一般財団法人 環境イノベーション情報機構

メールマガジン配信中

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.118

Issued: 2007.02.01

En ville, sans ma voiture!(街中ではマイカーなしで!)〜モントリオールのカーフリーデー

目次
3つの観点からカーフリーデーに挑む
環境の広場(QUARTIER ENVIRONNEMENT)
健康の広場(QUARTIER SANTÉ)
活動的・集合的な交通手段の広場(QUARTIER TRANSPORTS ACTIFS ET COLLECTIFS)
まとめ

【写真01】L’ALLEE VERTE(緑の小道)。いつもはアスファルトで全て覆いつくされているダウンタウンのメインストリートに“緑の小道”が出現。人工芝ではなく本物の芝生。ふかふかの芝生に思わず寝転ぶ人も。

 1997年にフランスを発祥に始まったカーフリーデーは欧州を中心に世界中へ広がりを見せており、車社会の代名詞であった北米大陸にも波及しています。ここカナダでもカーフリーデーにちなんだイベントが各都市で行なわれています。週末に開催される都市が多い中、モントリオール市はカナダで唯一、曜日にかかわらず9月22日に開催してきました。2003年から参加を開始し、2006年には4回目を数えました。
 今回は、モントリオール市のカーフリーデーの様子をお伝えします。【写真01】

3つの観点からカーフリーデーに挑む

 9月22日。中心街の目抜き通りともいえるSt-Catherineを中心とした南北2区画(約400m)×東西8区画(約1km)の区域には、カーフリーデー発祥国・フランスと同じスローガン“En ville, sans ma voiture!(街中ではマイカーなしで!)”の横断幕が掲げられました【写真02】。“マイカーなしの生活”と深く関わりのある「環境」「健康」「交通手段」をテーマとした3つの会場が設けられ【写真03】、それぞれの視点からカーフリーデーを推奨するユニークな展示が道路を埋め尽くしていました。

【写真02】道路に掲げられた横断幕。左側に写っているのは4人乗り自転車と展示されているバス。

【写真03】地図中の色付きの範囲が会場。緑:環境、ピンク:健康、青:交通手段、とテーマ別に色分けされている。


 当日もらえるパンフレットには地下鉄・バスの無料パスが当たる応募用紙が入っていましたが、ただ名前や住所を書くだけでは当選しません。各テーマの展示で出題されるクイズの回答も記入しなければいけないのです。クイズの問題は全3問。
 『ケベック州において、交通部門から排出されている温室効果ガスは州全体の何パーセントですか?』(環境の広場)
 『徒歩と自転車によって燃焼されるカロリーは1時間当たりどれくらいにまでなりますか?』(健康の広場)
 『一日のAMTコミュータートレインの利用者数は何人ですか?』(交通手段の広場)
──の3問です。
 「面白かった」で終始せず、何か一つでも学んでほしいという主催グループの思いが伝わってきます。
 会場を歩いていてよく見かけたのが、4人乗りの自転車。前部に座った2人組のスタッフが「運転手」として会場内を巡回し、乗車希望の「お客さん」がいれば希望の場所まで送り届けるシステムです【写真04】。ちなみにこの自転車の後ろには、先ほど紹介した応募用紙のクイズの答えがプリントされています【写真05】。

【写真04】スタッフは前部座席で運転、お客さんは後部座席へ。

【写真05】自転車の背面。「一日のAMTコミュータートレインの利用者数は何人ですか?」とのクイズに対して「AMTは毎日63,000人の乗客を運んでいます」とアピール。

環境の広場(QUARTIER ENVIRONNEMENT)

 「環境」の観点からカーフリーデーに参加したグループの展示会場が「環境の広場(Quartier Environnement)」です。電気で走るミニトレイン【写真06】に乗る子どもたちや、エコロジー教育のラリーに参加して展示者へ質問をする小学生の姿が多く見られました【写真07】。

【写真06】電気で走るミニトレイン。「燃料は電気だから空気汚染の心配なし!」と運転手が自慢げに説明してくれた。

【写真07】ラリーの途中でスタッフからアドバイスやチェックを受ける小学生。


 環境学習施設のBiosphère(バイオスフィア)も、普段は館内でしか見ることができないものをいくつか展示していました【写真08】。その中でも一際目を引いていたのが「CO2排出量の比較をする」展示をカーフリーデー用にアレンジした円盤【写真9&10】。内側の窓あき円盤を回すことによって、様々な交通手段の(内側から順に)「一度に運べる人間の数」、「その人数を運んだときの距離とCO2排出量の関係」が表示されるものです。
 「ここまではどうやって来たの?」と聞くスタッフに、「徒歩」と答えると、円盤の窓を靴の絵が描かれた「徒歩」に合わせて、「CO2排出量は0だね!」と見せてくれました。

【写真08】バイオスフィアからの展示参加。

【写真9】「私がいつも乗っている自動車のCO2排出量は?」つい気になって円盤を回してみる。

【写真10】一番内側は乗車人数。外に向かって走行距離とCO2排出量が表示されている。


 気候変動枠組条約で採択された京都議定書では、カナダの温室効果ガス排出の削減率は日本と同じ6%【1】。「環境の広場」には、この6%のCO2削減に向けてキャンペーン活動をしているグループの展示がありました。展示ブースでは、たくさんの「緑色の四角」が目に付きました。緑色の四角いシールに、多数の「緑色の四角」が描かれたポスター【写真11】。ポスターにある緑色の四角の下には、ホンダ・シビック、トヨタ・カローラ、フォード・フォーカスファミリアなど様々な車種の名前が記され、四角内には各車種の走行距離100km当たりのCO2排出量が書いてあります。一番下の段の中央は自転車と徒歩で、同段右端はメトロ(地下鉄)。どれもCO2の排出はゼロと表示されています。徒歩や自転車はむろん、電力で稼働しているメトロも、水力発電【2】が97%を占めるケベック州では走行距離100km当たりのCO2排出量は、ほぼゼロとみなされています。
 これらのマークはステッカーにもなっていて、募金をするともらえます。
 「これを自転車に貼ってね」とスタッフがくれたのは、4cm×7cmほどの大きさの自転車用ステッカー(英語版)【写真12】。他にも自動車用、フランス語版などがあり、募金をした人はニーズに合わせてステッカーを選んでいました。
 ポスターに掲載されている車種は日本車の割合が多かったので、ステッカーともども、日本でも使えそうですね。

【写真11】affichez-vous pour Kyoto!(Show your support for Kyoto!)京都議定書のCO2削減に向けたキャンペーン。

【写真12】英語版・自転車用のステッカー
(ステッカー購入は→こちらから)

健康の広場(QUARTIER SANTÉ)

【写真13】スモッグのある日とない日を比較したポスター。どちらが望ましいかは一目瞭然。

 「健康の広場(Quartier Santé)」では、「健康」という観点から「カーフリー」にアプローチしています。
 「なぜカーフリーデーと健康なのか?」「自動車に乗るより歩いた方が健康的だから?」など考えている中、まっさきに目に飛び込んできたのが「環境の広場」との境界に置かれた、“スモッグのないモントリオール”を呼びかけるポスターです【写真13】。
 同じ天気でもスモッグがある時とない時では風景がこんなにも違うということを写真の比較で訴えています。スモッグによる大気汚染は風景だけではなく動植物や私たち人間にも健康被害をもたらすもの。排気ガスがその原因の一つです。
 一方で、自動車の排気ガスによる大気汚染だけが問題になるわけではないことを報告する機関もカーフリーデーに参加しています。交通機関が与える公衆衛生への影響についてのレポートを展示・配布するコーナーはスタッフへ質問をする人が順番待ちをするほどの盛況ぶりでした【写真14】。レポートでは、ケベック州の自動車数の増加【3】や、近年ではケベック州のおよそ60%の子どもが自動車で通学をしていることなどのデータを紹介しながら、自動車交通がいかに空気を汚染し人々へ健康被害をもたらしているかを解説しています。また、徒歩や自転車の活用が健康に及ぼす好影響や、移動に対する習慣づけは幼少時からの生活習慣が重要であることを改めて述べています。

【写真14】交通機関が与える公衆衛生への影響について

 一方で、徒歩や自転車を推進していくに当たっての問題点として、自動車対歩行者・自転車の事故による怪我人や死亡事故が増加していることにも触れています。
 これらの諸問題を解決するためには、「交通機関が社会を営む上で重要な役割を果たすことは否めないが、自動車が環境と健康へ被害をもたらす主要な原因であることも受け入れなければならない」とし、「だからこそ交通機関・輸送手段について熟考する必要がある」と述べ、公共の乗物と徒歩や自転車を推奨して自動車数そのものを減らすことと、それによって路上での健康への影響や事故を減らすことの2方向から防止策を提案しています。



 ポスターに迎えられ、レポート展示で現状を再認識したところで、「レポートにも書いてあったように、やはり完全に自動車をなくすことは現実問題として難しいのでは?」との思いが脳裏をよぎります。そこに登場するのが「環境に優しい乗り物」です。ハイブリッド自動車や、様々な形・大きさの電動自動車が展示されています【写真15&16】。

。

【写真15】小型の電動自動車とバイク。車高が低く視界に入りにくいため、赤い旗を高く掲げている。モントリオールでは電動車椅子に赤い旗を掲げて外出している姿をよく見かける。

【写真16】トヨタ製の電動自動車。


 訪問者の自動車に対する興味は強いようで、ボンネットを開けて説明するスタッフと、食い入るように内部を覗き込む訪問者の姿が随所で見られました。
 さらに、電気自動車については、展示だけではなく実際に会場内を走行していました。しかも「電動パトカー」として【写真17】。警察官の運転でゆっくりと巡回する、小型で見た目もかわいらしい、そしてとても珍しい「電動パトカー」は、一度停車するとあっという間に人だかりができる人気者です。これらの「環境に優しい乗り物」が、今後さらに普及することを期待しています。

【写真17】電動パトカーで巡回する警察官。

活動的・集合的な交通手段の広場(QUARTIER TRANSPORTS ACTIFS ET COLLECTIFS)

 最後の会場は、カーフリーデーを単なるイベントに留めず、今日からすぐにでも始めて継続できる『カーフリー生活』へのヒントを紹介している「活動的な交通手段・集合的な交通手段の広場(Quartier Transports Actifs et Collectifs)」です。
 「活動的な交通手段(Transports Actifs)」とは、例えば「自転車」のこと。会場にも、必要に応じて電動にもなる「アシスト型」の電動自転車を紹介するグループや、“理想的な自転車”を示すポスターを掲げながらポスターの前に「修理コーナー」を設けて、来客者たちの自転車を修理・調整するグループなどが参加していました【写真18&19】。

【写真18】理想的な自転車を示しているポスター。

【写真19】ポスターの前には、自転車の修理コーナー。


 その中でも面白かったのが、自転車を漕いだときに発生する力を利用してジュースを作るというもの【写真20】。自転車の荷台にジューサー・ミキサーが取り付けられていて、自転車を漕ぐとジューサーが作動する仕組みです。
 「本当にできるの?やってみたい!」という男性が現れ、さっそく挑戦。
 スタッフがジュース・ミルク・果物などを投入し、フタを押さえます。
 「もっとこいで! もっと!もっと!」と周りからも応援の声が飛び、必死になる男性。そのかいあって、おいしいジュースが完成、男性もご満悦の表情でした【写真21】。

【写真20】チェーンをうまく利用して荷台のジューサーを作動させる。

【写真21】挑戦者が自転車をこぎ始めると周りには興味津々の人だかりが。


 一方、「集合的な交通手段(Transports Collectifs)」の典型例が、バスやメトロといった公共の乗物など。会場にはモントリオール市内を走るバスのほか、隣接する市のバスも路上展示・開放されていました。
 また、公共の乗物以外でも、モントリオール市では「カーシェアリング」が普及しています。特に、今回のカーフリーデーにも参加しているCommunauto【写真22】が運営するカーシェアリングは規模が大きく、市内を歩いていると車体にロゴとマークがペイントされた自動車を何台も見かけます。

【写真22】カーシェアリングを運営しているcommunautoのコーナー。

まとめ

 「環境」・「健康」・「交通手段」の広場。それぞれの視点からカーフリーを考え、楽しんでもらおうという工夫がなされていました。ただ、楽しむだけではなく、カーフリーの成果がはっきりと目に見える形で提示していました。スモッグのない風景や事故の減少など環境面の成果、効率的で最新鋭の公共機関などの技術がもたらすもの、果ては人力ジューサー・ミキサーまで登場。とにかく参加者に「車のない生活」を理解してもらい、生活の一部に取り入れてもらおうという意気込みを感じさせるものでした。
 一方で車を持っている住民からは、「モントリオールのカーフリーデーは平日にやるから、周りの道路が混んでしまうだけで迷惑だ」という苦情や嘆きが聞かれたことも事実です。
 2007年、「9月22日」はちょうど土曜日に当たり、モントリオールのカーフリーデーも週末の開催になります。加えて、フランスでの発祥(1997年)から10周年を迎える節目の年です。
 異なる意見や価値観が衝突を繰り返しながら、カーフリデーは車社会のカナダにおいても確実に根付きつつあります。今回の展示は、楽しみながらも成果を目に見えるような形で提示していくような小さな工夫がなされていることが秘訣のようでした。
 今年(2007年)は、週末開催と10周年が重なり、ますます盛り上がることでしょう。

【1】地球温暖化防止に対するカナダおよび同国ケベック州の対応
2006年11月にナイロビで開催された気候変動枠組条約第12回締約国会議では、カナダの後ろ向きの姿勢が、フランスやEUなどからかなり厳しい批判の対象となりました。一方で、モントリオール市が州最大の都市であるケベック州は、連邦政府の対策を批判しつつ、比較的先進的な環境対策を推し進めています。
【2】水力発電とCO2排出
発電に伴う1単位当たりのCO2排出換算量は、水力発電を1として比較すると、石炭が94、重油は84、天然ガスは42になる。
なお、カナダ全体における発電は、64%が水カで、20%が火力、16%が原子力となっている。
ケベック州の水力発電について
【3】ケベック州の自動車数の増加
モントリオール周辺地域では1998〜2003年間の人口増加が3%であったのに対して、自動車数の増加は10%にも及んだ。
アンケート

この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。

【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

記事・写真:来野とま子

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。