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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第17話) オレゴン州、ワシントン州遠征
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Issued: 2008.06.19
オレゴン州、ワシントン州遠征[3]
 目次
河川流域での協力
マウントレーニエ国立公園
国立公園の抱える問題
国立公園内の施設
河川流域での協力
写真13:マウントレーニエ国立公園のシンボル、レーニエ山

 保護区を流れるニスクアリー川には、流域の一体的な管理を目的に設立された組織がある。「ニスクアリー川協議会【7】」と呼ばれるこの組織は、河川流域に関係するさまざまな団体・機関が参加・協力している。  協議会を構成するのは、地元の行政組織、インディアン部族、大学等、それにマウントレーニエ国立公園、ニスクアリー野生生物保護区、Giffort Pinchot国有林など、合計21の団体・機関。サケマス類など、流域の一体的な管理が必要な野生生物の保全対策について協議が重ねられ、実際に効果が現れているという。  「協議会の成功の鍵は、相互の信頼関係を長い期間をかけて醸成してきたことだと思います。この保護区の管理事務所長は、副所長時代からこの協議会のメンバーでした。長期にわたり、同じ職員が責任を持ってかかわってきていることが、信頼関係の構築に大変役立っていると思います」
【7】 ニスクアリー川協議会
 ニスクアリー川協議会(Nisqually River Council)は、ワシントン州議会において、市民による助言委員会及び、NPOによる同盟体の設立を求めた「ニスクアリー川管理計画」を契機として、1987年に設立された。協議会は、ニスクアリー川の集水域の保護と改善を、関係機関の協力、広報そして教育により進めていこうとする連携組織である。
マウントレーニエ国立公園
写真14:国立公園の入口ゲート

 最後に私たちが目指したのは、同じワシントン州内にあり、ニスクアリー保護区の上流部に位置するマウントレーニエ国立公園だ。この公園は、環太平洋火山帯に位置する火山である標高4,392mのレーニエ山を含む面積23.6万エーカー(約9.5万ヘクタール)と、その山麓の森林地帯からなる国立公園である。1899年に米国で5番目の国立公園として設立された。
 国立公園のニスクアリー・エントランスでは、国立公園が設立された当時とほぼ同じデザインの、木造のゲートが迎えてくれる。太い丸太で組まれた入口ゲートには、国立公園名を記載した標識が掛けられている。いかにもアメリカの国立公園らしい雰囲気だ。
 しばらく車道に沿って車を走らせると、ホテルのあるロングマイア(Longmire)という街に到着する。ホテルは古い木造建築で、正面にレーニエ山を眺望することができる。
 周囲にはミニビジターセンター(Longmire Museum)や遊歩道が整備されている。
 雲間からレーニエ山が現れた。山頂は白い雪に覆われ、思ったよりもずっと高く聳えている。この山はその山容が富士山に似ていることから、日系人の間では「タコマ富士」として親しまれている。レーニエ山は活発な火山活動を続けており、最近では100年ほど前に噴火している。
 レーニエ山周辺には、年間680インチ(約17m)もの積雪があり、山頂周辺には多くの氷河が存在する。この雪融水と大量の土砂が下流域の豊な生態系を支えている。先に訪れたニスクアリー国立野生生物保護区は、このレーニエ山に源を発するニスクアリー川の河口域に広がっている。
 この国立公園が位置する米国北西部太平洋岸は木材業が盛んだ。150年間に渡って大規模な伐採活動が行われてきた結果、原生林のほとんどは切りつくされ、わずかに15%が残されるのみとなった。国有林を管轄する米国森林局では、現在は原生林の伐採を中止している。ところが、地元住民などの間では、それが地域経済への悪影響や失業者の増加を招くことを懸念する人も多い。
木造のホテルとレーニエ山
写真15:木造のホテルとレーニエ山
山頂部の氷河
写真16:山頂部の氷河
国立公園の抱える問題
 公園内では、近郊の大都市からの汚染物質排出による酸性雨、酸性霧、オゾン、霞などの影響が深刻になっている。国立公園では、研究者と協力して汚染源を特定するための調査を行うとともに、視程、降雨量、酸性雨の影響などに関するモニタリングが行われているそうだ。
 少し古い数字だが、2000年には、4万人のバックパッカーと1万人の登山者がレーニエ山を訪れている。これだけの利用者が排泄する「し尿」が、公園に与える影響が懸念されている。特に、原生地域における水質の悪化は深刻だと言われている。また、利用者数が多いだけに、踏み荒らしによる高山植生の荒廃も進行している。
登山者のグループ
写真17:登山者のグループ
踏み荒らしや雨水により、路肩の植生が失われている
写真18:踏み荒らしや雨水により、路肩の植生が失われている
まわりがすべて舗装されてしまって取り残されたようなベンチ
写真19:まわりがすべて舗装されてしまって取り残されたようなベンチ
舗装されたトレイル
写真20:舗装されたトレイル
写真21:ビジターセンター前に設置されたゴミ箱の列。アメリカではめずらしく、ゴミが分別回収されている

 国立公園局は、主な登山・野営地にトイレ施設を設置し、10,000フィート(約3,000メートル)以上の地点を目指す利用者に対しては、blue bag system(し尿持ち帰りのための袋を提供して、それを使ってもらう仕組み)を利用するよう薦めているそうだ。
 また、マウントレーニエ国立公園では、毎年200万人の利用者があり、約350トンの廃棄物が回収されている。この膨大な量のゴミを減らすためにリサイクルプログラムを導入し、プラスチック、アルミ、ガラスなどを分別回収する取り組みを行っている。分別のためのゴミ箱を設置し、公園内のコンセッショナー(営業権所有業者)にも同様の取り組みを行うよう指導しているということだ。
国立公園内の施設
 標高5,400フィート(約1,600メートル)にあるパラダイス地区には、ビジターセンター、ホテル、駐車場などが整備されている。レーニエ山の登山基地として、また一般の利用者がハイキングに訪れる場合などにもとても人気がある。駐車場からすぐのハイキングトレイルをまわるだけで、そこここに可憐な高山植物が見られる。
 私が訪れた当時、ビジターセンター(Henry M. Jackson Memorial Visitor Center)は、円形の巨大な建築物であった。1965年に建てられたこのセンターは、RC造の巨大な建築物である。円形の施設は、規模が大きい上に、地上4階建てで最上階が全面ガラス張りになっている。そのため、空調などに一日当り300〜500ガロン(1,140〜1,900リッター)ものディーゼルオイルを消費している。現在新しいビジターセンターが建設中であり、2008年秋に供用が開始される予定だ。現在の施設はその後取り壊されるとのこと。新しい施設では、エネルギー効率が大幅に改善される見込みだ。
石で横断側溝と縁石が設置されたトレイル。利用形態や流水の状況に応じて整備方法が工夫されている
写真22:石で横断側溝と縁石が設置されたトレイル。利用形態や流水の状況に応じて整備方法が工夫されている
現在のビジターセンターとレーニエ山
写真23:現在のビジターセンターとレーニエ山
○ビジターセンター建設の状況(国立公園局ホームページ)
 一方、ナラダ滝の駐車場脇にある休憩所(Comfort Station)は、古い木造建築物だ。一部石積みのある平屋の建物には、休憩室とトイレがある。この建物は、ビジターセンターとは対照的に、規模も小さく、当然ながら空調施設もない。それでも、基礎などがしっかりしており、現在も十分実用的な施設として機能している。
木造の休憩所外観。石積みの基礎をもつ木造の建物は景観にとけ込んでいる。
写真24:木造の休憩所外観。石積みの基礎をもつ木造の建物は景観にとけ込んでいる。
内部は静かで、落ち着いた雰囲気がある
写真25:内部は静かで、落ち着いた雰囲気がある
 これは、米国国立公園における施設の2大類型ともいえる施設タイプの好例といえる。  ビジターセンターは、アメリカの国立公園の一大公共事業ブームであった「ミッション66」の時期に建設された【8】。これらの多くはRC造で、規模も大きい。建て替えの際には大量の廃棄物が排出されるだろう。
 これに対し、戦前にCCCによって建設された公園施設は、木材や石材が用いられ、人力により建設された。これらの木造建築物は、維持修繕の手間や費用はばかにならないものの、エネルギー消費や取り壊し時の廃材が少なく、RC構造に比べて改修も容易だ。その上、建物自体が歴史的な展示物としても機能している。
 国立公園局は、このような古い施設を「アダプティブ・ユース(adaptive use)」として、積極的に利用している。また、建築物が平屋(一層構造)であることも有利だ。エレベーターや階段が必要ないために、施設が広く使え、またバリアフリー化も容易だ。さらに、照明機器が簡易で、かつ位置も低いため、電球の付け替えや掃除などが楽だという利点もある。気象条件が厳しく、維持管理コストのかさむ山岳地帯における施設は、こうした点も考慮すべきだろう。
 おもしろいのは、同じ国立公園内に、このような2つのタイプの施設が共存していることだ。ビジターセンターのような大規模施設では、山岳地帯の懐でも、ゆっくりと展示を見て回り、買い物したり食事をしたりすることができる。一方で、登山客やハイカーにとっては、石積みと木造の施設により、伝統的な国立公園らしい雰囲気を味わうことができる。新しく快適な建物を造りながら古い施設も大切に使う姿勢は、とても新鮮に映る。  特に、マウントレーニエには、木造の歴史的な施設が多いような印象を受けた。アメリカの国立公園というと、大規模な施設が頭に浮かぶが、こうした古い建物を大切に使うということも、学ばなければならないように思える。
ロングマイアにある木造のミニビジターセンター
写真26:ロングマイアにある木造のミニビジターセンター
同じくロングマイアにある古い木造の事務所
写真27:同じくロングマイアにある古い木造の事務所

(「妻の一言」はお休みさせていただきます)
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【8】 ミッション66
・第6話 遠征編 from Mammoth Cave
(その4)「国立公園の整備と民間人保全部隊(CCC)」
・第14話 ヨセミテ国立公園へ!
(その6)「アメリカの国立公園管理の歴史 ──1960年代という時代──」
記事・写真:鈴木渉

〜著者プロフィール〜
■鈴木渉
 1994年環境庁(当時)に採用され、中部山岳国立公園管理事務所(当時)に配属される。許認可申請書の山と格闘する毎日に、自分勝手に描いていた「野山を駆け回り、国立公園の自然を守る」レンジャー生活の夢はあっけなく崩壊。2年後地球環境部(当時)へ異動し、国際的な森林保全、砂漠化対策を担当。その後建設省公園緑地課(当時)への出向、自然公園での公共事業、遺伝子組換え生物関係の業務などに従事。2003年3月より2年間、独立行政法人国際協力機構(JICA)の海外長期研修員制度により、アメリカ合衆国の国立公園局及び魚類野生生物局で実務研修。帰国後、環境省自然環境局自然環境計画課を経て、2008年4月より東北地方環境事務所の国立公園・保全整備課に勤務。12年ぶりに国立公園の現場での仕事に携わる。
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