一般財団法人環境イノベーション情報機構
富士山頂での大気観測の歴史と研究成果
〇土器屋 由紀子(江戸川大学名誉教授、NPO理事)『富士山頂での大気観測の歴史と現状』
富士山頂で大気観測が始まったのは19世紀後半です。それまで信仰の対象であった富士山頂が、スポーツや科学観測の対象になったのは、欧米を中心とする山岳利用の流れの中にありました。初めに、富士山頂での大気観測の歴史について下記の3つの時期に分けて、それぞれの時期のエピソードなどを紹介します。
1.19世紀後から1932年までについて。1880年のT. Mendenhall、和田雄治らによる気象観測、1895年秋から冬にかけて82日間の野中至・千代子夫妻による気象観測など、気象庁、富士山測候所が成立以前。
2. 1932年-2004年の気象庁時代について、台風の砦であった富士山レーダーの建設(1964年)以前とそれぞれの以後、無人化された200年まで、それぞれの時期に行われた業務としての「気象学」以外の大気観測を中心に。
3. 2005年、測候所の利用の継続を希望する研究者を中心に、NPO法人富士山測候所を活用する会が設立され、気象庁から測候所庁舎を借用し、研究教育目的の運用を始めて15年間における大気観測の変遷について
次に、現在の管理運営と大気観測の実態について、米国のマウナロア観測所、スイスのユングフラウヨッホ観測所、台湾の鹿林山バックグラン観測所など世界の山岳大気観測所と比較しながら現状を説明し、私見を述べたいと思います。
〇野村 渉平(国立環境研究所)『富士山頂での大気中CO2濃度観測とその成果』
1990年代に気候変動の主因である温室効果ガスの動態を調査・解明するために、国立環境研究所では、アジア・オセアニア域を中心に温室効果ガスの観測が開始された。日本においては、近傍で人為的な影響および森林の影響をほとんど受けない北海道東部にある落石岬と沖縄県南西にある波照間島に観測ステーションが設置され、それらの地点での温室効果ガスの観測が実施された。
他方、経済活動が盛んな中緯度帯に位置する本州においても、その地域の温室効果ガスの排出と吸収の変化をモニタリングする必要があったが、人口密集地帯が広く分布しているため、近傍での温室効果ガス排出・吸収の影響を受けない地点が限られていた。
2004年に気象庁が管理・運営していた富士山頂にある富士山測候所が無人化され、将来的にその施設が閉鎖される事態に直面した。それを危惧した科学者たちが富士山測候所を活用する目的に2005年にNPO富士山測候所を活用する会が設立された。
2006年の夏期に国立環境研究所はNPO富士山測候所を活用する会の協力のもと、富士山頂の大気中CO2濃度を観測し、富士山頂の大気中CO2濃度が東アジアの中緯度のバックグラウンド濃度であることを示唆した。富士山測候所は7-8月以外、商用電源が使用不可であり、冬期の室温がマイナス20℃以下に低下するなど安定した観測が厳しい条件であったが、それらの条件下においても高精度・連続的に大気中CO2濃度の観測が可能な観測機器の開発を国立環境研究所が実施し、2009年から富士山頂での大気中CO2濃度観測を開始し、これまで13年間の富士山頂の大気中CO2濃度データの取得に成功した。
得られた富士山頂の大気中CO2濃度データから、富士山頂の大気中CO2濃度は、東アジア域のCO2排出・吸収の変化を詳細に捉えており、エルニーニョ/ラニーニャ現象に伴うCO2吸収の低下や増加、および新型コロナウイルス蔓延防止を目的としたロックダウンによる人為起源のCO2排出の低下などを明らかにしてきた。国立環境研究所は、今後、富士山頂での観測体制の拡充を行い、CO2以外の温室効果ガス(CH4やN2O)のモニタリングを実施していく予定である。
〇鴨川 仁(静岡県⽴⼤学、NPO専務理事)『富士山だからこそできる雷の多角的研究』
〇加藤 俊吾(東京都立大学、NPO理事)『富士山での火山性ガスモニタリング
富士山は宝永噴火以降300年以上も噴火しておらず、いつ火山活動が活発になってもおかしくない。火山活動を監視ための火山性ガス観測を行う必要がある。富士山頂の旧測候所は夏季以外は無人で商用電源が仕様できない。このような環境でも通年で火山ガスモニタリングを行うため、独立電源で小消費電力・長距離通信が可能なモニタリングシステムの構築についてお話をする。また、多地点で簡便な火山ガス観測がおこなう取り組みについても紹介をする。』
司会進行:横田 久司(IIAE研究員、NPO東京事務所長)
【登録日】2022.04.18