一般財団法人環境イノベーション情報機構
エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.009

Issued: 2012.09.05

第9回 低炭素社会国際研究ネットワーク 西岡秀三事務局長に聞く、地球温暖化対策と政策策定に向けたプロセス

西岡秀三(にしおかしゅうぞう)さん

実施日時:平成24年8月8日(水)16:45〜17:15
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:西岡秀三(にしおかしゅうぞう)さん

  • 世界各国で地球温暖化防止政策構築に貢献している研究者交流のための「低炭素社会国際研究ネットワーク・アジア低炭素発展研究ネットワーク」事務局長として、地球環境戦略研究機関をベースに活動中。中央環境審議会で「2013年以降の対策・施策シナリオ作成」を担当。国立環境研究所勤務、東京工業大学大学院教授、慶應義塾大学大学院教授、国立環境研究所理事を歴任。最近の著作としては「低炭素社会のデザイン」岩波新書。
目次
「温室効果ガスを○○パーセント減らせ」と言われる前に、もっと動こうという方向に進んできています
長期的には省エネと再生可能エネルギーの利用、しかし短期的にはいろいろある
2050年あるいは2030年くらいをターゲットにビジョンをもつべきでしょう
研究者は、地元への貢献に価値を見出すべきだと思います
科学的な知見を活用し適切な目標を設定し、それに基づいて具体的な政策を実行するしかないのです
長期的な視点で、子ども世代、孫世代まで視野に入れて、日常の生活を考えていただきたい

「温室効果ガスを○○パーセント減らせ」と言われる前に、もっと動こうという方向に進んできています

2010年メキシコ・カンクンでの国連気候変動枠組み条約COP16:こんなに多くの人が集っても、集りすぎてか、一向に先へ進まない国際交渉

2006年ケープタウンでのIPCC報告書著者会合。アジア各国の専門家が集って気候変動影響を検討

大塚理事長(以下、大塚)―  本日は、EICネット・エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。西岡さんは研究者として、地球温暖化への対策、特に政策策定に長年にわたってかかわり、国内外で多くの委員会の委員として、また国際的なネットワークつくりの中心になって活躍されておられます。
地球温暖化は今世紀最大の問題といわれ、そのメカニズムについてはかなり解明も進んだと思われますが、対応策は遅れ気味ではないかと心配しています。西岡さんは、現状をどのように捉えておられますか。

西岡さん― この数年、様子が大部変わってきたなと感じています。これまでは、どうやって地球温暖化を防ぐかを国際会議で決め、それに基づいて物事を進めてきました。最近は多くのところでそうですが、物事が決まらないという風潮が強くなっています。とりわけ国連の会議、リオの会議もそうでしたが、なかなか決まらないのです。
心ある人びとは、上から「温室効果ガスを○○パーセント減らせ」と言われる前に、もっと動こうという方向に進んできています。

大塚― 今言われたリオの会議というのは、今年6月にリオ・デ・ジャネイロで開かれた「リオ+20(国連地球サミット「Rio+20」国際会議)」ですね。

西岡さん― はい、そうです。「リオ+20」では、本会議よりもサイドイベントと呼ばれるNGOの話し合いの方がずっと活発でした。NGOが実際に取り組んでいる活動内容の紹介や、さまざまな技術の展示もありました。

大塚― それぞれの国が国益に基づいて議論する国際会議だけでは、無理ということなのでしょうか。
西岡さんは、国際的なネットワークでもご活躍ですが、具体的な状況を紹介いただけますか。

西岡さん― 私からみますと、地球温暖化の問題はまさに緊急と言いますか、今手を打たないととても対応できなくなるという危惧が強くあります。私どもは現在、政策にきちんと対応している研究者を集めたネットワークを、世界とアジアでつくっているところです。このメンバーは、科学的な研究成果を政策にどう持ち込むか、すなわち政策決定者との対話を非常に重視しています。
それが、「低炭素社会国際研究ネットワーク」という、2008年に日本が提案したG8(主要国首脳会議)の国々を中心とするネットワークです。年に1回、今重要な問題は何だろうか、どういう形で取り組んでいくべきかを話し合っています。
今年も9月にイギリスのオックスフォードで会合を開くので、現在その議案つくりをしています。中心になるのはエネルギーの問題です。その中には、省エネをどのように進めるかという地道な話があります。もう1つは原子力の問題です。日本だけではなく、フランス、ドイツ、イタリアなどにとっても大きな問題です。原子力をだんだん減らすことを前提に、再生可能なエネルギーをどう取り入れるかという供給面、省エネをはじめとする需要面の両方から攻めていくことになります。

長期的には省エネと再生可能エネルギーの利用、しかし短期的にはいろいろある

大塚― 省エネと再生可能エネルギーの利用、これらを重視するのは当然のようにもみえますが、どのような関係として捉えられているのでしょうか。

西岡さん― 「化石燃料は足りない」、「化石燃料はCO2を多く出す」、「原子力は危険を伴う」ときに、選択肢は2つしかありません。省エネと再生可能エネルギーの利用です。長期的には必ずそうなります。しかし、短期的にはいろいろあります。このような前提に立って考えています。

大塚― ヨーロッパの多くの国々では、そのための取組みが進んでいるように思えますが、9月の会合は世界の国々に声をかけるのでしょうか。

西岡さん― 今のところ、G8の国々です。ただし、アメリカ、ロシア、カナダは入っていません。一方、ヨーロッパの国々は非常に熱心です。なぜヨーロッパの国々が熱心かといいますと、科学に基づく成果を信用しており、それに基づいて国の政策を立てているからです。政府がそのような方針をきちんともちますと、産業界も動くのです。日本は政策がはっきりせず、産業界は「ああでもない、こうでもない」という状況で、この間に世界から取り残されないかと心配しています。
「リオ+20」の直前に、メキシコのロスカボスでG20(20ヶ国財務大臣・中央銀行総裁会議)が開かれ、B20と呼ばれるビジネスサミットの動きが進んでいます。温暖化防止の立場から大きなビジネスが生まれ、しかも経済的にカーボン(炭素)の価値を市場取引きする前提で、ビジネスを展開しようという方向で進んでいます。

大塚― 新しい産業を育成していく、あるいは産業構造を変えていくことだと思いますが、ネットワークの会合ではどのように議論されているのでしょうか。

西岡さん― 国によって少しずつ政策が違います。たとえばドイツは、日本ではなかなかうまくいかないと言われてきた再生可能エネルギーの固定価格買取制度を、非常に自信をもって進めています。この例のように、ヨーロッパでは進んでいるのに、日本で進まないのはどこに欠陥があるのか、互いの経験をもとに勉強しています。

大塚― 日本の政策にどう活かすかについてお伺いする前に、国際的な動きの中で、先進国と途上国との間での考え方の隔たり、あるいは隔たりを改善する方策についてお伺いしたいと思います。

西岡さん― どの国でも、日本でもそうですが、短期的な経済状況とか、短期的なクリーンエネルギーの供給の問題に起因して、本質的な方向性がぶれることがよくあります。大切なのは、長期的な方針を明確にもつことです。その範囲内でエネルギー供給システムを中期的に変えることも、社会の価値基準を少しずつ変えることもできます。長期的な視点から、いわゆるグリーン成長とか、再生可能なグリーン成長といわれているものをベースに、経済の仕組みを変えていくことがこれからの方向です。
途上国が現在の経済の状況に不満を言うのは当然ですから、先進国が援助を含めそれなりの対応をしばらくつづけることは必要だと思います。

2050年あるいは2030年くらいをターゲットにビジョンをもつべきでしょう

大塚― 長期的な視点が大事なことはわかりますが、大体何年くらい先を見通そうということでしょうか。

西岡さん― 研究の対象としては100年くらいが適当ともいえますが、人間にとっては自分たちの孫世代くらいより先のことだと動かないと思います。逆にあまりに短いと、その時その時の状況に犬が尻尾を振るようなことになるのでだめだと思います。ですから、2050年あるいは2030年くらいをターゲットにビジョンをもつべきでしょう。

大塚― ところで、地球温暖化に対し、植林に熱心に取り組んでいる途上国も多くあります。もちろん大事なことと思いますが、温室効果ガスの排出量の抑制に比べ、効果はどの程度あるのでしょうか。

西岡さん― 長期的な視点から申しますと、2050年くらいかそれ以降には、大気圏における温室効果ガス濃度を安定化させるために、土地利用に本格的に取り組むことが必要になります。ですから、森林をきちんと保持しておくことは非常に重要です。

大塚― 温室効果ガスの排出抑制と、二酸化炭素の吸収源である森林の保全のどちらをとるかということではないのですね。

西岡さん― そうです。両方やらなければいけないのです。

大塚― 先ほど伺った、ネットワークの会合での知識の交流や勉強をとおして、成果は最終的に国の政策に反映されることになるのでしょうか。

西岡さん― ネットワークにおける活動は大きく3つに分けられます。まず、研究者同士の対話です。これは広い範囲にわたる学術的な理解にかかわりますから、どうまとめるかがなかなかむずかしいのですが、最も基本的ですし、メンバー間の相互理解にも欠かせません。2つ目が、政策決定者との対話で、政策決定者が今何を知りたがっているのか、研究者が何を提供できるのかを話しています。3つ目は、国と国との対話を進めていくナレッジシェアリング(知識共有)で、最も盛んに行われているものです。


低炭素社会国際研究ネットワーク事務局長の西岡秀三さん(右)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(左)

研究者は、地元への貢献に価値を見出すべきだと思います

大塚― 地球温暖化の問題と少し離れてしまうかもしれませんが、残念ながら、日本では東日本大震災の際に、研究者に対する国民の信頼が低下したと感じています。この状況は今後変わっていくとお考えですか。

西岡さん―いろいろなことを感じますが、よかったこともあります。その1つは、日本の大学の先生方が地域の問題にかかわりはじめたことです。環境にかかわる問題は、それぞれ地域ごとに特色がありますから、地域の大学の先生方が取り組むのは大変有効なのです。
科学者への信頼性が失われてきたことに対し、僕が重視したいのは、科学者は行動を大切にすべきということです。東洋の思想の中には、「知ることとやることとは同一でなければいけない」というものがあります。「知」は「知」だけで独立するのではなく、「知」は「行動」するための引き金に過ぎないと。

大塚― 環境の研究は、成果を社会にどう還元させるかが鍵ですので、西岡さんが言われているとおりだと思います。
エネルギーの問題、地球温暖化の問題を含め、地域の重要性が強調される中で、さまざまな動きがはじまっています。震災の被災地ではありませんが、北九州エコタウンの動きもありますね。

2011年 アンコールワットの町シェムリアップ市を低炭素都市にしたいというカンボジャのモク・マレット環境大臣との会談

2011年 アンコールワットの町シェムリアップ市を低炭素都市にしたいというカンボジャのモク・マレット環境大臣との会談

西岡さん― 低炭素都市ですね。我々の論議の中でも、都市は環境にかかわるすべての要素を内包し、多くの人びとの集まる場と捉えています。そして、中央政府の関与がなく市長の判断が大きいことから、環境問題への対応がスムースに進みやすいのです。低炭素都市を目指して、中国、マレーシア、タイなどの都市も動いています。

大塚― 地球温暖化問題やエネルギー問題にかかわる政策決定に、研究者がどう貢献できるかということですが、お話を伺っていると、身近なところ、たとえば都市の低炭素社会つくりなどへの貢献が大事ということですね。

西岡さん― 研究者は、地元への貢献に価値を見出すべきだと思います。
最近、私はエネルギーの選択肢という大事なテーマにかかわっており、政策を決定するプロセスのなかに、きちんとした科学的な事実を入れ込んでいこうと努力しています。数量的に評価したシナリオをつくり、そのシナリオに基づくアプローチを示すことです。もう1つ重視しているのは、熟慮型世論調査と呼んでいますが、国民の意思を的確に吸い上げるプロセスです。

科学的な知見を活用し適切な目標を設定し、それに基づいて具体的な政策を実行するしかないのです

大塚― 今の話と関係すると思いますが、政府から、エネルギー供給における原子力への依存を、2030年には何パーセントにするかという選択肢が示されたことについて、西岡さんはどのようにお考えでしょうか。

西岡さん― もう少し時間をかけて、政策のどこが問題かというところからはじめる方がいいと思います。料理にたとえると、「できあがったものから選んで食べてください」となっていますが、「こういう材料でこういうものを食べたいのです」と提示するところから、市民が参加し、それに知恵を貸すのが科学者という形をつくりたいですね。出来あいのフランス料理か中華料理かと問われていますが、本当はインドネシア料理が食べたいということもあるのです。

大塚― 物事の端のところだけを議論しているということですね。

西岡さん― そのとき、本当に大切なことが隠れてしまうという感じもあります。具体的に言いますと、地球温暖化の問題から外れているかもしれないのです。地球温暖化は、長期的には本当に大切な問題です。ところが、現在のエネルギー供給源の議論は、本来は地球温暖化との関係の中でなされるべきなのに、その方向性をもっているかというとやや疑問もあります。

大塚― まさにその点にかかわりますが、ポスト京都議定書にあたる2013年以降の温室効果ガスの排出量にかんする政策は非常に大事だと思います。西岡さんは中央環境審議会の議論にもかかわっておられますが、その方向性は固まりつつあるのでしょうか。

西岡さん― この問題は、仕切り直しになっています。原子力を受け入れると判断したのが約20年前でしたが、その時点でなされたエネルギー源の配分を考え直す必要が出てきたからです。あまりに原子力に依存し、ほかのエネルギー源の活用によるリスク分散を考えていなかったからです。原子力がもつリスクを考慮した科学技術政策をつくることができなかった、といわざるをえません。これは大いに反省すべきところです。
原子力を用いないモデルに基づくと、温室効果ガスの排出量を1990年に比べ、25%どころか10%も削減できません。

大塚― 2013年以降の政策については、基本的なところに立ち帰って検討しているということですね。

西岡さん― もう一度、原子力への依存度をゼロから考え直すということです。ただ我々としては、温室効果ガスの排出量を、2050年には1990年比で80%削減することを国際公約しています。世界もそれを強く望んでいます。
日本にとって大事なのは、大きな目標を設定することです。何度かお話ししたように、科学的な知見を活用し適切な目標を設定し、それに基づいて具体的な政策を実行するしかないのです。

大塚― 目標が明確になったとはいえない状況ですが、今年7月にはじまった再生可能エネルギーの固定価格買取制度は、具体的な政策として効果は期待できそうですか。

西岡さん― そうですね。この制度についても、基本的に何のためにつくられたかの理解が必要です。太陽光発電は2〜3年で元をとれるものではありませんから、長期にわたり確実に収入が得られるシステムにできるかがポイントになります。
もっと大きく考えると、現役世代が将来世代のためにお金をちゃんと支払う、あるいは投資するかにかかっていると思います。投資した資金は自分に還ってこないで、子どもや孫に還ってくると思わないとだめなのです。そういう投資であると理解していただくことが大事なのです。


長期的な視点で、子ども世代、孫世代まで視野に入れて、日常の生活を考えていただきたい

大塚― 長期的な投資と言われましたが、環境問題への対応には本質的にその側面が強いと思います。
地球温暖化との関連で、ほかにも多くのことがあろうかと思います。西岡さんがとくに重要とお考えのことをお話しください。

西岡さん― 都市のインフラ整備ですね。日本の都市はよくできていて、地下鉄が多くあり、車よりもよく利用されています。それでも、都市をどう変えていくかは、日本でも今後大きなテーマになると考えています。一方、途上国はひどい状況ですから、公共交通型にするなど早急につくり変えていかなければいけません。また、先進国でも、たとえばロスアンジェルスのような自動車主体の都市計画がなされることは、環境負荷という点から逆行しているでしょう。
先ほど申し上げたように、私がかかわっている国際的なネットワークでは、とくに途上国を重視し、途上国の都市をよりよくすることに貢献したいと考えています。

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大塚― アジアの途上国は、都市インフラの整備に政策的に動きそうなところにきているのでしょうか。

西岡さん― 少し手遅れかなというところもありますが、多くつくられたメガシティは少しずつ変わっていくと思います。と言いますのも、アジアの途上国でも人口が停滞しつつあり、かつ高齢化も進んでいます。日本が経験してきたことは参考になると思います。貢献できるノウハウを持ち込みたいですね。

大塚― まだまだお聞きしたいことがありますが、最後に、EICネットをご覧になっている方々にメッセージをお願いいたします。

西岡さん― 長期的な視点で、子ども世代、孫世代まで視野に入れて、日常の生活を考えていただきたいことです。グリーン経済とかいろいろな言葉がつかわれますが、人の生活があってはじめて経済が成り立っている、それぞれがどう考えてどう行動するかは供給側が決めるのではなく、生活する人が決めのだということを、いつも心にとめていただきたいと思います。

大塚― 本日は、私たちが直面している最大の問題である地球温暖化に対し、さまざまな角度から分かりやすくお話しいただき、本当にありがとうございました。