No.223
Issued: 2013.08.07
外来生物法の改正(環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室)「外来種対策の強化に向けて」
今年6月、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(通称:外来生物法)」の改正法が成立し、6月12日に公布されました。
外来生物法は、日本の生態系や農林水産業、人の生命や身体への被害を防ぐことを目的に、こうした被害を及ぼす外来生物の飼養等を規制し、また防除を推進するために、平成16年に成立、17年から施行されました。施行から5年以上が経過し、明らかになった課題に対処するために、今回、初めて大幅な見直しを伴う改正が行われました。
それでは、どのような課題があり、そしてどのような改正が行われたのか、ご紹介します。
外来種とは?外来生物法とは?
海外や国内の他の地域から、その生物が本来持つ移動能力を超えて、人間の活動によって持ち込まれた生物を外来種といいます【1】。
さて、家畜やペット、園芸植物や農作物など私たちの身近にはたくさんの外来種があります。例えば、日本人の昔からの主食はお米ですが、イネももともとは海外から持ち込まれた外来種です。
このように、外来種の中には、私たちの生活にとても身近で、重要な役割を果たしているものがある一方で、日本にもともといた生物(在来種)を捕食、競合、あるいは、交雑による遺伝的かく乱などによって、地域の生態系に大きな影響を与えてしまう外来種もあります。自然環境への影響だけでなく、農作物の食害等の農林水産業への被害や、毒などにより人の生命や身体への被害を与えるものもあります。
例えば、沖縄島や奄美大島にハブを駆除する目的で持ち込まれたマングースはヤンバルクイナやアマミノクロウサギなどの希少な在来種に大きな影響を与えています。また、ペットとして日本に持ち込まれたものの、飼いきれなくなって捨てられたアライグマは、分布を拡大し、各地で農作物への食害等が問題になっています。また、セアカゴケグモという、輸入品等に付着して日本に持ち込まれたとされる毒グモが分布を広げ、このクモに咬まれる被害が発生しています。
こうした被害を与える外来種を侵略的外来種といいます。侵略的外来種は日本の生物多様性を保全する上で、重要な問題となっています。
外来生物法は、こうした被害を防止するために、日本の生態系、農林水産業、人の生命・身体に被害を与える外来生物を特定外来生物として指定し、その輸入や飼養等を規制、また、野外に放つことなどを禁止するとともに、防除を実施することを定めています。
平成25年8月現在、特定外来生物には107種類(うち2種類は平成25年9月1日施行予定)が指定されています。
外来生物法改正の経緯
外来生物法では、施行後5年を経過した場合は、施行状況を検討し、必要と認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとしていました。
平成17年の外来生物法の施行から5年後にあたる平成22年には、生物多様性条約第10回締約国会議が名古屋で開かれました。この会議で採択された、生物多様性に関する新たな世界目標である愛知目標には、外来種に関するものとして、侵略的な外来種と、そのうち対策の優先度の高い種を特定し、そうした種の制御や根絶、定着経路を管理するための対策が講じるべきことなどが位置づけられました。外来種問題は、生物多様性保全に向けて取り組むべき重大な問題として、国内外の関心が高まっているのです。
こうした背景を受けて、平成24年6月から中央環境審議会野生生物部会において、外来生物法の施行状況とそれを踏まえた今後講ずべき必要な措置について審議が行われ、この結果、同年12月に、中央環境審議会から環境大臣及び農林水産大臣に意見具申がなされました。意見具申では、外来生物法の施行による一定の効果はみられるものの、解決すべき多くの課題が存在するとして、どのような対策を行うべきかが提示されています。これを踏まえ、一層外来種対策を強化するべく、今回の外来生物法の改正が行われました。
今回改正のポイントは主に3つあります。以下で、この3つのポイントについて説明します。
ポイント1:外来生物の交雑種も規制対象に
今回の外来生物法の改正のポイントの1つ目は、交雑種を特定外来生物に指定できるようにしたことです。
交雑種というのは、異なる種の生物が掛け合わさって生まれた生物のことです。特定外来生物に由来する交雑種の中には、親と同じような性質を持っており、生態系等に被害を及ぼすおそれがあるものがあります。例えば、ともに特定外来生物であるストライプトバスとホワイトバスを人工的に掛け合わせた、通称サンシャインバスと呼ばれる交雑種が輸入され、釣り堀に導入されていますが、野外に逸出し、定着すれば、在来の魚類や水生昆虫などの捕食や、在来の魚類との競合が心配されます。
また、特定外来生物のアカゲザルと在来種のニホンザルが交雑したサルが千葉県の房総半島で見つかっています。対策が進められていますが、このまま、交雑が進めば、房総半島から在来のニホンザルが失われてしまうことにもなりかねません。
このように特定外来生物との交雑種についても、特定外来生物として規制したり、防除したりすることが必要なものがあります。しかし、これまで、外来生物法では「外来生物」を「海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物」と定義していました。外来生物が人工的に掛け合わされるか、人為的に持ち込まれた結果、野外で交雑して生まれたものは、本来の生息地や生育地を持ちません。サンシャインバスなどの交雑種を特定外来生物として規制することができなかったのです。
そこで、今回の改正では、外来生物の定義を改め、外来生物が交雑することにより生じた生物も含むこととしました。特定外来生物は、具体的には政令で指定されますので、法律の定義の改正だけではまだ実際に規制の対象にはなりません。今後、どのような交雑種を特定外来生物に指定するべきか専門家会合などで検討が行われる予定です。交雑種を指定するためには、どのような特徴を持ち、被害を及ぼすおそれがあるのか、判別は可能なのかなどの検討が必要となります。
ポイント2:特定外来生物の野外への放出等を可能に
ポイントの2つ目は、特定外来生物の野外への放出等が認められる場合を設けたことです。
これまでの外来生物法では、特定外来生物を野外に放出等することを例外なく禁止していました。冒頭で例に挙げたマングースやアライグマのように、外来種の問題は野外に放つことによって招かれたものが多くあります。野外に放出するという行為は、被害の原因となる直接的な行為として禁止され、違反した場合の罰則も非常に厳しく設定されています。
一方で、特定外来生物の効果的な防除方法を開発するために、どのようなところに営巣しているか、活動範囲はどの程度あるのかなどを調べることが有効な場合があります。こうしたことを調べるために、例えば、野外で捕獲した特定外来生物を研究室に持ち帰り、個体の状況を調べて発信機等を取り付け、また野外に放って調査を行うということも外来生物法の規制の対象として行うことができず、防除方法の開発の妨げとなっていることがありました。また、例えば、不妊化した個体を野外に放ち、子孫を残せないようにするという防除方法が有効な場合もありますが、こうした手法の開発や実際にこの技術を活用した防除の実施も、特定外来生物の放出等が禁止されていてはできません。
そこで、今回の改正となりました。しかし、先に述べたように、放出等は直接的に被害の原因となってしまうおそれがありますから、どんな場合でも認められるということではなく、①防除に資する学術研究の目的で、主務大臣の許可を受けて行う場合、②外来生物法で規定する防除として行う場合の2つの場合に絞られます。①については、その行為によって、その特定外来生物の生息地や生育地を拡大させるおそれがないことなど、基準を満たすものでなければ許可を受けることはできません。また、許可を受けている場合でも、その許可の条件に沿って行われておらず、生態系等に係る被害を発生させてしまうような場合には、主務大臣はその者に対して、放出等をした特定外来生物の回収等の命令をすることができます。
外来生物法の趣旨に沿って、許可や防除のための放出等が認められるケースは慎重に判断する必要がありますが、この改正によってより効果的な防除方法の開発、対策の推進につなげていきたいと考えています。
ポイント3:特定外来生物が付着・混入している輸入品等への措置を規定
改正のポイントの3つ目は、特定外来生物が付着・混入しているおそれのある輸入品等の検査や、そうした輸入品の消毒や廃棄の命令を行えるようにしたことです。
外来種の中には、マングースやアライグマの例のように意図的に持ち込まれたものもありますが、セアカゴケグモのように意図せずに、何かに付着するなどして持ち込まれてしまったものもあります。こうした非意図的に導入された外来種としては、他に、アルゼンチンアリが挙げられます。アルゼンチンアリは、住宅に入り込んで食べ物にたかるなどといった生活環境への被害や、在来のアリを駆逐してしまうなど生態系への影響を与えます。現在国内で分布を拡大しつつありますが、輸入品等に付着するなどして日本に持ち込まれたと考えられています。
輸入品は、通関時に、植物防疫や動物検疫、税関などの検査を受ける必要がありますが、実際に、これらの検査において、特定外来生物が付着・混入しているのが発見される場合があります。これまで、アルゼンチンアリ等が外国産の切り花等に付着している事例が度々確認されています。
外来生物法では、許可なく特定外来生物を輸入することは禁止されていますので、非意図的であっても、特定外来生物が付着・混入していればそのまま輸入することはできません。これまで、外来生物法には輸入品等に特定外来生物が付着・混入している場合にどのように特定外来生物を取り除くか具体的な規定がなく、その方法は輸入者に委ねられていました。そのため、確実な取り除きが確保できない場合がありました。
そこで、今回の改正では、輸入通関時に特定外来生物が付着・混入しているおそれがある輸入品等を検査することができることとしました。さらに、特定外来生物の付着・混入が確認された場合には、消毒又は廃棄を命令できるようにし、消毒の方法などの基準を設け、それに従って確実な取り除きが行われるようにしました。なお、具体的な消毒基準の設定は平成25年度に進めていく予定です。
日本は非常に大量のものを輸入しています。アリやクモなどの特定外来生物はどのようなものにも付着・混入しているおそれがありますが、全ての輸入品をつぶさに検査することは非常に難しく、非意図的な導入への対策方法や管理体制についてはまだ多くの課題があります。しかし、今回の改正によって、外来生物法の観点から検査を行うことができようになったこと、そして発見された特定外来生物を確実に取り除くための措置が行えるようになったことは着実な一歩であると考えています。
今後に向けて
今回、平成17年の外来生物法の施行以来明らかになってきた課題に、法制度の面から対処するための改正を行いました。施行は公布から1年以内を予定しており、それまでに、特定外来生物に指定すべき交雑種や、放出等の許可の基準、輸入品等の消毒基準など、具体的な検討を進めていきます。効果的に対策が進められるよう、今後検討を行い、適切な執行を確保していくことが重要と考えています。
さらに、法制度に係る部分以外にも、外来種対策については多くの取り組むべき課題が残されています。環境省では、関係省庁とも協働して、2020年までの外来種全般に関する総合戦略である「外来種被害防止行動計画(仮称)」と、特定外来生物のみならず、特に侵略性が高く、日本の生態系等に係る被害を及ぼす外来種のリスト「侵略的外来種リスト(仮称)」を平成25年度中に策定することを予定しており、改正外来生物法の効果的な執行とあわせて、これらの取組も通して、一層対策を推進していきたいと考えています。
外来種問題は、その導入の背景をみても、社会経済的な活動と表裏の関係にあるといえます。問題の解決に向けては、様々な立場の方が外来種問題に関心を持ち、連携しながら、対策を行っていくことが必要です。環境省では、外来種による被害を予防するため、外来種を「入れない」「捨てない」「拡げない」ことを、被害を予防するための三原則として協力を呼びかけています。皆さんも、生活に身近な問題として関心を持ち、できることから始めていただければ幸いです。
- 【1】「外来種」と「外来生物」
- 外来生物法では、「外来生物とは日本に本来の分布域を持たず、海外から導入されたもの」として定義されています。本稿では、法律上の定義に沿って使う場合は「外来生物」、国境に関わらずに使う場合は「外来種」の言葉を使います。
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(記事)環境省自然環境局 野生生物課 外来生物対策室
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