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No.208

Issued: 2012.06.28

中国発:2011年中国環境白書を読む

目次
2011年主要汚染物質の排出状況
水質汚染の状況
海域汚染の状況
都市大気汚染の状況
都市騒音の状況
環境放射線等の状況
生態建設の進展
農村の環境問題
2011年に講じた五大重要措置
さいごに ──2011年白書の大きな変化

北京を襲った黄砂

 毎年恒例になっているが世界環境デーの2012年6月5日、今年の中国環境白書(「2011年中国環境状況公報」)が発表された。同日に行われたプレスリリースでは、環境保護部呉暁青副部長(副大臣に相当)が白書のポイントについて総括している。2011年中国環境白書の要点を過去の傾向と比較しながらまとめてみた。

 環境保護部呉暁青副部長は、会見で2011年の環境の状況について次のように総括した(注:見出しは筆者作成)。それぞれのパラグラフについて図表を付け加えてわかりやすく解説した。

2011年主要汚染物質の排出状況

 統計によれば、2011年の全国廃水排出量は652.1億トンで、そのうち化学的酸素要求量の排出量は2,499.9万トン、アンモニア性窒素の排出量は260.4万トン、廃ガス中の二酸化硫黄排出量は2,217.9万トン、窒素酸化物排出量は2,404.3万トン、工業固体廃棄物の発生量は32.5億トンであった。2011年のモニタリング結果は全国の環境の質の状態は全体的には平穏な状態を保っているものの形勢は依然として厳しく、多くの困難と挑戦に面していることを表している。

[解説]

 2011年3月に策定された国民経済と社会発展第12次5カ年計画では、4つの汚染物質について排出総量削減に関する拘束性目標(強制目標)が策定された(表1)。
 2011年の実績は、化学的酸素要求量2.04%削減、アンモニア性窒素1.52%削減、二酸化硫黄2.21%削減、窒素酸化物5.73%増加という結果で、窒素酸化物の削減実績が非常に悪く、逆に大幅に増加した。今後4年間で16%近く削減しなければならない厳しい状況になった。しかし、これを直ちに好転させることは難しく、2012年の単年度目標を「現状維持」においている。

表1 第12次5カ年計画(2011-2015)の主要汚染物質削減目標と削減実績
指標 削減率(%) 2011年単年度
削減目標
2011年
削減実績
2012年単年度
削減目標
主要汚染物質の種類 化学的酸素要求量(COD) [8] 1.5% 2.04% 2%
二酸化硫黄(SO2) [8] 1.5% 2.21% 2%
アンモニア性窒素(NH3-N) [10] 1.5% 1.52% 1.5%
窒素酸化物(NOx) [10] 1.5% 5.73%
増加
0%
現状維持

備考:[ ]内は5カ年累計の数字
(出典)第12次5カ年計画、2011年中国環境状況公報等を基に筆者編集

水質汚染の状況

 第一に全国の地表水の水質は全体的に軽度の汚染状態にある。湖沼(ダム)の富栄養化問題は突出している。長江、黄河、珠江、松花江、淮河、海河、遼河、浙闽片河流、西南諸河及び内陸諸河等十大水系の469カ所の国がコントロールする観測点中、I〜III類、IV〜V類及び劣V類の水質の割合はそれぞれ61.0%、25.3%、13.7%であった。西南諸河の水質は優良の状態で、長江、珠江、浙闽片河流及び内陸諸河の水質は全体的に良好な状態で、黄河、松花江、淮河、遼河は全体的に軽度の汚染状態で、海河は全体的に中度の汚染状態であった。モニタリングを行った26の湖沼(ダム)中、富栄養化状態の湖沼(ダム)は53.8%で、そのうち軽度の富栄養化状態と中度の富栄養化状態の湖沼(ダム)の割合はそれぞれ46.1%、7.7%であった。モニタリングを行った200の都市の4,727カ所の地下水モニタリングポイント中、優良・良好・比較的良好な水質のモニタリングポイントの割合は45.0%で、比較的悪い・極めて悪い水質状態のモニタリングポイントの割合は55.0%であった。

未処理の生活排水が小河川に流入する

未処理の生活排水で汚染された農村の小河川


[解説]

 これまでは長江、黄河、珠江、松花江、淮河、海河、遼河の七大水系を中心に評価してきていたが、今年の白書から十大水系の総合評価をはじめて採用した。水質分類のうちI〜III類は飲用水として利用可能な水質である。各水系別の汚染程度の状況は図1のとおりである。26の湖沼(ダム)は国が直接管理するものであり、その汚染状況は表2及び図2のとおりである。飲用に適するI〜III類の湖沼は11で、IV〜V類は13、劣V類は2であった。主要な汚染指標は全リン及び化学的酸素要求量であった。昨年に比べると最も水質の悪い劣V類の湖沼が10から2に激減するなど全体的に水質は改善されたように見えるが、水質の評価項目から主要な汚染原因物質であった全窒素をはずしたことが影響している。

表2 2011年重点湖沼・ダム水質類別
湖沼ダム類型 個数 I類 II類 III類 IV類 V類 劣V類
三湖(太湖、デン池、巣湖) 3 0 0 0 1
太湖
1
巣湖
1
デン池
大型淡水湖 9 0 0 1 4 3 1
都市内湖 5 0 0 2 3 0 0
大型ダム 9 1 4 3 1 0 0
総計 26 1 4 6 9 4 2
(参考)2010年 26 0 1 5 4 6 10

2011年の主要な汚染指標は全リン及びCOD(参考)2010年の主要な汚染指標は全窒素及び全リン
出典:2010年、2011年中国環境状況公報をもとに筆者作成

【図1】2011年十大水系水質類別割合比較
[拡大図]

【図2】2011年26重点湖沼・ダム水質類別分布
[拡大図]


海域汚染の状況

【図3】2011年沿岸海域汚染の状況

【図3】2011年沿岸海域汚染の状況
拡大図

 第二に、中国が管轄している海域の海水水質の状態は全体的には比較的良好であったが、沿岸海域の水質は全般的に普通の状態であった。四大海区では、黄海沿岸海域の水質は良好で、南海沿岸海域の水質は普通で、渤海と東シナ海沿岸海域の水質は悪かった。9カ所の重要海湾中、黄河河口と北部湾の水質は良好で、胶州湾及び遼東湾の水質は悪かった。渤海湾、長江河口、杭州湾、闽江河口及び珠江河口の水質は非常に悪かった。

[解説]

 具体的な汚染状況は図3をみるとわかりやすい。白書本文では各海域に流入する汚染物質の量についても推計されている。


都市大気汚染の状況

天気のよい日でも微小粒子状物質で霞む空(黄砂を撮影したのと同じ場所)

 第三に全国の都市大気質は全体的に安定した状態にあった。ただし、微小粒子状物質による汚染は次第に明らかになってきた。酸性雨の分布地域は安定した状態を維持した。2011年、325の地区級及びそれ以上の都市(一部の地区、州、盟の所在地及び省が管轄する市を含む)中、古い基準に照らして評価すると、環境大気質基準を達成している都市の割合は89.0%で、基準を超過している都市の割合は11.0%であった。しかし、新しい大気質基準執行後は、中国の都市大気中の微小粒子状物質(PM2.5)による汚染が次第に明らかになりつつあり、2011年から一部の試験モニタリングを実施している都市におけるモニタリング結果を見ると、新しい環境大気質基準に照らして評価してみると(PM2.5年平均値の2級基準は35mg/m3)、多数の都市の微小粒子状物質は基準値を超え、年平均値は58mg/m3となっている。酸性雨の分布地域は主に長江流域及びそれ以南から青蔵高原以東の地域に集中している。酸性雨地域の面積は国土面積の約12.9%を占めている。

[解説]

 酸性雨の分布状況を図4に示した。分布に大きな変化はみられない。昨年まで県級レベル以上の都市について評価していたが、今年の白書から地区級市レベル以上の都市についての評価に変わっている(図5)。地区級市レベル以上の都市は県級レベルの都市より規模が大きい。2012年2月に新しい大気環境基準が発表され、2016年1月1日から施行されることになった。2011年の評価は現行の環境基準で行われている。現行の環境基準のうち、粒子状物質はPM10が基準になっているが(図6)、新環境基準ではこれに加えてPM2.5の基準も追加されたので、本文にあるように2011年から一部の試験モニタリングを実施している都市におけるPM2.5のモニタリング結果を紹介している。なお、白書本文ではPM2.5の試験モニタリングの結果は紹介されていない。

【図4】2011年全国酸性雨地域分布
拡大図

【図5】2011年全国325地区級市以上の都市の大気環境基準達成状況(現行基準による評価)
拡大図

【図6】2011年全国粒子状物質( PM10 )濃度分布
拡大図


都市騒音の状況

 第四に、全国の都市騒音環境質は全体的に比較的良好である。全国77.9%の都市地域の騒音レベルは全体的に見て一級及び二級レベルである。環境保護重点都市地域の騒音レベルは一級及び二級が全体の76.1%を占めている。

環境放射線等の状況

 第五に、全国の放射線環境質は全体的に良好である。環境電離放射線レベルは安定を保っており、核施設、核技術利用プロジェクト周辺の環境電離放射線レベルは全体的にみて明確な変化は現れていない。環境中の電磁波レベルは全体的に見て比較的良好な状況である。電磁波を発射する施設周辺の環境中の電磁波レベルは、全体的にみて明確な変化は現れていない。

[解説]

 昨年3月に日本で発生した福島原発事故以降中国政府も環境放射線の状況に過敏になり、昨年の一定期間環境保護部のHP上で放射線モニタリングの結果を公表するようになった。今年の白書では各地域の放射線レベルを公表している。昨年まではみられなかったものである。

生態建設の進展

 第六に、生態建設の進展は比較的良好である。2011年末までに全国で設立された各種類型、各級の自然保護区は2,640カ所、総面積は約14,971万ha、そのうち陸域面積は14,333万haで国土面積の14.9%を占める。

農村の環境問題

 第七に、農村の環境問題は日増しに顕在化している。農村の経済社会が速いスピードで発展するにつれて、農業の産業化、都市農村の一体化の進展がますます速くなり、農村と農業からの汚染物質の排出量が大きくなり、農村環境の形勢は厳しいものになっている。2011年、環境保護部は全国の364の村で農村モニタリングモデル業務を組織展開した。その結果によると環境大気質が基準を達成している村は81.9%を占め、農村の地表水は軽度の汚染状態にあり、農村の土壌サンプルの基準超過率は21.5%で,ゴミ捨て場周辺、田畑、及び企業周辺の土壌汚染が比較的深刻であった。

農村では住宅建設がどんどん進む

農村では住宅建設がどんどん進む

農村に設置された共同ゴミ捨て場

農村に設置された共同ゴミ捨て場

農村ののんびりとものを売る商店

農村ののんびりとものを売る商店


[解説]

 中国には約60万近くの行政村、273万以上の自然村が存在し、今後農村環境保護はますます重要な地位を占めるようになる。第12次5カ年計画でも農村環境保護を強調している。2011年はじめて農村の環境モニタリングモデル業務をスタートした。各省(自治区、直轄市)でそれぞれ少なくとも9以上の農村を選定して大気、河川、飲用水源地、土壌汚染の状況などを調べた。
 また、2011年全国排水中の化学的酸素要求量排出総量は前述のとおり2,499.9万トンであったが、その内訳を見ると農業源からのものが1,186.1万トンで半分近くの約47%を占めている。排水中のアンモニア性窒素についても同様の傾向で、排出総量260.4万トンのうち農業源が82.6万トンで約32%を占めている。このことからも農村の環境問題の解決が重要課題であることがわかる。

2011年に講じた五大重要措置

 環境保護の歴史的転換を深く推進するため、2011年以来国務院は環境保護に対して五つの方面の重要事項を行った。
 第一は「環境保護強化の重点業務に関する意見」の審議通過と発出である。
 第二は国家環境保護第12次5カ年計画の発出である。
 第三は第12次5カ年計画省エネ排出削減総合性業務方案の発出である。
 第四は新しい環境大気質基準の修正同意と発布である。
 第五は第7回全国環境保護大会の開催である。中国共産党中央政治局常務委員、国務院副総理の李克強同志は第7回全国環境保護大会に出席し、重要講話を発表し、更に一歩、第12次5カ年計画の環境保護目標任務、重点業務及び政策措置を明確にした。

[解説]

 第一と第三は筆者の前回の記事(第200回 中国発:第12次5カ年計画下の重要環境政策文書出揃う)で解説しているので参照されたい。第二の国家環境保護第12次5カ年計画は2011年12月15日に発表された環境保護分野で最上位となる5カ年計画である。また、第五の第7回全国環境保護大会は2011年12月20日に開催された。この全国環境保護大会というのは中国国内で開催される環境関係の会議のうちもっとも重要な会議で概ね5年に1回開催され、毎回総理級が出席する。1983年に開催した第2回大会では環境保護を国家の基本政策として明確化した。また、2006年の第6回大会では温家宝総理が「3つの転換」という指導思想を発表した。今回の第7回大会では以下の内容が強調された。

  • 経済発展時の環境保護及び環境保護時の経済発展を堅持する。
  • 安定した成長と経済発展様式の変革促進のための重要な方策として環境保護を行う。
  • 人の健康に有害な際だった環境問題の解決が主要な優先課題である。
  • あらゆる環境保護活動の改革・革新を推進する。
  • 低コスト、高効率、低排出で持続可能な新しい環境保護の道筋を探求する。

さいごに ──2011年白書の大きな変化

 2011年中国環境状況公報は、第12次5カ年計画期間中の第1年目の年報としてとりまとめられたが、データのとりまとめ方法でこれまでとは大きく異なっている点が幾つかあるのが特徴だ。
 その第一は統計の基礎となる母集団が大きく変化、すなわち統計の基礎となるデータが大幅に拡充されている点だ。このため汚染物質排出総量など「絶対量」をみた統計では算定対象とする母集団の大規模増加により過去の統計との連続性がなくなっているから、過去の排出トレンドと単純な比較を行うと大きな間違いを犯すことになる。参考例として全国排水中の化学的酸素要求量排出量の推移の例などを図7及び図8に紹介しておく。
 第二は、都市大気質の評価にみられるように評価対象とする母集団を変更している点だ。これは全国の多くの都市におけるモニタリングの充実により、より適切に評価するために母集団を変更したもので、割合で表示しているのでデータの質に大きな影響は出ていないが、これも前者同様過去と単純な比較を行わないよう注意が必要だ。
 第三は評価指標を変えたことによる基準達成状況等の変化だ。湖沼の汚染状況の解説でも触れたが、主要な汚染物質の一つである全窒素を評価指標からはずしたため基準達成率が大きく変化した。
 これらのことは公報の本文中でも注釈で簡単に触れられているが、見落としやすいので注意が必要だ。

【図7】化学的酸素要求量排出量の推移
拡大図

【図8】工業固体廃棄物発生量の推移
拡大図


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写真・図表・記事:小柳秀明

〜著者プロフィール〜

小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
1977年
環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
1997年
JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
2000年
中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
2001年
日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
2003年
JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
2004年
JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
2006年
3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
2006年
4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
2010年
3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。