No.225
Issued: 2013.10.09
ペットとの同行避難(環境省自然環境局動物愛護管理室)「「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を発行」
東日本大震災では事前にペット対策を講じていた自治体があったものの、災害規模が大きく地域も広範に渡ったことや、原子力災害等の予期せぬ事態が発生したことから、自治体のみならず避難者自らもがペットへの対応に苦慮しました。
「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」はこれを教訓に、今後、自治体などが災害の種類や地域の実情に応じた独自の災害対策を検討する際の参考となるように作成されたものです。
災害対策では地域の行政機関と様々な民間団体との協力体制が重要なことから、作成にあたっては自治体や関係団体の専門家による検討委員会が設けられました。
さらに、これまでに起こった様々な災害体験を反映するため、自治体等へのアンケートやヒアリング調査を行い、自治体などで既に作成されていたマニュアルも参考にしました。加えて、これまでの災害での動物救護の事例を多く取り入れることで、このガイドラインをより具体的で実行性のある内容にしました。
以下にその概要を説明します。
平常時及び災害時におけるそれぞれの役割
これまでの災害では、ペットが飼い主と離ればなれになったことで、後にペットを保護するために多大な労力を要したとともに、ペットも負傷・衰弱・死亡の危険にさらされました。またペットが放浪動物になることで人に危害を与えたり環境の悪化をもたらしたりすることも懸念されることから、災害時にペットが同行避難することは社会全体にとっても重要です。そのために飼い主は、平素の飼育時にペットが十分な社会性を持つように訓練し、避難時に必要な物資を備蓄しておく必要があります。
また自治体は災害に備えて、平時から同行避難に関わる必要事項を飼い主に啓発し、地方獣医師会や民間団体・企業との災害発生時の連携を模索し、初動体制を検討して、避難路の整備や被災者の受入れ体制を整えておくことが望ましいと言えます。
このような中で地方獣医師会は、自治体と共に現地動物救護本部の設置を検討し、避難所等でのペットの治療、健康管理に関する相談への対応や、被災地での獣医療の支援を担い、近隣の地方獣医師会との災害時の連携を考えることが望まれます。さらに動物愛護団体などの民間団体は、平時から築いてきた自治体や地方獣医師会との協力関係を背景に、それらの活動を支援し、動物に関連した民間企業は、物資の支援や専門的な人材の派遣などで被災した動物と飼い主を支援することが望まれます。
なお大規模災害が起きたときに活動を開始する緊急災害時動物救援本部は、人材、物資、資金の面から現地動物救護本部や自治体を支援し、国は、都道府県等の動物愛護管理担当部署や現地動物救護本部、その他関係機関との連絡・調整を行い、被災地の動物救護活動を支援します。
災害に備えた平常時の対策、体制の整備
ペットの飼い主による災害への備えは特別なことではなく、日頃のしつけや健康管理、所有者の明示など適正な飼育を行うことが基本です。したがって自治体は関係団体などと連携して、人と動物が共生できる社会づくりを推進し、平常時から飼い主が行うべき対策や災害時の同行避難等について、指導や普及啓発を行う必要があります。一方で飼い主は、ペット用の避難用品や飼料・水などを備蓄し、避難所や避難ルートを確認して、あらかじめペットといっしょに避難所まで同行避難するための訓練を行っておくことが望まれます。
自治体等は飼い主がペットと同行避難することを前提として、避難所や仮設住宅でのペットとの同居体制を整備し、関係機関や住民に十分な周知をしておく必要がありますが、ペットを同伴していない被災者への配慮はとても重要になります。
発災直後は動物愛護担当の部署でさえ、被災住民への支援に追われる可能性が大きいので、自治体等は平常時から関係団体やボランティアなどとの連携体制を構築し、初動要員の確保や情報の収集を可能にしておくことが望まれます。
さらに、飼い主とはぐれてしまったペットや負傷動物等の救護に関する対策も必要になるので、動物救護施設の設置や運営、人材の確保や必要な活動資金の調達では義援金の利用を考えておく等の準備が必要になります。
なお動物救護活動を円滑に実施して行く上では、的確な情報の収集や提供に加えて、活動を広く社会全体に広報・普及することも重要になります。
災害発生時の動物救護対策
避難指示が出された際、都道府県等は市区町村の担当部署と連携して、ペットの飼い主に対し、安全を確保した上でペットをつれて避難するように呼びかけます。避難所では、ペットを同行してきた避難者に対して、飼育場所や飼育ルール等を指導します。
また、自治体や地方獣医師会は、災害の規模により現地動物救護本部の設置を検討し、設置する場合は、あらかじめ決めておいた構成団体を招集して、各団体の役割に添って動物救護活動を行います。
現地動物救護本部は被災市区町村や災害対策本部等から、被災状況や避難所の設置状況、設置数や場所などを確認するとともに、各避難所でのペット同行避難状況等の情報収集を行い、平時より配備しておくペットフードなどの備蓄品を確認の上、必要に応じて配分します。また自治体等と連携してどうぶつ救援本部へ支援を要請し、物資の支援等に関した情報を住民に周知します。さらに、被災動物の治療が必要な場合は地方獣医師会に獣医師の派遣を要請し、被災動物が多い場合はボランティアの派遣を構成団体等に要請します。
避難所の管理者は避難所の形態、ペット同行者やペットの数、災害発生時の気候等を考慮して、飼育場所や方法を決めます。避難所ではさまざまな人が共同生活を送るため、飼い主は避難所のルールに従った適切な飼育をします。避難所では、飼育動物の受付簿を作成して飼養状況を管理すると共に、ボランティア等を通じて飼い主に、避難所内でのペットの飼育ルールや衛生管理方法などに関する指導を行い、ペットに起因したトラブルの発生を防ぐようにします。
また自治体は動物相談窓口を設置して、被災動物への支援を行うと共に、必要な物資の支援や、獣医師による健康チェックが受けられるように配慮することが望まれます。
先の様に、災害の発生時にはペットが負傷したり、飼い主の被災によってペットがはぐれたりする状況が想定されますので、自治体や現地動物救護本部が主体となって、ペットの保護や飼い主からの一時的な預かり、飼い主への返還などをする必要があります。また被災した飼い主が引き続きペットを飼養できなくなるケースもあり、新しい飼い主へ譲渡したり、動物救護施設で飼養する必要もありますので、主要なスタッフとなるボランティアや運営資金の確保が重要になります。
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記事・図版:環境省自然環境局動物愛護管理室
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