っています。
当時、私は環境モデル都市の全国の会長を仰せつかっていましたが、政府からは、環境未来都市ができたので、環境モデル都市をなくすかどうかというご相談をいただきました。
私は、それは歴史ですから、環境モデル都市も、また環境未来都市も両方とも大事だと思いますとお答えして、今でもそのとおり、両方とも続いています。
大塚― そうした大きな方向付けにずいぶん貢献されてきたわけですね。今や多くの人たちが言うようになっていますけれど、やはり環境が経済を引っ張っていくということのスタートの部分を北九州市が牽引されたように思います。
北橋市長―
ありがとうございます。
2009年から2011年にかけては米国のオバマ大統領もグリーンニューディール政策を提唱し、グリーン(環境)への取り組みに対して大きな成長の可能性が見出され、世界的に注目されていました。このような時に、OECDから願ってもない話をいただきました。これからの時代はグリーン成長で経済成長と環境の両立をめざすべきということで、グリーン成長に関する世界のモデル都市を選ぶことになり、本市はパリ、シカゴ、ストックホルムと並んで世界の4つのモデル都市の1つに選ばれたのです。先ほどお話ししたように、OECDからは1985年に公害を克服したモデル都市として紹介され、2011年にはグリーン成長のモデル都市として認められたわけです。
大塚― さらにまた、2018年にはOECDからアジア初のSDGsモデル都市に選ばれていますよね。
北橋市長―
国連で、SDGsが全会一致で採択されたことは大変意義がありました。北九州市は、OECDからグリーン成長に引き続き、SDGsでもモデル都市として選んでいただきました。これから、調査がおこなわれ、レポートで発信されるという大変ありがたいことになっております。。
北九州市では、ESD(持続可能な開発のための教育)の取り組みを、女性団体や大学が中心になり一生懸命に進めてきた歴史があります。SDGsの取り組みも、環境・社会・経済につながる同じ流れの中にあると思いますから、私どもとしても願ってもないと考えています。このような歴史を大事にしてSDGsを羽ばたかせたいと考えています。
日本政府としても、今年度からSDGs未来都市の取り組みを進めています。こちらにも29都市の一つとして選んでいただきました。
SDGsを市民にとって馴染みのあるキーワードに
大塚― SDGsについてはどのように取り組んでいかれようとお考えでしょうか。
北橋市長― これまで、環境モデル都市、それから環境未来都市の時代ということで、10年以上市民といっしょに取り組んできましたから、その歴史を大事にしつつ、世界が共通して取り組むSDGsの実現に向け、ホップ・ステップからジャンプしていこうという思いです。
大塚― SDGsは今日本でも大きく注目され始めていると思いますので、ぜひ北九州市からの発信を期待したいと思いますが、進めていくうえでの課題もあるかと思います。
北橋市長―
ESDの取り組みを通じて経験しているのですが、アルファベットやカタカナ文字というのはなかなか一般市民には馴染みにくい面が、正直あると思います。国連のキーワードになっている「サステイナブル(持続可能性)」も、じっくり考えてみるとその意味の持つ大切さがわかるのですが、日本語の語感からすると皆さんが「そうだ!」「それだ!」と馴染みを持って感じられるには、ちょっと一呼吸置く必要があるようにも感じています。
193の国々が一致して、SDGsを進めようという中で、このカタカナの世界を私たちがいかに身近なものとして受け入れていくかということです。そのために、まずは市民の皆さんが、あまり敷居を高くしないで、いろいろと情報共有しながら、先進事例を学び意見交換できる場となる「北九州SDGsクラブ」を昨年11月に創設したところです。
学識経験者や経済・社会・環境分野のステークホルダーをメンバーとする、「北九州市 SDGs協議会」も作りました。クラブと協議会が車の両輪となって、市民の皆さんにストンと落ちるように馴染んでもらうこと、そしてSDGs の17のゴールの中で「自分はこれをやってみよう」と思えるようなポジティブな気持ちになってもらうなど、さまざまな運動をきめ細かにたくさん作っていきます。
大塚― 若い人たちの力も大事になってきますね。
北橋市長―
北九州市の小中学校及び高校には、1学年に約8000人の児童・生徒がいます。12学年合わせると、総勢10万人近くになるわけです。
学校では小学校も含めて英語を習っていますから、アルファベットに触れる機会は多くなっています。そういう意味でも、SDGsを学ぶのにピッタリだと思います。
2015年4月、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が改正施行され、それぞれの自治体において、予算調製権者である首長と教育委員会が教育政策について協議し、その方向性を共有する場である「総合教育会議」を設置することになりました。
これを受けて、北九州市では「北九州市総合教育会議」を設置し、これまでに教育に係る様々な事項を協議してきています。2018年11月の会議では、SDGsの視点を踏まえた学校教育について協議し、SDGsを学校教育の現場でしっかりと子どもたちに伝えていくとのことで、方向性を共有しました。
SDGsは、子どもたちがこれまで習ってきたものと同じように大事なテーマになると思います。もう1年も経つと、北九州市では10万人のSDGsリトルプロフェッショナルが誕生する、そう期待しています。
また、子どもたちの理解が進むと、お父さんやお母さんも感化されますから、一気に、市民にとって馴染みのあるキーワードになっていくことを期待しています。
大塚― 市民の力や地域への愛着ということをお聞きする一方で、やはりそうした全体のムードを高めていく素晴らしい役割を果たされていると思います。
地域住民同士による「共助」が必要となるなか、環境活動は大きな原動力となる
大塚― ぜひお聞きしたいことがあります。環境先進都市やSDGsの取り組みも含め、北九州市はさまざまな意味での先進的な取り組みをされてきましたが、北橋さんは、環境が社会・経済にどのような好影響を与えることができると思いますか。
北橋市長―
“ごみがほとんど落ちていない、環境美化の進んでいる地域は、泥棒が入りにくい”と一般に言われます。環境美化が進んでいるということは、日ごろからの住民のコミュニケーションがよいからであり、それが地域の治安向上につながっていく、そういうことだと思います。
北九州市でも大きな課題の一つになっているのが、少子高齢化ですが、対策として大事なのが見守りです。私どもは、行政による「公助」の充実にもちろん一生懸命務めてまいりますが、一方で、地域住民同士による「共助」も必要になってきます。環境活動と同じように、防犯や、子どもと高齢者の見守りが共助の中でされることで、地域はよくなっていきます。
ですから、地域住民同士の「共助」が必要となっていく中、環境活動というのは、魅力的で安心・安全な地域社会の実現に向けた、大きなトレーニング、原動力となると思うのです。
環境をよくするためにはご近所づきあいが大事ですし、企業と市民社会、あるいは大学と企業の協力など、さまざまなセクターがそれぞれの持ち味を生かして協力をすることが求められます。地域住民のコミュニケーションがよくなって、一つの目標に向かって歩み出す、そうしたことが、結果として魅力的な地域社会や都市を創造する上で大きな原動力になっていくと思います。
大塚― 広く全体のことに目配りされながら、市民の力を発揮する状況を作られていることがよくわかります。
都市による国際協力は、都市自体の発展に加えて、日本全体の発展につながる
大塚― これまでの話と重なるところもあるかと思いますが、北九州市は国際都市間連携にも力を入れています。先ほどもお話いただいたように、パリやニューヨークなどとともに、北九州市に世界を引っぱっていただけると期待しておりますが、今日、国際都市間連携という大きな世界の流れの中で、日本の都市が持つ力や役割について、北橋さんからのメッセージをいただければと思います。
北橋市長―
現代における日本の国際的な立ち位置についてお話しさせてください。
外交的には、歴史の時点時点でさまざまなことがありました。時に摩擦を起こすケースもございましたが、日本の非常にすぐれた技術力と親切さはそうした相手からしても評価されてきたように思います。
例えば、日中関係で言いますと、北九州市では2014年からの5か年計画で実施してきた中国の大気環境改善のための都市間連携協力事業を通じて、中国6都市に対して、北九州市が持つこれまでの知見やノウハウを活用した技術協力を行ってきました。その結果、6都市のPM2.5濃度は開始時から比べて約30%も低下し、中国政府からも高く評価していただいています。
また東南アジアやアフリカでは、上下水道などのインフラ整備やごみ対策など非常に身近な問題で困っています。
こうした都市生活インフラの分野に関しては、自治体にマンパワーも技術の蓄積もあると思いますから、海外都市との交流において、大きな追い風を作ってくれると思うのです。
そうした意味でも、都市による国際協力は、都市自体の発展に加えて、日本全体が尊敬される国として評価され発展していくことにつながるのではないかと、最近、私は強く感じています。
大塚― 私もアジアの国々で日本人が活躍している現場を見る機会もあり、北橋さんがおっしゃられる点がこれからの日本にとって欠かせないのだろうと思います。本日はお忙しい中、大変ありがとうございました。今後もますますご活躍されることを期待しております。
記事に含まれる環境用語
関連情報
- 北九州市エコタウンセンター
- 天皇皇后両陛下による福岡県への御訪問
- 北九州市環境モデル都市
- アジア低炭素化センター
- 北九州市環境未来都市について
- OECDグリーンシティプログラム
- OECD がグリーン成長に関する世界のモデル都市として北九州市を選定 アジア地域で初
- 北九州市 SDGs未来都市
- OECDが 「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」 として北九州市を選定! アジア地域で初
- 環境モデル都市・環境未来都市・SDGs未来都市(首相官邸)
- 持続可能な開発のための教育(ESD)
- 北九州SDGsクラブについて
- 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律
- 平成27年度第2回北九州市総合教育会議について
- 北九州市教育大綱
- 北九州市の環境国際協力ネットワーク
- 「中国大気環境改善のための都市間連携協力事業」におけるこれまでの成果について(平成31年2月15日市長記者会見)
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。