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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第14話) ヨセミテ国立公園へ!
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Issued: 2008.01.10
ヨセミテ国立公園へ![4]
 目次
NPS(国立公園局)オープンハウス(公園内開発事業説明会)
インタープリターによる説明
ヨセミテ国立公園の総合管理計画
NPS(国立公園局)オープンハウス(公園内開発事業説明会)
NPSオープンハウスの様子

 ヨセミテ滞在中、「国立公園局オープンハウス(NPS Open House)」というイベントに参加した。ヨセミテバレー・ビジターセンターのホールで開催されていたもので、一般来訪者向けに毎月開催されている。公園内で行われている各種の事業について公園職員が担当事業の説明パネルを掲示し、内容の説明をする。休日にもかかわらず多くの職員が参加し、午後2時から午後6時までの4時間、ひっきりなしに利用者が訪れていた。
下水道施設更新事業の説明パネル

 ヨセミテバレー内の老朽化した下水管などの地下埋設施設の更新事業に関する説明は大変興味深かった。利用施設から排出される排水は膨大で、公園内には200万ガロン(約7,600立方メートル)の容量の巨大な排水タンクが設けられている。排水は、いったんバレー内の各施設から下水管によりこのタンクに蓄えられた後、公園外の処理場までポンプにより圧送される。これらの排水を集める下水管が老朽化しており、汚水の流出が懸念されている。ところが、配管の一部はバレー内の自然草地(メドー)に埋設されているうえ、下水管は河川を13回もまたいでいる。既存の配管類を撤去して共同溝として再整備しようとするこの事業は、汚水の漏出を抑える効果は大きいが、相当大規模な工事になる。特に自然草地を大規模に掘り起こさなければならにことが問題視されていた。このため、自然保護団体が工事中止を訴え、訪問当時も事業は中断されたままだった。
 日本でも、湿原に設置される木道の杭などは、打ち込むときよりも引き抜くときの方が大きな工事になってしまうことが多く、こうした湿原や自然草地での工事の扱いは難しい点が多いのは確かだ。
整備が予定されているトイレの平面図が掲示されていた。

 ヨセミテ国立公園では、このオープンハウスを含め早い段階から利用者に情報を公開しており、パブリックインボルブメントに対してかなり前向きな姿勢を見せていた。政府関係の事業は、環境影響評価や事業評価などの手続きの関係で、事業着手までには少なくとも1〜2年もの期間が費やされる。関係者とのコミュニケーションの確立は、円滑な事業遂行のために避けて通れないものとなっている。
 ヨセミテ国立公園では、事業に対するコメントを随時受け付けており、定期的な情報送付を希望する人のための登録用紙なども備え付けられていた。日本では通常、パブリックコメントには批判的な意見が相対的に多く寄せられるが、ヨセミテ国立公園では、こうした利用者の巻き込みによって、事業を前向きに評価する意見も発掘されているようだ。これらの努力が訴訟回避につながることはもちろんだが、サイレントマジョリティーたる多くの“国立公園応援団”から建設的なコメントが寄せられるのも、公園管理者にとっては得がたいことと言える。
インタープリターによる説明
現在のヨセミテバレー(グレーシャーポイント展望台から)。樹木があるため、道路や駐車場があまり目立たない。

 オープンハウスの開始から30分後、インタープリターによる説明が始まった。公園の歴史とさまざまな課題、主要な開発行為についての解説だ。説明のプロだけあって、パワーポイントを用いたプレゼンテーションは大変わかりやすい。約20名の参加者も高い関心を示し、活発な質疑が交わされた。一方、その内容は、「キャンプサイトをもっと増やすべきだ」と利便性向上を訴える意見があると思えば、「小さな橋の付け替えについても細心の注意を払うべき」と施設建設の抑制を促す意見も出された。興味、関心の方向性はさまざまで、こうした意見の収斂を得ることは容易ではないだろう。

 「公園の抱える課題の原因のほとんどは、過剰利用にあります」  自然植生の中に自動車が乗り入れられ、ところかまわずテントが張られている様子が映し出される。相当に古い白黒の写真だ。こうした無秩序な利用が植生を著しく荒廃させた。また、1860年代のヨセミテバレーには10を超えるホテルが建ち並び、一大ホテル街だった。その後、ほとんどのホテルは取り壊され、現在は1ヶ所のみが残されている。
 「当時の利用者は長期間滞在が中心で、夏の間ずっとヨセミテバレーに滞在していることも珍しくありませんでした」
 それに対し、現在は日帰り利用者が約8割を占め、その平均滞在時間は4時間足らずだ。皆慌ただしくバレー内の見所をまわり、買い物をして帰途につく。

 「野生生物の管理についてもいろいろな問題がありました」
 過去には、観光客を呼び込むため、この地域には棲息していないエルクをヨセミテバレーで飼っていたり、残飯を野生のクマに与えたりしたこともあった。釣り客のために、カリフォルニア州政府がブラウントラウト(マスの一種)を放流したことで、もともと棲息していたレインボートラウトの棲息環境が脅かされた。

 「1931年、ヨセミテにはテニスコートがありました。また、『ファイアーフォール』というアトラクションが行われ、大人気でした」
 このアトラクションは、ヨセミテの夏の名物だった。夏季には涸れてしまう本物の滝に代わって出現する「火の滝」は、焚き火の燃えさしからできていた。バレーを臨む崖の上に巨大な焚き火を起こし、これを一度に落として「火の滝」を見せる。周囲の森林が切り出され、多くの薪材が用意された。
 「1899年と1961年当時のヨセミテバレーの写真です」
 2枚の写真を比較すると、違いは一目瞭然、樹林地が大幅に増えているのだ。管理方針の転換によって、森林面積が約50%も増加した。

 「私たちは、皆さんからのコメントを歓迎します。ヨセミテには難しい問題が山積していますが、コミュニケーションを通じていろいろな課題を解決していきたいのです」
 インタープリターからの締めくくりの言葉だ。国立公園局からのメッセージが直接伝わる、すばらしいコミュニケーションの場だった。私も試しに情報提供を申し込んでみたところ、以降、定期的に資料や案内が届くようになった。
ヨセミテ国立公園の総合管理計画
 アメリカの国立公園には、それぞれの公園の管理方針などを定めた総合管理計画(General Management Plan:GMP)という計画書がある【12】。公園の特性や利用者数など具体的な数値を元に、長期的な観点から取りまとめているものだ。
 GMPに定められているヨセミテの基本的な管理方針は、次の5点である。
 ・かけがえのない自然の美しさを再生する
 ・自然のプロセスが卓越するようにする
 ・利用者の充実した経験を促進する
 ・自動車渋滞を大幅に緩和する
 ・混雑を解消する
 国立公園局が掲げる、「自然を守り伝えながら、利用者の体験を増進する」という国立公園の理念がうまく取り入れられている。前述したヨセミテの歴史をたどってみても、この相反する「適切な利用」の実現は、試行錯誤を通じて徐々に進んでいるように見える。ご参考まで、この管理計画の内容を一部引用してみたい。

 まず、目を引くのがヨセミテのGMPが掲げる理想の高さである。「はじめに」の中で、管理方針として「すべての車両を締め出し、開発行為を公園外に向け直す」と打ち出している【13】

 この方針を実現するための「5つの目標」の中では、
 ・国立公園局の管理事務所、職員宿舎、倉庫などの公園外移転
 ・公共交通機関増発による私用車の締め出し
 ・管理火災の実施
 などの内容を盛り込んでいる。特に、ヨセミテバレーからの私用車の全廃を謳っていることは、注目に値する。また、地区ごとの「適正なビジター利用レベル(appropriate visitor use levels)」が設定されている。
【12】 ヨセミテ国立公園総合管理計画(1980年策定;YOSEMITE NATIONAL PARK GENERAL MANAGEMENT PLAN (Visitor Use/ Park Operations/ Development 1980))。このGMPの下位計画として、自然資源管理計画(Natural Resources Management Plan)、文化資源管理計画(Cultural Resources Management Plan)などが定められている。
国立公園局ホームページ
【13】 GMPの「はじめに」(Introduction)
「ヨセミテバレーは縦7マイル(約11キロメートル)、横1マイル(約1.6キロメートル)ほどの大きさである。盆地には、約30マイル(約48キロメートル)の道路があり、毎年100万台程度の自家用車、トラック及びバスが通行している。国立公園局の方針は、ヨセミテバレー及びマリポサの森からすべての車両を締め出し、開発行為の実施を公園外に向け直すことである。」
方針実現のための5つの目標
(1)かけがえのない自然の美しさの回復
 優れた自然地域が、職員宿舎、事務所、倉庫、ゴルフコース、美容室などの用地として用いられており、その自然を回復する必要がある。国立公園局ヨセミテ国立公園事務所及びカレー社(当時、ヨセミテ国立公園内のホテルなどの収益施設を独占的に経営していたコンセッション業者)の本部は、公園外に移転されなければならない。
(2)交通渋滞の大幅緩和
 近い将来、ビジターの私用車の使用を制限し、公共交通機関を増発することにより、交通渋滞は大幅に緩和されるだろう。国立公園局の最終目的は、すべての私用車を盆地部(ヨセミテバレー)より排除することにある。
(3)自然のプロセスを優先する
 自然現象が起こることを理解し、受け入れる。氾濫原、及び地質学的危険地帯から施設を撤去する。自然火災が植生維持に果たす役割を模した管理火災を実施する。
(4)混雑の緩和
 適正なビジター利用レベル(appropriate visitor use levels)を公園区域全体にわたって設定する。
(5)ビジターの理解と自然体験の増進
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