一般財団法人環境イノベーション情報機構
エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.001

Issued: 2012.01.12

第1回 南川環境事務次官 新年の抱負を語る

環境事務次官 南川秀樹さん

実施日時:平成24年1月6日(金)15:00〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:環境事務次官 南川秀樹さん

目次
まずは3.11 東日本大震災からの復旧・復興を急がなくてはいけない
放射能の除染の問題 ──新たな環境省の仕事と、その方針について
「福島環境再生事務所」の新設とその仕事の内容 ──原子力行政に乗り出す環境省への国民の期待に対して
ポスト京都議定書に向けた日本の対策と、国際的な発言力への影響
勝負所の生物多様性 ──新たな国立公園との関連で
地味だけど大事な仕事に対して、積極的に取り組んでいくのが環境行政

まずは3.11 東日本大震災からの復旧・復興を急がなくてはいけない

大塚理事長(以下、大塚)― 明けましておめでとうございます。昨年は東日本大震災という未曽有の大災害があり、ご多忙を極めておられることと存じます。まずは今年の抱負をお聞かせください。

南川次官― 今年は非常に大事な年になると思っています。何よりも3.11の東日本大震災からの復旧・復興というものを急がなくてはいけないと思います。
 大震災から10ヶ月ですけれども、地元の人たちからは、まだ何ら問題は解決していないのに、東京以西では早くも風化しつつあるんじゃないか、というご指摘も受けています。現場に行ってみますと、特に福島については、まだ10万人以上の方が避難をされてなかなか自宅に戻れない、また、自宅に住んでおられる方もお子さんを含めたご家族の健康について非常に不安を感じられておられるという状況です。
 それから、宮城、岩手でもまだまだ仮設住宅にたくさん住んでおられるということで、やはり廃棄物の処理、放射能の汚染の除去、これを急ぎたい。
 具体的に復旧・復興事業が動いてこないと、これで戻れるんだという、ある種の前向きなメッセージが伝わらないので、まずそれを急ぎたいと思っています。

宮古市のガレキの山


放射能の除染の問題 ──新たな環境省の仕事と、その方針について

一般財団法人環境情報センター
理事長 大塚柳太郎

大塚― 3.11以降、われわれの目から見ても環境省に新しい仕事が急に大きくのしかかっている状況だと思います。今の次官のご発言でもあった通り、特に地域社会が非常に困窮していますし、もう少し詳しくお伺いしたいのは、放射能の除染の問題です。科学的にも、日本だけでなく世界的にも非常に難しいテーマだと聞いておりますが、環境省としてどのような方針で臨まれようとされているのでしょうか。

南川次官― 除染については、われわれも制度がまず必要だと考え、きちんと制度を作って、その制度に基づいて作業していかないとなかなか国民の理解は得られないということがありました。多くの議員の方の理解も得て、8月の終わりに除染のための特別の立法が成立し、環境省が所管をすることになりました。すでに1月1日から全面施行に入っております。
 その中で、まず20km圏内の地域と計画的避難地域──これにつきましては全部で11市町村ですが──を、国が直轄で除染をする。その他、1mSv/年以上の地域については各市町村で計画を作って除染をしてもらって、国が全面的に財政的なサポートをするということで進めていきたいと思っています。

大塚― 今おっしゃった地域を指定するということも環境省が今年始められておりますが、それぞれの地域によって程度もずいぶん違うと思います。除染の具体的な進め方についてのプランは進んでいるのでしょうか。

南川次官― モデル事業とか、自衛隊による除染事業の結果が出つつあって、かなりノウハウはわかってきていると思います。いずれにしても、ある意味で原始的な方法でないと汚染レベルが下がらないということです。汚染土壌を除去する、あるいは汚染された家屋を洗う、落ち葉を拾う、あるいは側溝の土を取って洗う、そういったわかりやすい対策をきちんと取って、汚染を除くところから始めていきたいと思っています。

除染作業(福島県 伊達市)

大塚― ぜひ頑張っていただきたいと思います。今お話しいただいたことが非常に重要な対策だと思います。それとともに、環境省で進めておられる中間貯蔵施設とか、最後は最終処分場になると思うのですが、そのことについても大変ご苦労されているのは新聞等でも拝見しております。細野環境大臣も実際に福島県双葉郡の8町村で、ご説明されたそうですが、環境省としての展望はいかがでしょうか。

南川次官― 双葉郡8町村に早く貯蔵施設の設置を決めたいと思っています。できればその中で、何町のどの辺りに造るということも早く決めたいと思っています。
 段取りとして、3年間ほどは市町村ごと、あるいは各市町村の中のコミュニティごとに仮置き場を作っていただき、3年後には新しくできる中間貯蔵施設に移し替えるというスケジュールで考えています。中間貯蔵施設の場所が決まって、例えば用地買収とか、あるいは一部でも工事が始まると、3年経てば移せるんだということがわかりますので、そうすると仮置き場が決めやすい、仮置き場が決まれば土の除去もしやすくなるということですから、やはり中間貯蔵施設の場所をまず決めるということが重要だと思っています。

「福島環境再生事務所」の新設とその仕事の内容 ──原子力行政に乗り出す環境省への国民の期待に対して

大塚― 今のお話しをお伺いしていて、環境省として地域社会も見ながらご計画を作っておられることがわかります。そういう具体的な話しを進めていく中で、今度福島県に事務所ができました。4月から大きくなるとも聞いていますが、どのような役割を果たされていくのでしょうか。

南川次官― 福島県には環境省福島環境再生事務所が1月1日から発足をしました。約60人のスタッフが現地で今働いていまして、市町村ごとの担当を決めて除染作業を彼らが進めていくということになります。もちろん彼ら自身のやる分もありますし、コンサルタントとかゼネコンに発注して業者にやっていただく部分もあります。いずれにしろ当面は環境再生事務所の職員が全体をマネジメントする中で除染を進めていくことなります。
 それだけでは当然足りません。4月からは市町村ごとの担当をきちんと決めていく必要がありますので、200名を超える規模にしたいと思っています。これは単に福島市だけではなくて、浜通りに例えば2箇所、あと中通りも福島市以外に1箇所とか、支所をできれば3〜4箇所作って、きめ細かな除染ができるようにしたいと思っています。

大塚― そのこととも関係すると思いますが、かつて経済産業省にあった原子力安全・保安院のかなりの部分が環境省の中に入るということで、その方々が福島で実際に仕事をされる機会も出てくるわけでしょうか。

南川次官― 新しくできる「原子力安全庁」──まだ名前は国会の議論マターですけれども──については、人数は480名ほどの定員になります。出身としては原子力安全・保安院で原子力を担当した方、原子力発電所で勤務された方、内閣府の原子力安全委員会の事務局であった方、文科省で原子力規制を担当した方、こういった方々を中心に原子力安全庁のメンバーができあがるということです。
 まずは東京が実際の規制業務の中心になります。地方では、原発のある地域で現場の監督員、監視員として働いていただきます。もう一つは、原発のある県の県庁所在地にスタッフとして働いていただいて、原発についての広報を担当するといったことを考えています。

大塚― 今回の3.11のことを含めて国民の大多数の方々は、原子力行政に対して危惧を感じられていると思いますが、環境省が今度表に出ることで、非常に期待されていると思います。これからいろいろ具体的なことを展開されていくわけですけれども、環境省としてはどのような立場で取り組まれるお考えなのでしょうか。

南川次官― まず、今回のポイントとして、一つは利用促進と規制の分離ということがあります。これは従来、原子力安全・保安院が資源エネルギー庁の中にあって、利用推進と規制が一体化していたということに非常に無理があったということですから、それをきちんと分離し、規制をしっかりやる。それから規制自身も原子力安全保安院だけじゃなくて、内閣府の原子力安全委員会、文科省に分かれていたものです。これを安全対策、規制対策は環境省に全て一元化します。
 「利用促進と規制の分離」と「規制の一元化」という2つのねらいが完全に行われることになりますので、われわれとしてはきちんと規制をして、日本の原子力発電についての信頼性というものをまず、日本国民の方にしっかりと認識していただきたい。また、きっちりとした規制をして、世界的に日本の原発は誰もが信頼できるというところまでレベルを上げていきたいと思っています。

ポスト京都議定書に向けた日本の対策と、国際的な発言力への影響

気候変動枠組条約COP17(南アフリカ ダーバン)

大塚― ぜひよろしくお願いしたいと思います。
 少し話を変えさせていただきます。昨年の12月に南アフリカのダーバンで気候変動枠組条約COP17が開催されました。新聞報道等を見ましても、京都議定書以降の扱いについての日本の考え方は筋論としては正しいけれども、全体として少し日本の影響力が低下するのではないかという危惧の声もあるようです。次官から見て、気候変動に対する──特にCOP17の会議の状況などについて、どのようにお考えでしょうか。

南川次官― まず、大きな成果として、2020年以降のCO2削減について、いわゆる先進国だけでなくて、新興国も含めて主要な排出国は全て一つの公的な形式の中で削減を進めていこうと、そういったスキームを作りましょうということが合意されたということであります。
 そのために従来は2つあった分科会なり委員会が来年から1つになるということで、世界全体の削減ということを考えたときに非常に意味があると思います。といいますのも、実際の現在の排出量は、中国が23〜24%、アメリカが19〜20%、あとインドがすでに日本を抜いて5%、それらを含めた世界全体の8割を超えるような排出をしている国々がいっしょに規制していこうということにならないと、いつまで経ってもCO2の排出量が減りませんので、一つの大きな成果があったと思います。
 それから、京都議定書について、ヨーロッパは延長に賛成するけれども、日本はそれに参加しないということを言っています。日本としてはカンクン合意は生かそうと、当面の2020年まではカンクン合意に基づいて削減に努力していこうとなったわけです。これは、オーストラリアとニュージーランドも実は同じです。そう言った以上はカンクン合意に基づいてやる日本の対策・目標をしっかりと作る必要があります。これは今年12月のカタールのCOP18で結論を出す必要がありますので、それまで日本としてどういった体制をとっていくのかということをしっかり持って、なおかつそれ自身が現状に甘えることなく──数字はこれからですけれども──、対策自体は世界に最たる対策をとっているということがぜひ見えるようにしたい、そうすれば発言力の低下にはならないと思っています。

大塚― 次官がおっしゃったように、日本とすれば正当な本来あるべき姿のことを提案していて、国際的には非常に厳しい会議ではあったと思いますけれども、大きな方向とすれば着実に進んでいると考えてらっしゃるわけですね。

南川次官― その中で日本が自国内で、あるいは国際協力で何をやるかを明示しないと発言力は消えますので、しっかりやりたいと思っています。

勝負所の生物多様性 ──新たな国立公園との関連で

陸中海岸国立公園北山崎

大塚― それと並んで、環境関連のいろいろなことがありました。今となると一昨年でしたか、次官もずいぶん活躍された、生物多様性条約COP10の会議が愛知県・名古屋市で開かれました。3.11のこともあって、最近ではやや影が薄いかのように見えるところもありますが、これからが勝負所ではないかと思っています。特に先ほどの東日本大震災との関係で、新しい国立公園を具体的なレベルでお考えだと伺っています。その辺について、大きなビジョンをお示しいただければと思います。

南川次官― まず、自然保護は大事な問題ですから、われわれとしてはないがしろにしては絶対いけないと思っています。
 今日、日本では「ホットスポット」というと原発の影響があって「特定の汚染された地域」と理解されますが、元々は自然保護のシンボリックな言葉でした。世界の重要だけれども脆弱な自然地域を指していて、そこを護っていこうということで、国際的なNGOが規制した地域です。日本の森林とか野生の生態系も、世界の中での島嶼国の非常に重要な自然だということで指定をされているのです。昨年になりますけれども、歌手の福山雅治さんが世界各地のホットスポットを歩くという番組が放映されて、その一つとして日本の自然も紹介されていました。この日本の自然をきちんと護っていくということが大事です。
 まず国内的には、今回の震災で、青森から岩手、宮城、福島の海岸線がひどく津波で傷められました。この地域の復旧・復興を考えたとき、自然保護の面からぜひ具体的な貢献をしたい。今、陸中海岸国立公園になっている区域は、利用が非常に限定されています。結局、東北地方の真ん中を通っている道路や新幹線で大きな町まで行って、そこから横に動くという利用しかないのが現状です。ですから、ぜひ縦に歩けるような国立公園にしたいと思っていまして、現在の陸中海岸国立公園を拡大して、「三陸復興国立公園(仮)」といったネーミングにしたうえで、北は青森の海岸から南は仙台のできれば松島辺りを含めて国立公園にして、縦の利用ができるような、例えば遊歩道を造りたいと思っています。
 歩道にはところどころ避難に使える丘を造るということも入れたいと思っています。途中に気仙沼があって、ご存知のとおり畠山さんが「森は海の恋人」運動を四半世紀以上続けられていますから、水産業と両立したエコツアーの中心的な場所にもしていきたいと思っています。

大塚― 次官が言われるとおり、自然保護について日本はまさにリードしていく立場です。今年、インドで生物多様性条約のCOP11が開かれますけれども、COP11までの議長国として三陸海岸復興国立公園はシンボルとしても非常に意味があると思います。期待しています。

地味だけど大事な仕事に対して、積極的に取り組んでいくのが環境行政

大塚― まだいろいろとお伺いしたいことはありますが、最後に、EICネットを通して多くの方々にご覧いただけると思いますので、ぜひ国民へのメッセージという意味で、一言お願いできますでしょうか。

南川次官― 環境問題、それから環境行政全体が今、非常に大きく変わっているということを実感しています。はからずも3.11の東日本大震災が大きく変わるトリガーになったという印象を持っています。われわれとしては、環境行政、環境省の仕事というのは、人がどんどんやりたいというよりも、むしろ非常に苦しい、あるいは地味な仕事で、あまり人がやりたがらないけれども大事な問題ということに積極的に取り組んでいきたいと思ってきましたし、これからもそうでありたいと思っています。そういう意味で、なかなか地味ですけれども、やはり熱意を持って、なおかつ冷静な判断力で、根気よくひとつひとつ環境の状況を改善していきたいと思っています。それがひいては日本社会を強くするということにもつながると思っていますので、そういった気持ちで環境行政を展開していきたいと思っています。

大塚― 本日は、ご多忙の中、本当にありがとうございました。一層のご活躍とご健勝をお祈り申し上げます。