No.006
Issued: 2012.06.07
林文子横浜市長、大都市ヨコハマの環境ビジョンを語る
実施日時:平成24年5月22日(火)10:30〜
ゲスト:林文子(はやしふみこ)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
- 横浜市長として環境未来都市の創造などに取り組む。
- BMW東京(株)代表取締役社長、(株)ダイエー代表取締役会長兼CEO、東京日産自動車販売(株)代表取締役社長などを歴任。
ダイナミックな経済活動と魅力的な商業施設の一方で、水と緑の豊かな自然が護られている
大塚理事長(以下、大塚)― 本日は大変ご多忙の中、エコチャレンジャーのインタビューにお時間をいただき、誠にありがとうございます。林市長は、人口が370万という横浜市のトップとして、活力のあるまちづくりにリーダーシップを発揮されておられます。文化や芸術とともに、環境にも正面から取り組まれ、横浜市は昨年12月に環境未来都市【1】に選ばれました。本日は、大都市の環境に焦点をあてお話しを伺いたいと思います。
横浜市は、都市の環境問題の解決、望ましい都市環境の創成に非常に積極的に取り組まれておられます。最初に、林市長がお考えになっている、環境に対する基本的な理念についてお聞かせください。
林市長― きれいな空気や豊かな緑、美しい海や川などは、都市に魅力を与え、市民の皆様の生活を根底で支えてくれるものです。また、美しい花や鳥の姿・鳴き声は、私たちの生活に潤いを与えてくれます。私自身もバードウォッチングを趣味にしていますが、横浜市では、身近な緑や魅力的な景観の保全・創造に取り組んでまいりました。市内に残る貴重な自然環境や景観を護って、次世代に引き継いでいくのが私たちの責務だろうと考えています。
横浜はとくに水と緑が美しいうえに、市の中心部では経済活動がダイナミックに展開され、魅力的な商業施設もあります。このような都市の営みが、美しい自然環境が護られながらなされていることが、非常にすばらしいと感じています。
現在の環境問題は複雑化・多様化しています。その上、人口減少、少子高齢化、地域内でのつながりの希薄化、経済の低迷など、さまざまな社会状況とも絡み合っているのです。このような中で、戦略的な環境政策が非常に重要になっています。行政が軸になり市民の皆様と協力して、環境問題を基軸に据え、総合的・横断的な取り組みを展開していきたいと考えています。
市民・事業者・行政の三者が一体となって推進する「ヨコハマ3R夢プラン」
大塚― 市長は、著作や講演でも強調されておられるように、人口高齢化をはじめとする社会変化、産業構造の変化、憩いの場や芸術・文化施設に対する市民の要望の変化など、さまざまな事柄を1つのパッケージのようにして捉えられ、新しいまちづくりの基本的な理念にされているように思います。
最初にお伺いしたいのは、大都市ではどこでも問題になっている廃棄物の扱いです。横浜市で推進されている、ごみの発生量そのものの削減を目指す「ヨコハマ3R夢(スリム)プラン」についてご紹介いただけますでしょうか。
林市長― ご承知のように、「G30」(横浜G30プランと呼ばれる一般廃棄物処理基本計画)でごみの削減に取り組みまして、横浜市として平成13年度に対し43%の削減を果たしました。今回の「ヨコハマ3R夢プラン」は、「G30」で培った、市民・事業者・行政の三者が一体となった協働の取り組みを活かし、リデュース(発生抑制)、リユース、リサイクルの3Rを、市民の皆様に実践していただく運動です。ごみの分別とリサイクルとともに、とくにリデュースに力を入れ、ごみと資源の総量を減らしていこうというものです。たとえば、燃やすごみに依然として大量の食品廃棄物が含まれていますので、市民の皆様にごみを出す前の生ごみの水切りの推進、それから土壌混合法等による生ごみ処理の推進をお願いしています。民間企業の皆様には、食べ残しが出ないよう小盛りメニューの提供などをお願いする、「食べきり協力店モデル事業」を始めています。
大塚― 3Rの中でリデュースが一番大事といわれながら、なかなか進まないのが現状ですので、すばらしい活動と思います。
林市長― それから、環境負荷の軽減になるように、簡易包装販売の推進、さらに市民の皆様に詰め替え商品の購入をお願いしています。民間企業の皆様には、食品トレーを使わない生鮮食品の販売を増やすようにお願いしています。リユースについては、いわゆるマイボトルの推進ですね。空になったマイボトルに飲料を供給する、「マイボトルスポット」という施設を拡充しています。また、「リユース食器」と「リユース家具」の利用も促進しています。リサイクル・再資源化については、やはり分別が大事ですので、市民の皆様や民間企業の皆様への説明会を行い、必要があれば立入調査をさせていただくこともあります。
「HEMS(ヘムス)」の実証実験を通じて、スマートシティプロジェクトを推進
大塚― 廃棄物に関し、先ほどお話しになった43%もの削減ができたのは、市民の方々と一緒になり、民間企業に協力してもらうという、行政方針が活かされたからだろうと思います。
廃棄物とならんで、エネルギーも大きな関心事になってきました。今まで、エネルギー供給は国の問題といわれていましたが、だんだん大都市の問題にもなってきたようです。370万という巨大人口を抱える横浜市のエネルギー政策について、市長のお考えを伺えればと思います。
林市長― 今、横浜市はスマートシティプロジェクトを推進しています。これは、再生可能エネルギーを大量に導入し、自分たちでエネルギーを創り、危機発生時にはそのエネルギーを有効活用できるようにするものです。
再生可能エネルギーを拡大するためにも、住宅の太陽光発電システムへの補助を進めていますし、新たに家庭用燃料電池設置への補助も開始いたしました。横浜スマートシティプロジェクトでは、「ホームエネルギーマネジメントシステム(英語の頭文字をつなげ「HEMS(ヘムス)」と呼ばれる)の実証実験も進めています。最初は5つの区(西区、中区、金沢区、青葉区、都筑区)を対象に、今年からはすべての区に拡大いたしました。省エネ節電を住民の皆様に体感していただき、「HEMS」の普及に弾みをつけていきたいと思っています。ご自宅で機器を取り付けリアルタイムで電力使用量を見られることが好評ですし、子どもたちも大変楽しんでいるようです。
大塚― まさにスマートシティの実現という感じですね。
林市長― 今回、東日本大震災がありましたし、エネルギーの分散化や自立化をとおし、自立できるまちづくりを目指し積極的に取り組んでいます。
自然と調和した環境づくりには子どもたちが主役になって参加することが大事
大塚― 再生エネルギーの利用や循環型社会の形成、さらには市長が最初におっしゃった自然の保全など、市民参加による取り組みの状況を紹介いただけますでしょうか。
林市長― 横浜市の市民や企業の皆様の行動力はすばらしいので、それを環境保全に活かしたいと考えています。自然と調和した環境づくりには、子どもたちが主役になって参加することがとても重要です。学校でも、ごみの削減を教えています。子どもたちはとても素直に、得意になって分別に楽しく取り組んでいます。たとえば、資源循環局という担当の局が、イベントがあるときに子どもたちに「分別仕分けゲーム」を企画したりもします。
ごみの削減では、自治会・町内会の方たちが中心になり、分別が不十分な場合には、これは違っていると指導するくらい行動力をお持ちなのです。また、市民の皆様の力で「150万本植樹行動」もやっていただきました。
自然の保全さらには生物多様性の意識をみんなでもとうと、ビオトープを学校の校庭や企業の庭などにつくり、トンボがどこまで飛んでいくのかを調べたりもしています。子どもたち自身が、楽しみながら自然に親しめるようにと思っています。それに、エネルギー問題やヒートアイランドとも関係しますが、ゴーヤでつくる緑のカーテンも子どもたちにつくってもらっています。
また、水も大事な話題で、山梨県の道志村で水源地としての保全も行っています。
大塚― 横浜市の水源地なのですね。
林市長― はい、そうです。道志村では、山林の保全のために伐採しているのですが、その伐採に市民の方々に参加していただいていますし、企業の方々にも協力していただいています。
大塚― 水源地から海まで、流域を単位に自然を保全しようという考え方が主流になってきています。大変すばらしいですね。
林市長― 最近では、イオン株式会社と包括連携協定を結び、「ヨコハマみらいWAON」というカードのご利用金額の0.1%を「横浜市環境保全基金」に寄付していただいています。
また、「横浜市環境活動賞」という表彰事業も行っています。積極的な環境活動をされた市民の皆様を毎年表彰することで、市民の皆様との協調をさらに深めたいと考えています。
活力がありバランスのとれた豊かなまちづくりをめざす「環境未来都市」
大塚― インタビューをさせていただいて、市民の方々との協働を大事にしていること、市民に信頼を寄せられていることがよくわかります。
ところで、昨年、横浜市は国から環境未来都市に選定されましたが、市長はどのようなところに重点を置こうとされているのでしょうか。
林市長― 環境未来都市というのは、狭い意味での環境問題だけにかかわるのではなく、超高齢化にも対応し、誰もが住みたいと思うような、活力がありバランスのとれた豊かなまちづくりを目指しているわけです。中でも環境、超高齢化対応、文化産業の3つの分野に重点をおいて、ワクワクするような成功事例を創り出していきたいと思っています。
環境については、経済と環境の両立を図る、いわゆるグリーン成長に注目しています。持続的なスマートシティを実現するために、太陽光発電などの再生可能エネルギーの大量導入や、効率的なエネルギー管理システムづくりを実現したいのです。先ほどの「HEMS」は、その1つです。
超高齢化への対応では、市民が本当に安心して暮らせるまちづくりを目指して、福祉・介護の充実、地域交通の整備を重視しています。また、高齢者の方々の活躍の場づくりも大事だと思っています。これらの課題について、地域の方々や民間企業の皆様とともに取り組んでいきます。
文化産業については、横浜が世界に誇ることができる文化・芸術を原動力にしたいのです。世界をみても、国際都市は文化や芸術の面で非常に充実していますよね。横浜も文化・芸術をとおして、観光や「MICE(マイス)【2】」をさらに活性化させたいと考えており、美術、ダンス、音楽の3つを取り上げるヨコハマ・アート・フェスティバルの開催を決めました。今年は、世界水準のダンスの祭典として「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2012」を開催します。
大塚― 駅などで、ポスターをたくさん拝見しました。
林市長― この催しは、100以上のプログラムを今年7月20日から10月6日にかけて約3か月にわたり展開するもので、横浜の街のなかで楽しむことができます。ダンスは、言葉をつかわなくても心のつながりをもたらします。私が常に気にかけているのは、横浜市は約7万8千人の外国人登録があるなど、多様な方々がおられますので、市民の皆様、企業の皆様、また市内に28もある大学の先生方にも協力していただき、誰もが楽しくて幸せに生きられる環境未来都市にしたいということです。
大塚― 日本がこれから真剣にとりくまなくてはならない超高齢化対応、国際化も含めた文化の振興について、林市長が大きな枠組みの中で捉え、環境未来都市として発展させようとされていることは、新しい方向性を示していると思います。
市民の方々とタイアップされていることもよくわかりました。ほかの都市へのメッセージにもなるかもしれませんが、市民の方々にどのようなことを期待されているのか、改めてお話しいただけますでしょうか。
林市長― 環境未来都市は、横浜のまちづくりの柱になる取り組みですから、一人でも多くの市民の方々にご理解いただき、積極的にご参加いただきたいと思っております。横浜市民の市民力は、153年前に開港して以来、海外からさまざまな商品、技術、情報を受け入れ、その上で新たな価値を生み出してきたという進取の気概に富んでいます。
20世紀には、横浜は関東大震災、横浜大空襲により壊滅的な被害をこうむりました。戦後は、ご承知のように基地が多く、接収されたところも多くありました。そして、高度成長期に人口が急増し、公害やごみをはじめとする都市問題に直面してきたのです。これらすべての難関を乗り越えてきたのが、市民の皆様の力なのです。これから、高齢人口が増え生産年齢人口が減ることに代表されるような厳しい状況がはじまりますが、環境未来都市の実現には、今まで市民の方々が培ってこられた経験、ノウハウ、スキルが活きてくるはずです。是非とも自信をもって活躍いただきたいと考えています。
横浜には歴史的な遺産、魅力的な観光スポット、地域に根を張った経済力もあります。東京とは違うコンパクトシティとしての魅力もありますし、港を中心にした美しいロケーションはかけがえのないものと思っています。さらに申し上げると、横浜のダイナミックな経済活動には、農業や酪農が大変盛んに行われていることも含まれます。このことも、自慢できるのではないかと思っています。このように、環境未来都市として、横浜らしい個性と魅力のあるまちづくりになることを願っています。
「環境」とは都市のブランド力 ─時間はかかっても着実に進めていきたい
大塚― 最後になりますが、EICネットをみていただいている方々に、横浜市の市長としてメッセージをいただけますか。
林市長― 私は、環境とは都市のブランド力だと思うのです。水辺環境や豊富な緑、歴史ある街並みの景観などは、都市のブランド力になりえます。横浜の地域資源としての環境、さらには環境への取り組みを外に向け、国際的にもアピールしていきたいと考えています。環境未来都市というのは時間がかかりますが、着実に進めてまいりますので、ぜひとも見守り応援していただきたいと思います。その一端を紹介させていただきます。
まず申し上げたいのは、CO2の排出量を大きく削減するスマートシティの実現、郊外部の暮らしの快適さと中心部の魅力・利便性を一体的に享受できるコンパクトシティの実現です。アジアにおける人・もの・情報の拠点都市になるべく、文化芸術の振興、MICEのさらなる活性化なども進めてまいります。
つぎに、最初にも申し上げた自然の大事さです。横浜市南部の栄区に位置し、円海山の周辺に広がる「つながりの森」は、生物多様性の宝庫なのです。この「つながりの森」を、市民の皆様が体感し感動できるように、そして、次代、次々代につなげていくための取り組みを進めております。「つながりの森」のエリアには、「上郷・森の家」と「横浜市自然観察の森」もあります。この地域を中心に、日本野鳥の会の方々にもかかわっていただき、「横浜の森のプロモーション」を展開しています。私も訪問し宿泊したことがありますが、自然観察に本当に適した場所なのです。多くの方々に、是非お出でいただきたいと思っています。
最後になりますが、東日本大震災をきっかけに、放射性物質や電力・エネルギー問題など、環境に対する市民の皆様の意識がすごく変わってきました。この機を捉え、多様な生き物や自然とのかかわりが日常化し、エネルギー利用に配慮した「横浜エコライフスタイル」の定着を進めたいと思います。大都市でも、公園を歩いているとき、森にはいるとき、そしてふつうに小径を歩いているとき、そこに小さな可愛い生き物がたくさんいるという、そういう生き物と一緒に、宇宙の中で人間は生きていることを実感できる都市にしたいと思います。これからも応援して下さい。
大塚― 林市長には、バードウォッチングを含め、もっとお聞きしたいこともありましたが、横浜市の魅力と、市民や民間の組織と連携しながら進めておられる環境への取り組みについて、幅広くお話しいただきました。横浜市が、環境未来都市として日本をリードされるよう期待しています。本日は、どうもありがとうございました。
注釈
- 【1】環境未来都市
- 「環境未来都市」構想とは、平成22年6月に策定された「新成長戦略」に基づく21の国家戦略プロジェクトの一つ。国によって選定された「環境未来都市」は、狭義の環境問題に限らず、広く超高齢化などの社会的課題も含め優れた成功事例を創り出し、「誰もが暮らしたいまち」「誰もが活力あるまち」の実現をめざす。
- 【2】MICE
- Meeting(企業等の会議)、Incentive Travel(企業等の行う報奨・研修旅行)、Convention(国際機関・学会等が主催する総会・学術会議等)、EventあるいはExhibition(イベント・展示会・見本市)の頭文字のことを表す。多くの集客交流が見込まれるビジネスイベント等の総称。
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