一般財団法人環境イノベーション情報機構
エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.073

Issued: 2018.01.22

第73回 環境省事務次官・森本英香さんに聞く、2018年の環境行政の展望

森本 英香(もりもと ひでか)さん

実施日時:平成30年1月10日(水)
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:森本 英香(もりもと ひでか)さん

  • 大阪府出身。東京大学法学部私法学科、政治学科卒業。
  • 昭和56年環境庁入庁。大臣官房廃棄物・リサイクル対策部企画課長、総合環境政策局環境保健部企画課長、大臣官房総務課長、大臣官房秘書課長、国際連合大学(日本国)、大臣官房審議官、内閣官房内閣審議官・原子力安全規制組織等改革準備室長、原子力規制庁次長、大臣官房長等を経て、平成29年7月より現職。
目次
生活の質を高め、新しい成長につながる環境行政へ
脱炭素社会に向け、前向きなルールづくりを
復興から創生へ、人々の営みをつなげていく
海外貢献、環境ビジネスの育成を視野に入れた循環型社会づくり
「国立公園満喫プロジェクト」などを通じ、質の高い自然環境保全を
原点のリスク管理を常に忘れず、新しい成長への取り組みを進めたい
環境行政と親和性の高いIoTの積極活用、農業と環境の政策融合

生活の質を高め、新しい成長につながる環境行政へ

大塚理事長(以下、大塚)― あけましておめでとうございます。年頭にあたり、環境行政の責任者である森本英香環境事務次官からお話を伺うことになりました。大変お忙しいなか、エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。個々の課題について伺う前に、環境省として、本年の環境行政の重要項目や基本方針についてお話しいただけますか。

森本さん― 環境行政も激甚な産業公害対策、国立公園管理からスタートして、長い間にどんどん変化し、今現在は「地球環境問題」、「循環型社会づくり」、「自然との共生」この3つが大きな課題になっています。 また、「福島の復興」については昨年新しいフェーズに入ったと考えています。
これらの環境問題に正面から取り組むことで、さまざまな社会課題、例えば過疎化の問題や少子化の問題、あるいは経済成長の問題、生活の豊かさの問題等を同時に解決することにチャレンジします。環境行政の根幹「環境リスクの低減」は変わりませんが、そのことを通じて、生活の質を高め新しい成長につながる取り組みを進めたいと考えています。


脱炭素社会に向け、前向きなルールづくりを

COP23での大臣ステートメント

COP23での大臣ステートメント

大塚― 今のお話から、成長の中にあっても「環境」が前に出ていくという方針が伝わりました。まず、地球温暖化すなわち気候変動のことから詳しくお伺いします。国内はもちろん国際的にも気候変動の問題はますます大きくなってきて、昨年11月にボンで開かれたCOP23で、パリ協定の実施指針の策定に向け、一定の進捗があったと理解しております。今年はポーランドでCOP24が行われますが、日本はその実施指針、ルールブック作りにどのように関わっていこうとされているか、基本的な方針をお聞かせいただければと思います。

森本さん― 昨年のCOP23に参加された中川環境大臣は、世界が「脱炭素」に向かって大きく動き出しているのに対し日本の動きがまだ鈍いのではないかと、非常に危機感を持って帰ってこられました。石炭火力輸出推進をめぐって、国際社会から批判されたことについても同様です。国際社会の新しいルールづくりを日本はリードする力があると思うのですが、必ずしもリーディングカントリーになっていない。こうした危機感をベースに、COP24のルール作りに前向きに取り組んでいきます。日本としては、温室効果ガスの26%削減という2030年目標に加えて、2050年80%削減という長期戦略策定が大きな課題になっています。その作業を加速し、COP24に向かいたいと思っています。

大塚― お話にあった2050年の80%削減は、まさに国際的スタンダードだと思うのですが、身の周りを見ても達成は大変だなという感じが拭えません。構想の概略だけでもお話いただければと思います。

森本さん― 現状では、長期戦略の具体的なフレームワークの議論がまだ進んでいません。環境省としてカーボンプライシング【1】を含め検討段階です。今後、経済産業省含め関係省庁と連携して長期戦略をしっかり作っていきたいと考えています。具体的には、再エネのポテンシャル【2】を顕在化させることがひとつの鍵だろうと思います。


復興から創生へ、人々の営みをつなげていく

新宿御苑イベントで、楢葉米のPR

新宿御苑イベントで、楢葉米のPR

大塚― 次にお伺いしたいのは、7年目になる東日本大震災についてです。面的な除染はほぼ完了に近いと聞いておりますが、中間貯蔵施設の整備についても目処はつきつつあるのでしょうか。

森本さん― 中間貯蔵施設については、現在、地元の方々のご理解を得て、土地の確保、施設整備が順調に進んでいます。施設も昨年一部稼働いたしましたし、今後は約1600万〜2200万m3の除去土壌等を、事故のないように円滑に中間貯蔵施設に運び込むというフェーズに入っていきます。

大塚― これからまさに、復興から創生のフェーズに入っていくのですね。

森本さん― はい。内堀福島県知事からも、復興から創生段階に入っていると言われています。今後は福島の帰還困難区域の復興拠点も含めて、帰還できるような環境を整備していきます。環境省関連で言いますとリサイクルや再生エネルギーの営みを進められるよう取り組んでいきたいと思います。

大塚― 復興と創生は幅広い環境行政が目指す好例だと思います。最後におっしゃられたように、新たな営みが始まり、新たな段階に入っていくのですね。

森本さん― そうですね。現地でリサイクルビジネスを始めたいという企業もありますので、是非立地を促進していきたいと思っています。

大塚― もうひとつ、放射線被爆の問題は、福島の方々は気にされていると思うのですが、環境省としてどのように認識されているのでしょうか。

森本さん― 福島の放射線濃度は大きく低下しています。食品の安全性は徹底的にモニターされています。一方で、科学的根拠のない風評被害が相変わらず残っているのが現状です。福島の方、あるいは福島県以外の方々が漠然とした不安を持たれないよう、リスクコミュニケーションが重要だと思っています。

大塚― どのようなことをお考えなのでしょうか。

森本さん― 特に福島県外の方々に対するリスクコミュニケーションに力を入れたいと考えています。例えば昨年11月に新宿御苑で、福島の産品の紹介と、福島の現在の状況をアピールするイベントを開催したところ、非常にたくさんの人々が来てくれました。さまざまな場所や場面を活用して、復興庁等とも協力してそういった具体的な取り組みを粘り強く進めていきたいと思っています。


海外貢献、環境ビジネスの育成を視野に入れた循環型社会づくり

廃棄物発電焼却施設竣工式(ミャンマー)

廃棄物発電焼却施設竣工式(ミャンマー)

大塚― 話を変え、冒頭で挙げていただいた循環型社会についてお聞かせください。昨年はバーゼル法(特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律)の改正などがあり、国際的な動きがさらに進んでいくような気がいたします。

森本さん― 昨年、バーゼル法と廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)の改正をいたしました。改正の主旨は、国際的な循環の中で都市鉱山をしっかりと活かしていくという観点です。有用な資源である電子部品が雑品スクラップという形で海外に流れ出し、不適正処理されてきたため、それを止める必要があり改正しました。

大塚― バーゼル条約を国内で適用すると同時に、適正な取引を通じてリサイクル資源の価値を担保されたのですね。

森本さん― 循環ビジネスの育成、海外展開を支援したいとも考えています。東南アジアでは廃棄物をダンピング【3】しています。都市を清潔にするという観点から、廃棄物の焼却を推進していこうという動きがあり、日本が持つ優れた廃棄物発電の技術へのニーズが高まっています。これまで、ミャンマー・ベトナム・インドネシア・フィリピンなどで、廃棄物発電のフィージビリティスタディ【4】をしてきて、昨年はミャンマーで実機の運用がスタートしました。フィリピンのダバオでも、具体的な事業が動き出しています。このほか、省エネ施設やソフト、浄化槽などの環境インフラの輸出を、どんどん進めていきたいと考えています。

大塚― 日本の強みを活かした国際環境貢献にもなりますね。

森本さん― 昨年、フィリピンで行われた日本、中国、韓国とASEAN(東南アジア諸国連合)の会議で、総理から「日ASEAN環境協力イニシアティブ」【5】を打ち出していただきました。これから海外インフラ輸出の大きな柱になっていくと思います。


「国立公園満喫プロジェクト」などを通じ、質の高い自然環境保全を

大塚― 3つの柱の最後に、自然共生がありました。「国立公園満喫プロジェクト【6】」をはじめとした取り組みが進んでいますね。日本の国立公園を活用して、特に外国人の方に見ていただこうというという発想は非常に素晴らしいと思います。

森本さん― 「国立公園満喫プロジェクト」では、海外からの訪問者を2020年に1千万人にするという目標を立てています。海外の人に見てもらえるような質の高い自然環境を守り、かつ磨きあげ、豊かな自然と人が共生する国立公園にすることが目的です。現在、日本に34ある国立公園のうち、8つをモデル国立公園に指定し、質の高い宿泊施設造り、廃墟になった施設の撤去、あるいはビジターセンターの民間開放など、プロジェクトは順調に進んでいます。通常よりも多い予算をいただいており、自然を守る施設整備や事業も進めたいと考えています。

阿寒摩周国立公園 摩周湖・逆さ摩周岳(写真提供:環境省)

阿寒摩周国立公園 摩周湖・逆さ摩周岳(写真提供:環境省)

十和田八幡平国立公園 奥入瀬渓流(写真提供:環境省)

十和田八幡平国立公園 奥入瀬渓流(写真提供:環境省)

日光国立公園 戦場ヶ原トレッキング(写真提供:環境省)

日光国立公園 戦場ヶ原トレッキング(写真提供:環境省)

伊勢志摩国立公園 横山展望台(写真提供:環境省)

伊勢志摩国立公園 横山展望台(写真提供:環境省)

大山隠岐国立公園 島後・塩の浜(写真提供:環境省)

大山隠岐国立公園 島後・塩の浜(写真提供:環境省)

阿蘇くじゅう国立公園 ミルクロード(写真提供:環境省)

阿蘇くじゅう国立公園 ミルクロード(写真提供:環境省)

霧島錦江湾国立公園 霧氷と韓国岳(写真提供:環境省)

霧島錦江湾国立公園 霧氷と韓国岳(写真提供:環境省)

慶良間諸島国立公園 北浜ビーチ(写真提供:環境省)

慶良間諸島国立公園 北浜ビーチ(写真提供:環境省)


原点のリスク管理を常に忘れず、新しい成長への取り組みを進めたい

大塚― 生活の質の向上など、新しい視点をたくさんお話いただきました。他にも森本さんがお考えのことをお話しいただけますか。

森本さん― 私自身、三十数年にわたり、環境行政に関わってまいりました。この間の流れをみると、非常に幅も広がり、かつ内容も豊かになってきたと思います。けれども、やはり環境省の原点というのは、「環境リスクをいかに減らすか」にあります。水俣病、あるいは四日市ぜんそくの教訓もしかりです。「人と環境を守る」という基本的なコンセプトをベースに、リスク管理を常に忘れてはいけないと考えています。そのうえで、先程申し上げたような新しい成長につながるような取り組みを展開するという構造が大切で、職員全員で意識して取り組んでいきたいと思っています。

環境行政と親和性の高いIoTの積極活用、農業と環境の政策融合

大塚― 先を見据えたお話をたくさん伺わせていただき、ありがとうございました。さらに将来に向けた、森本さんのお考えを伺いたいと思います。

森本さん― IoT【7】と農業の2つの話をさせてください。まずIoTですが、IoTの動きは環境政策と親和性があると思います。今までは、たくさん資源を使い、たくさんエネルギーを使って豊かな生活を実現していた。これに対し、資源を有効に活用する、あるいは使用するエネルギーもできるだけ少ない生活をするうえで、IoTは大きく貢献すると思います。IoTと環境政策をどうやって結び付けていくかというのが大きな課題であり私の関心事です。

大塚― 今おっしゃられたIoTもそうですが、ネットワークづくりがこれからの大きな方向性ですね。

森本さん― そうですね。例えば、サービサイジング【8】などは、本当に環境政策そのものじゃないかと思います。

大塚― もうひとつの、農業についてお願いします。

森本さん― 農業と環境ですが、農業政策と環境政策は、実はとても近いところにあるにも関わらず、必ずしもつながっていません。もっとつなげていく必要があると考えています。日本の自然は、人が関わることによって維持される部分がかなりあります。環境省が「森里川海プロジェクト【9】」を進めているのもまさにこの点で、環境政策をもっと農や林、水産業という自然に関わる営みに近づけ、新しいライフスタイルを作っていければと思いますね。

大塚― 環境省の新しい取り組みを含め、今年の活動に大いに期待しております。本日は本当にありがとうございました。

環境事務次官の森本英香さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。

環境事務次官の森本英香さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。


【1】カーボンプライシング(Carbon Pricing)
二酸化炭素(CO2)に価格を付け、企業や家庭が排出量に応じて負担することで、CO2の排出削減を促す施策の総称。
【2】再生可能エネルギーの導入ポテンシャル
エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因による設置の可否を考慮したエネルギー資源量。
【3】ダンピング(dumping)
ごみなどの投げ捨て。
【4】フィージビリティスタディ(feasibility study)
「実行可能性調査」「企業化調査」「投資調査」「採算性調査」とも呼ばれ、プロジェクトの実現可能性を事前に調査・検討すること。
【5】日ASEAN環境協力イニシアティブ
2017年11月の日本、中国、韓国と東南アジア諸国連合(ASEAN)による首脳会議において、日本はASEAN地域での持続可能な開発目標(SDGs)達成に向け、これまでの協力を抜本的に強化推進し、質の高い環境インフラ の普及と様々な分野(生物多様性、海洋汚染など)での環境協力プロジェクトを包括的かつ重層的 に促進する提案した。このイニシアティブは、日ASEAN 統合基金(JAIF)に加え、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)と連携して実施される。
【6】国立公園満喫プロジェクト
2020年の訪日外国人旅行者数を4,000万人とすることを目指して取りまとめられた政府の「明日の日本を支える観光ビジョン」に基づき、日本の国立公園を世界水準の「ナショナルパーク」としてブランド化を図るプロジェクト。平成28年7月25日の第3回国立公園満喫プロジェクト有識者会議の議論を踏まえ、環境省は、阿寒摩周、十和田八幡平、日光、伊勢志摩、大山隠岐、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島の8国立公園を選定した。
【7】IoT
Internet of Things(モノのインターネット)の略で、ありとあらゆるモノがインターネットに接続し、サーバーやクラウドサービスに接続しているシステム。あらゆる情報が集約されてデータの分析処理を行い、ものごとの最適化やより高い価値、サービスを生み出すことができる。
【8】サービサイジング(servicizing)
製品として販売していたものをサービス化して提供すること。「脱物質化」につながる可能性があるため、環境負荷低減、そして持続可能な生産と消費に寄与しうる。
【9】森里川海プロジェクト
2013年に始まり、2016年に「森里川海をつなぎ、支えていくために」と題する提言を発表。提言では、「森里川海を豊かに保ち、その恵みを引き出す」ことと「一人一人が森里川海の恵みを支える社会をつくる」ことを目標に、地域の草の根の取組、実現のための仕組みづくり、ライフスタイルの変革などの具体的アイデアが示された。現在、地域におけるモデル事業とライフスタイルの変革に向けた普及啓発等を実施している。