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環境さんぽ道

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様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.011

Issued: 2012.11.12

野生のぶどうに戻すワイン造り

加茂 文彦さん

加茂 文彦さん
マンダリン オリエンタル 東京 シェフソムリエ
日本ソムリエ協会 理事
1993〜1998年 パリの三ツ星レストラン「リュカ・キャルトン」ソムリエ

 今回私が紹介するワイナリーは、世界で一番有名なワイン産地として知られるフランスのボルドー地方にある「シャトー・ポンテ・カネ」です。このシャトーは、もともと有名なワイナリーでしたが、この10年間でワインの品質がボルドーの中で最も良くなったシャトーとして注目を集めています。それはなぜでしょうか?

シャトー・ポンテ・カネのワインボトル

シャトー・ポンテ・カネのワインボトル

シャトー・ポンテ・カネの城

シャトー・ポンテ・カネの城


 ボルドーのメドック地区の中にある小さな村「ポイヤック」は、素晴らしいワインが生まれる場所として知られています。このシャトーは、第一級格付けシャトーである偉大な「シャトー・ムートン・ロートシルト」の隣に位置していますが、第五級の格付けで、ほどほどの評価しか受けていませんでした。10月の初めにシャトーの当主のひとりであるメラニー・テスロン女史が来日して、このシャトーがどのように変革をして、現在第一級格付けシャトーに並ぶ素晴らしい評価を世界のワイン・ジャーナリストから受けることができたのか、直接話を聞くことができました。

 ロンドン生まれのメラニーは、2005年から伯父アルフレッドの依頼でワイナリー経営に参加しました。そして、その年ボルドーの格付けシャトーで初めてすべてのぶどう畑に対して農薬を一切使わずに栽培を行うビオディナミ農法に挑戦しました。今まで、ボルドーでは、海洋性気候のため雨が多く、湿気もあることからぶどうの病気が発生しやすい環境で、なおかつシャトーの持つ畑の面積が大きいために、ビオディナミ農法は行われていませんでした。そんな場所で、しかも80ha以上あるぶどう畑に対してこの農法を行うことは、まわりから見れば正気の沙汰ではないと馬鹿にされたと言います。危険を伴うことを承知していても、このシャトーがぶれなかった理由は、「この農法をやることによって素晴らしいワインができると確信を持っていたからです」とメラニーは言います。

 シャトー・ポンテ・カネの1996年ヴィンテージから2009年までのヴィンテージを試飲しながらメラニーの話に耳を傾けました。彼女の言葉からは、ワインに対する愛情に溢れ、情熱が伝わってきました。「カベルネ・ソーヴィニョンというぶどう品種は、苦しめれば苦しめるほど、小さい粒の良いぶどうができるのです。そして、ビオディナミ農法を続けることによって野生のぶどうになっていくことが大切なのです」と彼女が言いました。私は、この言葉に感動を覚えました。ぶどうを自然本来の状態に戻すことこそが、素晴らしいワインを生み出すことができる!そんなメッセージが聞こえてきました。

農作業をする馬

農作業をする馬

メラニー・テスロン女史を囲んで

メラニー・テスロン女史を囲んで

 このシャトーでは、現在馬を3頭飼っています。この3頭の馬で毎日畑を耕しているのだそうです。他のシャトーでは最新式のトラクターで畑を耕していますが、畑に機械を入れるとどうしても土を固めてしまいます。それを防ぐためにあえて昔ながらの馬による農作業をして、土をふかふかな状態にしています。良いぶどうを造るには、良い土がなければ造ることができないのです。

 ビオディナミ農法に挑戦してから3年以上経った2008年と2009年を試飲して、それ以前に造られたワインと比べて、歴然と味わいが違っていることに驚きました。このふたつのワインに共通しているものは、酸味、渋味、苦味、そして繊細さや力強さなどのすべての要素がひとつに溶け合って素晴らしいバランスを取っているところです。天候を母に、土壌というテロワールを父に、自然の力に任せたワイン造りは、これから真の実力を発揮することでしょう。

 ソムリエとして、このようなワインと造り手に出会えることは、至上の喜びです。どんな思いでワインを造っているのかを理解することによって、そのワインが本当に大切になり愛情が生まれてきます。そんな愛情を持ち続けながらお客様にワインをサービスされていた偉大な先輩、故小飼一至氏に少しでも近づけるよう日々努力していきたいと思っています。


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記事・写真:加茂文彦

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