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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第15話) 国立公園局と州政府の協力
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Issued: 2008.03.06
国立公園局と州政府の協力 [2]
 目次
都知事来訪決定!
都知事視察の資料準備
国立公園の管理組織
都知事来訪決定!
 「スズキサーン、ガバナー・イシハラがレッドウッドに来ることになりましたよー」

 そのメールからは今にもルディーさんの声が聞こえてくるようだった。都知事の訪問先が、グランドキャニオンとレッドウッドに決定した。レッドウッド国立公園の所長にも地域事務所を経由して連絡が入る。
 今回の視察の目的は、国と地方の連携、研修施設、そしてボランティア制度だという。グランドキャニオンには国立公園局の研修施設のひとつ、オルブライト研修所がある。第2代国立公園局長の名を冠したこの施設は、主に資源管理職員向けの研修を担当している【2】。この研修施設とレッドウッドが主な訪問先になる。

【2】 アメリカ国立公園の研修施設
資源管理職員向けの研修を担当するオルブライト研修所に対して、初代局長の名にちなんで名づけられた「マザー研修所」(ウェストバージニア州ハーパースフェリー)は、主に自然解説を担当するインタープリターを対象とした研修を行っている。
マザー研修所(Stephen T. Mather Training Center)
都知事視察の資料準備
 東京都の職員で、今回の視察の担当であるMさんと相談して、都知事用に資料集を用意することにした。
 これまでの現場での経験やインタビューなどから、国立公園の管理手法や特徴がおぼろげながらわかってきていたが、具体的なデータや資料を調べるところまで手が回っていなかった。研修期間も残り一年を切り、そろそろ報告書を作り始めてもいい時期だった。
 この頃、妻が歯科治療のため約3週間帰国していた。気候もよく散歩にはいい季節だが、一人では出かける気にもならない。買い物以外は土日もボランティアハウスにこもりきりで作業を進めた。
 マンモスケイブ国立公園から持ってきたもの、レッドウッド国立州立公園で集めたもの、インターネットのプリントアウトなど、相当な量の資料がある。東京都のMさんのリストに従って、断片的なデータや資料をまとめていく。
 国立公園の種類や数、リストなど基礎的な資料は時間さえかければできる。難しいのは、
 「国立公園局の組織の特徴はどこにあるのでしょうか」「職員の養成方針は?」といったものだ。
 また、利用者数、職員数、そして予算額といった具体的な数字を押さえるのにも苦労した。ボランティアは職員向けイントラネットにもアクセスできる。そこから情報を得ることもできたが、今後の情報の利用を考えると、あまり内部資料に頼るわけにもいかない。
 結果として、公表版の予算書やPR資料を調べ、わからない点はどんどん公園職員に質問することにした。

国立公園の管理組織
 このような作業から浮かび上がってきたのは、国立公園システムの発達と職員の分業制が切っても切り離せないということだ。
 国立公園局には16の職種(carrier field)があり、それぞれ専門的な教育が行われる。自然解説、環境教育、資源管理、メンテナンス、それぞれの分野のエキスパートが養成される。組織の運営全般に通じているのはジェネラリストたる一部の幹部職員だけだ。分業と専門教育が、この職員数2万人を擁し、国土面積の約3.4%に相当する390もの公園を管理する巨大組織の基礎を形作っている。

【表1】 国立公園局職員の職種(Career Fields)一覧
番号 職種 業務内容、求められる能力
1 管理及び事務
(Administration and Office Management Support)
国立公園局内のすべての部署における管理や事務補助を担当する職種である。予算、経理、人事、物品購入、財産管理などの幅広い能力が求められる。
2 文化資源管理
(Cultural Resources Stewardship)
公園の文化的資源の保存、保護、維持及び解説を担当する職員である。歴史、考古学、文化的景観、歴史的建築物、博物館管理、人類学などに関連する業務を行うとともに、州政府、地域の団体、部族政府に対して、指導や技術的補助を行う共同プログラムなどに携わる専門的職種である。
3 火災及び航空管理
(Fire and Aviation Management)
火災防止や(森林内の)燃材蓄積防止、組織的森林火災及び野火管理、航空管理及び使用、ならびに事故指揮システム(災害及び緊急時)などの特別な状況に対応するための専門的な技術を持った職種である。
4 歴史的保存技術及び技法
(Historic Preservation Skills and Crafts)
保存技術、保存の考え方、ならびに長期的なプログラムである保存及び技術研修(Preservation and Skills Training (PAST))や伝統的技法及び素材の使用などを含む歴史的財産の維持管理等保存のための技術に特化した専門的職種である。
5 情報管理
(Information Management)
コンピューターと通信技術のプログラム分野に関連する業務に携わる。GIS(地理情報システム)のような資源管理に関係したコンピューターのシステム、図書館業務を含む技術情報の保存と検索など、様々な分野にまたがる業務に携わる職種である。
6 自然解説、教育及び協力団体
(Interpretation, Education and Cooperating Association)
従来より公園内で行われてきた自然解説を担当する職員に加え、地域の教育プログラム及び公園の自然解説の内容を統合するような教育カリキュラムの作成を行っている職員、ならびに公園の協力団体と密接に関係しながら仕事をしている職員など、幅広い業務を対象とする職種である。
7 法執行及び資源保護
(Law Enforcement and Resource Protection)
米国公園警察(U.S. Park Police)を含む、法執行に従事している職種である。連邦法規及び規制、人間関係論、巡視活動、資源保護、ならびに犯罪捜査などに関する特別の研修を受ける。
8 維持管理
(メンテナンス、Maintenance)
技術職及び職人(WB給与体系に所属する職員:Wage Board(WB) Positionとは、連邦政府職員のうち主にブルーカラー的な業務に従事する職員を対象とする給与体系。これに対し、ホワイトカラー系の職員のポストは、General Schedule(GS) Positionsと呼ばれ、給与体系が独立している。)により構成される80を越える職種の系統(Classification Series)と施設管理者のような専門者集団に関係する職員により構成される職種である。研修コースの例としては、通常の維持管理プログラム、職業訓練コース、技術職(職人)及び専門免許取得プログラム、特別維持管理能力開発プログラムなどがあげられる。
9 自然資源管理
(Natural Resource Stewardship)
自然資源を保護し維持するために必要なツールに焦点を当てた学際的な職種である。職員の業務内容は、資源の特定、評価、モニタリングのための技術、一般的生態系管理と、NEPA(国内環境政策法)や他の環境法や政策の遵守などである。
10 組織開発
(Organization Development)
組織及び職員の能力開発、研修及び指導、教育ならびに機会均等に責任を負っている職員により構成される、さまざまな分野にまたがる職種である。
11 計画、デザイン(設計)及び建設
(Planning, Design and Construction)
計画及び施設開発サポート(環境影響評価、公衆の参画)、設計及び建設(建設場所や構造物ごとの規制要件及び許可制度など)、計画、設計及び建設のための技術的な補助を含む、学際的で他分野にまたがる職種である。
12 レクリエーション及び保全プログラム
(Recreation and Conservation Programs)
主として、国立公園局の直接の業務ではないレクリエーションプランナーとして、各種の技術補助プログラムに携わっている職員により構成される職種である。具体的には、河川・トレイル及び保全補助・助言(Rivers, Trails and Conservation Assistance)、長距離トレイル研究(Long-Distance Trails Studies)、パートナーシップ原生景観河川研究 (Partnership Wild and Scenic Rivers Studies)、水力発電補助(Hydropower Assistance)、土地及び水源保全基金(Land and Water Conservation Fund)、連邦政府の土地を公園に(Federal Lands to Parks)、都市公園及びレクリエーションの復活(Urban Park and Recreation Recovery)、経費分担の挑戦(Challenge Cost Share Program)などの各プログラムに参加する職員などが含まれる。
13 リスクマネージメント(職業上の保健及び安全)
(Risk Management (Occupational Health and Safety))
保健及び安全規制遵守の観点から、生命・安全問題、職業安全及び健康法(OSHA)規制、職員及び利用者用施設及び事故の監査・評価、労働者補償プログラム(OWCP)に基づく苦情にかかわっている専門的な職種である。
14 専門的な職種
(Specialty Field)
特定の職種に分類されにくい幅広い分野にまたがる職業系列により構成される職種である。例としては、コンセッション管理、国際業務、土地管理、議会関連業務、広報、執筆及び構成などがある。
15 指揮、管理及び指導
(Supervisions, Management and leadership)
この職種は、各公園ユニット及び組織的な指揮・管理を達成すること、各職員及びグループの潜在的能力を発掘すること、個人及び組織の能力を増進し、チームごとの業務効率を向上させるという責任を負っている職種である。
16 重要な共通コンピテンシー(職員の能力)
(Universal Essential Competencies)
(*)
すべての職種において、あらゆるレベルの職員1人1人に求められる職員としての能力(コンピテンシー)のことである。これは、同僚や上司、チームなどからも、また国立公園局の適応指導(オリエンテーション)とミッション再確認研修プログラム、個人的教育と経験などから得られるものである。共通コンピテンシーは、全職種の基礎であり、全職員に非常に重要であるため、それ自体では独立した職種ではないものの、独立した項目としてこのリストに掲載している。
17 利用者管理
(Visitor Use Management)
特別公園利用許可(Special Park Use)管理、緊急医療サービス(EMS)、捜索及び救助、バックカントリー及び原生地域管理、利用者制限管理、公園の状況に関する社会・経済学的な分析の適用などについて責任をもつ職種である。
(出典:国立公園局ホームページ)
*:16番目のCompetenciesは職員に求められる能力であり、個別の職種をさすものではない。

 このような分業制にはメリットもデメリットもある。メリットは当然ながら教育の効率が高いということだろう。反面、分業が進めば、情報の共有や組織としてのまとまり、ビジターに対するイメージの統一が難しくなる。そうした点を補うためには、研修制度が重要だ。国立公園局には、外部の研修施設も含め、11の研修施設がある。

【表2】 国立公園局関係の研修施設等(11箇所)
1.内部研修施設(6箇所)
首都研修センター
(Capital Training Center)
ワシントンDC
連邦政府法執行研修センター
(Federal Law Enforcement Training Center)
ジョージア州
オルブライト研修センター
(Horace M. Albright Training Center)
アリゾナ州
(グランドキャニオン国立公園)
歴史保存研修センター
(Historic Preservation Training Center)
メリーランド州
国立保存技術及び訓練センター
(National Center for Preservation Technology and Training)
ルイジアナ州
マザー研修センター
(Stephan T. Mother Training Center)
ウェストバージニア州
2.外部研修施設等(5箇所)
アーサー・カーハート国立原生地域研修センター
(Arthur Carhart National Wilderness Training Center)
モンタナ州
公有地管理局
(Bureau of Land Management)
アリゾナ州
保全研究所
(Conservation Study Institute)
バーモント州
国立保全研修センター
(National Conservation Training Center)
ウエストバージニア州
国立省際火災センター
(National Interagency Fire Center)
アイダホ州
(出典:国立公園局ホームページ)

 こうした職員の養成システムにより、職員の能力、帰属意識、専門技術の向上が図られる。ユニフォーム、ロゴマークなどの体系だったイメージ戦略とあいまって、「パークレンジャー」という質の高い組織イメージを確立することに成功している。
 ただ、このように細分化された人事は、職員の母集団が大きいからこそ可能といえる。また、組織内部での縦割りが強まるなどの弊害もあるだろう。これに対し、国立公園局よりも若干広い管轄区域を持つ魚類野生生物局には、保護区関係の職員数は約3千人しかいない【3】。そのため、組織や管轄する保護区の運営方法などにも大きな違いがある。
【3】 アメリカの国立公園局と魚類野生生物局
2004年現在、国立公園システムの総面積は約3,400万ヘクタール、職員数は約20,600名であるのに対し、国立野生生物保護区はそれぞれ約3,850万ヘクタール、約3,000名(ただし、維持管理職員を含まない)。職員1人当たりの保護区面積は、前者が約1,650ヘクタール、後者が約8,200ヘクタールと約5倍の開きがある。なお、日本の陸地面積が約3,780万ヘクタールであることを考えると、この2つの組織が管理する面積がいかに広大なものであるかがわかる。
 「より多くの利用者に高い満足を提供すること」、これが国立公園局の管理方針であり、それにより、国立公園は子どもから大人に至るまで、国民の圧倒的な支持を得ることに成功している。「国立公園は米国民の誇りだ」とさえ言われる。
 対照的に、国立野生生物保護区を管理する魚類野生生物局の管理方針は「野生生物優先」だ。野生生物の生息地の保護を優先するため、利用施設も少なく、受け入れている利用者数も相対的に見ると少ない。
 「野生生物は投票しないからね」とは、ある魚類野生生物局職員の言だ。
 日米の国立公園を比較するだけではなく、この魚類野生生物局の管理との3点比較を行うのが私の研修の特徴だった。研修を通じて感じたのは、両局の違いは、こうした利用者に対する姿勢に起因しているのではないか、ということだ。米国のような民主主義の国では、「票」がすべてを決めるといってもいいだろう。言い換えれば、有権者の人気がそのまま政治的支援に直結し、予算も職員数も増える。大きな予算と組織を得て、利用環境を整えるか、予算と組織は必要最低限に抑え、保全を優先するのか──。どのような戦略をとるかは、保護区の設立目的などにより異なる。


 こうして作業着手から三週間、あっという間に妻の到着日がやってきた。資料はようやく完成したが、部屋の中は散らかったまま。掃除もそこそこに、日本から帰ってくる妻を迎えに、アルカタ空港に向けて車を走らせた。
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