北京天津河北省地域の基準達成率はわずか31.0% ──2013年上半期の総括・2
汚染のひどかった北京天津河北省地域の平均基準達成日数の割合は31.0%で、74都市の平均よりも23.8%も低く、また、重度汚染以上の日数は26.2%を占め、同じく74都市の平均よりも15.9%高かった。主要汚染物質はPM2.5で、その次はPM10とO3であった。上半期北京市の基準達成日数の割合は38.9%、天津市は36.5%、汚染が最もひどかった都市の一つである石家庄市はわずか9.9%であった。
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No.224
Issued: 2013.09.09
今年1月初めから中国の広い範囲で、微小粒子状物質(PM2.5)を主たる汚染物質とする激甚な大気汚染が発生している。冬から春、夏と季節が変わるにつれてPM2.5による汚染の程度は幾分緩和したが、逆に春から夏にかけてオゾン(日本では「光化学オキシダント」と呼ばれている)による汚染が目立ち始めた。
今年上半期(1月〜6月)の中国大気汚染の状況について概要を紹介する。
2013年7月31日、中国環境保護部は今年上半期の大気汚染の状況について発表した。これによると、2016年から全面施行になる新しい環境基準(表1)に則して先行的にモニタリングを実施している74都市の平均基準達成日数の割合は54.8%で、基準を超えた45.2%のうち、軽度汚染25.4%、中度汚染9.5%、重度汚染7.5%、厳重汚染2.8%であった(図1)。主要汚染物質はPM2.5とオゾン(O3)で、それぞれ汚染総日数の63.4%、20.1%を占めていた。(注:軽度汚染等の定義についてはコラム参照)
参考までに第1四半期(1月〜3月)だけの状況をみると図2のとおりである。第1四半期、とくに後で述べるが1月の汚染がひどかった。
汚染のひどかった北京天津河北省地域の平均基準達成日数の割合は31.0%で、74都市の平均よりも23.8%も低く、また、重度汚染以上の日数は26.2%を占め、同じく74都市の平均よりも15.9%高かった。主要汚染物質はPM2.5で、その次はPM10とO3であった。上半期北京市の基準達成日数の割合は38.9%、天津市は36.5%、汚染が最もひどかった都市の一つである石家庄市はわずか9.9%であった。
具体的な濃度でみてみると、74都市のPM2.5平均濃度は76μg/m3で、中国南端の海南省海口市、西端のチベット自治区ラサ市などのわずか4都市だけが年平均二級環境基準値(35μg/m3)を達成したのみで、前出の石家庄市のPM2.5平均濃度は172μg/m3で、基準の約5倍の濃度であった。北京天津河北省地域のPM2.5平均濃度は115μg/m3で、地域内のすべての都市で年平均二級環境基準値を超えていた。
一方、74都市のPM10平均濃度は123μg/m3で、そのうち石家庄市は331μg/m3で年平均二級環境基準値(70μg/m3)の4.7倍であった。北京天津河北省地域のPM10平均濃度は193μg/m3で、すべての都市で年平均二級環境基準値を超えていた。
O3についてみると、74都市の日最大8時間平均値の平均基準超過率は12.4%で、河北省保定市では8時間平均値の最大値は495μg/m3に達し、基準値(160μg/m3)の3.1倍であった。北京天津河北省地域のO3日最大8時間平均値の基準超過割合は5.0%〜33.7%で、平均17.7%であった。このように基準超過状況からみるとO3はすでにPM2.5に次ぐ主要な汚染物質になっている。
その他二酸化窒素(NO2)、二酸化硫黄(SO2)、一酸化炭素(CO)についてみると、これらの汚染物質は、その他の地域に比べていずれも北京天津河北省地域で相対的に高く、石家庄市のSO2平均濃度は138μg/m3、唐山市のNO2平均濃度は72μg/m3、CO平均濃度は3.0mg/m3で、74都市中最大であった。
それでは、次に具体的な都市での汚染例として、首都北京の状況を取り上げてみたい。北京市では今年1月1日から新環境基準の要求に合致したモニタリングを開始し、1時間ごとにデータを更新し公表している。北京市内【1】には合計35測定局設置され、測定局の性格ごとに都市環境評価測定局(23)、都市クリーン対照測定局(1)、交通汚染コントロール測定局(5)、地域バックグランド境界測定局(6)と分類されている。都市環境評価測定局が一般環境を代表する測定局として評価の対象になる。その分布状況は図3のとおりである。
その他都市クリーン対照測定局は、市内で比較的汚染がない地域に立地し、交通汚染コントロール測定局は幹線道路の沿道に立地し、日本の自動車排出ガス測定局の概念に近い。地域バックグランド測定局は天津市や河北省各都市との境界近くに立地し、北京市外部からの汚染物質の移流及び外部への移流をモニタリングするために設置している測定局である。
図4から図9は、北京市環境保護局が毎日発表するデータを基に筆者が作成したものである。図3中の農業展覧館測定局での毎日の観測値をまとめたものだ。この測定局は私の住宅や米国大使館、日本大使館からも比較的近い。
図中の大気質指数(AQI)は、コラムで詳しく紹介しているが、各種の汚染物質による汚染状況をわかりやすく指標化した指数で、100が各物質の環境基準値に相当する。6物質測定すれば6物質個別にAQIを算出し、それらのうち最も大きな数字がその測定局のAQIとなる。
中国からのPM2.5による越境汚染を心配した日本では、今年2月末に環境省がPM2.5に関する注意喚起の暫定指針を作成し、発表した(表2)。この暫定指針値を超えると予想される場合には外出を控えた方がいいという目安であるが、この値を物差しにして判断すると、図4のAQI値からわかるように、今年の1月はほとんどの日が外出すると危ない濃度であったことがわかる(注:PM2.5濃度が0.075mg/m3の時AQI=100、従ってAQIが概ね100以上の場合には日本の暫定指針値0.070mg/m3を超えていることになる)。
また図5などから2月以降も1月ほど激甚ではないが、高い汚染が継続していたことがわかる。表3は1月から6月までの半年間、この暫定指針値を超えた日数を調べたものである【2】。半年間181日のうち、116日が暫定指針値を超え、そのうち42日が重度汚染以上の激しい大気汚染であった。
また、図10から図15は、北京市内の都市環境評価測定局23局の中で、日々一番濃度が高かった測定局のAQIをピックアップして並べたものである。最高濃度測定局は毎日異なるが、市内のどこかではいつもこのような高濃度を記録していたということを示すために作成してみた。これも同様にAQI100以上の日を暫定指針値超過の日として整理すると、表4のようになる。半年間181日のうち、142日が暫定指針値を超え、そのうち68日が重度汚染以上の激しい大気汚染であった。
このように「日本の物差し」で判断すると北京では過半数の日で外出を控えなければならないことになり、すなわち、北京に住むのは危ないということになる。
中国では今年冬の激甚大気汚染が世界中から注目を集めたが、今年だけ急に悪くなったわけではない。汚染物質の排出構造はこれまでと基本的に変わりはなく、これまでもいつ激甚大気汚染が発生してもおかしくない状況であった。
北京市などの発表によると、今回の深刻な汚染を引き起こした原因として、自動車(北京市の2012年末の保有量約520万台)や工場の排ガス、粉じんなどの汚染物質の排出が昨年12月からの低温でさらに増えたこと、また地上の風が弱まるとともに湿度が高まって霧が発生しやすく、拡散しにくい気象条件だったことなどを挙げている。
ざくっというとこれまでもいつ激甚な大気汚染が発生してもおかしくなかったが、今年は不利な気象条件が続いたため、一挙に爆発したというわけだ。
この激甚大気汚染が発生する前の昨年10月、中国政府は重点地域大気汚染防止第12次5カ年計画を策定し、すでに強力な汚染物質排出削減措置を講ずることを決定していた。そして大気汚染が激化した1月以降、次々と追加的措置を講じ、6月には李克強総理が国務院常務会議で「大気汚染防止に関する十箇条の措置」を決定した。その詳細な計画については近いうちに発表されることになっている。
また、北京市、上海市、南京市など主要な地方都市でも大気汚染防止行動計画を策定し、立ち遅れた工場の閉鎖などの強硬措置を執り始めている。
大気汚染防止のために取り組み始めた最近の対策については次回に報告したい。
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記事・図版:小柳秀明
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