ジャパンタウンと呼ばれる日本人街にあるそのホテルは、久しぶりに造りがしっかりしていた。通路は建物の内部にあり、空調も集中冷暖房で静かだ。何といってもお風呂が日本風だし、ベッドや布団も心地いい。アメリカのモーテルは格安で部屋も広いが、質はそれなりだ。長期間移動を続けていると、その違いが疲労や健康状態に大きく影響してくる。
部屋で少し休憩してから、すぐ隣の小さなスーパーマーケットに買い物に入る。このスーパーは日本食を扱っており、お惣菜コーナーにはサバの塩焼きがあった。こうした青魚の類は田舎のスーパーではほとんど売られていない。本当にご無沙汰だった。探していた日本の歯磨き粉やハブラシもあった。値段には目をつぶって大量に買い込む。もうこの先レッドウッドに入ったら、こういったものは買えないだろう。ワサビ、海苔巻き用の巻き簾、醤油、酢など2人で両手に抱えきれないほどの「物資」を購入し、今しがた出てきたばかりのホテルに戻る。
午後、妻はジャパンセンターにある日本人経営の美容院に髪を切りに行った。日本を発ってから美容院に行ったのは1回のみ。以来、私が時々毛先をそろえていたが、さすがにどうしようもなくなっていたようだ。私は部屋で書類や記録の整理、レポートの作成。インターネットの回線も安定していたので溜まっていたメールもすっかり処理することができた。
夕方は日本食レストランで夕食。
「このエビフライ美味しいよ。食べてみない?」
妻に勧められて一本分けてもらう。久しぶりの日本風のフライに頬が落ちそうだった。私の料理も少しおすそ分けしながら、サンフランシスコ到着を二人で祝った。
ジャパンセンターにはいろいろなテナントが入っていたが、中でも書店には何度も足を運ぶことになった。
「立ち読みなんて久しぶりだね」
妻は女性向け雑誌を片っ端から読んでいる。私は、マンガ週刊誌と、散々迷った挙句に、以降、研修中の愛読書となった禅語の本を購入した。「禅」など日本では見向きもしなかったのに、海外だと一つ一つの言葉が心に染みこんでくるのはなぜだろう。
出発を明日に控えた私たちが行ったのは、サッポロラーメンの店だった。味噌バターラーメンと餃子をたらふく食べた。値段は日本より相当高かったが、サンフランシスコ滞在を締めくくる食事としては申し分ないものだった。