No.063
Issued: 2004.11.18
インドネシア 光るきのこの森のエコツーリズム―JICA生物多様性保全プロジェクトの活動より―国際協力活動紹介
東南アジアの熱帯林保護のため、日本の自然保護国際協力としては先駆的な「生物多様性保全プロジェクト」【1】が1995年から2003年までインドネシアで実施されました。
事業のモデル公園となったジャワ島グヌンハリムン国立公園(公園名は「霧の山」を意味する)では、希少野生生物調査や住民への環境教育活動とともに、地域経済に貢献する自然保護活動の一環としてエコツーリズム活動支援が行われました。無数の仄かなきのこの光に浮かぶジャワ島最大の天然林地域で取り組まれた、同プロジェクトのエコツーリズムについてご紹介します。
大都市ジャカルタに近いグヌンハリムン国立公園
人口約2億人のインドネシアで、その6割強は国土面積の約7%しかないジャワ島に住んでいます。その西部、人口1,000万人を超える首都ジャカルタに近い地域に残された広大な熱帯林がグヌンハリムン国立公園です。ここは、絶滅危惧種のヒョウやテナガザルなどが生息しています。
この森周辺住民の理解を得つつ、自然を残しながらその経済的活用を図る手段として、また急速に失われつつあるインドネシアの熱帯林の重要性をジャカルタ市民等が理解する環境教育活動の一環として、エコツーリズム活動が取り組まれました。
プロジェクトではこの基盤作りのため、アクションプランやガイドブック作成、ガイド養成研修【2】などを行ってきましたが、プロジェクト期間の最後の2年間、その検証及び総合化作業として、魅力的なツアープログラム作りのため、公式、非公式を含めて8回のエコツアーを実験的に実施しました。
エコツアーの実験
エコツアーは、インドネシア人のほか、ジャカルタに1万人近く住む在留邦人を対象としました。国立公園にたどり着くには5時間近く悪路等を車で走らなければなりません。エコツアー実験への参加者を集めるため、当初、国際協力活動に理解のあるインドネシア駐在のJICA専門家のグループや、日本人学校教師、日本人文化サークル(B&B混声合唱団)などの友人たちに協力を呼びかけました。
ツアーの一行は、ジャカルタをバスで早朝出発。市街地を過ぎ、ヤシ、バナナ、キャッサバなどに囲まれた集落を抜け、マメ科の木やゴムの植林地が広がる丘陵地に入り、国立公園事務所で入園手続きをします。
途中でインドネシア国内最大級の地熱発電所を訪ねるメニューも試しましたが、参加者には、慌ただしくいろいろな所を訪ねるより、時間にとらわれることなくゆったりとした、インドネシアらしいプログラムが好まれました。
棚田に張り付く集落を通る石畳道をさらに山に向かうと国立公園の森に入ります。その中心地チカニキ地区には、国立公園の調査兼宿泊施設(リサーチステーション)や、樹上の生態系調査のためのキャノピー・トレイルがあります。国立公園レンジャーや地元ガイドの案内で森をハイキングすると山上に広がる約1,000haほどの紅茶園に出ます。周囲には棚田や畑を配した集落がいくつか点在しています。そのうちのひとつチタラハブ村のゲストハウス【3】で夕食をとり、いよいよ「光るきのこの森」を訪ねます。
光るきのこの森
標高約1,000m、夜間は17℃程度まで冷え、林内で優占する木には、マンサク科のラサマラや、シイやカシの仲間、ツバキ科の木があります。林床、樹幹、樹冠それぞれにたくさんの蘭の仲間や着生シダが見られ、またササの仲間も繁茂しています。
この森の中の約50m×40mの範囲を中心に、光るきのこは、枯葉や枯枝につく小さな子実体として観察できます。この森が、年間を通じて多湿な気候条件にあることから、雨期乾季を問わず、いずれの時期に当地を訪れても、夜間に多数のきのこの発光を見ることができるのです。大きいものは傘の径3mm、柄を含めた高さは12mm程度、柄に光りは見えず、傘は表裏とも淡緑白色に光るように見え、クヌギタケ属ヤコウタケの仲間と思われました。1mm程度の白い仁丹のような姿で光っている菌もありました。
光るきのこの森へ、ツアー参加者はランプを片手に列を作って歩いていきます。近くまでくると、列の先頭のガイドと最後部につくガイド以外のランプは消し、途中の参加者は、前の人の肩に手をかけて、ゆっくり歩く体勢をとります。きのこの光りは、月明りがあるだけでも見えにくくなる程度のものです。ガイドの持つランプの明かりも落とし、暗闇に目が慣れてくると、森の奥まで、無数の光りがちらばっているのが見えてきます。
実験ツアーを重ねるにしたがって、国立公園職員や地元住民は自信をもってガイドをするようになりました。参加者からも「光るきのこに感動した。目をつぶり森の声に耳を傾けていたら涙がこぼれた。生きる力をもらった。ガイドも一生懸命。この豊かな自然を、悪化した環境や喧騒の中に暮らす多くの人に体験してもらい、今の生活をみなおす機会になれば。」といった感想が聞かれました。
エコツーリズムをとりまく地域社会の状況
チタラハブ地区を含めた山上の紅茶園周辺の集落の子どもたちは、紅茶工場のある中心集落ニルマラにある小学校に通います。1982年に設立されたその小学校では、校長先生1人は政府から給料をもらいますが、他の先生たち(2人程度)は紅茶工場が給料を支払います。2003年夏現在、ニルマラ小学校には、1年生65人、2年生62人、3年生57人、4年生38人、5年生34人、6年生21人が通っていました。家の農作業等の手伝いのため高学年ほど数が減っています。
ゲストハウスのあるチタラハブは約10軒、40人の小さな集落で、生業は棚田水田での農業です。一部の人は紅茶畑での仕事もしています。紅茶畑では大人が一日作業して100kgの茶葉を摘みます。1kgあたり300Rp(約4円)になりますので、1日の稼ぎは、約30,000Rp(約400円)ほどです。
チカニキ、チタラハブで、地域住民がガイドとして出役する場合、1日35,000Rp(約500円)となり、ポーターで出役すると25,000Rp(約350円)になります。国立公園職員がガイドとして出役する場合は50,000Rp(約700円)でした。
1996年〜1998年、当地域では政府、民間企業、大学、国際NPO、地域住民等が参加し、コミュニティーベースのエコツーリズム開発が取り組まれました。その結果、チタラハブに整備されたのが、ツアーでも夕食をとるために寄ったゲストハウスです。観光客の消費が地域に還元されることをねらって建設されましたが、その利用は顕著な増加がみられません(99年168人、2000年320人、2001年484人、2002年425人、2003年423人)。修繕費用の蓄えもできず、また地域への還元(収益の10%)も伸び悩んでいました。
一方で、隣接するチカニキ地区に整備されたリサーチステーションに観光客が集まる傾向も見られます。リサーチステーションは研究活動拠点として整備されたものですが、一般利用者も宿泊できます。施設は国立公園の職員互助会が管理し、その収入が互助会員の福利厚生にあてられる場合もあり(国立公園職員の平均給料は1万円を超える程度でそれほど高くはない)、地元住民は国立公園管理事務所が一般観光客のリサーチステーション利用により力を入れて宣伝していると憶測、不満を抱いていました。
地元の話では、大学生等はゲストハウスより低料金のホームステイを好む傾向があるといわれ、チタラハブの住民側も現実的な対応としてこれらの受け入れに向かう傾向があります。2003年春の段階で、集落10軒のうち3軒がホームステイ用に利用され、さらに1軒が準備中でした。
今後のエコツーリズム活動の展開
私が赴任した2001年夏、インドネシア林業省のカウンターパートからは、協力事業の中で、報告書作りだけでなく、実際に国立公園利用者の増加につながる取り組みができないかといわれました。その秋、「グヌンハリムン公園周辺住民との共生による生物多様性保全ワークショップ」がボゴール市内で開催され、その会場で、バンドゥン工科大学のシャルミディ博士から、ご自身の経験を踏まえて、「持続的なエコツーリズム活動実現のため、利用者が継続して国立公園を訪れる状況を作ること、そのためのプロモーションが重要である」との指摘がありました。多くのツアー客の興味を惹くプログラムを用意し、ツアー客の需要を生み出すことができれば、エコツーリズム活動について今後様々な検討【4】を行う素地は用意できることになります。
私の趣味であるきのこ観察・採集を通じ、日イの友人たちの協力で、国立公園内チカニキ地区に大規模な光るきのこの発生地を確認できたこともあり、「光るきのこの森」は、アクセスの悪い国立公園への誘客と、熱帯林の魅力を伝えるためのキャッチコピー【5】ともなりました。
インドネシア政府側でも、様々なプロモーション活動を展開し、JICAのプロジェクト調査団の国立公園訪問にあわせて、ジャカルタの現地マスコミ関係者を多数招聘したり、ジャカルタ市内等でのイベントでパネル展示をしたり、周辺都市の大学や関係機関にでかけるなど、当国立公園のPRを精力的に進めました。
2003年9月には、地元インドネシア紙に光るきのこの森を訪ねるプログラムを含めたこの国立公園のツアー記事が掲載され【6】、さらに多くの利用者がこの森を訪ねるようになったと現地の国立公園管理事務所から報告がありました。
2003年6月に生物多様性保全プロジェクトが終了する間際、西ジャワ山岳一帯の自然保護のため、グヌンハリムン国立公園は、東に隣接するサラク火山等を含めて約3倍に拡張されることがインドネシア林業大臣により決定されました。2004年2月からは、拡張後の同公園において日イの国際協力事業グヌンハリムンサラク国立公園管理プロジェクトが開始されました。エコツーリズム活動は、地域住民の教育支援と一体に取り組まれ、国立公園施設であるチカニキ・リサーチステーションと、チタラハブの民営ゲストハウスとのエコツーリズム活動上の役割分担に関する議論も進められる予定となっています。
グヌンハリムン国立公園ツアーアレンジに関するメモ
(注:本内容は、2003年春の情報であり、実際の公園訪問にあたっては、国立公園等へ電話し最新の情報を確認する必要があります。)
★宿泊施設の予約やツアーアレンジに関する問い合わせ先
- グヌンハリムンサラク国立公園管理事務所
Head quarter office of Gunung Halimun Salak National Park
Kabandungan, Sukabumi, Jawa Barat Tel/fax +62-266-621256
公園の森の中にあるチカニキ・リサーチステーション(一般客宿泊可)の宿泊予約(一室10万Rp、4人まで)、公園スタッフのガイド出役など対応。公園入園料は外国人1万5千Rp、保険料5千Rp。 - ハリムンエコツーリズム協会(YEH: Yayasan Ekowisata Halimun)
電話 +62-251-381677 (ボゴール市内) E-mail: bcn-ni16@indo.net.id
Website http://www.bogor.indo.net.id/halimun/
ボゴールに事務所をおくNGO。公園の森の中に開けるチタラハブ集落のゲストハウス(一部屋7万Rp、2ベッド)の予約ほか、公園北部ルイジャマン集落や公園南部パングヤンガンにあるゲストハウス予約も対応。公園南部居住カセプハン族によるチプタグラ収穫祭訪問等のツアーアレンジも可。
★グヌンハリムン地域に慣れたレンタカー依頼先
公園は、キジャンタイプの自家用車で十分入山可能。ただし、道に不案内な場合、Bogor市にあるCrawford Lodge のレンタカーのドライバーは当該山域の道路事情に慣れているので頼むと便利。
- 経費:一泊一日あたり50万Rp(ガソリン代、高速道路代含まず)、日帰りの場合は35万Rp、遅くなる場合は残業代を見る必要あり。その他は要交渉。
Crawford Lodge Jalan Pangrango 2, Bogor, Indonesia
Telephone: +62-251-322429 Fax: +62-251-316978
★1泊2日チカニキ・チタラハブ地区訪問案(実績ベース)
初日
- 0600
- ジャカルタ出発
- 0700
- ボゴール、レンタカー借用所集合(クロフォードロッジ)、車はクロフォードに駐車可。
- 0800
- リドレイクホテル(当地で待ち合わせを希望するものがある場合に立寄。)
Lido Lake Hotel 電話 +62-251-220922 URL: http://www.indo.com/hotels/lidolakes/ - 0920
- 食堂「Simpang Tiga」で昼食弁当の買出し(平均1人1万〜1万5千Rp)。
- 1040
- カバンドゥンガン村(公園より手前)にある公園管理事務所立寄(ジオラマ展示など見学)。カバンドゥンガン集落を過ぎたあたりから、道路は石畳や砂土の道となる(昼食の場まで1時間半程度)。
- 1210
- 公園区域に入るゲート周辺で昼食。
- 1430
- チカニキ・リサーチステーション到着(公園の森にある研究基地)、キャノピートレイル見学(見学1人1万Rp(子ども5千Rp)、公園スタッフガイド出役5万Rp)
- 1530
- 熱帯林ハイキング(約1.8km)、チタラハブ集落まで。公園スタッフによるガイドはキャノピートレイル見学とセット。
- 1700
- チタラハブ集落到着(公園の森の中にある公園区域外の地域、約1,000ha、山上の紅茶畑あり)
- 1730
- 夕食(チタラハブ・ゲストハウス 1人1万5千Rp)
- 1850
- 車を待機させ、チカニキ・リサーチステーションへ戻り、光るきのこ見学(公園スタッフのガイド依頼可)
- 1930
- 日帰り組(希望がある場合):チカニキからジャカルタへ帰途につく(ジャカルタ到着11時半頃)。
- 2000
- 宿泊組は、チタラハブ集落に戻りゲストハウスに宿泊
*公園の研究施設であるチカニキ・リサーチステーションとチタラハブ・ゲストハウスは2km、車で約10分程度の距離にある。
第二日
- 0700
- 朝食
- 0800
- チタラハブ周辺集落の散策(ガイドはチタラハブ・ゲストハウスのスタッフに依頼可(3万5千Rp)。)
- 1000
- ニルマラ紅茶園訪問(公園の森の中に開ける山上の紅茶園、工場見学1万Rp(紅茶1パックつき))
- 1110
- ニルマラ出発
- 1400
- 食堂「Simpang Tiga」で昼食
- 1630
- ボゴール到着
- 1730
- ジャカルタ到着
★その他
- 持ち物:折りたたみ傘、小さな懐中電灯、履き慣れた運動靴、汚れてもいいズボン、簡単な雨具(合羽)の用意が必要なこと。
- チタラハブゲストハウス
地元の伝統的家屋。一部屋2ベッド。トイレはインドネシアスタイルで共用。夜は冷えるが毛布がある。温水、シャワー、紙、石鹸、タオル、電話のいずれもない。森での蚊はほとんど気にならないこと。 - トイレ:道中それほどトイレがない。ボゴール、リド、食堂「Simpang Tiga」、公園事務所で済ませること。
- 初日ハイキングの際の、車の動き方、荷物の取扱等について
チカニキ・リサーチステーションからハイキングへ出発時の持ち物は、折りたたみ傘、雨具や貴重品のみとし、他は車に載せ、森の道とは別ルートの車道を使って荷物を夕食会場兼宿泊所のチタラハブ・ゲストハウスへ持ち込む。運転手はリサーチステーションからチタラハブまで車を走らせ(10分程)、車道から坂をおりたゲストハウスまで荷物を運ぶ。ポーターをゲストハウスに頼む。 - 研究用施設として作られたキャノピートレイルは、構造上高所で不安を感じる人もある。自己責任で登ること。
ボゴールからグヌンハリムンまでの経路
ボゴール−パルンクダ分岐 約25km
パルンクダ−カバンドゥンガン 約30km
カバンドゥンガン−チカニキ 約15km
- 【1】生物多様性保全プロジェクト(Biodiversity Conservation Project Indonesia)
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生物多様性保全プロジェクトは、1992年に日米両国が発表した「日米グローバル・パートナーシップ・アクションプラン」の中で、日米環境共同協力事業として、インドネシアにおける自然資源の管理と保全のための事業がうたわれていることに端を発する日イの国際協力事業で、1995年に日本政府の無償資金協力援助によってインドネシア科学院の研究施設や、グヌンハリムン国立公園管理事務所などが整備されるのと同時に、プロジェクト技術協力方式の第Iフェーズが立ち上げられ、1998年から第IIフェーズとして引継がれました。
インドネシアは、世界でも最も高い生物多様性を有する地域のひとつで、また、近年の産業発展による急激な自然環境破壊と生物種減少が懸念されている地域です。インドネシア政府はこれらの自然環境を保護するために、1991年にインドネシア生物多様性行動計画を策定。1992年5月には生物多様性条約が締結され、1995年からインドネシアを舞台に、野生生物保護と生物保護区管理を含む生物多様性に関する国際協力業務として、日本では先駆的なケースとなる当プロジェクトが開始されました。
本プロジェクトでは、2つの面から生物多様性保全の取り組みを進めてきました。ひとつは、生物多様性に関する調査研究を支援し、その成果等である生物種等のデータを整理し、生物多様性保全に関する活動基盤を充実させようというもので、インドネシア科学院(LIPI)をカウンターパートとしています。もうひとつは、具体的な実証フィールドとしてグヌンハリムン国立公園を選定し、そこで、国立公園管理体制を充実させ、保護地域での生物多様性保全を図り、保護区管理のモデルを作ろうとするものでした。当時カウンターパートとして選ばれたグヌンハリムン国立公園は、指定されたばかりの公園で、1995年プロジェクト開始当時、独立の事務所はなく、組織立ち上げの段階でした。並行して、インドネシア林業省の生物多様性保全に関する活動を支援するため、自然保護地域に関するデータの整理、収集、提供を行う情報センターを整備する取り組みも開始されました。
広範な分野を含む本プロジェクトも、プロジェクト終了にあたり様々な成果が実を結ぶ状況となりました。調査研究分野では、50件以上の生物多様性に関する研究活動が進められました。グヌンハリムン国立公園をフィールドとした研究では、多項目にわたる研究活動が集中的に実施されたため、いくつもの生物分類群の科学的データが集約的に蓄積されました。
国立公園管理分野では、グヌンハリムン国立公園管理事務所の設置とその組織充実、公園管理運営の基本となる国立公園管理計画書の作成(2001年春自然保護総局長署名)が進められました。同管理計画書に沿い、ジャワ・ギボン、ジャワ・クマタカ、ヒョウといった希少野生生物のモニタリングや、地域自然環境の調査研究等公園管理のベースとなるデータの整理、公園周辺52ヶ村の地域住民や150以上の小学校を対象とした自然環境の重要性を伝える環境教育を進めるなど多方面の活動が取り組まれました。エコツーリズム分野では、活動推進のベースとなるアクションプランの策定のほか、ツアーマップやガイドブック等の教材の作成、自然解説ガイド養成トレーニングなどを実施するとともに、これら教材の有効性やガイド技術の検証、現地でのエコツーリズム活動の継続的な実現のための総合化として、当地のエコツアーのスタンダードプログラムを検討するための実験が行われました。小沢晴司
- 【2】ガイド養成研修
生物多様性保全プロジェクトにおけるガイド養成研修は、終了時までに3回実施されました。いずれの回も、短期専門家としてホールアース自然学校新谷雅徳氏を招き、その全身全霊からなる協力を得ました。
プロジェクトでは、新谷氏がインドネシアに滞在できる期間が極めて短時間で限られていることから、予め、グヌンハリムン国立公園等のカウンターパート、地元のNPOとの間で、プログラムのメニューを検討し、実際の研修に向けての準備ミーティングの設定、地元関係者の日程調整等を行い、トレーニングでの新谷氏の指導が効果的に発揮されるよう事前準備をしました。
また、国立公園職員のガイドとしての能力向上にあたり、プロジェクトの他の分野の専門家によって、別途、国立公園職員等を対象にして実施された研修も重要な役割を果たしました。
ヒョウ、クマタカ、ジャワ・ギボンというグヌンハリムンに生息する希少生物3種を対象とする生息調査や生態に関する研修は、イリオモテヤマネコ研究でも活躍している阪口法明博士が担当で、実施されました
地元住民自らが自然環境とその保護の重要性を理解する環境教育については、インドネシア語やスンダ語などの地元の言語に精通し、鳥類の研究等にも深い造詣のある小林浩専門家が担当しました。手法として、NPOのサポートも得つつ、国立公園職員が、直接、地元の小中学校や青年グループ等を対象として環境教育活動プログラムを実施することに特徴があります。
以下に、第2回で、新谷氏を招いて実施したガイドプログラムの概要を紹介します。
小沢晴司
- 【3】チタラハブ・ゲストハウス
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1996年から1998年にかけて、グヌンハリムン国立公園では、コミュニティベースによるエコツーリズム活動の開発が取組まれました。これは、インドネシア林業省のほか、国際野生動物保護基金、Biological Sciences Club(BScC)、生物多様性保全研究センター、インドネシア大学、マクドナルドレストランが共同しコンソーシアムという形態で幅広い議論と活動提案、実際の取り組みを行ったもので、その結果、グヌンハリムン国立公園地域の周辺3カ所の利用拠点の集落にゲストハウスが建設されました。チタラハブ・ゲストハウスもそのひとつです。
現在、コンソーシアムによるエコツーリズム活動を継承するため、ハリムン・エコツーリズム協会(Yayasan Ekowisata Halimun、YEH)が結成され、これらゲストハウスのプロモーション、当地域でのエコツーリズム活動の普及にあたっています。
ゲストハウスの収益の10%は、YEHのプロモーション用に当てられ、また、10%はグヌンハリムン国立公園管理事務所での保全活動にまわることになっています。10%は、チタラハブ等山上に点在する集
落地域へ還元され、収入のその他の部分はゲストハウスの維持や管理費等にあてられることとなっています。
小沢晴司
- 【4】グヌンハリムン国立公園でエコツーリズムを推進する意義についての議論
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当地でエコツーリズム活動推進に取り組む目的として、インドネシア林業省のカウンターパートやNPOとの話し合いの際に指摘した点は次のようなものでした。本要旨は、グヌンハリムン国立公園の月刊報「Halimun」にインドネシア語で掲載され、公園職員や地元関係者にも周知されました。
- インドネシアでもっとも人口が集中するジャカルタ近郊に位置するグヌンハリムン国立公園でエコツーリズム活動を展開し、ビジターや研修生、学生等へ伝えるべき最大のメッセージは、インドネシアの宝というべき、豊かな熱帯降雨林の魅力であり、そして、これが失われることの恐ろしさであること。
- 当地を訪れる多数のビジターへ、このメッセージを伝えることにより、インドネシアの森林問題で最も深刻な、スマトラ、カリマンタン等での森林破壊や焼失の問題も、臨場感ある危機として、ビジターにインスピレーションを与える可能性があること。
- このため、ガイドは、熱帯降雨林の魅力について、具体的、科学的な知識をバックボーンとして、ビジターに興味深く伝えること−ジャワ・ギボンやヒョウ、クマタカ等の野生動物の生態、森の植物や他の生き物との関係等熱帯林の持つ不思議な魅力をビジターに印象づけ、インドネシアの自然環境保全上の課題についてPRすることが重要であること。
- 当該地域で取り組まれるエコツーリズムによる各機関の収益が、地域の自然環境の保護活動に寄与するシステムを明確にして、ツアー客にPRすることが重要であること。
小沢晴司
- 【5】現地での評価
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数回、実験ツアーを実施した後、ジャカルタ市内にあるツアーエージェント数社に本活動の評価を得るためのヒアリングを実施しました。
「ジャカルタ近郊の興味地点発掘に各社は苦労中。そのようなときJICAが自然環境保全分野でここまでやっているのを知って驚いた。光るきのこのネーミングも強烈な印象。周辺の興味サイト開発と関連させ是非協力させたい」
などと各社一様に、ジャカルタ近郊に豊かな野生の森があることについて強い関心をもち、本国立公園のエコツーリズム対象地としての魅力やポテンシャルは相当高いと評価されました。ジャカルタには1万人近くの駐在員等を中心とする日本人社会があります。日系社会の様々な知人を介し、世界でも最大級の規模のジャカルタ日本人学校の教師や父兄の間にもグヌンハリムン国立公園の名前は少しずつ浸透し、さらに現地邦人紙等も通じて、当国立公園でのエコツーリズム活動は相当周知が進みました。
小沢晴司
- 【6】地元紙に掲載されたエコツアー記事の仮約
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『グヌンハリムン国立公園放浪』(2003年9月7日 コンパス紙掲載記事より)
「西ジャワは、美しく冷涼な山岳自然で有名です。おそらくあなたも、この州の憩いの地を時々訪れたことがあるでしょう。しかし、あなたが本当に美しい自然、特に澄んだ大気と静穏を伴ったより深い自然を好むのなら、あなたは、グヌンハリムン国立公園をその一つとして選ぶべきでしょう。国立公園の自然はより原始的で、そこは、人跡稀な山岳や深い森の緑に閉ざされています。」「グヌンハリムン国立公園の魅力は、日中以外にも、その素晴らしい世界を見ることができることにあります。夜間、私たちのグループは、他のいくつかのグループとともに、交替してムム氏に案内され光るきのこを見にでかけました。どうやら、夜間にさながら灯火のように青光りするきのこの一種があるようです。それはまさに美しく、この世のものではありません。(仮訳)」
小沢晴司
参考図書
- 小沢晴司「光るきのこの森でのエコツーリズム実験−インドネシア生物多様性保全プロジェクト・グヌンハリムン国立公園での取組みから−」『国立公園』626号, 2004年9月
- Lisa Hiwasaki「Report on Research Trip to Indonesia」2003年
- 小沢晴司「Ecotourism in Gunung Halimun National Park」『Research and Conservation of Biodiversity in Indonesia 』Volume XII, 2003年
- 小沢晴司「光るきのこツアー紹介その1」『千葉菌類談話会通信』19号, 2002年12月
- 小沢晴司「Menuju pengelolaan ekowisata TNGH yang lestari(持続的なグヌンハリムン国立公園でのエコツーリズム運営のために)」『HALIMUN』2002年10月号
- 小沢晴司「ジャカルタ近郊にある西ジャワ最大の熱帯林地域とエコツーリズム」『Berita Jakarta』2002年8月号
- RMI「Menuju Pengelolaan Sumberdaya Hutan Yang Berpihak pada Rakyat」2002年
- 上原裕雄「JICA生物多様性保全プロジェクトフェーズII−JICAプロジェクト方式技術協力事業−」『国立公園』599号, 2001年12月
- 中島慶次「JICA生物多様性保全プロジェクトフェーズII−国立公園計画・管理分野専門家の活動について−」『国立公園』595号, 2001年7月
- 青山銀三「インドネシアにおけるJICA個別派遣専門家活動について−」『国立公園』595号, 2001年7月
- 堀内洋「JICAインドネシア生物多様性保全プロジェクトについて」『国立公園』580号, 2000年1月
- 高橋進「JICAインドネシア生物多様性保全プロジェクトについて」『国立公園』567号, 1998年10月
- Reinaldy Joy「Development of Ecotourism in Gunung Halimun National Park, West Java, Indonesia」1996年
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
(主な協力団体)
インドネシア林業省、同観光文化省、同科学院、ジャカルタ特別州観光局、グヌンハリムン国立公園管理事務所、チタラハブ集落、ハリムンエコツーリズム協会、生物多様性保全プロジェクト、JICAインドネシア事務所、駐インドネシア日本大使館、青年海外協力隊、じゃかるた新聞社、ジャカルタ日本人学校、ジャカルタジャパンクラブ、B&B混声合唱団、ホールアース自然学校、千葉菌類談話会、財団法人自然環境研究センター、日本環境教育フォーラム、環境省他
(記事・写真:小沢晴司)
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