No.053
Issued: 2004.01.08
イタリア 自転車の街 フェッラーラ
イタリア北部の地方都市フェッラーラは、自転車の利用が盛んで、EUでは「自転車の街」として知られています。人口約13万人の都市で、使われている自転車は10万台。環境にやさしい乗り物として注目されている自転車ですが、どうしてそんなに使われているのか、実際に自転車に乗って、フェッラーラの街を回ってみました。
みんなが自転車に乗っている!? まさに自転車の街
フェッラーラ市はベネチアから80km、イタリア北部にある地方都市です。13世紀から16世紀にかけて、欧州で権勢を誇ったエステ家の城下町として栄え、ルネッサンスの面影を残す美しい町並みは、ユネスコの世界遺産にも登録されています。
最近、フェッラーラを有名にしているのが「自転車」です。自転車利用率は30.9%(2000年)に上り、これはイタリアで1番なのはもちろん、EU内でも非常に高いレベルです【1】。自転車利用の先進事例を集めたEUの報告書「サイクリング:都市のための未来への道」でも優良事例として取り上げられています。
フェッラーラに到着後、早速ホテルに荷物を置くと、自転車を借りて出かけました。フェッラーラでは、多くのホテルに自転車が置いてあり、宿泊客は自由に使うことができます(ただし、足の短い私にはぴったりの自転車がなく、レンタサイクルで「ママチャリ」を借りました。とほほ...)。
フェッラーラの街は、長さ9kmの城壁にぐるりと囲まれており、中心部にエステ家のお城だったエステンセ城や大聖堂があります。街の真ん中にやってくると、行きかう自転車の量にびっくり! ちょうど朝市が開かれていて、大勢の市民で賑わっていましたが、買物のおばさんも、立ち話に夢中のお年寄りも、友人と連れ立った若い人達も、とにかく自転車に乗っている人が多いのです。「フェッラーラの人は、歩くより前に自転車に乗ることを覚える」なんていう冗談もあるそうですが【2】、市民にとって自転車は「つっかけ代わり」といった感じです。
ちなみに、フェッラーラでは、市長や市議会議員用の公用車にも「自転車」が使われています【3】。まさに、みんなが自転車に乗っている街なのです。
なぜ、自転車に乗っている人が多いの?
街の人に、なぜ自転車に乗っている人がこんなに多いのか聞いてみました。「土地が平坦で、坂がほとんどないから」、「街が小さいので、自転車で回るぐらいがちょうどいい」といった答えもありましたが、興味深かったのは、「街の中心部への車の乗り入れが制限されているんです。それに、街の中は車の駐車場料金が非常に高いのです。車は離れたところに止めて、そこから自転車で通勤しています」という答えです。
実は、フェッラーラ市は、1970年代から、石畳など歴史的な街並みを保全するため、街の中心部(約50ha)への自動車の乗り入れを制限してきました【4】。この交通規制ゾーン(ZONE A TRAFFICO LIMITATO。通称Z.T.L.)では、移動手段として車の代わりに、自転車が活躍するようになったというわけです。2003年には、Z.T.L.は、50haから、200haに拡大されています。なお、拡大された新Z.T.L.では、一部の自動車(緊急車両、公共交通機関、住民の車など)を除いて、自動車には通行料が課せられています【5】。自転車は通行料を払わなくてよいので、とてもお得です。
また、城壁の内側、つまり街中の公共駐車場料金は確かに高いのですが(1時間当たり最高1.8ユーロ。約230円)、城壁の外側にある公共駐車場は無料になっています。自動車は街の外に止めて、街中には自転車に乗り換えてという「パーク・アンド・バイクライド」を狙ったフェッラーラ市の作戦も、見事に当たっているようです。
他にもたくさんの努力が...
フェッラーラ市で環境問題を担当しているアレッサンドロ・ブラッティ副市長によれば、「1996年に環境局の中に、イタリアで初めて自転車オフィスを設け、自転車を利用してもらうためにいろいろなことをやってきました」とのこと。1998年には、都市交通計画の中に、自転車計画(BICI PLAN)を盛り込み、駐輪場や自転車道の整備などを進めています。フェッラーラの自転車道は幅が広く、ゆったり走れて快適です。双方向の通行が可能な区間もあります。また、でこぼこした石畳の道にも、道の片端(または両端)に平坦な石がはめ込まれ、自転車が走りやすいよう工夫されています。
このほか、市では、従業員に通勤用の自転車を提供する制度、自転車タクシーや自転車を持ち込めるバスの営業、レンタサイクルとホテルやお店での割引をセットにしたカード(BICICARD)の発行なども行ってきました。最近は、『自転車に乗ってしっかり運動すれば、その分、甘いものも食べられますよ!』というキャンペーンにも力を入れているそうです【6】。甘いものに目がないイタリア人にはたまらないかも?!
日本だと、自転車道の整備などハード面にばかり目が行きがちですが、フェッラーラの場合、ソフト面にも力を入れているのが印象的です。
これからの課題は?
一連の政策や市民の協力により、フェッラーラ市では、自動車から自転車へのシフトが進んでいます。1991年から2001年にかけて、自転車の利用率が上昇する一方、自動車の利用率は減少しているそうです。
自転車の利用が増える一方で、課題となっているのは、自転車の事故や盗難の防止だそうです。事故防止策として、市ではもっと自転車専用道を整備して、自転車と自動車の「分離」を進めたいとしています(予算の確保は難題のようですが)。また、盗難防止策としては、鍵の徹底のほか、自転車のチューブに、持ち主の情報を記録したチップを埋め込み、機械で読み取るようにするという新方式も試しているそうです。
晩秋の一日、城壁のまわりを一周するサイクリングロードも走ってみました。レンガづくりの城壁と、赤や黄色に紅葉した木々がしっとりとマッチした、中世の街らしい道でした。ペダルを踏みながら、ブラッティ氏の言葉を思い出しました。
「子供の頃、一度は自転車に夢中になったことがありませんか? 初めて自転車に乗れるようになって、嬉しくて、いろいろなところに出かけませんでしたか? そのときの気持ちをもう一度思い出して、もっと自転車に乗って欲しいのです。」
フェッラーラの街には、自転車は便利、そしてお得 と思わせる工夫がたくさんあります。自転車が大好きな人たちが、自転車に快適な街づくりをしていること・・・これが、何よりも、自転車の利用を増やしているのだと思いました。
- 【1】自転車利用率
- 自転車利用率は、市内の様々な移動手段(自動車、自転車、公共交通機関、徒歩)の中で、自転車が利用されている比率を指す。多少データは古いが、1991年のデータでフェッラーラの自転車利用率は30.7%、欧州でも自転車都市として知られるコペンハーゲンは30%、オランダは27.8%(データ出典:フェッラーラ市ホームページ内の “Politiques en faveur du developpement du velo: Ferrara”)。なお、日本の自転車利用率は約15%。
- 【2】
- フェッラーラ市ホームページ内の“Everybody does it”より。
- 【3】
- これはイタリアでもフェッラーラ市とリベルノ市だけ。
- 【4】
- ここからZ. T. L. の標識(特定の車以外は入れない)
- 【5】
- 通行料は、エリアや車種(ディーゼル車かガソリン車か)によって異なるが、1日当たり0.5ユーロから12.5ユーロ(約65〜1,625円)になる。
- 【6】
- ブラッティ副市長によると、「自転車で37km走ると500キロカロリー消費でき、これはお砂糖100g分とほぼ同じ。運動すれば、イタリア人の大好物の甘いものも大丈夫というわけです。ちなみに、同じカロリーのガソリン(55グラム)で、自動車は700mしか走れません。自転車はとても効率的でしょう」というお話でした。
関連情報
- フェッラーラ市関連および欧州の取り組み等
- フェッラーラ市の自転車に関する取組みについて
- フェッラーラ市のZ.T.L.(交通制限ゾーン)について
- 欧州の自転車の街ネットワーク(“Cities for Cyclists”)
- 欧州委員会報告書「サイクリング:都市のための未来への道(Cycling: the way ahead for towns and cities)」
- 市長が語る我が町観光自慢「フェラーラ(FERRARA)市」(イタリア旅行情報サイト)
- Pick Up!「『欧州モビリティ・ウィーク』報告〜マイカーから、徒歩・自転車・公共交通機関等へのシフトを目指す」
- 国土交通省道路局「自転車活用のまちづくり」
- 古河市の電動自転車貸し出しモデル事業(同市では、自転車利用率40%を目標に掲げています)
- 名古屋市 自転車利用環境整備のホームページ
- 自転車のまちづくり(秋田県二ツ井町)
- 自転車にやさしいまちづくり(山口県防府市)
- 彦根市エコ2(エコロジー&エコノミー)自転車とまちづくり委員会
- サイクルシティ誓言による総合的なまちづくり(加世田市)
- 自転車の似合う道(東京都建設局、(財)東京都駐車場公社)
- 第046回 自転車で行こう!自転車利用の新しい取り組み
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(記事・写真:源氏田尚子)
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