管理火災(prescribed burning, prescribed fire)は、延焼防止対策を講じた上で、野火に替わって人工的に森林火災を発生させるものだ。森林内に蓄積された倒木や落枝を定期的に燃やすことで、火災の被害を軽減することが主な目的だ。
かつて、国立公園内では野火に対して消火活動だけを行なってきたが、これがかえって被害の深刻化を招くことになった。いったん火災が発生すると火力が強くなりすぎ、自然状態では燃えるはずのないものまで消失してしまったのだ。その反省から、森林内に蓄積された
バイオマスの状態を調査し、バイオマス量に応じて計画的・人工的に燃焼させる人工的な火災が管理手法として取り入れられた。この管理火災は、自然の野火による生態系の更新機能を、「科学的」な情報に基づいて再現することによって自然環境の管理に用いるという、画期的なプログラムだ。
この管理火災が初めて行われたのもセコイア国立公園であった。セコイア国立公園では、消火などによる人為的な火災抑制のため、ジャイアントセコイアが世代更新しないという問題を抱えていた。数十年間にわたる調査や試行錯誤の末、1964年に人工火災試験が行われ、ようやく1968年に試験が成功した。これを受けて、森林火災の生態系保全機能が見直され、徐々に公園の生態系の管理に取り入れられることになった。しかしながら、森林火災を管理のために用いるという考え方が一般国民に受け入れられるまでには、さらに20年間もの月日が必要だった。
1988年、イエローストーン国立公園で、過去最悪の森林火災が発生した。この火災で、イエローストーン国立公園のおよそ半分の面積に相当する森林が燃失したと言われている。樹木が枯死した森林面積はそれよりも小さかったものの、7月から9月まで燃え続けた火災は多くのビジターの目に止まり、一般利用者や政治家からの批判を招いた。これを受けて、1989年に関係省庁共同の報告書が取りまとめられ、同国立公園の火災管理の方法が適当であったとの結論を下された。こうして、森林火災は自然のプロセスの一部であり、公園内の自然資源の管理に管理火災を取り入れるということが一般にも認められることとなった。
なお、現在、セコイア・キングスキャニオン国立公園において実施されている管理火災は、近隣の農務省森林局の国有林や内務省公有地管理局(Bureau of Land Management)などと共同で実施されている。省庁横断型のファイヤー・マネージメント・プログラムが設立され、そのプログラムに基づき火災管理部隊が組織された。これは、それぞれの省庁が管理する保護区などでの管理火災や消火活動を一元的に行う組織だ。このようなプログラムがつくられた背景には、森林が複数の組織の管理地にまたがっていることが多いことに加え、管理火災の実施には専門的なトレーニングや装備が必要なことなどから、関係する組織が共同でプログラムを運営した方が、効率的でかつ効果的であるという理由があるようだ。