No.011
Issued: 2012.11.05
鹿島建設・塚田高明常務執行役員環境本部長に聞く、100年をつくる会社の責任と挑戦
実施日時:平成24年10月24日(水)16:00〜16:30
ゲスト:塚田高明(つかだたかあき)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
- 鹿島建設株式会社常務執行役員環境本部長。
- 昭和46年入社、平成20年に環境本部長就任。
- 大阪大学大学院工学研究科の特任教授のほか、日建連環境委員会地球環境部会長、土壌環境センター、環境放射能除染学会の理事をはじめ、経団連廃棄物リサイクル部会他様々な環境団体の委員を務める。
環境に対して感度が高く、礼儀正しくありたい
大塚理事長(以下、大塚)― 本日はエコチャレンジャーにおでましいただき、ありがとうございます。塚田さんは建設業における環境戦略に長年かかわっておられますので、その体験談を交えながらお話しを伺いたいと思います。
早速ですが、貴社のCSR報告書にも書かれていますように、建設業は資源を消費し自然に手を加えることの多い業種だと思います。環境戦略の基本になる考え方をご説明ください。
塚田さん― 先日、東京ビックサイトで土壌・地下水環境展が開催され、『「100年をつくる会社」鹿島の環境への取組み』と題して発表する機会がありました。そのときも申し上げたのですが、建設業の特徴は3つあると思います。第1に資源多消費産業です。結果的に廃棄物が出ます。第2は、製品のライフサイクルですが、「100年をつくる鹿島」に表されるように、100年先にも影響を与えることです。第3が、生態系や地域環境への直接的なかかわりが大きいことです。
大塚― 対処方針についてもお願いします。
塚田さん― 2つのことがあります。自らの事業、ビルをつくるとか、トンネルを掘るとか、個々の事業で環境負荷を低減させることが第1です。第2に、環境そのものをつくるのだから環境創造産業として取り組むことです。このことは、社会貢献という側面もありますが基本的にはビジネスで、当社の中村社長も自ら、「建設業は資源多消費産業であり、自然環境に手を加えることも多いし、建物をつくることはライフサイクルの流れもつくっているのだから、環境に対しては常に感度が高く、礼儀正しい企業でありたいと思っています。地球環境保全は次世代への責務と捉え、顧客への前向きな企画提案とともに、負荷の低減に努めてまいります」と述べています。
経済は本当に重要ですけれども、地球とどちらが重要かといえば、地球に決まっている
大塚― 会社として環境方針を対外的に公表したのはいつころだったのですか。
塚田さん― 私が在籍する環境本部は、前身の名称は異なりますが昭和45年にできました。私が入社したのは昭和46年です。現在の環境本部として、環境目標を定め環境報告書などを世に発表しはじめたのは1990年代の中頃です。
大塚― 10数年経っているということですね。環境本部長として、どのようなコンセプトで進めておられますか。
塚田さん― 私は長野県の地方都市で育ちました。高校3年生で東京にはじめてきた時、隅田川や東京湾は黒く汚濁し、千葉や川崎の空気は赤く汚染していました。「経済が大事だから、隅田川は汚染しても仕方ない」との声も多かった時代ですが、「そうは思わない」と言ったのを覚えています。大学では衛生工学を専攻し、ものづくりをする鹿島建設にはいり、ずっと環境分野を担当しています。
会社として環境目標を定めるなどの活動を始めたのは15年くらい前ですから、地球温暖化問題が顕在化したころです。歴史的に言えば経済のために環境は少しくらい汚れてもいいとか、その後も経済と環境は両立させるべきなどと言われました。しかし今では、経済は重要、本当に重要ですけれども、地球と経済のどちらが重要かといえば、地球に決まっていると。快適だけれども環境負荷が大きいビルは誰も買ってくれないでしょう。車だって同じです。そういう世の中になっていると考えます。
管理を精神論で行うのは無理ですから、手引きをつくり取り組んでいる
大塚― 鹿島の中で環境負荷を低減する話がありましたが、全社的な方針の共有をどのようになされているのでしょうか。
塚田さん― 土木、建築、開発などの事業は基本的に各支店で、海外も含めてやっていますが、全社的な環境委員会を設け、社長が委員長、副社長が環境マネジメントの責任者を務めています。環境本部は約80名の体制で、環境委員会の事務局機能も含め実践を担っています。
具体的には、環境マネジメントシステムとして、地球温暖化防止、資源循環・有効利用、有害物資の管理、生物多様性の保全の4つのテーマごとに中長期目標をつくっています。弊社の現場は全国に1000から2000くらいあり、各現場が、たとえば汚染土壌やアスベスト等の問題に日常的に直面していますので、現場における環境管理の手引きをつくっています。各現場の所長が環境基準等について詳しくわからなくても、何と何はどういう基準を守らなければいけないのか、何と何の届出が必要かなど、すべてを項目立てて手引き化し、利用しやすくしています。
大塚― それは大事なことですね。皆が皆、細かいことにまで精通しているわけではありませんから。
塚田さん― 管理を精神論で行うのは無理です。管理するための手引きをつくり、目標値に向けて環境負荷を減らすことに取り組んでいるのです。
ゼロエネルギービルディングと資源循環、生物多様性の取り組み
大塚― ところで、鹿島は地球温暖化防止に向けゼロエネルギービルディングを進めようとしておられます。非常に魅力的な取り組みですが、どのようなコンセプトなのでしょうか。
塚田さん―ゼロエネルギービルディング(ZEB)という言葉を10年前に言ったら、そんなことできるのかと疑われたかもしれません。自分の家を考えても、エネルギーの使用は避けられませんから。でも、こういう言葉がふつうになってきているのです。マーケットが、つまりはお客さんがそう要求しているのだと思います。
もちろん、ゼロエネルギーはそう簡単にはできないので、5つの要素を設けています。第1はエコ・デザイン。電気を大量に消費する構造のビルをつくっておいて、こまめに電気を消しましょうというのは本質的ではありません。第2は、ビルで働く人が電気使用量を抑制できるエコ・ワークスタイルを可能にすること。第3は、BEMS(ビルエネルギー管理システム)とかHEMS(ホームエネルギー管理システム)というエネルギーマネジメントをきちっとできるビルをつくること。第4は、できるだけ再生可能なエネルギーをつかうこと。最後は、カーボンオフセット。カーボンオフセットも含め、ゼロを目指していこうと、そういう内容です。
大塚― 今の話とも関連が深い資源循環は、循環型社会の基本でとても大切なことと思います。鹿島として特徴ある活動をご紹介下さい。
塚田さん― 弊社は、現在岩手県の宮古地区、宮城県の石巻地区・宮城東部地区で震災廃棄物処理業務をさせていただいています。特に宮城県石巻地区では、数百万トンもある震災廃棄物の処理業務をさせていただいています。石巻市はもっとも多くの方々が被災された最大の被災地域ですが、その港湾部75ヘクタールの土地に、多くの選別機械と焼却炉を据え、昼夜をとおして廃棄物処理を行っています。焼却炉だけでも1日に1500トンを処理しており、この量は150万人都市のごみ焼却場に匹敵します。災害廃棄物処理の技術的なポイントは資源化です。特に無機物が大量にありますから、いろいろと技術開発し資材として活用します。全体でも80〜90%のリサイクルを目指しています。
有機物についても、たとえば20年くらい前に、横浜市の下水処理場の汚泥のメタン発酵装置を納めさせていただき、今も横浜市のほとんどの下水処理場の汚泥はメタン発酵されエネルギー利用されています。最近は、霧島酒造さんの焼酎製造工場で、1日に800トン出る焼酎カスをメタンに変え、ガスや電気にして使う施設を完成することができました。
大塚― 霧島ですから、宮崎県ですか。
塚田さん― 都城です。霧島酒造の江夏社長も話されていましたが、芋は光合成で生長するわけで資源循環の基本ですよね。芋が南九州の大地で育ち、その芋(炭水化物)が焼酎に変わり、その焼酎のカスがエネルギーに変わり、そのまたカスが畑に戻るのです。資源循環と地産地消をまさに実践しているわけです。
大塚― 生物を利用した素晴らしい循環ですね。ところで、生物多様性についてもユニークな取り組みを早くからされているようですね。
塚田さん― 弊社は30年前から、神奈川県の葉山に水域環境実験場をもっていて、相模湾や東京湾を豊かにしようと、カニやハゼの研究をしてきました。陸の動物についても、様々な分野の方々と一緒に研究しています。たとえば、コゲラは500メートルくらいしか飛べないので、コゲラがすめる都会をつくるには500メートルおきに森がなければいけないとか、果物の結実に不可欠なミツバチを活用した街つくりとか、ヤギ(山羊)やウコッケイ(烏骨鶏)を活用した除草についても研究しています。
都市といっても、人間だけでなく生物も豊かである、いわば生物多様性都市を目指しています。ある意味で、地球温暖化問題の本質は、地球は人間だけが豊かならばいいのですかという問いを突きつけていることなのだと思います。
直前まで有価物で貴重な財産だったのが一瞬で無価値物に変わったというのが廃棄物
大塚― 重要なご指摘をいただきました。ところで、先ほどの循環とも関係する有害物質の対処に話を戻していただけますか。
塚田さん― 災害廃棄物もそうですが、解体やリニューアル工事を行っている現場で問題になるのが有害物質です。その中には、アスベストやPCBもあります。私たちは、アスベスト、PCB、ヒ素、フロン、ハロンなどなど、個々の有害物質を、リニューアル工事ならば過去の設計図のチェックも含めて詳細に把握し、マニュアルを活用し管理を徹底するようにしています。
もう1つ、社会が困っていることに対し、建設業の役割として技術開発するのも大事です。福島県の放射能除染でも、大きな中間貯蔵施設をつくるのは大変なことです。1500〜3100万立方メートルと言われていますが、仮に3000万立方メーターとしたら、縦・横・高さがそれぞれ100メートルの箱30個分に相当します。除染・減容化・中間貯蔵を含めどうすればいいか、技術開発しながら一所懸命やっています。
震災廃棄物の仕事をさせていただき、改めて感じるのは、廃棄物は直前まで有価物で貴重な財産だったのが、不幸にして一瞬で無価値物に変わったということです。それも、とんでもない量の無価値物に変わってしまい、その片づけに税金を使うわけです。しかし、これを片づけないと復興にならないのです。福島も含めて、今後の復興につながる一丁目一番地なのだとの思いで取り組んでいます。
供給サイドのキーワードは再生可能エネルギー、需要サイドは地域分散型エネルギー利用
大塚― 話題がさらに戻るかもしれませんが、エネルギーを社会でどう利用するかについて、将来も見据えてお話しいただけますでしょうか。
塚田さん― ゼロエネルギービルディングにもかかわる、ゼロエネルギーとか省エネルギーの話ですね。供給サイドと需要サイドから考えないといけませんが、供給サイドでは、再生可能エネルギーが大事になるのはまちがいありません。今回の政府による再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度の対象は、太陽光、風力、バイオマス、中小水力、地熱の5つです。弊社は、この5つのうち、とくにソーラー、風力、バイオマスに取り組んできました。バイオマスについては、焼酎カスなどについてお話ししました。
風車については、現在千葉県銚子市の3キロメートル沖に、洋上風力発電施設をつくっています。銚子沖は浅いのですが、風車の一番高いところが高さ130メートルほどで、2400キロワットの発電能力があります。ソーラーも積極的に進めています。供給サイドのキーワードは再生可能エネルギー、需要サイドのキーワードは、先ほどのゼロエネルギービルディングとも共通しますが、地域分散型エネルギー利用です。再生可能エネルギーの利用などは、ネガティブなことを言わないで、やるだけやってみようということだと思います。
大塚― やるだけやってみようという方針は、そのとおりだと思います。
塚田さん― 弊社は、東京の江東区のイースト21という施設で、東京ガスさんと組んで、電気と熱の同時供給システムをつくっています。いわば、地域分散型発電で、仮に首都直下型地震が起きても自立しています。この様なシステムに大事なのは蓄電池です。今電池は国家プロジェクトとして研究が進められていますが、エネルギー戦略のカギを握る革新的技術と言っていいでしょう。
もう1つ大事なことは、「見える化」だと思います。私は最近プリウスに乗っているのですが、スピードメータのところに、「今、電気ですよ」「今日はリッター○○キロで走りましたよ」と、どう運転したかが全部出るのです。「今日はリッター30キロメートルだった。よかったね」と妻と話しています。それがすごく快感になるのです。「見える化」とはそういうことでしょう。今まではエネルギーをどんどん使い、電気をどんどん使いすぎたと思います。今まで、安全で停電もほとんど起きなかったことに感謝しながらも、エネルギーを使わないことに快感を覚えようと言いたいのです。
環境を重視することが経済の活性化につながらなければ話にならない
大塚― 電池の話も出ましたが、鹿島建設の国際的な活動についてもお伺いしたいと思います。
塚田さん― 現在行っている事業の1つは水循環です。日立プラントさんが会長会社で、弊社と東レさんなど45社が参加しています。もう一つ。バイオエタノール事業では、JX日鉱日石エネルギー、トヨタ、サッポロビール、鹿島建設、東レ、三菱重工が共同実施しています。海外で事業展開するには、橋とかビルをつくるのであれば本業ですから別ですが、環境分野では鹿島1社ではなかなかむずかしいと思います。
大塚― 途上国には環境からみると問題が山積していますので、エコに貢献する事業を是非推進していただきたいと思います。
塚田さん― その通りだと思います。先ほど申し上げたように、アライアンスを組み、ある意味ではオールジャパンでやっていくつもりです。
山中伸弥先生がなさったように、核心的な発明をして特許を押さえ、それでどうぞ世界でつかってくださいといきたいですね。
大塚― 最後になりますが、EICネットは企業の方が多くご覧になっています。建設業の環境担当のお立場からメッセージをいただければと思います。
塚田さん― 冒頭でも少し触れましたが、棚田で有名な長野県千曲市が私の故郷です。また、千曲市には姨捨山(おばすてやま)という山があり、姨捨伝説がありますが、千曲市は1人も不明な老人はいない、老人を非常に大事にするところです。姨捨伝説も本来、お婆さんを背負って行ったけれども、孝行息子が背負って帰ってきて、そのお婆さんの知恵が村の役に立つという話なのです。
「環境対経済」という時代は終わりましたけれども、環境を重視することが経済の活性化につながらなければ話になりません。自然保護は願いますが、森をただ眺めるとか、棚田をただ眺めるのではなく、環境を重視することが、ビジネスを高度化させ進展させることに貢献し、ひいては日本の経済を回し国力を高め世界にも利益をもたらすことを、環境分野で41年間働いてきた人間として願っています。
大塚― 環境にかかわるビジネスの本髄を語っていただいたと思います。本日はどうもありがとうございました。
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