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「自動車の社会的費用」 環境用語

作成日 | 2024.07.03  更新日 | 2024.07.03

「自動車の社会的費用」

ジドウシャノシャカイテキヒヨウ  

解説

世界的な経済学者である宇沢弘文(1928年-2014年)が、自動車の社会的な負の側面を指摘し警鐘を鳴らした書籍。1974年に出版された当時ベストセラーとなり、またその後もロングセラーとして社会的に大きな反響を呼んだ。

本書は、市民の基本的権利を確保する立場から、自動車の社会的費用を具体的に算出し、その内部化の方途をさぐり、あるべき都市交通の姿を示唆している。社会的費用とは、個人や企業による経済活動の結果、第三者あるいは社会におよぼす損失である。自動車の社会的費用は、交通事故、犯罪、公害、環境破壊などの形で現れ、これらは市民の基本的権利を侵害し、人々に不可逆的な損失をもたらす。宇沢は、自動車の所有者・使用者が負担すべき費用を負担せず、外部に転嫁していることが無秩序な自動車依存が拡大する理由であるとして、その額は自動車1台あたり年額で約200万円(当時の価格)に及ぶことを示した。自動車通行の社会的費用は、歩行、健康、住居に関する市民的権利を害さないために、歩道と車道との分離、並木などの設営、歩行者の横断の容易化、交通環境の改善、住宅環境への配慮、などを行ったときにかかる道路工事の費用の全体であり、これは膨大な額になる。自動車はそれだけの社会的費用を生み出しているのだから、その保有には大きな使用料を課すべき。現在の状態では、社会全体の効率性を蔑にして、自動車保有者の利益だけが不当に優遇されている、とする。また、道路について「社会的共通資本」という観点からの考察も行っている。各経済主体が自由に使用することができ、私的所有に適さず、市場原理にも適さない、大気などの自然資本や橋や道路などの社会資本には、誰かが利用すれば他の誰かが利用できず損害を被るという混雑現象が発生する。このような社会的共通資本の一単位の使用に伴って他の経済主体に与える限界的な損害額を全ての経済主体について集計すると、その社会的共通資本の使用に伴って発生する限界的社会費用が算定される。この限界的社会費用の分だけ使用料を課すのが、社会的共通資本の最も効率的な使用法である。宇沢は、「社会的共通資本は、その使用に対して、社会的費用が発生しないように設計され、管理されなければならない。上に考えたような社会的費用はもともと発生してはならないものであって、社会的費用の発生をみるような経済活動自体、市民の基本的権利を侵害するものであるという点から、許してはならないはずである。」と述べている。(2024年6月作成)

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