翌日は、北極国立野生生物保護区の事務所を訪問した。事務所は、昨日訪問したユーコン・フラット保護区と同じ建物に入っていた。対応していただいたのは、所長のリックさん、副所長のゲイリーさん、そして取締官のジェニファーさんの3人だった。
リック所長は魚類の専門家で、これまで、アラスカ州を含む5つの州で13の国立野生生物保護区に勤務してきた。絶滅危惧種法に関する業務や、国際協力業務に従事した経験もあるそうだ。
「職員数は、常勤職員が18〜20名、臨時雇用職員が6名程度です。常勤職員のうち2名は、保護区内の住民をメンテナンス(維持管理)する担当職員として雇用しています。予算額は220万ドル程度です」
◇北極国立野生生物保護区(Arctic National Wildlife Refuge)
面積1億9,600万エーカー(約800万ヘクタール)。1960年に設立された米国で最大の国立野生生物保護区。1980年のANILCA法が制定される以前に指定された保護区で、初期委任事項(initial mandate)に、「(保護区の有する)価値を保存すること(preserve value)」という事項が含まれるため、より厳格な保護が求められる。その一方で、保護区内での石油開発をめぐっては、現在も連邦議会などにおいて活発な議論が続いている。
なお、隣接するカナダ側のOld Crow Flats National Parkとの間では、協力して原住民の知識に関する科学と情報収集を行っている。Arctic Village(アラスカ側)とOld Crow(カナダ側)のそれぞれの集落では、毎年20名の決められた原住民から、近年の気候、木の実の収穫量など様々な事項について、統一的な質問事項について聞き取りを行い、その伝統的な生態学的知見をレポートにしている(Community Reports; Arctic Borderlands Ecological Knowledge Cooperation Report Series)。
この事務所の業務(表1)は、許認可から、ホッキョクグマ・カリブー・ガンカモ類のモニタリング、その他調査業務(表2)まで、多岐に渡っていて、業務量も多い。事務所態勢が比較的充実しているとはいえ、保護区の規模も考えるとあまりにも人も予算も不足しているように思える。