No.096
Issued: 2022.01.28
中井徳太郎環境事務次官に聞く、大きな転換期を迎える環境施策の方針
実施日時:令和4年1月19日(水)14:00〜
ゲスト:環境事務次官 中井 徳太郎(なかい とくたろう)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
- 1985年大蔵省入省。
- 主計局主査(農林水産係)などを経て、東日本大震災後の2011年7月に環境省異動。
- 総合環境政策局総務課長、大臣官房会計課長、大臣官房秘書課長、大臣官房審議官(総合環境政策局担当)、大臣官房審議官(総括担当)、廃棄物・リサイクル対策部長、総合環境政策統括官などを経て、2020年7月より現職。
1.5℃目標への取り組みは、病んでいる地球を2050年までの30年間で健康な状態に戻すということ
大塚理事長(以下、大塚)― 本日は大変お忙しい中、エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。
現在、新型コロナウイルスの感染拡大が大変な状況ですが、片や気候変動をはじめとする環境問題は世界的にみて待ったなしという状況です。日本でも、政府を含めてさまざまな動きがあり、環境省はその中核的な役割を果たしておられますから、次官としてもいろいろとお話しされたいことがあると思います。
はじめに、環境省としての今年の方針といいますか、基本的な考え方をお話しいただけますでしょうか。
中井次官― わかりました。新型コロナの危機ということでここ3年近くにわたり世界中が大変な状況にありますが、今ご指摘があったように、気候変動も今や気候危機ということで、世界中で自然災害が多発しているわけです。
この気候危機への認識が世界で共有されて、かねてから気候変動枠組条約で議論されてきたことがパリ協定として合意され、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、世界が大きく舵を切ろうとしている状況です。
昨年11月にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26でもまさしく気候危機に対する大きな危機感の中で、先進諸国が足並みを揃えて、2050年カーボンニュートラルに舵を切っていますし、2℃目標以上の努力目標である1.5℃目標【1】は、実質的な目標へと格上げされたという認識をしています。
これが何を意味しているかというと、地球に負荷をかける形での人類の発展は、今後はもうかなえられないということです。人間の身体に喩えると、いわば地球が病んでいるわけで、2050年までのあと30年間で健康な状態に戻しましょうということだと考えています。
エネルギー収支バランスをカーボンベースで見たとき、これまで化石燃料依存の大量生産・大量消費を続けてきたことで地球が痛んできたわけなので、そうでない形に、トータルでの地球の吸収能力に合わせたところまでバランスさせるということです。
経済・社会をはじめ、ありとあらゆる面で人類史上の大きな転換という、今まで挑戦したことがないような局面に入っていると認識しています。
そうした中、環境政策として、まさしく持続可能でない、病んだ地球を30年という非常に短い期間で健康体にするという大きな軸が立ったわけです。
病んだ状態が自然災害の多発を招いていますし、コロナのような感染症も人間の土地改変や人口増加による自然との境界線の変更の中で起きた環境問題だと思っています。
このような状態を正常にもっていくということは、人間の身体でいうと病気の症状が出る中で、病気と付き合いながら体質改善を図るということです。
これに対して成長という言い方を私たちはしています。金銭的なマネーベースでの成長ということもありますが、質的に経済や社会の仕組みを変えてライフスタイルの質が上がるということでもあります。
成長としてこの問題を捉えることで、究極的には地球の健康、地域の健康、そこに暮らす人や企業などさまざまな主体の健康――つまり質が高まるということが、環境政策の基本方針の根っこにあるということなのです。
これまではどちらかというと供給サイドのイノベーション政策として気候変動・温暖化の問題を捉えてきましたけれども、2030年までに健康体に変えるためのロードマップは、実は暮らしや地域という、まさしく需要サイドの私たちが日々直面している一人ひとりの感性で納得いく道筋が見えないといけないわけです。
健康体に向けた国としてのビジョンを描き、方向をしっかりと見定めて全体の絵柄を描く役割が環境省には求められています。昨年6月には、官邸の会議体(国・地方脱炭素実現会議)で環境省が地域脱炭素ロードマップを作りました。
大塚― ありがとうございます。社会・経済を含む人間と環境とのすべての関係のまさに中心部分で、環境省が大きな方向性を示していくということだと思います。
そうしますと、政府の中でも経済産業省、厚生労働省、国土交通省、農林水産省など多くの省庁が関係すると思います。そうした中で、環境省が大きな方向性を出しながら調整を進めていくということですよね。
中井次官― それは間違いないですね。到達すべき社会像・経済像・ライフスタイルの姿について、皆さんと協議しながら、その軸をしっかりと見せるのが環境省の役割だと思っています。
例えばエネルギー政策は資源エネルギー庁が所管していますし、排出量の多い産業である鉄鋼業や製造業、化学産業などは経済産業省が所管しています。また物流や交通であれば国交省など、多くの省庁にまたがっていますから、省庁全体で取り組んでいくことになります。
それと同時に、気候危機はやはり地球環境全体の問題ですから、グローバルにつながっていかないといけません。内外一体の展開に、日本の地域で育んだ技術や英知を、アジアやアフリカなど環境衛生に課題があったり、場合によっては人口が増加中のところにまで展開していくという、非常に大きなうねりに日本が主体的に貢献していく絵柄を描いています。地域で足元を固めつつ、世界に打って出るというビジョンを、今はまだボワッという形ではありますけれども、今後より明確にしていく必要があります。
大塚― そこが、なんといっても大事だと思います。パリ協定の内容が昨年のグラスゴーでのCOP26で具体的なところに踏み込んでいきましたが、今お話に出た、途上国をどうするかは非常に大きな問題です。CO2はどこから排出されてもグローバルには同じですから。非常に大事なポイントを、大きな視点からご説明いただいたと思います。
ものをなるべく節約して、使用価値を高めるビジネスモデルの広がりが、究極の省エネ
大塚― 国内での取り組みについて具体的な話を伺えればと思います。この4月から始めようとされている地域脱炭素の取り組みに向けた青写真についてお話しいただけますか。
中井次官― 2050年カーボンニュートラルを考えたとき、2030年度にその約半分に当たる46%、さらには50%の高みを目指すところまでやらなければいけないということです。この時間軸で削減が見えるものをどう展開するかということで、2030年度までに少なくとも100か所以上の脱炭素先行地域【2】を全国各地に、都市型、農山村型、住居型などさまざまなバージョンで作っていきます。地域脱炭素移行・再エネ推進交付金として予算も獲得しましたので、100地域の先陣を切る先行地域をこの4月から選定していきます。
先行地域が目に見える形で浮き彫りになっていくことで、それらに倣った取り組みが始まり、さまざまなESG投資【3】の資金も流れていくことで、各地でカーボンニュートラルの動きが起こり、脱炭素ドミノが起こっていく。それによって、地域活性化や災害対応、まち興しなどの地域課題と両立する、そういう世界をロードマップとして描いています。
最終的には日本全体が面で見てもカーボンニュートラルになっていかないといけません。
産業界でCO2を大量排出している部分については産業界の努力でやってもらわないといけないこともあるのですが、民生部門でも、住宅や物流・移動も含め、今できることに取り組んでいく必要があります。
例えば太陽光発電なら、メガソーラーの適地が少なくなってきている中で、屋根置きのビルや住居のポテンシャルが大変大きいと思っています。ビジネスモデルとしても、PPA方式【4】という、オンサイト・オフサイトのそれぞれで、各企業が自分で創って使うことがどんどん広がっています。FIT【5】に頼らない形での展開もすでに大きなうねりになってきています。
そういった、今ある技術やビジネスモデルで、世の中の動きがカーボンニュートラルに向かっていることを実感できるところにまで、まずはこの5年間で集中的にやらなければいけないと思っています。
ただ、それが再エネ一本足打法になってしまっても、実はいけないと思っています。経済の転換の中で、エネルギーを創るとともに、従来の省エネについても、例えば「サブスク型」という、製造業などの供給サイドがものを売らずに、ものを提供するサービスに対して定期的に経費を得るというビジネスモデルへの転換が見られます。短期間で買い替えたり、モデルチェンジしたりすることで大量に廃棄されてきたものの流れから、資源効率が高まるサーキュラーエコノミーを実現していきます。こうしたサブスク型あるいはシェアリング型など、要するにものをなるべく節約して、使用価値を高めるビジネスモデルがどんどん広がりつつあって、それが究極の省エネだと思います。
また、再エネの場合も、電源が変動することへの調整機能をどうするかが問題とされていますが、最近のDXのテクノロジーを用いるベンチャー企業でのアグリゲーター【6】もどんどん育っています。
AI的な手法でなるべく需給をバランスさせることで効率化させるのに加えて、蓄電機能を高めた廉価の蓄電池もどんどん出てきていますから、EV(電気自動車)の蓄電池などにも使えますし、それをブロックチェーンでつなぐという技術も進んできています。そういった新しい技術やビジネスモデルを活用することで、再エネ一本足だけでなく、この5年間で計画を徹底的に進め、100か所以上の脱炭素先行地域を見せるというのが今のぼくらのイメージです。
大塚― 100の先行地域の中にはさまざまなタイプがあるのでしょうね。
中井次官― その通りです。人が密集している住居地区だけでなく、農山村だと逆に耕作放棄地で再エネを導入できますし、また人がいないところにはスマート農業の手法を入れて、そこにソーラーシェアリングでエネルギーを創ってロボットをモニタリングするような完全にカーボンニュートラルの農業が展開できるとか、いろいろなバージョンが見えている世界でもあります。
廃棄物処理でも、これまでごみが出るのが前提で対処してきた自治体が多いと思います。人口が減っていく中で、焼却炉の建て替えや維持費で苦労していますけれども、水分を含んだ生ごみという形で、あえて“水を燃やす”ことを、費用をかけてやっているわけです。いくつかの先行自治体では、焼却炉をなくして、生ごみを分別しすべて堆肥化することをやっています。
ものを資源として捉える発想で、製造業でも商品設計の段階から素材を資源化できるものや、部品として代替可能なものにするといった取り組みが求められます。特にその典型となるのがプラスチックで、4月からはプラスチック資源循環法が施行されます。
脱炭素ドミノによって、取り組みを広げて、2050年までの大きなうねりにしないといけない
大塚― 100か所というとかなり多いと思われますが、ある意味では、もともと環境省が力を入れて省エネなどにいっしょに取り組んできた地域もありますよね。
中井次官― そうです。もともと地域循環共生圏でお付き合いしている自治体もあります。ぼくらはさらにその先を考えていまして、これを面的にすべての地域で展開して、脱炭素ドミノを起こすのです。環境のことは廃棄物しかやっていないといった自治体や、職員や専門家がいないといった自治体もありますから、この1年・2年で先行地域の動きを見てもらいながら、対話をして、キャパシティビルディングとして人的な部分やノウハウの部分の底上げを、合わせてやらないといけないと思っています。
大塚― もう少し踏み込んでお伺いできればと思うのですが、例えば100の地域を選定するときにいろいろなタイプが入ることを考えると、かなり小さな自治体から大きな自治体まであると思います。どちらもそれぞれ課題があると思いますが、どう進めていこうとされているのでしょうか。
中井次官― 自治体全体のエリアというよりは、自治体のなかで、例えば大学が中心になったキャンパスエリアや、住居地区、農業エリアなどのバリエーションの中で、もっともモデルになりそうなところをまずは選びながら進めていくというイメージです。
大塚― 先ほど次官が言われた、実感するというのがすごく大事だと思います。今のお話を伺っていると確かにいろいろなタイプの先行地域ができて、それがそれぞれアイデアを出しながら進めていくというのが、わかりやすい手法かなと思います。
中井次官― ドミノになるようにしないといけませんから。
これまでの環境未来都市やSDGs未来都市などでは、環境的に先行しているところを表彰するという意味合いで選定されていましたから、日本全国を押しなべて底上げするという発想はありませんでした。今度の脱炭素地域では、多様な土地の事情があるのでいろいろなバージョンがありますが、先行地域に倣ってどんどん取り組みを面的に広げていって、2050年までの大きなうねりにしないといけないという話なのです。
大塚― その司令塔を環境省がお務めになるわけです。日本政府はもちろんですが、日本中の多くの自治体での動きをどうサポートしていくのでしょうか。
中井次官― そこが大事です。北から南まで多様な地域がありますから、本省だけでは到底できません。環境省の地方環境事務所が全国で7ブロックあります。今回、地方環境事務所と本省の定員が137人増員されますので、北から南まで地域脱炭素のセクションに多くの職員を入れることにしました。福島の原発事故対応以外では過去最高の職員の増加です。
それらの新しいメンバーのリクルートでは、実は、地域の金融機関やエネルギー会社、自治体などから来てもらうことを予定しています。そして、地方環境事務所が各ブロックのハブになり、インフラ系なら整備局とか、経産省の経産局、財務省の財務局、農水省などとのワンストップ的な連携をしていくためのコントロールタワーになり、各地域の状況を聞きながら、ご相談に乗りながら、進めていくという体制を構築してきています。
大塚― 日本は、国土全体の面積は別として、非常に大きな多様性があります。特に気候変動適応の話を伺っていると、日本は世界的に見てもモデル的な役割を果たすのに大変適しているということをお聞きしたことがあります。今のお話をお聞きしていて、非常に現実的なイメージが湧いてきました。
こうしたお話は、環境省がもともと力を入れていた地域循環共生圏の中核になるという理解でよろしいでしょうか。
中井次官― まさしく、地域循環共生圏という中で、脱炭素に関して時間軸がしっかりと立ちましたので、その意味で、バージョンアップしてやっていこうというのが、地域循環共生圏からカーボンニュートラルの展開です。
ですから、地域循環共生圏と脱炭素地域づくりが別物というわけではありません。
脱炭素というのは、何度も繰り返させていただきますが、エネルギーという断面で、地球や地域にかかっている負荷を修正する、エネルギーをCO2のベースで見ようというメルクマールです。
地域全体、人も地域も健康で持続可能であるというのが地域循環共生圏です。そこには3つのエレメントがあって、エネルギーの断面でいうと脱炭素をめざすことです。もののつながりの断面でいうと、リニアの大量生産・大量消費が無限の資源を持ってきて、無限に海にも捨てていたのを、すべてのものがつながっている有限系の中で身の回りのものをしっかりとまわすという発想で、ただそこで足りないものは次のステージで、ネットワークしていくという、ネットワーク系の地産地消・自立分散の地域循環の話です。
もう一つは空間の断面で、あまりにも一極集中になっている人工空間の空間配置を、生態系と調和する分散型で生態系調和の自然共生社会にするということです。
今、コロナ対策で3密ということがいわれているように、地形や生態系を無視して、人間の勝手な都合で作り上げてきた人工空間のひずみが出てきていると思います。今の社会ではデジタルツールもあるからこそワーケーションなども可能になっているわけですから、もっと自然に帰れ、自然の声を聞けということです。
地域やものの健康体のイメージは、エネルギー収支をCO2で見て、かつ、もののつながりを極力サーキュラーなものにしていくという循環の発想にして、もう一つ空間配置でも今の時代だからこそできる自然生態系と調和した配置にしていくという3つがセットになって、地域循環共生圏になるのです。
そのうち、カーボンの部分で2050年までにカーボンニュートラルという時間軸が立ったことで、みんなで本気で、ここが正念場で、特に2030年までの10年が大変ですよというのが、現在のステージという理解です。
公害問題から始まった役所として、ビジョンを描くとともに、ともに汗を流して取り組んでいく
大塚― はい。すごくわかりやすかったです。ありがとうございます。
広い意味で、環境のありようについて、今までの発想を一度ひっくり返してみようということです。お聞きしていて、個々のものをばらばらに理解することでわかりやすいような気がすることもあるわけで、そのこと自体が問題なのだと感じました。
中井次官― そうですね。病気になっているものを健康体にする、健康体のイメージにはいろいろな見方がありますが、同じものをエネルギーの断面で見る、もののつながり方で見る、そして空間の配置で見るというその3つくらいは少なくともちゃんとしましょうねというのが、申し上げたイメージです。
環境省は、水俣をはじめ、公害問題から始まった役所ですから、やはり人と環境を守るというミッションをもって、一度壊れた環境を原状回復し、人の健康を取り戻すという地道で大変なことに取り組んでいるわけです。
いまだに水俣病は終わっていませんし、そのあとに大きな問題として、東日本大震災・福島第一原発の事故からの福島の復興という課題を抱えています。環境省の職員は環境回復が大変だということを身に沁みながら、地元の皆さんと密に対応させてもらいながら日々取り組んでいるのです。
脱炭素でも、地球全体が気候危機という病気から快復すること、原状回復ですよね、これを本当にやり切るというコントロールタワーになるには、絵だけ描いてあとはやってくださいというのでは誰もついてきてくれません。大きな向かうべきビジョンを描いて、それに向けてともに汗を流して最後の1人まで取り残さないという迫力を持つ。その両方をやる役所なのです。
大塚― よくわかります。今最後におっしゃっていただいた福島のことも、10年が経ったわけですが、大きな方向性を持ちながら、具体的な場面で対応していくということですね。
中井次官― そうですね。お約束をしながら、一つ一つ約束したことをクリアしていくというプロセスにこの10年間はあったと思います。例えば除染について、帰還困難区域を除くと全ての市町村で面的除染が完了しており、除染により発生した土壌等を、中間貯蔵施設という福島第一原発の周りの土地を取得させてもらったところに輸送しているのが、帰還困難区域のものを除きほぼ9割が完了している状況になっています。概ね搬入完了するという中で、福島県内の皆さんが普通に暮らしているところからは汚染物質を含む土壌等がもう見えない形にはなるけれど、最終処分に関しては中間貯蔵開始から30年後までに県外に出すことをお約束していますから、今後、最終処分までにどれだけ再生利用できるものがあるかなどの吟味をしっかりとやっていかないといけません。
一つ一つお約束したことを現地の皆さんの目線でやってきたという実績のある役所なので、この大きな地球環境の危機についても、新たに豊かで元気な日本へと転換し、また地球全体でも問題を克服していくという、そういうつながりを感じています。
ここからの10年が勝負の10年
大塚― 今日は、気候危機という地球が病んでいる状態を直すということから話を始められ、非常にわかりやすいお話しをいただいたと思います。最後になりますが、中井次官から改めて読者へのメッセージとしてお話しいただけますでしょうか。
中井次官― カーボンニュートラルは、本当にもう戻らない大潮流です。自然災害のリスクなど、世界中の人々が自分事として感じるほどの危機になっています。
日本の場合、バブル崩壊後の20年から30年、真っ当な成長マネーの投資が実はなかったのではないかと思っています。少子高齢化を予想はしたものの、国の財政への影響や年金医療への関係など、これほどマグニチュードがあるとは想定できていなかったと思います。なんとなく後手後手に、制度があるから国民の負担が増えているというところで止まっているときに、経済や地域を本当によくしようという投資を、国家として実は予算削減してきたのです。ぼくも農林予算の担当をしてきましたけれど、本来ならもっと伸ばすべきところを切り詰めてきた。要するに投資を切りながら、社会保障の予算が増えるというところで対応してきたこの国家が、今、いわばESGという民間のお金の流れを見ても、経済社会の体質改善と、さらに持続するためのお金を流そうという流れになってきたと思います。
自分たちに危機が迫ってきているからこそもう一度生まれ変わって、生きる投資になってきたわけです。これは世界的にむしろ先行してきた流れで、もはや止められない流れです。日本もここからの10年が勝負の10年だと思います。
大塚― ありがとうございました。カーボンニュートラルに向けた舵取りをよろしくお願いいたします。
- 【1】1.5℃目標
- 世界の平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えること。2015年に採択されたパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して「2℃よりも十分低く」抑え(2℃目標)、さらに「1.5℃に抑えるための努力を追求する」(1.5℃目標)という目標を掲げている。
- 【2】脱炭素先行地域
- 2050年までに脱炭素社会(カーボンニュートラル)を実現するための先駆けとして、2030年までに全国で100地域の選定が目標とされている。選定される地域は、地域特性に応じた手法を活用し効果的・効率的に温室効果ガスの排出削減に取り組み、民生部門では電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロの実現が求められる。
- 【3】ESG投資
- 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮した投資のことで、SDGsの達成に向けたプロセスの一部。
- 【4】PPA方式
- Power Purchase Agreement(電力供給契約)方式の略で、電力事業者と電力需要者との間で締結する。PPA方式では、電力事業者が電力需要者の所有する敷地や屋根などのスペースに太陽光発電設備などを無償で設置して電力を供給し、需要者は消費分の電気料金を支払う。このため、需要者にとっては初期費用やメンテナンスが不要となり、災害対策電源としての活用もできる。電力事業者は発電した電力分から利益を得る。
- 【5】FIT
- 固定価格買取制度のことで、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電され、この制度により電気事業者に買い取られた電力をFITという。なお、FIT制度は再生可能エネルギーの導入初期における普及拡大を主目的とした時限的な措置。
- 【6】アグリゲーター
- 「アグリゲート(Aggregate)」する人や組織のこと。アグリゲートとは英語で「集める」「合計する」などを意味する。再生可能エネルギーの分野では、分散型電源等の電力を集めて、蓄電池等と組み合わせて需給管理をしながら、電力供給を行う役割を担う。
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