一般財団法人環境イノベーション情報機構
エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.003

Issued: 2012.03.05

第3回 大久保尚武 経団連自然保護協議会会長に聞く、企業経営と環境配慮の両立

実施日時:平成24年2月22日(金)10:00〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:大久保 尚武(おおくぼ なおたけ)さん

  • 経団連自然保護協議会会長(2002年〜現在)。
  • 積水化学工業(株)代表取締役社長、会長を経て、現在取締役相談役。大学時代にボート競技日本代表としてローマオリンピックに出場、現在(社)日本ボート協会会長も務める。
目次
リオ地球サミットを契機に、経団連自然保護協議会を創って、今年でちょうど20年
民間の参画をどう進めていくかが、大きな鍵となる
生活と結びついた里山・里海が大事
森をいきいきと保全していくには人間の働きが必要、そのために企業もコミットしていきたい
「しんはしんなり」 ─興味もったことをとことん深めていけば、必ず力になる

リオ地球サミットを契機に、経団連自然保護協議会を創って、今年でちょうど20年

大塚理事長(以下、大塚)― エコチャレンジャーにご登場くださり、誠にありがとうございます。大久保さんは、企業のトップとして企業経営と環境配慮の両立を進められ、経団連自然保護協議会の会長としても活躍されており、まさにエコチャレンジャーのお一人です。
 本日は、主として経団連自然保護協議会会長として、日本の社会あるいは世界の中の日本を見据えながら、自然保護を中心とする環境問題にどう立ち向かうべきか、お話しを伺えればと思います。
 はじめに、経団連自然保護協議会がどのようなことを目的に創られ、どのような活動をなさってこられたか、ご紹介いただけますでしょうか。

大久保会長― 自然保護協議会ができて、今年でちょうど20年になります。ご存じのように、企業にとっては公害時代が長くつづき、環境問題への配慮という意識が芽生えてきたのは1970年代に入ってからだと思います。
 私個人のことを含めて申しますと、1972年にローマクラブの『成長の限界』が出版され、人間社会に限界があることを科学的な分析から示され、非常にショックを受けたことを覚えています。その頃から徐々に、企業が環境部あるいは環境管理部という組織を設けるようになってきました。そうしているうちに、地球規模での環境問題、いわゆる地球環境問題が顕在化してきて、国連も強固な問題意識をもって1992年にリオ・デジャネイロで地球サミット(国連環境開発会議)を開催しました。その時、経団連も、これからの企業活動は環境配慮を抜きにしてはあり得ないという明確な意識をもって、ミッションを送ったのです。経済団体としてミッションを送ったのは、日本だけだったようです。

大塚― リオ・デジャネイロの地球サミットでは、日本の経団連の参加が注目されたと聞いています。

大久保会長― 地球サミットから帰ってすぐ、経団連は自然保護協議会を創りました。そして、どういう活動をするかの議論がはじまりました。世界のさまざまな自然環境保護団体とも接触し勉強した結果、ファンド(基金)を持つことと、会員企業への啓発活動をとおして日本の企業活動の中に本気で環境問題に立ち向かう意識を根づかせることを方針に掲げたのです。

大塚― 経団連が自然保護にアクティブに取り組んでこられたことが、日本の社会に大きな刺激を与えたというか、意識変革に大きく貢献されてきたと思います。ところで、活動の柱の1つであるファンドを創ることは、経団連の活動とすれば異質とも思えますが、どのような状況だったのでしょうか。

大久保会長― 世界には、非常に大規模な環境ファンドがいくつかあります。経団連としても、そのようなファンドを何らかの方法で持ちたいと考えたのです。しかし、社団法人としてこの種の活動を行うには、ある意味で制約を受けるという問題もありました。そこで、公益信託という形でファンドを持ち、環境保護活動に熱心なNGOの方たちを支援することが、われわれの大きな役割だと考えたのです。これは間違っていなかったと思います。


民間の参画をどう進めていくかが、大きな鍵となる

NGOと企業との交流会

大塚― 創設されたファンドが「日本経団連自然保護基金」ですね。自然保護基金を活用した自然保護協議会の活動が、いろいろな形で実を結びつつあると思います。大久保さんが特に気をかけてきたことを、今あげられたNGOの活動への支援なども含め、ご紹介いただけますでしょうか。

大久保会長― 経団連の中では「珍しく」と言ったら語弊があるかもしれませんが、NGOとは非常に仲がよいのです。毎年、自然保護協議会の主催で大きな会合を開いていますが、毎回多くのNGOの方々が集まってこられます。NGO同士の横の接触は案外少ないようで、お互いに活動内容の情報交換とか、困っていることへの解決策を話し合うなど交流を深めているようです。
 私は、NGOの活性化は非常に大事で、NGOの活動がなければ日本の環境保護はあり得ないと思っています。


生物多様性民間参画パートナーシップ会合(2011年12月)

大塚― NGOの活動を側面から支えていただいていると思います。
 ところで、NGOも活躍されましたが、経団連の生物多様性宣言とも深くかかわるCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が、一昨年、愛知県名古屋市で開かれました。これを機会に、生物多様性が日本の社会にも広く浸透するようになってきたと思います。COP10では名古屋議定書や愛知ターゲットなどの重要な決議がなされましたが、経団連自然保護協議会として、今後どのようなところに力を入れていかれるのでしょうか。

大久保会長― 世界の中で、あるいは国連の中でと言ってもいいのかもしれませんが、民間参画をどういう形で進めていくかが非常に重要です。特に生物多様性の主流化、メインストリーム化と表現していますが、そのためには民間参画が大きなスキームになるということです。COP10では、その準備期間を含めて、われわれはいろいろな方法でIUCN(国際自然保護連合)をはじめとする多くの国際機関と交流し、いろいろな面で知見を深めたというか、考え方を深めることができました。
 名古屋での2週間におよぶCOP10の議論を経て、その中から国連の「生物多様性の10年」という次の目標もできました。われわれがイニシアティブをとることによって、民間企業が手をつなぐパートナーシップが非常に大切ということも広く認められました。今は、これらの成果を武器にしながら、日本の議長国としての役割を発揮すべく、愛知目標の達成にむけた活動をいろいろとやっています。昨年12月15日から1日半にわたり開いた「生物多様性民間参画グローバルプラットフォーム 第1回会合」(経団連会館で開催)には、非常に多くの国の代表の方々に集まっていただきました。それに続き、16日午後に開催した「生物多様性民間参画パートナーシップ第1回会員会合」でも多くのステークホルダーにご参加いただきました。日本のイニシアティブで、新しい動きがでてきていると感じています。

生活と結びついた里山・里海が大事

日本の里山風景

大塚― 昨年の3.11の東日本大震災から、ほぼ1年が経とうとしています。この未曽有の大災害は、日本のすべての国民に深刻な問題を投げかけました。第1回のエコチャレンジャーで、南川秀樹環境事務次官も述べておられましたが、復旧・復興の過程で徐々に、自然保護、特に生態系保全が大きなテーマになると思います。東日本大震災を経験した今、経団連自然保護協議会としてどのように感じておられるのでしょうか。

大久保会長― 今回のような大災害を見ると、自然がもつプラス面とマイナス面、特に自然の脅威とも言うべきものを強く感じました。また、今年の豪雪も被害をもたらしていますし、昨年は紀伊半島で大きな山崩れもありました。私も奈良県吉野の土砂崩れの現場を見に行く機会がありました。そういう経験の中で、自然はそんなに甘くない、恵みをもたらすなどやさしい面もあるけれども、両面を持っているなとつくづく感じたわけです。
 復興にあたっては、一種の対症療法を行う必要はもちろんあります。私も何度か東北を見に行きましたが、なぎ倒されている海岸林を見ても、本当に大変な状況のわけです。今の段階では、各自治体も自然の再生・自然の復興にきちっと対応できる状況ではないでしょう。そういう意味では、少し長い目で見ていかなければいけないと思います。環境省は瓦礫処理に最大のエネルギーを注ぎながらも、三陸を再生させるための「復興国立公園」構想も少しずつ進めています。そういう計画の中に、生態系としての森の重要性、さらには海の重要性が取り込まれることを期待しています。
 関連して2つのことが大事と思っています。1つは、次世代の子どもたちへ自然生態系保全の重要性を伝えることです。それからもう1つは、生活の場としての里山・里海、たんなる自然ではなく、生活と結びついた里山・里海が大事で、名古屋でのCOP10で立ち上げが決まった、SATOYAMAイニシアティブの考え方を復興計画に盛り込むことです。
 東南アジアのいろいろなところに行って話しをしていると、SATOYAMAイニシアティブに対する反応が非常によいのです。日本として、里山・里海のモデルをぜひ創ってくれという声がたくさん聞こえてきます。森と畑と海とがつながった、そのような姿での再生の絵を描きたいと思っています。

森をいきいきと保全していくには人間の働きが必要、そのために企業もコミットしていきたい

自然保護基金が支援するプロジェクトサイトでの記念植樹(ミャンマー)

大塚― よくわかります。確かに早急に対応し解決しなくてはいけないこともたくさんありますが、お話しのとおり、生態系を復元し保全するには長い時間が必要ですし、そのことを次世代に伝えていくこと、そして里山・里海という生活に身近な環境を保全していく視点が大事だと思います。この点とも関係しますが、大久保さんたちが推進されている「企業の森づくり」についてもお話しいただけますでしょうか。

大久保会長― 私の経験の中では、北海道の富良野にある東京大学の演習林でいろいろと教えてもらったことが大きな意味をもっています。森をいきいきと活性化して、勢いのある森として創り上げていくことです。自然は復元力をもっているし、人間が少し力を貸してあげると素晴らしい自然ができることを実感しました。それで、森づくりに関与していきたいと思ったのです。ご存じのように、日本には広大な面積の森があるわけですけれども、それらを本当にいきいきとした森として保全し維持していくには、人間の働きかけが必要なわけです。そのために、企業も何らかの形でコミットしていきたいと考えているのです。

大塚― 私も富良野を訪れたことがあります。人手を加えることで、まさにいきいきとした森をつくっていました。自然とのかかわりという意味で、里山ともつながるのだろうと感じました。先ほど少し触れられたアジアのことも伺いたいと思います。

大久保会長― 自然保護協議会として、アジアを中心に途上国のNGOプロジェクトをいろいろ支援してきましたが、支援の中身が少しずつ変わってきています。初期の頃は、個別の生物の保護、たとえば特定の鳥をどう保護するかとか、タイのマングローブ林をどう守るかとか、個別の生物なり個別の狭い地域が対象だったのです。ところが徐々に、生態システムの保全、トータルとしての生態系を保全しようという動き、あるいは人びとの営みとも関連づけたシステムを改善しようとする動き、さらには環境教育というようなテーマに対する支援が増えてきています。大事なのは、トータルとして生態系を保全していくということで、その中でもひとつの大きな対象が「森」だと考えています。

「しんはしんなり」 ─興味もったことをとことん深めていけば、必ず力になる

自然保護プロジェクトの現場を視察訪問

大塚― 大久保さんは、学生時代はボート部に所属しオリンピック出場という快挙を成し遂げられ、積水化学(工業株式会社)では企業のトップとして、さらに経団連自然保護協議会の会長として活躍されています。最近の日本の若い人は内向きではないかとの指摘もありますが、環境と少し離れても結構ですので、EICネットの読者、特に若い方々へのメッセージをお聞かせいただけますでしょうか。

大久保会長― 日本の若者に元気がなくなっているという話はよく聞きます。しかし、私は毎年のように海外のさまざまなところに自然保護活動の視察に行きますが、若い日本人が現地で本当に頑張っている姿を目にしてきました。去年は、ミャンマーとブータンにまいりました。ミャンマーでは中央乾燥地帯の農村で、環境NGOとして現地の農業指導をされている一人の日本人に会いました。非常に若いにもかかわらず、地元から絶大の信頼を得ているのです。ブータンではあるお店で若い女性に出会い、「日本人ですか」と訊くと、看護師として3年間の予定で来ていると言うのです。ブータンの病院に、医師2人と看護師1人の3人のチームで日本からの海外ボランティアとして働いているとのことでした。外国に出たいと思い、やる以上は何か人間として意味のあることにチャレンジしたいとのことでした。
 若い方々という意味では、私が会社の中で新入社員に話すことをひとつ紹介したいと思います。広辞苑に「しん」という漢字を引いたらいくつあると思いますか、と問うのです。

大塚― 50字くらいでしょうか。

大久保会長― 60字あります。「しん」という字には、心の「しん」、身体の「しん」、森も「しん」ですし、今度の地震の「しん」も、津波も「しん」ですし、それから推進の「しん」であり、信頼の「しん」であり、新しい「しん」であり、深い「しん」など、たくさんあります。私がよく言うのは、「しんはしんなり」という語呂合わせみたいなものです。自分が本当に興味をもったことは、どんどん深堀りしなさい、と。深くなれば必ず真理につながるし、新しいものにもつながる、と。何か表面的なことに躍らされて、その時々に社会的に人気のあることをやるのではなくて、本当に自分が重要だと思った、あるいは興味をもったことをとことん深めていけば、絶対に世界に通用すると、それは自信をもって言えます。
 今の日本についていろいろと言われていますけれども、今度の大震災の後にスイスにあるIUCNの本部に行って話していても、東北の人びとの人間としての素晴らしさに皆さんが感動していました。日本は、明治維新や戦後の復興をみてもわかるように、困難な状況を乗り越えてきたのです。ほかにそのような国はないでしょう。表面的なことを気にして動くのではなく、自信をもって行動すればよいと信じています。

大塚― 「しんはしんなり」。私が最初にイメージしたのは、「belief」と「truth」でしたが、いろいろとあるのですね。良いお話を伺いました。
 今日は、国内での活動に加え、ミャンマーやブータンを訪問されたときのことも伺いました。経団連自然保護協議会が、国内はもちろん、国際的な自然保護にもさらに貢献されることを期待しています。これからもますますご活躍下さい。本日は、どうもありがとうございました。

左:大久保尚武さん 右:一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(聞き手)