No.029
Issued: 2014.05.09
つねに全体像を考える〜80歳を迎えたレスター・ブラウン
- 枝廣淳子(えだひろじゅんこ)さん
- 環境ジャーナリスト・翻訳家・幸せ経済社会研究所所長
『不都合な真実』(アル・ゴア氏著)の翻訳をはじめ、環境問題に関する講演や執筆、企業コンサルティング、異業種勉強会等を通じて「伝えること」でうねりを広げつつ、変化を創り、広げるしくみづくりを研究。社会のさまざまなセクターによる「つながり」と「対話」で、しなやかに強く、幸せな未来の共創をめざす。
こんにちは! 枝廣淳子です。
4月11日、ワシントンDCで、レスター・ブラウン氏の80歳のお祝いの会が開かれました。レスターは、1974年に地球環境問題に取り組むワールドウォッチ研究所を設立し、1984年に年次刊行物『地球白書』を創刊、2001年5月にアースポリシー研究所を創設。環境問題の分野の世界の第一人者・屈指のオピニオンリーダーとして、世界中に大きな影響を与えてきた人です(蝶ネクタイのレスターの写真をご覧になったことのある方も多いことでしょう)。
何冊かレスターの書籍を翻訳し、来日時には通訳としてご一緒させてもらっていたご縁で、私もお祝いの会に招かれ、320人も集まった温かくすばらしい会で、テッド・ターナー氏など数人のゲストとともに、お祝いのスピーチをさせてもらいました。
レスターは、私が通訳の仕事を通じて環境の世界に目覚めるきっかけを作ってくれた人であり、通訳者から環境ジャーナリストへ、そしてNGOジャパン・フォー・サステナビリティや幸せ経済社会研究所を設立するなどさまざまな活動に展開していく私を、いつも温かく見守り、励まし続けてくれるメンター(人生の師)です。
今回は、久しぶりのレスターとの再会だったので、お願いしてインタビューの時間をとってもらいました。レスターは「本当に80歳?」というぐらい、元気いっぱいで、背筋がピンと伸びてスマートな体型を保ち、頭脳も切れ味抜群の明晰さです。ただ、さすがに最近は海外出張を控えるようにしているとのこと。しばらく来日していないために、久しぶりの再会となったのです。
温かな日差しの中、芝生のテーブルを囲んで、レスターが環境分野にかかわるようになった頃のことから、最近の動向や人々の意識の変化をどう見ているか、シェールガスや原子力発電をどう考えているか、そして、3.11後の日本の状況をどのように見ているかなど、いろいろな話を聞かせてもらいました。
私は通訳時代もそのあとも、内外の多くの環境の専門家やオピニオンリーダーとご一緒する機会を得てきましたが、レスターの大きな強みは、「1つの分野だけではなく、大きな全体像を捉えて、広い視野と長い時間軸で物事を考え、(短期的・局所的思考の)多くの人には見えないものが見える」ことだと思っています。
「どうして、そういうことができるようになったの?」と尋ねたところ、「大学での勉強が役立っているね」とのこと。「何を勉強したの?」と問うと、「さまざまな19の分野で、24ものコースを勉強したんだよ」。
「それはね、ひとつの専門分野に閉じこもるのではなく、大局的に全体像を考えられるようになりたかったからなんだ」とレスター。
そのような努力を続けてきたからこそ、環境・エネルギー・食糧・農業・人口問題など、多くの分野を包括的に分析し、政府にも企業にもNGOにも一般の人々にも役立つ深い洞察を生み出すことができるでしょう。意識して、努力して、そのように自分を作り上げてきたレスターを感じました。ぜひお手本にしたいなあと思います。
そうそう、お手本にしたいと言えば、もう一つ。レスターは若い頃からレスリングやラグビーなどのスポーツをしてきましたが、お祝いの会でのスピーチを聞いていたら、50歳を過ぎても、仲間と毎週ラグビーをやっていたとのこと。その後、ジョギングを始めました。来日時も都内の公園を走っていたことを思い出します。
なんと、80歳のお祝いの会の数日前に、ワシントンDC恒例のポトマック河岸での桜10マイルマラソン(約16km)に出て、見事完走したとのこと。「80歳以上の部で第二位だった」と胸を張っていました。80歳でマラソンレースに出て完走しちゃう――これまたお手本にしたいレスターです!
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(記事・写真:枝廣淳子)
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