No.014
Issued: 2013.02.08
日立製作所・小豆畑茂副社長に聞く、日本のリーディング企業による環境への取組とその役割
実施日時:平成25年1月23日(木)10:30〜11:00
ゲスト:小豆畑 茂(あずはた しげる)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
- 株式会社日立製作所 代表執行役 執行役副社長 日立グループ最高環境戦略責任者
- 1975年 株式会社日立製作所入社。2008年1月 地球環境戦略室の立ち上げを経て、2011年4月より 従業員32万人、グループ会社900社に及ぶ日立グループの環境戦略を推進する、日立グループ最高環境戦略責任者に就任。
事業そのものが環境に貢献する仕組みに変えていかなければ、永続しない
大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただき、誠にありがとうございます。小豆畑さんは、日立グループの環境戦略の最高責任者として企業活動における環境保全対策、さらには環境重視型社会を創出するための企業の役割などの分野で活躍されておられます。本日は、グローバル企業の環境戦略についてお考えを伺いたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。
貴社は関連会社を含め900社もあり、まさに多様な分野をカバーされておられますが、日立製作所全体としての環境戦略の原点と申しますか、環境保全および環境創造の面で、最も重視されている考え方をご説明ください。
小豆畑さん― 世界共通の課題である環境問題に対処するには、環境への負荷を限りなく低減し、持続可能な社会を実現しなくてはなりません。日立は、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念のもと、「持続可能な社会」を目指すべき将来像として、「地球温暖化の防止」「資源の循環的な利用」「生態系の保全」を3つの柱とする環境ビジョンを掲げています。そのためのマイルストーンとして、2025年に向けた長期計画である「環境ビジョン2025」を策定しています。その根底には、我々の事業そのものが環境に貢献する仕組みに変えていかなければ、永続しないという認識をもっています。
大塚― 考え方はよくわかりました。もう少し具体的にご説明いただくとどうなりますか。
小豆畑さん― 省エネルギー型の製品や、CO2をできるだけ出さない電源をつくることが具体的な目標ともいえます。言い方を変えますと、環境を損なう製品をつくらないという我々自身への縛りでもあります。日立がつくるすべての製品を、このビジョンに沿うようにすることを大きな方針として進めているところです。
大塚― 循環型社会をつくることが、グローバルな視点からも最重要の課題と思います。製品をつくる基本的な考え方をお話しいただきましたが、企業にとってはライフサイクルアセスメントの視点が重要なのでしょう。企業が原材料を入手して製品をつくり、消費者が購入して使用し、最終的に廃棄にいたる過程を、できる限り循環型に近づけることではないかと理解いたしました。今言われたことと重複するかもしれませんが、日立製作所あるいは日本のリーディングな企業としてのお考えを伺えればと思います。
小豆畑さん― もちろん、製品のライフサイクルのそれぞれの段階で、環境負荷の低減をめざしています。ライフサイクルの視点としては、日立では、開発・設計段階で環境に配慮すべき具体的な内容を定めた、「環境適合設計アセスメント」による評価を1999年度から導入しています。具体的には、素材の調達から生産、流通、使用、処理にいたる各段階における環境負荷を8項目に分け、各項目で5段階評価し、所定のレベル以上の製品を「環境適合製品」と認定しています。「環境適合製品」は2011年度に80%に達していますが、これを100%にするよう取組んでいるところです。
大塚― 使用済みの製品の扱い、具体的にはリサイクルについてはいかがでしょうか。
小豆畑さん― 日立は早いうちから家電製品のリサイクルに着手していた経緯もあり、その進展に力を注いできました。ハードディスクからのレアアースの回収などにも着手しています。
一般に廃棄物を集めリサイクルするにはコストがかかることは事実です。さまざまな製品でリサイクルを進めていくためには、社会全体としてのコンセンサスが不可欠だと思います。
トップダウンで決めた「環境ビジョン2025」を浸透させるため、各グループ会社を回った
大塚― お話しはよくわかります。
具体的な質問です。日立製作所は大変大きな組織ですので、お話しいただいたような環境に関する方針はどのように決定され、どのように全体で共有されているのでしょうか。地球環境戦略室の役割も含めてご紹介ください。
小豆畑さん― 日立グループ全体の環境経営は、日立製作所の地球環境戦略室が推進しています。地球環境戦略室が活動方針や行動計画などを立案し、日立製作所の社長を議長とする環境経営会議で審議し決定します。その決定を最終的に日立グループ全体で共有する仕組みになっています。
施策によって違いますが、たとえば2025年までにCO2の排出量を1億トン減らそうという方針は、トップダウンで決めました。とはいえ、グループ会社はそれぞれ独立した会社ですから、この方針を浸透させるために、各グループ会社の社長さんや環境の担当者に集まってもらい、この方針で進めることになったので協力してくださいと説明して回りました。そのとき、グループ全体で環境への取り組みをすすめていく意識を高めるために、30 万人以上の全従業員に「日立の樹」をデザインした環境シンボルバッジを配っています。
大塚― 大変な作業だったと思いますが、何年くらい前のことなのですか。
小豆畑さん― 2007年から2008年にかけてです。
その当時、地球環境戦略室は3人の体制で活動をしていました。この環境戦略をさらに浸透させるには人数が不足だったので、主に環境管理を担っていた環境本部の14〜5人と合併して進めました。環境の戦略を練る部署と、管理に責任をもつ部署が一緒になることへの課題もあったのですが、現在もこの体制で運用しています。
大塚― 進めていく上での具体的な様子もご紹介いただけますか。
小豆畑さん― たとえば家電製品はまさにそうですが、環境への配慮がいきとどかない製品は売れない、省エネがどのくらい達成できたかが競争軸になる製品をつくっている会社があります。それに対して、環境への配慮が製品の競争軸につながりにくい製品を製造している会社もあります。後者のタイプの会社でコスト意識が強い会社ですと、環境への取り組みが会社の運営にマイナスになると感じるかもしれません。このタイプの会社で、環境配慮について我々が詳しく説明しなければならなかったケースもありました。今はまったく違和感なく受け入れてもらっています。
大塚― CO2の1億トン排出抑制など、「環境ビジョン2025」で取り組んでおられる目標への進捗状況はいかがでしょうか。
小豆畑さん― 全体として進捗している方向ではありますが、目標値をめざして気を緩めないでやっていこうと思っています。
2011年度にCO2の排出を抑制した量は1,809万トンと推定しています。カナダでの高効率の火力発電や中国での水力発電、それに国内での省電力化した情報システム、家電製品、産業用機器など、日立グループが取り組んでいる幅広い製品とサービスがCO2の排出抑制に貢献しています。しかし、東日本大震災の影響で、電力施設の導入が大幅に変更になったこともあり、残念ながら目標に到達できませんでした。今後、取り戻していこうと考えております。
我々の役割は、ユーザーがCO2を減らすのに貢献する製品を提供すること
大塚― 先ほど伺った循環型社会の形成とも関連しますが、製品を製作する企業と使用するユーザーは、ある意味では協働する必要があると思います。企業からのユーザーへの期待については、どうお考えでしょうか。
小豆畑さん― 「環境ビジョン2025」では、「2025年度までに製品を通じて年間1億トンのCO2排出抑制に貢献する」という目標にしています。日立製作所あるいは日立グループが提供する製品にはお客様に使っていただく時点でCO2の排出が最も多くなるものが多数あります。そのため、お客様との協働なくしては、効果的なCO2排出量の抑制はできません。上手にCO2の削減をしていただくためにも、我々の製品を使っていただくお客様には、たとえば冷蔵庫の詰め込みすぎを避けるなど、製品を適切に使用していただきたいと思っています。
大塚― 世界的にも日本でもそうですが、太陽光発電などの自然エネルギーと原子力発電を中心に、エネルギー供給をどうするかが大きな問題になってきました。中長期的な視点を含め、どのような姿を描いておられますか。
小豆畑さん― 持続可能な社会をめざすためには、電力は太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーでまかなうことが理想です。しかし、今はすべてを自然エネルギーでまかなえるまでの技術レベルには達していません。自然エネルギーはコストアップになるので、その分だけ固定価格買取制度などで手当しなければならない状況です。エネルギーについてはベストミックスを考えざるを得ないと思います。日立は、資源や人口などのさまざまな制約条件に配慮しながら、技術の一長一短を踏まえ、多様な電源の適切な組み合わせをめざしたいと考えています。
大塚― エネルギーのベストミックスについて、さまざまな角度から検討され合意に達することを期待したいと思います。
ところで、日立は生態系の保全でもいろいろな取り組みをされています。ボランティア活動という側面もあるかもしれませんが、神奈川県秦野市の「ITエコ実験村」で行っている「環境情報見える化システム」についてもお伺いできればと思います。
小豆畑さん― 我々が事業活動の中で生態系の保全に貢献してきた例として、発電所の排気から酸性雨の原因物質であるNOx(窒素酸化物)を減らす脱硝とSOx(硫黄酸化物)を減らす脱硫を進め、さらにはダストの発生量を大幅に減らす装置を開発したことがあげられます。また、自然保護への社会貢献として、社員のボランティア活動による植林なども進めています。
ご質問にあった秦野市にある「ITエコ実験村」では、休耕田の再生や里山の回復をしながら、ITが生態系の保全にどのように活用できるか検討しています。「環境情報見える化システム」は、日立のIT機器を用いて温度、湿度などの環境情報の収集や動植物などの観察などを行うものです。先ほどお話ししたように、製品を通じて生態系の保全に貢献する一端になればと考えています。
先進国では、環境問題は国による規制などの社会的な仕組みを創って解決してきた
大塚― 国際的なことについてお伺いします。日立グループが目指している「地球温暖化の防止」「資源の循環的な利用」「生態系の保全」のどれをとっても、途上国はまだまだ取り組みが遅れています。日立グループが行っている国際的な事業展開では、どのような点を重視しておられるのでしょうか。
小豆畑さん― 途上国では、経済が発展するのにあわせるように、都市への人口集中に伴うゴミ処理の問題とか、大気汚染などの問題が出てきます。日本の発展を振り返るとわかるように、発展途上国は先進国と同じような道を辿っています。それぞれの国の事情に合わせ、一緒に解決に取り組んでいかなければなりません。たとえば、途上国では水の問題が非常に深刻で、自然界の水をそのまま飲んで下痢しないところは少ないでしょう。水処理による安全な飲料水の供給が必要ですから、水をきれいにするよう一緒に活動していかなければと考えています。
大塚― 水と空気は最も基本的な環境要素で、途上国では多くの人びとの健康に深刻な影響を及ぼしています。
小豆畑さん― ある見方をするなら、汚染された空気をきれいにする装置は、モノを創りだしてはいない、コストになっているといえます。端的に言えば、環境をよくするけどモノを生産しない装置にお金を使う必要はないという考えもあります。先進国でもかつてはそういう考え方に近かったわけですから。そのような状況に対し、先進国では、環境問題は国による規制などの社会的な仕組みを創って解決してきたのです。
このような社会的な仕組みに加え、グローバルな視点で環境負荷低減の普及に欠かせないのが国際的な標準化です。日立は、環境マネジメント手法や製品の環境配慮技術の国際標準化に積極的に取組んでいます。
環境保全あるいはよりよい環境の創出のための投資が、経済危機から抜け出す引き金になることを期待
大塚― お話を伺っていて、当然のことではありますが、企業活動が社会の中で機能していることがよくわかります。EICネットのユーザーの方々の多くも企業に勤めておられます。現在は、世界的にも長期的な不況といえる状況ですが、小豆畑さんは現在の状況の中でどのような方向を目指すべきとお考えでしょうか。
小豆畑さん― 5年前でしたか、リーマンショックが起きて、世界的な経済不況がはじまりました。それより昔には、不景気になると環境への配慮は言い出せなくなると考えられていました。しかし、オバマ大統領は就任演説で、環境をリーマンショックからの復興のツールにつかい、環境対策で経済を活性化すると述べたのです。私は「なるほど」と思いました。こういう方向を目指さないと環境への取組みは進まないと思い、この演説は非常に新鮮に感じ、感激しました。現実にはその通りに進んでいるとは言えないかもしれませんが、オバマ大統領が示したような姿勢が大事なのだろうと思います。
別の言い方ができるかもしれません。経済が落ち込んでいる時はモノを製造する装置を生産しても売れないから、空気をきれいにする装置などの生産に投資して雇用を創出することが、産業全体の活性化をもたらすということです。先ほど、脱硫とか脱硝とか空気の清浄化の話をしましたが、このことが進んだのは石油危機の後だったことを思い出します。環境の保全あるいはよりよい環境の創出のための投資が、経済危機から抜け出す引き金になることを期待したいですね。
大塚― 最後になりますが、EICネットの読者の方々に、小豆畑さんからのメッセージをお願いします。
小豆畑さん― 我が国は東日本大震災を経験し、世界ではヨーロッパに端を発する経済危機の懸念が続いていますが、環境に配慮した企業活動と経済活性化を両立させる重要性を改めて実感しています。我々の日立グループも、お客さまとともに、持続可能な社会の実現に向けた社会イノベーション事業の展開を進めてまいりたいと考えています。
大塚― 本日は、日立グループという巨大な組織の環境への取組みについて多岐にわたるお話をいただき、どうもありがとうございました。
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