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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第6話) 遠征編 from Mammoth Cave
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Issued: 2006.10.26
遠征編 from Mammoth Cave(その2)
 (その1からつづく)
 しかし、日本では料金制度導入に対する抵抗が根強い。料金収入のような特別会計をつくるのは時代の流れにも逆行するし、一般会計が圧縮されることにもなるだろう。そこで、入場料に関しても先進国であるアメリカで、そのメリット・デメリットを把握しようというのが、この調査のねらいだった。
 目次
フィー・プログラム
シェナンドア国立公園の入場料収入
マンモスケイブでの料金収入
グレートスモーキーマウンテンズ国立公園
フィー・プログラム
 レクリエーショナル・フィー・デモンストレーションプログラム(Recreational Fee Demonstration Program;通称「フィー・プログラム」)は、1997年度から2004年度までの時限的な制度として導入された予算プログラムだ【2】。国立公園局の他、森林局や魚類野生生物局にも適用されている。
 1990年代、米国の国立公園は深刻な経費不足に見舞われた。歩道や標識は荒廃し、歴史的建築物は補修の遅れが目立つようになった。このため米国議会は、1996年度の内務省予算法(FY1996 Interior Appropriations Act)の中で、フィー・プログラムを承認し、これに対応しようとした。
 フィー・プログラムは、これまで国庫に納付していた国立公園の入園料や有料プログラムの徴収料金を、そのまま各部局の独自財源とすることができるという意味で画期的な制度だった。国立公園局では徴収料金の80%を、料金が徴収された各国立公園の予算として使用することができる。
 フィー・プログラムが導入される以前は、一部の特別な料金収入を除いて、国立公園における料金収入は土地及び水保全基金に納付され、レクリエーション目的で公園の区域内または隣接する区域、もしくは新規公園設立予定地において用地を買収するための資金として使用されていた。これは、1965年に制定された土地及び水保全基金法(Land and Water Conservation Fund Act: AWCF)に基づく制度だった。また、料金徴収額にも上限が設けられていた【3】
 フィー・プログラムの導入により、料金上限規定が撤廃され、これらの収入の使途はビジターサービスに関係する臨時職員の給与や施設の更新に拡充された。また、基金を経由せず、直接公園予算として使用できるようになった。
 一方、このプログラムの導入により、料金上限撤廃と値上げによる運営費用増額のインセンティブが働いた結果、入場料金が大幅に値上げされた。その結果、訪問者は経済的に余裕のある層が多くを占めることとなり、裕福な利用者に偏重した公園管理を招いているのではないかとの懸念が生じている。また、この予算は議会の承認を要しないため、国民の監視が行き届かないおそれもある【4】
 予算の使途が、依然、ビジターサービスに関連する施設の更新にしか使用できないなど制約はあるものの、予算不足で施設の補修・改修ができずにいた国立公園が多かったため、同制度の導入は公園施設の老朽化が進む各国立公園で歓迎され、施設の改善が進んだ。なお、国立公園局の2007年度予算書【2】によれば、この制度は、2005年度予算関係の一括法(FY 2005 Omnibus Appropriations bill)により拡充され、継続されることになった【5】
フィー・プログラムについての説明看板。利用者向けに入場料金が有効に活用されていることをアピールしている(マンモスケイブ国立公園)
フィー・プログラムについての説明看板。利用者向けに入場料金が有効に活用されていることをアピールしている(マンモスケイブ国立公園)
【2】 国立公園局の予算説明書
国立公園局の予算説明書(NPS Budget Justification、通称「国立公園局グリーンブック(NPS green book)」)には、国立公園システムに関する最新の情報が掲載されている。
http://home.nps.gov/applications/
budget2/gbchoose.htm
【3】 料金徴収額の上限
 イエローストーン、グランドティートン、及びグランドキャニオンの各国立公園では、入場料金は自動車1台当たり10ドル、もしくは利用者一人当たり4ドル、それ以外の公園については、自動車1台当たり5ドル、もしくは利用者一人当たり3ドルが上限とされていた。
【4】 フィー・プログラム導入による懸念
 当面大幅な税収の伸びが期待できない米国の経済状況から考えれば、このような制度は公園の利用者サービスレベルの維持に欠かせない。料金収入を含む国立公園局の特別会計の割合は、1995年度では5%未満であったものが、1996年度のフィー・プログラムの導入を境に、1998年には10%に増加している。これは、国立公園局の財源に占める一般財源の割合が徐々に減少していることを示しており、国立公園システムの管理自体が、一般の税収だけではなく、特定の利用者層から得られる財源に徐々に移行しつつあることを示している。
 入場料金などの高騰により、貧困層や子ども連れなど家計に余裕のない層の利用が困難になる傾向もある。ヒスパニック系住民の増加など米国の社会構造も変化しており、「国民すべての財産」であったはずの国立公園が、裕福な利用者層などの利用に管理の重点を移しているような印象も受ける。
 この料金プログラムの導入が今後の米国の国立公園の「質」にどのような影響を与えるのか、興味深いところである。
シェナンドア国立公園の入場料収入
シェナンドア国立公園での聞き取り調査風景

 シェナンドア国立公園では、トリシュ・キックライター総務課長兼所長補佐官が対応してくれた。キックライターさんの説明によれば、シェナンドア国立公園のフィー・プログラム収入は全米でもトップ10に入り、年間予算は300万ドル(約3億3千万円、20%控除後)にものぼる。これに対し、議会で承認される一般会計予算は、約1,040万ドル(約11億4千万円)で、実に公園の通常予算の30%にも相当する収入がフィー・プログラムにより得られていることになる。一般会計予算は、87%が人件費に、5%が公共料金の支払いに充てられており、公園の運営費は一般会計予算額の8%に過ぎない。フィー・プログラム収入がいかに重要かということがわかる。
 なお、公園内を縦断するスカイライン・ドライブの補修には多額の費用がかかるため、連邦高速道路基金から別途140万ドル(約1億5千万円)を措置する予定ということであった。
 フィー・プログラム予算は、3年という限定期間内で翌年度以降に繰り越せる。議会で承認された一般会計予算は、「○○施設建設に係る予算」として箇所ごとに承認された予算(line items)に限って翌年度以降に繰り越せるが、それ以外の予算は基本的に当該年度に使い切らなくてはならない。
 一方で、フィー・プログラムによる収入は補足的な経費との位置付けがあるため、設置した施設の運営費用(operational cost)や正職員(permanent staff)の雇用には使用できないという制約もある(2004年度現在)。一般的に、施設を改修するとエネルギー消費量や水の使用量が増える傾向があり、結果として限られた一般会計予算を圧迫することにもなる。
 いずれにしても、シェナンドア国立公園では、このようなフィー・プログラムによる追加予算により遅れていた施設の改修などにようやく着手できるようになったそうだ。
フィー・プログラムにより再整備された休憩スペース付きのトイレ。浄化槽が大きくなり、維持費用は増大したそうだ。冬期間はユニバーサル(多目的)トイレのみ利用が可能であるが、冬季でもしっかりと暖房がきいている。
フィー・プログラムにより再整備された休憩スペース付きのトイレ。浄化槽が大きくなり、維持費用は増大したそうだ。冬期間はユニバーサル(多目的)トイレのみ利用が可能であるが、冬季でもしっかりと暖房がきいている。
【5】 フィー・プログラムの拡充・継続
 一括法の中で、連邦政府レクリエーション促進法(Federal Lands Recreation Enhancement Act(FLREAもしくはREA))が制定され、国立公園局にはフィー・プログラム適用について10年間の延伸が認められた。また、予算の使途も拡充された。また、これまで料金徴収額のうち一律8割を徴収公園で使用できるとされてきたが、徴収額が50万ドル(約5,500万円)未満の公園については徴収額の全額を使用できることとなった。
 2006年度は、国立公園局全体で9,500万ドル(約105億円)、2007年度は1億ドル(約110億円)の料金収入(fee revenue)を見込んでいるという。なお、1996年度以降の料金収入総額は累積で10億3,200万ドル(約1,135億円)にものぼり、この予算は施設の改修や更新に大きく貢献している。
 また、REA法では、「アメリカ、美しい国立公園及び連邦政府レクリエーション地パス(America the Beautiful National Parks and Federal Recreational Lands Pass: ATB)」という、国立公園局、魚類野生生物局、公有地管理局、開拓局、及び森林局共通の通行券を導入し、これまでの「国立公園パス」を廃止することも認められた。
マンモスケイブでの料金収入
メンテナンス部門のダニーさんに、鍾乳洞内の照明施設の点検に連れて行っていただいたところ

 マンモスケイブ国立公園でも、この制度により公園内の標識やキャンプサイトの再整備、車道の付け替えなどが進められていた。有料のケイブツアーから得られる収入は約110万ドル(約1.2億円、2002年度)であり、この収入を除く年間の通常予算570万ドル(約6億円、2002年度)の約22%に相当する。
 シェナンドア国立公園の聞き取り調査で伺った施設維持費用に関する課題について、後日、マンモスケイブ国立公園のメンテナンス部門長、スティーブ・コバー氏に話を伺った。
 スティーブさんの話によると、予算が増えてきたので、とにかく契約件数が多くて大変だという。見ると、部屋には図面が山積みになっていた。
 当時、スティーブさんの頭をもっとも悩ませていたのは、鍾乳洞内施設の大幅なリニューアルだった。増加し続ける利用者数に対応するという理由に加え、鍾乳洞内に設備した蛍光灯も問題となっていた。光がコケの繁殖を招き、生態系が変化しつつあったのだ。蛍光灯の安定機が熱を出し、ネズミが巣を作ることもあるということだった。
 蛍光灯に着色フィルムをつけたりその色を変えてみたりと、さまざまな実験を行ってきたが、思ったような成果は得られなかった。当時普及しはじめていたLED(発光ダイオード)による照明システムへの移行が検討されていた。メンテナンスコストや生態系への影響を大幅に軽減できそうだとの見込みがあった。
ジェシーさんとバックカントリーキャンプ場の施設を点検、清掃しているところ。作業には四輪駆動のバギー(ATV)を使用する

 システムの更新は、マンモスケイブが誇るメンテナンス部門の縮小とも密接に関係していた。フィー・プログラム収入は増加しているが、対照的に一般会計は横ばいだ。インフレや定期昇給に伴う人件費の上昇分を見込むと実質減少している。メンテナンス職員も、削減の対象として例外ではない。施設の方も、手のかからないメンテナンスフリーの施設への更新が必要となってきていた。
 鍾乳洞内の蛍光管は一本1.8メートルほどもある。安定機も牛乳パックひとつ分ほどのサイズで、それが鍾乳洞内に無数にある。給電施設も大掛かりで、大型の変圧器まで設置されている。
 説明されてはじめてわかる配線の巧みなカモフラージュ。利用者の目に付かないところから、はしごや予備の蛍光管が出てくる。蛍光灯はすべて間接照明になるよう配置され、ライト本体が見えないように工夫されている。電球の交換にはさまざまなノウハウやコツがあり、メンテナンス職員の説明は聞いていて飽きない。
 ところで、この公園のメンテナンス職員の多くは、従軍経験のある元軍人だった。一般的に政府職員は、軍人、ピースコープ職員(日本の青年海外協力隊に類似の制度)など政府に奉職した人たちの受け入れ先ともなっているそうだ。そういった“優先権”を持っていない限り、事実上採用されるのは難しい。反対に、実戦経験や負傷があれば優先度はさらに高くなる。
 ベテランのメンテナンス職員の多くはベトナム戦争従軍者だった。そのためその多くが一時期に集中して定年を迎える。アフガニスタンやイラクの戦争では、ベトナム戦争に比べて負傷者などが少ない上に、予算の制約もあって後釜が埋まらないそうだ。
 余談だが、これらの経験豊富なメンテナンス職員は実に様々なことを知っている。あまり口数は多くないが、私たちのような外国人も温かく見守ってくれ、時々なまりの強いジョークで笑わせてくれる。緊張していた妻もこれには助けられたようだった。通勤途中にすれ違うと手を振ってくれるのも、メンテナンス部門の面々だった。妻の釣りの師匠のアーバートさんや、よくメンテナンスの仕事に連れ出してくれたジェシーさんなど、親しくなった職員も多い。メンテナンスの業務とは、公園の舞台裏、いわば土台のようなものだ。このような職員の削減は、国立公園の管理への影響も小さくないだろう。
グレートスモーキーマウンテンズ国立公園
グレートスモーキーマウンテンズ国立公園の入り口看板

 テネシー州とノースカロライナ州にまたがるグレートスモーキーマウンテンズ国立公園は、実はアメリカの国立公園の中でもっとも利用者が多い。2003年の利用者数は約920万人。2番目に多いグランドキャニオン国立公園が410万人だから、実に2倍以上の利用者が訪れている。

 私たちは2003年の8月と10月の2回、マンモスケイブから車で4〜5時間のグレートスモーキーマウンテンズ国立公園を訪れた。面積約21万ヘクタールの同国立公園は、シェナンドア国立公園やマンモスケイブ国立公園と同様、もともと民有地だったところを買収して設立された公園だ。その誕生には様々な困難が伴ったという【6】。マンモスケイブ同様、買収資金の一部が一般市民からの寄付によって賄われたため、入場無料の公園となっている。
 ツガの一種であるヘムロック(Hemlock)が広範囲に自生しているのは、米国南東部ではグレートスモーキーマウンテンズ国立公園だけであるが、近年はアジアから移入しカサアブラムシ(Balsam Wooly Adelgid)による食害で大きな被害を受けている。また、酸性雨による立ち枯れが目立つなど、自然資源管理の面でも様々な問題を抱えている。
害虫の被害にあったヘムロック(Hemlock)の林
害虫の被害にあったヘムロック(Hemlock)の林
今も教会の建物が集落の名残として残されている
今も教会の建物が集落の名残として残されている

 1920年代末の土地所有図を見ると、山麓は農場、中腹から山頂にかけては木材業者と製紙業社10社ほどが土地を所有している。山の森林は、1934年の公園設立当時、山頂のごく一部を残して伐採されていた。
 現在は鬱蒼とした森林に覆われているグレートスモーキーマウンテンズ国立公園。古い写真などを見ると、これが同じ国立公園かと思うほど、すさまじい伐採の様子が伺える。今でも公園内に残る開拓民の住居跡には、当時現地に生えていたらしいチェスナッツ(クリ)材が、壁や床、屋根などいたるところに使われている。その大きさを見るだけで、どれほど素晴らしい森林が広がっていたか想像できる。
国立公園内に保存されている古い住居兼納屋納屋の内部。使用されている部材はいずれも大きくまだしっかりしている
国立公園内に保存されている古い住居兼納屋納屋の内部。使用されている部材はいずれも大きくまだしっかりしている

 グレートスモーキーマウンテンズ国立公園は、1920年代から40年代にかけてアメリカ東部で興った国立公園設立運動で設立された公園のひとつである。この運動は、政府の主導ではなく、先見の明のある活動家や、研究者、資産家(ロックフェラー・ジュニアなど)、政治家、そして一般市民の自由意思と資金によって行われたところに特徴がある【7】→(その3)へ続く

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【6】 グレートスモーキーマウンテンズ国立公園の歴史
グレートスモーキーマウンテンズ国立公園
【7】 国立公園設立運動
 グレートスモーキーマウンテンズ国立公園の設立には、当時のお金で合計1,000万ドルという巨額の資金が必要であったが、連邦政府が国立公園の設立のために用地を買収することは当時認められていなかった。このため、テネシー州、ノースカロライナ州がそれぞれ200万ドル、一般市民からの寄付が100万ドル、そしてローラ・スペルマン・ロックフェラー記念基金(ロックフェラー・ジュニアの母親を記念して設立された基金)が500万ドルを拠出して、公園用地が買収された。市民の中には、学校の生徒まで含まれたという。
 当時、公園予定地には1,200戸もの農場があり、4,000人が居住していたが、公園設立のために立ち退くことになった。補償金を手に喜んだ住人がいた一方で、残りの半数程度は、何らかの抵抗を覚えたという。また、当然ながら、鉄道敷設や作業員用の宿舎建設など、木材伐採のために投資してきた木材会社や製紙会社からは、強い抵抗があったことは言うまでもない。
 なお、1920年代前半に全米各地で盛り上がった国立公園設立運動は、グレートスモーキーマウンテンズ、シェナンドア、マンモスケイブなど東部の公園設立の契機ともなったが、単に自然地域の保護だけを目指したものではなかった。国立公園局が設立された1916年から1922年までの間に、アメリカの国立公園の訪問客数は356,097人から1,280,886人に急増。地域の経済界は、先行き不透明で一部の企業の利益にしかならない木材の伐採より、公園設立による地域の安定した経済発展と自然の保護を選んだ。当時の新聞の風刺画を見ると、グレートスモーキーマウンテンズ国立公園の設立提案が金の卵を産む鳥、卵には「観光客」「発展」「進歩」「年間数百万ドル(の収入)」などの文字が描かれ、その傍らには斧を持った「抵抗勢力」が描かれている。その一枚の挿絵からだけでも、当時の国立公園設立運動に寄せた人々の様々な期待が伺われる。ギャトリンバーグなどのグレートスモーキーマウンテンズ国立公園周辺のゲートシティー(入り口集落)は繁栄し、当時の人々の努力がしっかりと実を結んでいることがわかる。
 グレートスモーキーマウンテンズ国立公園は1934年設立。ユネスコの生物圏保護区(1976年)及び世界遺産(1983年)にも指定されている。
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