一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.074

Issued: 2018.02.21

照明デザイナー・石井幹子さんが語る、人にも環境にも適した照明デザイン

石井 幹子(いしい もとこ)さん

実施日時:平成30年1月31日(水)
ゲスト:石井 幹子(いしい もとこ)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 照明デザイナー。
  • 東京芸術大学美術学部卒業。
  • フィンランド、ドイツの照明設計事務所勤務後、石井幹子デザイン事務所設立。都市照明から建築照明、ライトパフォーマンスまで、幅広い光の領域を開拓する照明デザイナー。日本のみならず海外でも活躍。
  • 主な作品は、東京タワー、レインボーブリッジ、東京ゲートブリッジ、函館市や倉敷市の景観照明、白川郷合掌集落、創エネ・あかりパーク、歌舞伎座ライトアップほか。
  • 海外作品では、〈日仏交流150周年記念プロジェクト〉パリ・ラ・セーヌ、ブダペスト・エリザベート橋ライトアップ、〈日独交流150周年記念イベント〉ベルリン・平和の光のメッセージ、「パリ・MAISON&OBJET」特別展示ほか。
  • 国内外での受賞多数。2000年、紫綬褒章を受章。
  • 作品集『光時空』『光未来』ほか。
  • 著書『光が照らす未来−照明デザインの仕事』『LOVE THE LIGHT, LOVE THE LIFE 時空を超える光を創る』『新・陰翳礼讃』ほか。
目次
自分がデザインした照明器具に初めて光が灯ったときの感動がきっかけ
“あかり”を通して日本文化のすばらしさを知ってもらいたい
東日本大震災発災直後に東京タワーを太陽エネルギーでバックアップ
できるだけ少ない電力、創るエネルギーで『あかり』を見てもらいたい
公のイルミネーションはできるだけ自然エネルギーで
自然や野生動物に注意をはらう
人の生理にあった照明を
できるだけ省エネで、できるだけ少ない電力であかりを灯す

自分がデザインした照明器具に初めて光が灯ったときの感動がきっかけ

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、照明デザイナーの石井幹子さんにお出ましいただきました。石井さんは東京タワー、東京湾のレインボーブリッジ、姫路城などの照明を手掛けられ、日本における照明デザイナーの先駆者として、また国の様々な審議会委員などとしてもご活躍です。本日は「人にも環境にも適した照明デザインを求めて」というテーマで、これまでのご経験やお考えを伺わせていただきたいと思います。
早速ですが、石井さんが照明デザイナーを目指されるようになったきっかけを教えていただけますか。

石井さん― 私はプロダクトデザイナーになりたくて、大学でデザインを勉強した後、当時銀座にあったデザイン会社に就職いたしました。たまたま、その会社で手掛けた照明器具の試作品にあかりが灯った瞬間、大変感動したのです。私たちが目にする色も形も、照明の光でわかることに気がついたのです。それでもっと照明を勉強したいと思ったのですが、当時は「照明デザイン」という言葉もありませんでしたし、今のようにネットで情報を得ることもできませんでした。
たまたまフィンランドに照明器具のすばらしいデザインをしている会社があることを知り、そのチーフデザイナーに私の作品を送って、働きたいとお願いをしました。認めていただき、フィンランドに行きアシスタントとして働きながら学びました。
わかったことの1つは、照明器具というのは原理的にはまったく簡単ということです。光源からどういう光が出るか、その光をどうコントロールするかだけが基本なのです。

大塚― 原理そのものはシンプルかもしれませんが、デザインは大変なのでしょう。

石井さん― そうですね。形は自分で作らなければなりません。
当時、建築空間の照明デザインの分野は始まったばかりでした。フィンランドの次はドイツへ行き、ドイツでもいろいろな作品を作りながら勉強して、日本に戻りました。

大塚― フィンランドとドイツでさまざまな経験をされたわけですが、デザイナーがそれぞれ独立して活動するのは国際的にはふつうのことだったのですか。

石井さん― 私自身も若かったから無鉄砲にヨーロッパに参りましたが、それでも、フィンランドとドイツではお仕事をし給料をちゃんといただきました。
ところが、日本に帰ってきてからは、まず皆さまに照明デザインとは何かをわかっていただくことから始めなくてはなりませんでした。幸いなことに、帰国したのが大阪万博の直前だったので、何か新しい事をやってみたいという建築家の方たちが多くおられ、私もどうにかスタートを切ることができたと思っています。ただ、その後に石油ショックが起き、日本は大変な時代に入り、オイルマネーが中東に集まったので、私の仕事も海外が中心になりました。

東京タワーダイヤモンドヴェール

東京タワーダイヤモンドヴェール

レインボーブリッジ

レインボーブリッジ]


“あかり”を通して日本文化のすばらしさを知ってもらいたい

大塚― 石井さんはグローバルに活躍されておられますが、働く場所によってデザインの中身も影響されるのですか。

石井さん― 今は日本的なものにも興味がありますが、当時は仕事をしているのが東京でも、ニューヨークでも、ベルリンでも変わりはないと思っていました。モダンデザインを一生懸命にやっていたという感じです。

大塚― 石井さんがお書きになった本などから、日本のすばらしさを国内外に示すことをひとつのモチーフにされておられるように感じます。

石井さん― 日本の文化、光の文化を、もっと世界の人たちにわかっていただきたいという気持ちはいつももっていますし、海外での展示や光のイベントには今も積極的に参加しています。
2016年には、日伊国交150周年記念イベントでイタリア・ローマのコロッセオの照明をさせていただきました。また、その2年前の2014年には、スイスの首都ベルンの国会議事堂前で日本・スイス国交150周年記念イベントの照明をさせていただきました。一番規模が大きかったのは、2011年の日独交流150周年記念に、ベルリンのブランデンブルク門で世界各国の「平和」という文字を映し出したことです。

大塚― 日本的なものを取り入れた照明を、国と国との友好イベントで表現されたのですね。

石井さん― 私どもの照明は、一晩に何万人という方に見ていただきたいと思ってデザインしています。都市での大きなイベントでは、たまたま通りかかった多くの方々が日本に興味を持っていただくきっかけになることを強く期待しています。

大塚― インターナショナルのセンスを活かしながら、日本の文化、日本の美を海外で紹介していただいていることがよくわかりました。

日伊国交150周年記念光イベント「コロッセオ・光のメッセージ」

日伊国交150周年記念光イベント「コロッセオ・光のメッセージ」

日独交流150周年記念イベント「平和の光のメッセージ」

日独交流150周年記念イベント「平和の光のメッセージ」]


東日本大震災発災直後に東京タワーを太陽エネルギーでバックアップ

大塚― 少し話題を変えさせてください。今から7年前の東日本大震災のとき、しばらく照明というか電力そのものの供給が大変でしたが、石井さんはどのようにお感じになられましたか。

石井さん― 震災が起こり、東京が真っ暗になりました。その時、福島の電気を東京に送っていただいて、使わせていただいていることを、改めて本当に申し訳ないという気持ちになりました。それで何をしたら良いかと考え2つのことをいたしました。

大塚― すぐに行動を起こされたのですね。

石井さん― はい。1つは、東京タワーに自然エネルギーを電源にした光のメッセージを描くことでした。たまたま震災の数ヵ月前に、あるメーカーから非常に軽くて曲げられるソーラーパネルを開発したことをお聞きしていました。それで、その会社の会長さんのところに伺い、パネルを東京タワーに寄付していただきました。昼間発電した電気をワゴンに載せてコロコロとエレベーターに乗せ、大展望台まで上げたのです。非常に少ない電気容量のLEDで、「がんばろう日本」というイルミネーションを作りました。このイルミネーションは、本当に大勢の方に見ていただき喜んでいただきました。その後のゴールデンウイークの時は、「絆」という文字の周りを皆さんがぐるりと手を繋ぐようなデザインにいたしました。

東京タワー光のメッセージ「GANBARONIPPON」

東京タワー光のメッセージ「GANBARONIPPON」

東京タワー光のメッセージ「GANBARONIPPON」

東京タワー光のメッセージ「GANBARONIPPON」


できるだけ少ない電力、創るエネルギーで『あかり』を見てもらいたい

大塚― もう1つの取り組みについてもお聞かせください。

石井さん― 震災後に是非やらなければと思ったのが、「創エネ・あかりパーク」【1】です。それぞれの場所でできるだけ電気を創り、その電気を使いながら、少ない電力で、美しいあかりを灯しましょう、というイベントです。2012年にほとんど自主イベントのようにして始まったのですが、2013年からは上野公園のほぼ全域をお借りして、11月の文化の日の頃に開催しています。環境省、経済産業省、国土交通省の3省に共催していただき、私がプロデュースをさせていただいています。創エネだけでなく、省エネや再生可能エネルギー、それから倹エネなど、エネルギーをどう使ったら良いかについて、できるだけ大勢の方に見ていただきたいと願っています。

大塚― 参加された方々の反応はいかがですか。

石井さん― 本当にありがたいことに、昨年2017年は22万人近い方が見に来てくださいました。イベントでは、手回しで電気を作り電車を走らせるなど、お子さんたちに創エネを体験していただく機会もありますし、東京国立博物館や国立科学博物館などは、イベントの期間中は8時まで開館延長をしてくださるなど、非常にご協力をいただいております。
環境省のブースでは、地球温暖化対策のための「COOL CHOICE」について、楽しみながら学ぶ展示を行いました。ブースで来場された方々にCOOL CHOICEを知っているかと伺ってみると、知っておられた方が3分の1くらい、約半分の方はイベントに来て初めて知ったということでしたので、多少なりとも環境施策のお役に立てたかなとありがたく感じています。

創エネ・あかりパーク

創エネ・あかりパーク

創エネ・あかりパーク

創エネ・あかりパーク


公のイルミネーションはできるだけ自然エネルギーで

大塚― 自然エネルギーを利用し、自然光を取り入れた照明は、今ではごくふつうになりつつあるように感じます。

石井さん― 本当にふつうになってきましたよね。実は、私の自宅でも1990年代から太陽光発電をつけ、毎日、今日は何キロワット発電したなどと喜んでいます。

大塚― ところで、お仕事の中ではいつ頃から自然エネルギーの照明を手がけられていたのですか。

石井さん― 1980年代から、ソーラーパネルや風力発電、小さな風車を使ったオブジェを作ったこともあるのですが、残念ながら風車などは大変不評でした。しかし、その後も是非自然エネルギーを使っていきたいと試行錯誤しながら今に至っています。

大塚― ご苦労も多いと思いますが、いくつかの例をご紹介いただけますか。

石井さん― 公のプロジェクトでは、できるだけ太陽光発電をつけることをお願いしています。最初はレインボーブリッジで、ケーブルのイルミネーションの4割をソーラーでまかなうことができました。一番最近の例ですと、東京ゲートブリッジの橋桁の下に太陽光発電パネルをつけさせてくださいと陳情し、おかげさまで、かなりの部分をソーラーでまかなえるようになりました。

自然や野生動物に注意をはらう

大塚― 少し話を変えさせていただきます。夜間の照明に関係し、特に野生動物への影響を気にされる方もおられますが、石井さんはどのように感じておられますか。

石井さん― 私も、蛍の光はこよなく美しいと思います。私たちが作る人工の照明と蛍の光のどちらが「先住民」かといえば、蛍の方が古いですよね。夜の人工の照明は、せいぜいエジソンが電気を発明した後のことですから。先住の生き物に配慮しなければいけないと思っています。ある地域に蛍が出るとなったら、特に産卵の時期にはあかりを消しましょう、なるべくその地域は自然の光に任せましょうと申しあげています。植物についてもわからないことがまだまだいっぱいありますから、観察していて、人工の照明によって具合が悪いかなと思われた時は、すぐ消してくださいとお願いしています。

大塚― 自然や野生の領域を尊重して照明を考えていらっしゃるのですね。

石井さん― ただ、植物には一切人工の光を当ててはいけないとか、木につけるイルミネーションはすべて悪だとか、そうとも言い切れないかと思っています。
最近お話を伺っていて非常に良いなと思ったのは、ソーラーシェアリング【2】です。研究者の報告では、農地の上一面をソーラーパネルで覆うのではなく、ところどころにつけるようにすると、かえって植物の生育に良いのだそうです。しかも、発電した電力は買い取り制度で農家にとって一定の収入になるのです。このような知恵を出しあえるといいですよね。

人の生理にあった照明を

大塚― もう1つ、石井さんは人の身体に優しい照明を提唱されていますね。このことについて、少し補足していただけますか。

石井さん― はい。ある時、オフィスの照明について講演を頼まれたので、あらためて丸の内のオフィス街を歩いてみましたら、皆さん夜中でも煌々と電気をつけているのです。一方、東京に住む人の4人に1人が不眠症、要するに睡眠障害があることを新聞で読みました。深夜まで残業し、電車に乗って帰り、さあ寝ようとしても、寝られないのは当たり前じゃないかと。今のように、ほとんどの仕事でコンピューターを使う状況ですから、夜は仕事にさし障りない程度にほの暗く昼は明るくする方が、人間のバイオリズムに合っていると思います。サーカディアンリズム【3】といわれる、昼と夜に合わせた体内時計に合わせるのです。このようなオフィス照明を、オカムラというオフィス家具メーカーと一緒に開発しました。いち早く採用していただいた企業もありますが、まだまだ普及が進んでいないので、これからも努力したいと思っているところです。

大塚― 都市生活者にとって、昼夜のリズムはますます大きな問題になるように感じます。

石井さん― オフィスで仕事をされている皆さまに、「サーカディアンリズムにあったオフィス照明をされてはいかがでしょうか」「お家にお帰りになってからは、オフィスのような明るい照明の中でなく、柔らかな暖かいひかりの中で過ごし安らかな眠りに入られるとよいのではないでしょうか」と申しあげています。そうしますと、朝はまた爽やかなお目覚めになると思います。

できるだけ省エネで、できるだけ少ない電力であかりを灯す

大塚― 最後になりますが、EICネットをご覧の方にメッセージをいただきたいと思います。

石井さん― おかげさまでLEDが全盛になってきました。エネルギー削減の観点からは良いことですが、LEDというのは白熱電球のような美しさに欠けると思うのです。さらに言えば、キャンドルの炎はいつ見ても美しいし、気持ちが休まりますね。

大塚― 皇居外苑の街灯のLED化の検討会で、今ご指摘されたような色見や暖かみについてのご発言をされたと聞いています。

石井さん― Ra【4】という、物がどの程度忠実にきれいに見えるかを示す指標があります。実は、LEDはこの値が低いのです。明るいのですが、美しさに欠けると言えるかと思います。また、すべてとは言えませんが、目の奥まで飛び込んでくるような鋭い光が多いのです。例えば、防犯灯を取り上げると、あのギラっとした輝きを明るいと勘違いしている方が多いかもしれませんが、場所と状況によって、必要な明るさは違います。光源は見えないものの、必要な照度をもつ気持ちの良いあかりが理想なのです。是非、大勢の方々に照明に関心を持っていただき、「この照明は良い」「この照明は悪い」ということの理解を深めていただけるといいなと思っております。

大塚― 私たちは、光が強い方、なるべく明るい方が良いと思いがちですね。

石井さん― 付け加えると、大事な電気を使わせていただくという意識をもう少し強く持ってもいいかなと感じています。私どもは公共の仕事が多いので、電気代が高いと続けて照明していただけないこともあり、できるだけ電気を使わないことを心掛けているつもりです。できるだけ省エネで、できるだけ少ない電力で、あかりを灯すことを意識してみていただければと思います。

大塚― 国際的な多彩な活動、東日本大震災の後の国内での活動などをご紹介いただく一方で、照明と自然のシステムともいえる生命や環境との関連など、非常に広い視点からお考えを伺うことができました。これからも、ますますご活躍いただきたいと思います。本日は、どうもありがとうございました。

照明デザイナーの石井幹子さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。

照明デザイナーの石井幹子さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。


【1】創エネ・あかりパーク
 明日のエネルギーとして期待が高まっている再生可能エネルギーを中心に、日本の新しい創エネ・省エネ技術と最新の光技術を組み合わせて、明るい未来を体感できる、美しく楽しい光のイベント。
【2】ソーラーシェアリング
 農地に支柱を立ててソーラーパネルを設置し、営農しながら太陽光発電を行う営農型発電。一定量以上の太陽光は光合成に利用しないという植物の特性を使い、パネルのサイズや設置間隔など、作物の生育に支障がないように設計することで、営農と発電の両立が可能。農業と売電の2つの収入を得ることで農業経営が安定し、農家の後継者不足解消や耕作放棄地対策にも効果があると期待されている。
【3】サーカディアンリズム(circadian rhythm)
 約24時間周期で変動する生理現象。動物、植物、菌類、藻類などほとんどすべての生物にみられる。一般的に体内時計とも言う。
【4】Ra
 平均演色評価数。照明で物体を照らすときに、自然光が当たったときの色をどの程度再現しているかを示す指標。Ra100は、自然光が当たったときと同様の色を再現していることを意味する。
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