一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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音のいろいろ

目的

  • 気づき:身の回りにさまざまな音が聞こえていることに気づく
  • 知識:騒音と気持のいい音、また自然の音と人工の音などの分類や、その音源や文化的・自然環境的背景などについて理解する
  • 行動:身の回りの音を通じて、地域の自然や文化とのつながりを尊重した、身近な環境を保全する活動に参加できる

背景

音との関わりについて

道路を走る自動車や、建造物の工事 ・建設などを発生源とする「騒音」は、典型7公害のひとつとして、特に高度成長期以降に問題視されてきています。高速道路や幹線道路が目の前に立地する家、あるいは隣の家の飼い犬の鳴き声などにイライラさせられるなど、さまざまな騒音によって多くの人が切実な苦しみにさいなまされています。

一方、日本人は古来より虫の鳴き声や鳥のさえずり、風の音色など、身の回りのさまざまな音を歌に詠んで愛でる習慣や感性を持っていました。音を素材にした文学としてもっとも有名な歌のひとつとして、松尾芭蕉の俳句があげられます。  

閑けさや岩にしみ入る蝉の声 (松尾芭蕉)

虫の鳴き声に季節を感じたり、夕暮れ時の鐘の音に一抹の寂しさをおぼえる感性は、日本人の心に共通して流れているようにも思えます。

音への関心を呼びさます

身の回りには、さまざまな音があふれています。耳をつんざく騒音だけでなく、自然の音や地域の文化的な音、さまざまな情報を伝える信号としての人工音や宣伝、放送など、われわれの意識する以上にさまざまな音がわれわれの生活を取り囲んでいます。これらさまざまな音は、音だけが独立して存在しているわけではなく、風景の中で、自然の営みとして、あるいは人間の営みとして聞こえてくるものといえます。一方で、こうした身の回りの音とその音源となる諸環境に対する注意や関心、感性が薄れてきているとも指摘されます。

「サウンド・スケープ」という取り組み

身の回りの音に注意を向け、これらの音が人間の精神や健康に、また生態系に及ぼす意味や影響について捉え直していこうとする運動があります。カナダの作曲家マリー・シェーファーらは、ワールド・サウンド・プロジェクト(1973年〜)という音環境の調査を実施する中で、街中を歩きながら聞こえてくる音を絵に描く、「サウンド・スケープ(音の風景)」という教育的な試みを提唱しています。これは、聴覚を視覚化するという作業を通じて、身近な音に耳を傾け、その意味についても考えるきっかけとすることを目的にしています。

サウンド・スケープ(音の風景)はその後、各地に広がりをみせています。環境教育に取り入れられているほか、都市計画などで音環境デザインが試みられたり、「音名所」や「残したい音風景」などが選定されるなど、取り組みもさまざまみられます。

共通のフォーマットこそないものの、音の視覚化という手法は、身の回りの音についてわかりやすく理解を促進し、しかも想像力を刺激する作業として受け入れられており、従来騒音という観点でのみ捉えられてきた都市の音環境をより広い視野で捉えるきっかけを与えるものといえます。

発展

音漬け社会の問題点を考える

「音」への関心

交通騒音や営業騒音、生活騒音など、さまざまな場面で、大音量あるいは不快な音質の音に対して苦情が寄せられています。また一方で、「音の風景」に対する関心や期待が高まっていることなど、音を考える場面が増えてきています。

その反面、さまざまな音がきわめて安易に垂れ流されていることも指摘されます。駅構内や車内で繰り返される過剰なアナウンス、警察や消防署などの注意放送や、商店街の街頭やスーパーの店内で流れるエンドレステープの宣伝など、朝から晩までどこででも、さまざまな音が身の回りにあふれています。こうした音が、単に生理的な好き嫌い、快不快という意味以上にさまざまな問題を派生させており、その弊害を訴え、状況の改善を求める運動もおこっています(*1)。上にあげた放送の多くは、挨拶や注意、禁止、依頼、奨励等を遂行するもので、多くの人が、少しうるさいと感じつつも、無意識のうちに求めていることが多いとも指摘されます。例えば、電車の駅や車内では、以下のようなアナウンスが延々繰り返されています。

「扉が閉まりかけましたら、次の電車をお待ち下さい。駆け込み乗車は危険ですからおやめ下さい」

「ドアが閉まります、ご注意下さい」

「車内ではお年寄りやお身体の不自由な人のために座席を譲り合いますよう、皆様のあたたかいご協力をお願いいたします」

「この先カーブが多く、電車が揺れますので、十分ご注意下さい」

「次は○○、お出口は右(左)側です」

...などなど。
こうした状況は、日本以外の諸外国ではほとんど見られません。それゆえに、こうしたところにこそ、日本人の、また日本の文化の抱える根本的な問題が内包しているといった問題提起がなされています。

単にうるさいことが問題なわけではない

これらの音は、単に音量や音質が問題とされるのではありません。むしろ日常的に、どこへいっても鳴り止まない「音漬け」の状況をつくりだしていること、しかもそうした状況を享受することが、他律的に行動することをも享受していることにつながるという指摘です。単に生理的な好き嫌い以上に根本的な問題として指摘されるゆえんです。どういうことでしょうか。

これらの「お節介な放送」は、自律的に行動しようとする人の静穏権を侵害することになります。例えば、電車で移動するとき、停車駅が近づくたびに流れる駅名のアナウンスは、自律的に行動することに慣れていれば必要のないアナウンスといえます。もちろん、今日の高度に発達した都市の交通網では、アナウンスがないと複雑すぎて目的地に到達できないということもあるでしょうが、それにしてもドアの開け閉めの際に流れる諸注意や、席の譲り合いを促し、また忘れ物を喚起するなど、必要性が疑問視される放送があまりにも多いのではとも指摘されます。

さらに問題なのは、こうした放送に日常的に晒されることが、受動的な態度に慣らされ、自発的に考えることを放棄する態度を形成するのではないかと懸念されるということです。また、人工音の増加が、人と人との直接的なコミュニケーションの機会に取って代わり、相手と真っ向から向き合って対話していくコミュニケーション能力を抑制もしくは減退することになるのではないかとも懸念されます。

人工的な音への依存度が高まれば、身の回りの音はさらに大きくなっていくことになります。ひとつひとつの音源それ自体は問題にされるようなものでない場合でも、都市の密集化やその中での音のひしめき、あふれることで、一昔前よりもはるかに音を出すことに対して気を配らなければならない状況が生じているといえます。このような音に囲まれた状態から逃れることのできない強制的な状況がつくり出されているということを認識して、「音」に対するルールや倫理観が確立されるべきだとも指摘されます。

これらの問題を取り上げること自体が、些細なこととして無視され、省みられないがゆえに、状況の改善を困難にしているという構図もあります。

自己責任による判断・行動を阻害する 「音漬け」の社会

環境教育の目標として重視されるのは、ものごとを主体的に判断し、積極的に関与していくことのできる態度や技能です。また、そうした判断の基準を築くための正しい知識や評価能力を獲得することでもあります。自分や社会の言動が、他人やまわりの環境にどのような影響を及ぼすのか、理解しながら正しい知識を持って行動を選んでいくことのできる主体的な人間として成長することが求められます。

さまざまな音に囲まれることを是とする「音漬け社会」を容認すること、あるいはまた、こうした「お節介な放送」がその内容の効果を発揮するためという以上に、単に流しているという事実をアリバイ的に必要とする責任回避の社会的構造は、権利と義務を担った責任ある「大人」であるよりも、管理を受け入れ自発的に服従する存在であることを許容することにもつながります。

これは、環境教育によって育成すべき主体性や自律性などを阻害するものといえ、単に騒音を改善するという以上に根の深い問題として取り組まれる必要があるといえるのではないでしょうか。
静かさとはなにか 文化騒音から日本を読む」(中野義道他編、第三書館、1996年)では、こうした騒音が、歴史的・社会的・文化的な騒音であるとして、「文化騒音」と呼ぶことを提唱しています。これらの多くは、挨拶や注意、禁止、依頼、奨励等を遂行するなど、言葉の意味に関連の深いものでもあるとの指摘もあります。
「静かさとはなにか」では、こうした例として以下のような構図が紹介されています。

バスの車内で「吊り革におつかまり下さい」というアナウンスをひたすら流し続けるのは、もしも吊り革につかまらずにケガをした乗客が出た場合に、放送が流れてなかったとすると「注意をしないから事故が生じた」という(理不尽な)批判がバス会社に対して寄せられることも予測されるから。そこで、放送を流して注意を促しておけば、「注意はしていた」として批判を回避することもできるわけです。

当然ながらバスの運転手はそれぞれに事故を回避せんと細心の注意を払って運行してはいるのでしょうが、こうした放送がマニュアル化され、手段が目的化することがもしあれば、批判を回避する防衛策として「アリバイ的に」流しているとのそしりを免れないともいえます。

関連情報

環境省 水・大気環境局 大気生活環境室
環境省は、平成8年度に「残したい“日本の音風景100選”」を選定しています。これを契機に、全国音風景保全連絡協議会が設立され、毎年「音風景保全全国大会」を実施しています。平成12年度には、9月28、29日に、静岡県本川根町を会場に実施されました。
TEL: 03-3581-3351(内6546)
FAX 03-3593-1049
http://www.env.go.jp/air/life/nihon_no_oto/index.html
日本サウンドスケープ協会
〒921-8501 石川県石川郡野々市町扇が丘7-1 金沢工業大学土田研究室内
TEL/FAX: 076-294-6759
http://www.soundscape-j.org/
「サウンド・エデュケーション」マリー・シェーファー、春秋社、1995年
「静かさとはなにか 文化騒音から日本を読む」中野義道他編、第三書館、1996年
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