No.020
Issued: 2002.03.14
豊島はいま放置された産廃の撤去に向けた準備始まる
産業廃棄物を不法投棄していた業者の摘発から12年。豊島(香川県小豆郡土庄町)では、50万tを超える産業廃棄物の撤去準備がようやく始まりました。しかし、撤去に要する時間は10年。処理費用は、施設整備と維持費用を合わせて300億円といわれています。莫大な処理費用と時間、島や島民へのダメージなど、豊島の不法投棄事件は多くの「負の遺産」を残しました。
50万t以上の産業廃棄物が島に放置
「びっくりしてひっくり返りそうやわ」「まさかこれほどとは思わんかった」―。 半年ぶりに産廃投棄現場を訪れた島民の間から、驚きの声があがりました。
眼下に広がるのは、産廃を掘り出した後の地面。土や岩盤がむきだしになった土地は、広さ約6000m2。さながら土地開発現場のようです。
瀬戸内海に面したこの場所では、海面下5mから地上7mまで、7万t以上の産廃が層をなしていたといいます。汚水処理施設や産廃のコンテナ積み替え施設などを建設するため産廃を掘り返して移動したところ、その規模の大きさが明らかになりました。
ところが、これは放置された産廃のごく一部にすぎません。投棄現場は、総面積約7万m2で甲子園球場の1.75倍。海岸沿いから山の斜面まで、見渡す限り産廃で埋め尽くされています。その量推定50万t以上。香川県の年間の一般廃棄物量36.5万t(99年度)をはるかにしのぐ量です。
しかも放置された産廃には、自動車のシュレッダーダスト、廃プラ、廃油などさまざまな廃棄物が含まれています。鉛、トリクロロエチレン、ひ素、ダイオキシンなどの有害物質も検出されました。
香川県は、これらの産廃と汚染土壌を10年間かけて完全に撤去する予定です。2001年12月、その準備作業が始まりました。
産廃は溶融炉でスラグ化処理
県が採用した処理方法は、回転式表面溶融炉による廃棄物の溶融固化。株式会社クボタが処理を担います。廃棄物の表面を1350℃という高温で熱して溶かし、無害化してガラス質のスラグにします。処理能力は1日200t(100tの施設2基)。
県は、この処理施設を豊島から約5km離れた直島(香川県香川郡直島町)に建設します。同町には三菱マテリアルの製錬所があり、処理施設稼動のインフラが整備されているため、これを活用します。
処理過程で出た飛灰は、三菱マテリアル株式会社が新たに建設する溶融飛灰再資源化施設で中に含まれる金属を回収。処理過程で出る蒸気も熱回収して施設の熱源として有効活用します。処理施設や汚水処理施設などの建設費用は県が負担。国の補助金も投入されます。
産廃は、専用船を使って1日300tを直島に輸送。1回の輸送で産廃を積んだトラック18台を運び、両島間を1日2往復します。こうして1年で6万t、10年で廃棄物と汚染土壌をあわせた約60万tを輸送する計画です。
80年代に始まった不法投棄
豊島の産業廃棄物は、83年頃から豊島西部・瀬戸内海岸の土地に投棄されてきました。島内の産廃処理業者、豊島総合観光開発株式会社が、金属回収の名目で廃棄物を収集。実際には同社敷地内で野焼きしたり投棄していました。90年に兵庫県警が摘発し投棄は中止されたものの、その後廃棄物は放置されたままでした。
そこで93年に島民が県などに対して公害調停を申請。この中で、県が監督責任をとって撤去処理することが決まりました。公害調停は2000年6月に締結。その後設置された技術検討委員会が処理方法を検討。12月に処理委託先を決定し、撤去に向けた準備作業が始まりました。豊島の汚水処理施設や直島の溶融固化施設は、2003年3月に稼動を開始する予定です。
現在、廃棄物は遮水シートで覆われ、瀬戸内海岸沿い360mに渡って、汚水の流出を防ぐため遮水壁が地下18mの深さまで打ち込まれています。
残された課題は島の再生
しかし、「豊島の住民にとって、廃棄物の撤去が即問題の解決となるわけではない」。廃棄物対策豊島住民会議の前川昭吾さんは、こう言います。島の再生という大きな課題が残っているからです。
かつて「乳と蜜の島」とも言われた豊島では、早くから酪農が行われ、湧き水に恵まれ稲作もさかんでした。温暖な気候のため、みかんやオリーブを始めとする農作物も豊富。目の前の瀬戸内海ではたくさんの魚が獲れます。「豊かな島」が豊島という名の由来という説もあるほどです。
ところが不法投棄事件が全国的に知れ渡ったことで、島のイメージは大きく損なわれました。豊島ブランドの農産物は売れなくなり、心ない中傷が島民の心を傷つけました。
しかし今、島民は島の再生に向けて動き始めています。不法投棄現場のそばにオリーブの木を植える活動や、豊島の新しい特産品を目指したいちごの水耕栽培が始まり、豊島事件を後世に伝えるための記念館の設立も検討されています。島外から産廃の視察に訪れる学生との交流拠点を作った若者もいます。豊島を産廃や自然について学べる「学びの島」にしようというアイディアも出ています。
「本当にたいへんなのは、むしろこれからかもしれない。しかし、時間をかけて再生のための青写真を描いていきたい」。前川さんは、言葉をかみしめながら言いました。
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(記事・写真:土屋晴子)
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