一般財団法人 環境イノベーション情報機構

メールマガジン配信中

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.213

Issued: 2012.11.20

中国発:中国省エネ・環境投資需要の展望

目次
環境汚染対策投資の推移
国家環境保護十二五計画における環境対策事業の内容
十二五省エネ・環境保護産業発展計画等における省エネ・環境保護事業総生産額の見通し
中国環境産業の今後の基本的発展方向

 2011年3月に国民経済と社会発展第12次5カ年計画綱要(以下、第12次5カ年計画を「十二五計画」と記述)が決定されて以降、ようやく下位の各分野別の十二五計画が出揃ってきた。今回は2012年10月までに発表された各種の十二五計画をもとに、省エネ・環境投資需要の展望について紹介する。

環境汚染対策投資の推移

長沙クロム塩工場跡地の地下水汚染

 中国における環境汚染対策投資額は、1981年にスタートした第6次5カ年計画当時と比較すると飛躍的に伸びてきている(図1)。また、GDPがこの30年以上平均で毎年10%近く成長している中で(図2,3)、環境汚染対策投資額がGDPに占める割合も次第に高くなってきており、第6次5カ年計画以降0.52%、0.66%、0.68%、0.83%、1.19%、1.41%へと増加するなど中国経済における環境汚染対策投資の重要性は確実に高まってきている。
2011年12月に国務院【1】が発表した「国家環境保護十二五計画」では、2011年から2015年までに社会全体で約3.4兆元の環境対策事業が計画されているとしている。また、2012年6月に同じく国務院が発表した「十二五省エネ・環境保護産業発展計画」では、省エネ環境保護産業の総生産額の年平均成長率を15%以上とし、2015年の総生産額を4.5兆元(2010年は2兆元と試算)【2】とし、GDPに占める割合を約2%とするという目標を明らかにしている。前者の計画は環境対策事業、後者は省エネ・環境保護産業と分類整理の仕方が異なるが、いずれにしてもこれまでの5カ年計画に比べてさらに大きな発展の見通しを立てている。

 (備考)環境汚染対策投資や環境保護産業の定義・分類は必ずしも明らかになっていないこと及び各種統計は整備途中の段階にあることから、過去の各計画や統計データを厳密に比較することはできない。


図1 各五カ年計画期間における環境汚染対策投資額
[拡大図]

図2 国内総生産(GDP)成長率の推移(単位%)
[拡大図]

図3 GDPの推移(単位:億元)
[拡大図]


国家環境保護十二五計画における環境対策事業の内容

 上述のとおり国家環境保護十二五計画では、社会全体で約3.4兆元の環境対策事業が計画されているが、そのうち環境基礎調査とモデル事業が優先実施される重点8項目においては1.5兆元の投資需要を見込んでいる。8つの重点項目とは次のとおりである。

プロジェクト名具体例
1 主要汚染物質排出削減プロジェクト 都市と町の生活排水処理施設および配管網、汚泥処理処置、工業の水質汚濁防止対策、畜産汚染防止対策などの水質汚濁物質排出削減プロジェクト、電力業界の脱硫・脱硝、鉄鋼焼結機の脱硫・脱硝、その他電力以外の重点業界の脱硫、セメント業界と工業ボイラー脱硝などの大気汚染物質排出削減プロジェクト
2 民生改善・環境保障プロジェクト 重点流域の水質汚濁防止対策と水生態修復、地下水汚染防止対策、重点地域の大気汚染合同予防制御、汚染サイトおよび土壌汚染整備・復元などのプロジェクト
3 農村の環境保護恵民プロジェクト 農村環境総合整備、農業面源汚染防止対策などのプロジェクト
4 生態環境保護プロジェクト 重点生態機能区および自然保護区の建設、生物多様性保護などのプロジェクト
5 重点分野の環境リスク防止プロジェクト 重金属汚染防止対策、残留性有機汚染物質と危険化学品汚染防止対策、危険廃棄物と医療廃棄物無害化処理などのプロジェクト
6 原子力・放射線安全保障プロジェクト 原子力安全・放射性汚染防止対策に関する法規・基準体系の確立、原子力・放射線安全監督管理技術研究開発基地の建設と放射環境モニタリング、法執行のキャパシティビルディング、人材育成などのプロジェクト
7 環境インフラに係る公共サービスプロジェクト 都市と町の生活汚染、危険廃棄物処理処置施設の整備、都市・農村の飲用水水源地安全保障などのプロジェクト
8 環境監督管理能力の基礎的保障・人材育成プロジェクト 環境モニタリング・監査・早期警報・応急・評価のキャパシティビルディング、汚染源のオンライン自動監視制御施設の整備と運転、人材、広報・教育、情報、科学技術および基礎調査などのプロジェクト建設。省・市・県3級の環境監督管理体系の構築による健全化

十二五省エネ・環境保護産業発展計画等における省エネ・環境保護事業総生産額の見通し

 上述の重点8項目には省エネ関係のプロジェクトは入っていないが(その代わり原子力・放射線安全保障プロジェクトが含まれているのが特徴)、2012年6月に国務院が発表した十二五省エネ・環境保護産業発展計画では、省エネ事業も含めた2015年の総生産額を4.5兆元とし、各分野別の見通しを次のように発表している。

分野2015年に向けた発展の見通し
1省エネサービス業総生産額3,000億元以上
2 都市汚水・ごみ、脱硫脱硝施設 建設投資8,000億元以上
3 環境サービス業 総生産額5,000億元以上
4 高効率省エネ技術と装備 総生産額5,000億元
5 半導体照明産業 総生産額4,500億元
6 都市鉱山モデルプロジェクト 総生産額4,300億元
7 再製造産業 総生産額500億元
8 固体廃棄物リサイクル 総生産額1,500億元
9 海水淡水化関連産業 総生産額500億元
10 環境装備 総生産額5,000億元以上
11 環境保護材料 総生産額1,000億元以上

 この省エネ環境保護産業発展計画はこの分野を総合的にまとめた計画であるが、さらに具体化した分野別の十二五計画も制定されてきている。そのいくつかをみてみると次のとおりである。

環境サービス業十二五発展計画(パブコメ版) (2012年2月、環境保護部)

①環境サービスの発展ペースを更に引き上げ、環境サービス業の生産額の年間成長率を約40%(十一五計画実績は約30%)にする。(2010年末の年間生産額を約1,500億元と試算)
②環境サービス業生産額の環境産業全体に占める割合を大幅に高め、30%以上とする。(2010年末は約15%)

環境保護装備十二五発展計画 (2012年3月、工業と情報化部、財政部)

環境保護装備産業の総生産額は年間平均20%成長とし、2015年に5,000億元に達し、さらに環境保護装備輸出額は年間平均30%以上成長とし、2015年に100億元以上にする。

十二五全国都市汚水処理及び再生利用施設建設計画 (2012年4月、国務院)

全国の都市汚水処理・再生利用施設建設に約4,300億元を拠出する(十一五計画の実績は3,766億元)。

十二五全国都市生活ごみ無害化処理施設建設計画(2012年4月、国務院)

全国の都市生活ゴミ無害化処理施設の建設に総額2,636億元投資する (十一五計画の実績は561億元)。

重点流域水汚染防止計画(2011〜2015年)(2012年5月、環境保護部、国家発展改革委員会、財政部、水利部)

基幹となる建設プロジェクトは6,007件で、投資総額は3,460億元に上ると推計。プロジェクトの類型区分では、都市汚水処理と関連施設の建設プロジェクトに2,705件1,907億元、工業汚染防止プロジェクトに1,391件425億元、飲用水水源地汚染防止プロジェクトに221件93億元、畜産養殖汚染防止プロジェクトに633件55億元、地域水環境総合整備プロジェクトに1,057件990億元となっている。

全国都市給水施設改造及び建設十二五計画(2012年5月、住宅都市農村建設部、国家発展改革委員会)

総投資額は4,100億元で、浄水場の改造投資465億元、配管網の改造投資835億元、新規建設浄水場投資940億元、新規配管網建設投資1,843億元、水質検査管理監督キャパシティビルディング投資15億元、緊急給水キャパシティビルディング投資2億元となっている。

核安全と放射線汚染防止十二五計画等(2012年10月、環境保護部(国家核安全局)、国家発展改革委員会、財政部、国家エネルギー局、国防科学技術工業局)

核エネルギーと核技術利用安全改造プロジェクト、放射性汚染対策プロジェクト、核安全科学技術研究開発イノベーションプロジェクト、核・放射線事故応急保障プロジェクト、核安全監督管理キャパシティビルディングプロジェクト等の重点プロジェクトの投資需要を798億元と推計している。

海水淡水化科学技術発展十二五専門計画(2012年8月、科学技術部、国家発展改革委員会)

海水淡水化装備製造業の生産額を毎年75〜100億元と予測している。

以下は、多少切り口は違うが、省エネ環境保護を含むか、または関連する分野の十二五計画における関連の記述である。

十二五国家戦略性新興産業発展計画 (2012年7月、国務院)

戦略性新興産業規模の年平均成長率を20%以上に維持し、2015年には戦略性新興産業がGDPに占める割合を約8%とし、2020年には15%とする(注:戦略性新興産業とは、省エネ・環境保護、新世代情報技術、バイオ、先端(ハイエンド)装備の製造、新エネルギー、新素材、新エネルギー自動車などの産業)。
(備考)戦略性新興産業の定義は十二五計画で初めて示された。

省エネ・排出削減十二五計画 (2012年8月、国務院)

十二五計画期間中に必要な省エネ・排出削減重点プロジェクトの投資ニーズは2兆3660億元と試算している(省エネ重点プロジェクト9,820億元、排出削減重点プロジェクト8,160億元、循環経済重点プロジェクト5,680億元) 。

再生可能エネルギー十二五計画 (2012年8月、国家エネルギー局)

 再生可能エネルギー投資総額を約1.8兆元と試算している。内訳は次のとおり。
・水力発電の建設投資総額約8,000億元(大中型水力発電約6,200億元、小型水力発電約1,200億元、揚水式電力貯蔵発電所約600億元)
・新規増加風力発電設備投資総額約5,300億元
・新規増加各種太陽光発電設備投資総額約2,500億元(2012年7月に太陽エネルギー発電発展十二五計画を策定済みで、同額の投資需要を提示)
・各種バイオマスエネルギー新規増加投資約1,400億元
・その他太陽熱ヒーター、浅層地熱エネルギー利用等

中国環境産業の今後の基本的発展方向

 これまでの発展段階及び各種十二五計画の内容等を分析すると、中国環境産業の今後の発展方向は次のように整理することができよう。

(1)水質汚染分野と大気汚染分野を中心に、多分野へと急速に拡大
たとえば、大・中規模都市の汚水処理インフラ建設が最終段階に近づく(図4)、地方の汚水処理インフラ整備が最大の手付かずの領域となる(図5,6)、既存の汚水処理施設の処理能力向上が重点領域となる、汚水処理インフラは運営業務が中心となる、脱硫施設の建設ラッシュが落ち着き(図7)、脱硝が大気汚染対策の重点分野になるなど。

図4 全国の都市における汚水処理率の推移(%)
[拡大図]

"図5 全国の郷・鎮における汚水処理場設置数の推移
[拡大図]

図6 2010年全国行政区分別汚水処理の割合
[拡大図]

図7 第11次5か年計画期間、脱硫装置整備の推移
[拡大図]



(2)汚染事故や環境問題が引き金となって多くの分野で対策事業が進展
たとえば、都市ごみ問題の深刻化は早急な対策を必要としている、土地売買の増加により土壌修復事業の市場が爆発的に拡大する、資源の不足により資源リサイクルブームの到来が早まる、鉛中毒、カドミウム汚染米、汚染タバコなどの問題により重金属汚染対策が強化されるなど。

(3)省資源化の理念の普及により汚染対策の考え方が変化
たとえば、汚水リサイクルによる水資源不足の緩和、汚泥のガス利用や燃料利用、ごみ焼却の熱利用と発電利用、工業廃水からの有用物質収集による環境対策、「都市鉱山」を利用した新製品開発による資源回収化など。

表1 第12次5カ年計画(2011-2015)の主要指標(資源環境分野)
[拡大図]

(4)5カ年計画の拘束性指標の拡充(表1)によってボトムアップでの技術の向上
たとえば、環境改善が地方官僚の実績の主要な指標となる、環境対策施設の「数」によって人事評価がされていた時代が終わる、汚染物質排出権取引により環境先進企業に経済利益が生まれる、技術が単なる広告ではなく企業のコア競争力の源泉となる、技術が新たな産業構造をもたらし中小企業に飛躍のチャンスを与える、サービス時代の到来により企業の技術レベルの検証が行われるようになるなど。

(5)環境産業の資本時代への突入
たとえば、企業の上場が巨大な資産効果(資産価格の上昇に伴う投資の増大)をもたらす、上場により企業の資産状況が大きく変化して急速な発展が可能になる、十二五計画期間に環境企業の上場ピークを迎える、戦略的投資が環境産業の産業チェーン全体の発展を促す、株式投資が中小企業の発展を促す、企業によるM&Aは環境産業の次なる特徴となりうるなど。

 以上見たように、中国の省エネ・環境保護産業は今後とも急速な右肩上がりの成長が期待されており、これに注目して中国進出の機会をうかがう日本の環境企業も多いが、進出にあたっての課題も多く指摘されている。これについては次回紹介することとしたい。


【1】国務院
日本の内閣に相当する。
【2】
1元は約13円。

参考資料(いずれも中国語)

アンケート

この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。

【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

写真・図表・記事:小柳秀明

〜著者プロフィール〜

小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
1977年
環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
1997年
JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
2000年
中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
2001年
日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
2003年
JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
2004年
JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
2006年
3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
2006年
4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
2010年
3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。